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5-80. Get over the Despair 20. 絶望を乗り越えて

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「はぁっ、ふぅっ……バトー、生きてるわよね?」

”え、えぇ……死ぬかと思ったわ……”


 《アクセラレーテッド・セブン》で加速中、バトーは全く加速には着いていけないのだ。その点はアビゲイル本人以外は等しい条件だ。例え使い魔であろうとも。尚、『シルバリオン』については彼女の霊装なので加速にも問題なく着いていけている。

 バトーを振り落とさないようには気を遣っていたが、加速によって体には大きな負担がかかる。

 それでもバトーは何も聞かず、またアビゲイルに言われるまでもなく魔力を回復させ続けてきてくれた。

 彼――または彼女――の助けがなければ、途中で魔力切れになってしまっていただろう。

 アトラクナクアを倒すことが出来たのは凛風たち三人で協力したからだけではない。

 三人の中で唯一使い魔と共にあり、豊富な魔力で援護射撃をし続けられたことは大きい。

 そしてもちろん最後のとどめを刺す場面において、バトーの回復がなければ倒し切ることは無理であったろう。


「……これで――」

”い、いや、まだよ、アビー!”


 後は元凶、あるいは黒幕であろうドクター・フーを倒せば終わり、と視線を向けるアビゲイルだったがバトーが警告を発する。

 バトーのレーダーは未だアトラクナクアの反応を捉えていたのだ。


<ごおおおおおおおおおおおっ!!>


 自らの集めた瓦礫の下に埋もれていたアトラクナクアが、奇怪な咆哮を上げつつアビゲイルへと飛び掛かって来ようとしていた。


「……はぁっ」


 だが、アビゲイルは『なんだ、そんなことか』と言わんばかりにため息を吐く。

 アビゲイルの魔力は回復可能だが、《アクセラレーテッド・セブン》による肉体への負荷はかなりのものだ。『シルバリオン』による補助がなければ、そもそも立ち上がれていないであろう程だ。

 だというのにアビゲイルには余裕のようなものさえ見える。

 それが勘違いではないことをバトーは感じていた。


「さっきから思ってたんだけどさぁ――」


 言いながら『シルバリオン』と合体させた巨大銃――名付けて『シルバリオン・マグナム』へと弾丸を込め撃つ。


<ぎおおおおおおっ!?>


 銃の口径に見合った巨大な弾丸……いや『砲弾』がアトラクナクアの顔面へと突き刺さり、その顔を深く抉る。

 先の《オールガンズブレイズ》の攻撃により既に全身はズタボロになっている。腕も全て千切れ飛び、もはや糸を出すことも出来ず、噛みつくくらいしか攻撃方法はない。

 アビゲイルも満身創痍とは言え、燃えるような闘争心が彼女を突き動かしている。

 ……要するに、人間の身体で言えば脳内興奮物質(アドレナリン)が放出されまくって痛みを吹っ飛ばしている状態、というわけだ。

 肉体に負った傷が体力に関係なく残り続けるという『ゲーム』の性質は、普段ならばマイナスに働くことが多いのだが……今回はプラスの方向に働いた。

 どれだけ身体が痛くても、体力ゲージが残ってさえいれば()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 それはともかくとして――

 今アビゲイルが動けているのは痛みをアドレナリンが誤魔化しているから、だけではない。


「てめぇ――ミオっぽい顔で化物ムーブかましてんじゃねーわよ!!!!!」


 ――ジュリエッタの言葉をバトーは思い出す。


『…………大丈夫、怒りすぎて逆に冷静になった』


 今のアビゲイルが冷静かどうかは別に置いておいて、あまりにも激しい怒りが痛みを忘れ去らせているのだ。

 この局面で重要なのは、アビゲイルがたとえ《アクセラレーテッド・ワン》を使おうとも、魔力が足りてさえいれば何の問題もない。肉体が傷ついていようとも動けるのであれば問題なく動ける。


「コンセントレーション《アクセラレーテッド・ワン》!!」


 全身の激痛を怒りで誤魔化し、動かない身体は『シルバリオン』の補助に任せ、アビゲイルは残りの魔力を使い切るつもりで飛び掛かってくるアトラクナクアの()()()()()()砲弾を放つ。

 ――それは、もはや戦闘と呼べるものではなかった。

 顔面に弾丸を浴びたアトラクナクアがゆっくりと――加速しているためだ――仰け反るのを見ながら、『シルバリオン』で飛び上がり更に顔面に向けて追撃を仕掛ける。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァッ!!!!!」


 ただ、ただ、ひたすらに顔面を――()()()()()()()顔を潰さんとひたすら砲弾を放ち続ける。

 砲弾を喰らいゆっくりと仰け反るアトラクナクアに対して追撃で次々と()()()()砲弾が着弾する。

 これはもはや『蹂躙』だ。

 アトラクナクアは顔面を吹き飛ばされ地面に投げ出される。


「リローデッド、コンセントレーション――」

<ぎひぃぃぃぃぃぃぃっ!?>


 倒れたアトラクナクアへと接近、首を踏みつけ砲口を更に顔面に向けるアビゲイルに対し、『冥界を統べるもの』はついに恐怖の悲鳴を上げた。


「――《アクセラレーテッド・ワン》!!」


 それは、散々アビゲイルたちを苦しめた『冥界を統べるもの』への死刑宣告である。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「…………驚いた。まさかアトラクナクアを倒せるとは思っていなかった」


 アトラクナクアの()()()()()吹き飛び完全に息絶えた後――

 白々しく拍手をしながらドクター・フーがアビゲイル……いやアビゲイルたちに賛辞を贈る。

 それを苦々しい表情で受け止めつつ、アビゲイルは銃口をドクター・フーへと向ける。


「あんた……よくも今まで好き勝手やってくれたわね……!」


 ラビたちがこの(既に原型はないが)女王の間にやってくる前にアビゲイルたちとドクター・フーとの間にどんな会話がなされたのかはわからない。

 だが、この様子からして、ミオがアトラクナクアに食われた原因がドクター・フーにあることは語られているようだ。

 アトラクナクアを砕くほどの銃弾を放つ砲口を向けられてもドクター・フーは表情一つ変える様子がない。

 不可解な態度ではあるが、ドクター・フーと戦ったものならばその余裕の意味も分かるだろう。


「いや、本当に大したものだと思うよ。正直想定外だ。

 確かに()()アトラクナクアではキミたち――いや、ある程度育っているユニットの相手は無理だろうとは思っていたが、まさか生贄を喰らった後に倒されるとは思っていなかった」


 ――余裕の態度は全く崩れない。それが本当の気持ちなのか、それともただのポーカーフェイスなのか判別がつかない。

 何にしても状況的にはドクター・フーが信じていたであろうアトラクナクアの勝利を、アビゲイルたちは覆してみせたのだ。本来ならばもっと焦りを見せてもいいとは思うのだが……。

 ドクター・フーの態度に、不快そうにアビゲイルは顔を歪める。


「……ほんと気持ち悪いやつね……!」


 どうやらアビゲイルも、他のドクター・フーと対峙した者たちと同じような感想を抱いたらしい。

 言われても何とも思っていないのだろう、表情一つ変えずにドクター・フーは懐からまた新しいタバコを取り出し、火を点ける。


「さて、どうしたものか……私自身の『実験』は()()()()()()()が――我がパトロンの本来求めていたものをここで得るのも悪くはない……」

「何をわけのわからないことを! ここから無事に逃げられるとでも思ってるの!?」


 相変わらず銃口を向けたままのアビゲイル。

 だが、その言葉はただの虚勢だ。それをドクター・フーも見抜いている。

 長時間クエストで戦い続けてきた疲労に加え、最後に立て続けに使ったコンセントレーションによって彼女はもはや満足に戦うことの出来る身体ではない。

 ……たとえ万全であろうとも、ドクター・フーはアビゲイルに負けることはない、そう確信もしているのだが。


「ふふふ……逃げる? 私が? ……そうして欲しいのはキミの方だろう?」

「……っ!」


 表情こそ変えないものの、明らかに嘲りを込めてアビゲイルを揶揄うように笑う。

 事実、ドクター・フーは倒したいもののそれが無理なことはアビゲイル自身が一番良くわかっている。

 凛風のリスポーンはもう少しかかる。ジュリエッタも万全ではない。

 ここで再度戦闘になって困るのは、どちらかと言えばアビゲイルたちの方なのは間違いないのだ。


”……アビー、落ち着きなさい。アトラクナクアは倒したけど、まだ他のモンスターもいるのよ……!”

「わかってるわよ! ……でも」


 ミオをアトラクナクアの生贄として捧げた――もっと言えばこのクエストに蔓延する妖蟲(ヴァイス)の生みの親と思しきドクター・フーを放置しておくことは許せないのだ。

 ここでまた戦闘となれば、折角助けたミオや他のユニットたちを危険に晒すことになってしまうだろう。理性ではそれはわかっている。

 それでもドクター・フーを許せない。そんな思いがアビゲイルにはあった。

 ドクター・フーもアビゲイルの内心の葛藤を理解した上で揶揄しているのだ。


「こちらとしては、もうここでの用事は()()済んだ。

 ……お互い、ここらで『手打ち』としたいところなんだがね」

「……くっ……!」


 『手打ち』と言いつつも、どちらかと言えばドクター・フーに見逃してもらう、という方が正解だろう。

 そのまま二人はしばし睨み合いを続ける。

 モンスターの攻撃は大分まばらになってきたとは言え、ジェーンたちの方は未だに戦闘が続いている。

 ドクター・フーが引いてくれるというのであれば、屈辱ではあるがそれが一番いい――アビゲイルもようやく納得し、じりじりと銃口を向けたまま後退し始める。




 ――だが、そのまま終わるわけがなかった。




”!? アビー、マズいわ!!”

「……わかってる!」


 バトーの警告の意味は聞かずともわかる。

 おそらくバトーのレーダーに映ったのだろう――恐れていたモンスターたちの影が。


「時間稼ぎ、はお互い様だったな。

 キミたちは仲間のリスポーンを、私は……彼らの到着を待っていた、というわけだ」

「くっそ!?」


 アトラクナクアが吹き飛ばした天井を越えて、まるで山のような巨大な顔が見えた。

 XS-GB01――伝説にある山をも巻く大きさの超巨大ムカデの顔だ。

 更には別の方向からはキラキラと宝石のように輝く甲殻を持った芋虫たち……XC-10とその眷属の宝石芋虫たちが姿を現してきたのだった……。


小野山です。

第5章4節はこれにて終了、次回より第5章5節となります。

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