5-64. Get over the Despair 4. 死闘・アトラクナクア -進撃
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アトラクナクアの攻撃方法は大きく二つ。
『糸』を使ったものと、腕(鎌・槍)と脚を使ったものだ。サソリのような形状の尾も攻撃に使うことが出来るだろう。
これらの攻撃は、アトラクナクアが吸収したミオの魔法『重撃』によって多重化されることがありうる。元々の巨体も相まって攻撃範囲は恐ろしく広い。
もう一点厄介なのは、ミオのギフト【遮断者】を使えることにある。
【遮断者】は一種類の攻撃に対しては、魔力消費をしない絶対防御というずば抜けて便利な効果を持っている。
現状、【遮断者】を使われた場合に突破する術をジュリエッタもアビゲイルも持っていない。
だからこそ、二人はあえて攻撃を行い、【遮断者】をアトラクナクアに使わせる――片方の攻撃を防いでいる間は、もう片方の攻撃を防ぐことは出来ないためだ――ように仕向ける必要があった。
「メタモル……」
最初に仕掛けたのはジュリエッタ。
アトラクナクアへと突進しつつメタモルを使用、指先から『蜘蛛の糸』を出す。
ここに至るまでの道中で倒したアラクニドから吸収した能力だ。ジェーンを見つけ出す直前で一度使ったことがあるが、思った以上に使い勝手のいい能力だとジュリエッタは感じている。
糸をアラクニドの足目掛けて射出、巻き付けて動きを封じようとする。
<ぬらうるのなるあ!>
向かってくるジュリエッタへと向けてアトラクナクアも腕を振るう――人間型の腕の先から伸ばした糸で瓦礫をまるで鎖槌のように叩きつけようとする。
――重撃がないなら問題ない。
複数の瓦礫を飛ばしてこようとも、見えているのであれば問題なくかわすことが出来る、ジュリエッタはそう考えている。
重撃の厄介なところは、見えないことにある。
凡その範囲はわかるが確実ではない。それに、今は《三段》しか使っていないので、三段以上を使われた時にどの程度の範囲になるのかもわからないという問題もある。
だから、重撃を使っていない攻撃というのはこちらから攻撃するチャンスなのだ。
「ライズ《プロテクションコート》、ライズ《ストレングス》!」
狙いはアトラクナクアの右側の足のみ。
右側の四本の足へと攻撃を回避しながら糸を巻き付けると共に、糸に対してライズを掛ける。
使用するのは《プロテクションコート》――『硬さ』を上げるという効果の基本的なライズである。
ライズによって強化された糸が片側の足を封じ、更に《ストレングス》で強化された腕力で強引にアトラクナクアを引きずろうとする。
「くっ……流石に重い……」
巨体なだけではない。鋭い槍のような足を地面へと突き刺し、身体を固定しているせいもある。
アトラクナクアもジュリエッタのやろうとしていることを理解しているのだろう、引きずられまいとしつつ瓦礫の投げつけをジュリエッタへと集中させる。
今ジュリエッタは動くことが出来ない。今度は瓦礫を回避することも出来ないが――
「援護するわ! そのまま行けぇぇぇぇっ!!」
《炸裂弾》を装填したアビゲイルが瓦礫を次々と撃ち落し、ジュリエッタを守る。
「……ナイス援護」
メタモルを使って腕を増やすなりすれば対応できないわけではないが、アトラクナクアへの攻撃に集中したいところだ。アビゲイルの援護のおかげで集中することが出来る。
ジュリエッタは更に糸の数を増やし、完全に足を拘束しようとする。
アトラクナクアは鎌を振るって糸を切断しようとするが、そうはさせまいと増やした糸を腕へと放ってそちらの動きも封じようとする。
<ううううぬるるるるおあ>
憎々し気な視線をジュリエッタへと向けるアトラクナクア。
その意識から完全にアビゲイルが消失していた。
「リローデッド《炸裂弾》――シューティングアーツ《スプレッドショット》!」
ジュリエッタがアトラクナクアの右側を攻めるのであれば、自分が攻めるべきは反対側、とばかりにジュリエッタと反対側へと移動していたアビゲイルが銃撃を繰り出す。
瓦礫を迎撃しつつ本体への攻撃を狙い、攻撃範囲を重視した銃撃を放つ。
一撃の威力こそ低いものの、命中率はかなり高い攻撃だ。
「ライズ《フレイマブル》……メタモル!」
アビゲイルの攻撃に合わせ、ジュリエッタが糸へと新たなライズを掛ける。
《フレイマブル》――要するに、『可燃性』を与えるライズだ。
更にメタモルを使い雷精竜化、糸を伝い電撃を放つ。
封じられた右足から電撃、更に電撃の熱で糸が一気に燃え上がる。
<ぐぬろおあああああ!!>
凄まじいうめき声をあげ、アトラクナクアが炎上するが、
<……【しゃったー】!>
ジュリエッタの攻撃を【遮断者】で防御しようとする。
炎も電撃も【遮断者】によって防がれてしまうが、ここまでがジュリエッタとアビゲイルの思惑通りだ。
「リローデッド、シューティングアーツ《レイダーシューティング》!!」
ジュリエッタの攻撃を防いでいる間は、アビゲイルの方は防ぐことは出来ない。
魔力を惜しむことなくアビゲイルはシューティングアーツで攻撃を加えてゆく。
「……くっ、流石に硬いわね……!」
狙い通り【遮断者】で防がれることなくアビゲイルの放った魔法がアトラクナクア本体へと突き刺さったものの、大きなダメージを与えられたようには見えない。
取り込まれているであろうミオに当たらないように顔面目掛けて放ったのだが、わずかに焦げ跡が出来た程度に終わってしまった。
もっと強い攻撃を撃つことは出来ないわけではないが――それはアビゲイルのほぼ全力を使い果たすことになってしまう。今はまだ撃つ場面ではない。
<ぬおるなあぁぁあぅぅおぅおおおお!>
ダメージ自体は余り与えられなくとも不快感は与えることが出来たらしい。
雄たけびを上げ、アトラクナクアが糸を周囲へと伸ばす。
……先刻、ジュリエッタたちを押しつぶそうとした全方位への瓦礫投げだ。
今度はジュリエッタとアビゲイルの距離が開いているため同じように防ぐことは出来ないだろう。
「……それはもう効かない」
「二度も三度も同じ手でやられるかってーの!」
まるで流星のように降り注ぐ瓦礫の雨に対して、二人は回避ではなく前へと出て迎え撃とうとする。
ジュリエッタはメタモルを使い全身をスライム状へと変化、更にライズを使ってスピードを上げて多少の被弾を物ともせずに突き進む。
対してアビゲイルは今度は『シルバリオン』を使っての回避ではなく、自分へと向かってくる瓦礫だけを的確に撃ち落しながらアトラクナクアへと迫る。
たった一度の攻撃であったが、二人はそれだけで対処法を見出していたのだ。
更に言えば今回は重撃を使っていないのだから、回避は容易と言えるだろう。
「メタモル――《狂傀形態》!」
瓦礫の雨をかわしたジュリエッタがアトラクナクアの足元でスライム化を解き、《狂傀形態》へと変身。
「ふぅぅぅぅ……はぁっ!!」
気づいたアトラクナクアが足を上げるよりも早く、全力でジュリエッタが掌打を加える。
格闘能力に優れた《狂傀形態》に加え、ダメージを増加させる各種ライズを上乗せした一撃を受け、アトラクナクアの足の一本に大きくヒビが入る。
……とても蟲のものとは思えない手応えだがジュリエッタは深く考えない――どうせまともなモンスターではないのだ、考えるだけ無駄だ――そのまま足を一本へし折ろうと更なる打撃を加えようとする。
が、いつまでも好きにさせるアトラクナクアではない。
足を振り上げてジュリエッタの攻撃を回避すると共に串刺しにしようとする――と同時に糸を使って瓦礫を叩きつけようとする。
「リローデッド《冷凍弾》、シューティングアーツ《スプレッドショット》!」
アトラクナクアの意識がジュリエッタの方へと向いた瞬間、アビゲイルが援護する。
装填しているのは《冷凍弾》、そしてそれを《スプレッドショット》で拡散して発射する。
狙いはダメージでも氷漬けにして動きを封じることでもない。
<なるのろぬろお!!?>
拡散されているためアトラクナクアの身体を凍らせる程の威力はない。
だが、瓦礫を投げつけようとする『糸』の方は別だ。
凍らされた糸が瓦礫の重みで千切れ、あらぬ方向へと瓦礫を転がす。
「ナイス、アビゲイル。
メタモル……《喰神形態》!」
振り落とされる足を回避しつつ、自身の付けた傷へと向けて黒い塊――モンスターの傷から侵入し、生きたまま食らいつくす必殺の《喰神形態》の攻撃を放つ。
「シューティングアーツ《レイダーシューティング》!」
【遮断者】でジュリエッタの攻撃を防いだ場合も想定して、合わせてアビゲイルも傷ついた足へと攻撃を加える。
二人の狙いは明白だ。一気にアトラクナクア本体を倒すことは難しいと判断し、手足を一本ずつもぎ取り徐々に削っていこうという考えだ。
蟲ならば再生能力はおそらく持っていないはずだ、という推測もある。芋虫から蛹、更に成虫へと変化するような場合は変態することで再生もされるかもしれないが、アトラクナクアがここから更に変態を行うとは思えない――常識に当てはまるものではないが、仮に変態するのであればそれは大きな隙となるので好都合ではある。
ともあれ、二人の狙い通りアトラクナクアの右前足が一本千切れ飛ぶ。




