5-31. 黒き死よ来たれ 1. 急変
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バトーたち一行と共に進むことになった私たちだが、相変わらず『どこ』へ向かえばいいのかがわからないままだった。
”うーん……アリスが派手な魔法を連発してくれれば気づけそうなんだけど……”
ステータスを確認してみても、アリスとヴィヴィアン共に大きな動きはない。
まぁヴィヴィアンはともかくアリスは魔法を乱発してたらあっという間に魔力が枯渇しちゃうだろうから、今は節約モードなのかもしれないけど。
”どうかしらね? このクエスト、とにかく広いからわからないわよ?”
とバトーは言う。
確かに今までもそれなりに進んでみたけど、全然果てが見えない。
見晴らしがそこまで良くないと言うのもあるがドームがどこまで続いているかもわからないし……。
虫の羽音とかもするからあんまり遠くだと音が聞こえてこないかも。
”仕方ないか。とにかく移動してレーダーに反応があるかを細かくチェックするしかないかな”
”そうね。ただ、あちこち階層がわかれているから見逃しが怖いわねぇ……”
”あ、やっぱり階層があるんだ、ここ”
最初にジュリエッタが床に違和感を覚えた時に推測していたが、やっぱりこのクエストは複数の階層に分かれているみたいだ。
……まさかとは思うけど、今私たちが『天井』だと思っているのも更に上の階層の『床』だったりしないだろうなぁ……?
階層が変わるとレーダーが反応しないのは今までの経験からわかっている。そうなるとアリスたちを探すのはかなり大変になる。
って、愚痴ってばかりもいられない。
とにかく動かないことには見つかるものも見つからないだろう。
「ねぇ、あっちの方に見えるやつに行ってみない?」
どの方向へ進むかを悩んでいる私たちに、辺りを見回していたアビゲイルが提案してくる。
彼女の指し示す方を見てみると――
”……うん? あれは……何だろう……?”
かなり遠くの方に確かに何か変なものが見える。
天まで伸びる『塔』よりは背が低いのは間違いないが、崩れたビルの残骸よりも大きな『何か』……ぱっと見た感じだと『巻貝』のようにも見える。
遠すぎてよくわからない――周囲の視界も余り良くないし――けど、その『巻貝』に向かって床が緩やかに下っている。
”……行ってみよう”
あれが何かはわからないけど、ちょっと他とは毛色が違うことは確かだ。
何もないかもしれないが見ておいて損はないだろう。もしかしたら、アリスたちやトンコツたちも気づいて向かってくるかもしれないし。
”いいわ。あたしたちは元々どこに行くかって決めてなかったし、異論はないわ”
「殿様がいいなら」
よし、なら決まりだ。
私たちは隠れていたビルの屋上から降り、謎の『巻貝』を目指して再び進み始める。
……んだけど、ビルから降りた途端、再度虫の大群に襲われ出してしまう。
特に真新しいタイプのモンスターはいないが、やはり数が多い。
とは言っても、強さ自体は前と変わりない。
ジュリエッタとアビゲイルはあっさりとモンスターを捌き、道を切り開いていく。
”アビゲイル、君魔力は大丈夫なの?”
ジュリエッタについてはよっぽどライズを連発したりしなければ魔力の消費は控えめだ。このクエストに来てからはそんなに強い魔法を使っていないので一度も回復していない。
対してアビゲイルの方はと言うと、ひたすら手に持った銃を撃っていくだけである。ただ、彼女の銃は一度に六発までしか撃つことは出来ず、弾切れになったらリローデッドの魔法で装填しなければならない。頻度はかなり高いはずだが……。
「ん? ああ、普通のリローデッドだけなら大して魔力使わないから平気よ。
まぁ《貫通弾》とかにしようとするとそこそこ減るけど」
なるほど、ジュリエッタのメタモルと同じで、一語で発動させる時と二語で発動させる時で効果が少し違うのか。
二語で発動の場合は特殊な効果を持った弾丸を装填させることが出来るが、その分魔力消費が高くなるって感じかな。
……それにしてもアビゲイルの攻撃、本当に強いな……。特殊効果のない弾丸しか作っていないのに、それなりに体力も防御力もある虫を一撃で仕留めている。
『霊装特化型』とでもいうのか、今までに遭ったことのないタイプだ。霊装自体が強力で、魔法はそのサポートをしているって感じかな。
敢えて言うならシャルロットもそれに近いかも。《アルゴス》は魔法というより霊装に近いものらしいし。
「……アビー……」
で、もう一人のバトーのユニットである巫女――ミオの方だが、こちらは心配そうにアビゲイルの方を見ているが戦闘に参加する様子がない。
別に彼女も参加すればもっと楽になる……と思っているわけではない。持っている魔法がサポート向けであるならば、現状積極的に参加する必要もないくらいだし。
気になるのは、彼女の能力が見えないという点だ。
スカウターを使ってアビゲイルの能力を見た時、一緒にミオの方も見ていたのだけど、なぜか彼女の能力については全く見えなかったのだ。
一部能力がマスクされていて読めないということではなく、本当にスカウターを使っているというのに何も見えなかった――こんなことは初めてなので一体どういうことなのか……。
まさかユニットではないとか? 流石にそれはないか……?
”どうしたの、ラビ? こっちの方を不思議そうに見て”
”あ、ごめん。何でもないよ”
いかんいかん、ジロジロと見るのは失礼だった。
別にミオのことを疑っているわけではない。もしかしたら彼女の能力――魔法かギフトの効果なのかもしれないし、詮索するのは止めておこう。
気を取り直し私たちは虫を払いのけながら先へと進んで行く。
もちろん道中レーダーとアリスたちのステータスを確認するのも忘れない。
レーダーにはいまだに反応なし……というか虫の反応でほぼ画面が埋まってしまっている。うーん、これだとアリスたちがいてもわからないかもしれない……幸い虫一匹ずつの反応はそれほど大きくはないので、完全にわからなくなるということはないだろうけど……。
”――あ!?”
「殿様?」
”どうしたの!?”
思わず大声を上げてしまった。
けど、そうしてしまうようなことが起こったのだ。
”拙い、アリスとヴィヴィアンの魔力がものすごい勢いで減って行ってる……!”
体力は少し下がったくらいだが、魔力の減りがものすごい。
これはモンスターと戦闘になった……いや、魔力を使わざるを得ないほどの『強敵』と遭遇したということか!
「……御姫様の魔法の音、聞こえない……」
ジュリエッタがメタモルで兎のような耳を生やして周囲の音を聞いてみたが、アリスの魔法の音が聞こえないらしい。
となるとまだかなり離れた位置に二人がいるということか……?
”急がないと……!”
アリスたちの回復アイテムが残りどの程度なのかもわからない。
魔力が尽きてしまったら成す術もなくモンスターにやられてしまう――そうなったらリスポーンさせるだけ、と言われればそうなんだけど……幾ら『ゲーム』だからと言ってもあの子たちにわざわざ苦しい思いなんてさせたくない。
とにかく今の私たちには前進するしか方法がない。
焦る私だったが、バトーはと言うと……。
”……まさか……?”
”バトー?”
何かに気付いたのか、考え込んでしまっているようだ。
見ればミオも顔色を青くしている――まぁこの子はずっと塞ぎ込んでいて余り変わってないように見えるけど。
「……急ぎましょう! もしかしたら、その子たち……例のモンスターに遭遇したのかもしれないわ!」
”え? アビゲイルたちが逃げろって言ってたモンスター!?”
ダイヤキャタピラのことか。
それがどの程度の強さなのかはわからないけど、アビゲイルが警戒するということは危険なモンスターなのには変わりない。
アリスたちは回復にも制限が付いている状態なのだ、そんな相手と私の支援なしに戦わせたくない。
……ああ、もう! 遠隔通話くらい使えればいいのに!
「……待って! 何か、いる……」
会話しながらも足を止めなかった私たちだったが、急にジュリエッタが警告を発する。
とりあえず目指していた『巻貝』からはまだ結構距離があるし、もしかしてアリスたちの音が聞こえた?
そう期待する私だったが、ジュリエッタは真剣な表情のまま油断なく周囲を警戒している。
新たなモンスターか? レーダーには特に代わり映えなく小型モンスターばかり映っているけど……。
”――いや、違う? これは……もしかして他のユニット、かな?”
モンスターの数は相変わらず多いが、それが徐々に減っていっているのがわかった。
その上でレーダーに他に反応がないということは、誰か別のユニットがモンスターを倒しているということになる。
消えていくモンスターの反応が徐々にこちらへと近づいてくる――向こうがこちらを認識しているかどうかはわからないが、このままだとこちらとぶつかるのは確かだ。
”バトー、誰か来る!”
”……みたいね。アビー、いきなり攻撃しちゃダメよ!”
「わ、わかってるわよ!」
周りの虫を迎撃しつつアビゲイルは答える。
前科持ちだしね……ジュリエッタも人のこと言えないけど。
そうこうしている内に、私の耳にも虫の羽音以外が聞こえてきた。
それだけではない。赤々と燃え上がる火柱も見える。
……これは、もしかして……。
「……アンジェリカ……?」
やがて、虫の壁を割るようにして私たちの前に現れたのは、予想通りアンジェリカであった。
”知り合い?”
”う、うん。別の知り合いのユニットの子なんだけど……”
だが、様子がおかしい。
最近はかなり愛想が良くなった――というよりジュリエッタに対しても人懐こい笑顔を浮かべるような子だったんだけど、今はというと、初めて出会った頃のような……いやそれよりも更に暗い表情を浮かべている。
何よりも……彼女がここにいるということはヨームたちも一緒に来ているはずだ。だというのに、ヨームたちの姿が見当たらない。
まさか……ここに来るまでやられてしまったのか……?
”アンジェリカ……?”
恐る恐る声を掛けてみる。
アンジェリカはゆっくりと暗い瞳を私の方――いや、ジュリエッタの方へと向け――
虚ろな表情から一変する。
「ジュリエッタ……」
一歩、一歩、大鎌を構えながらこちらへと近寄ってくる。
その表情に表れているのは……。
「ジュリエッタァァァァァァァァァッ!!!」
――まぎれもなく、『憎悪』と『憤怒』。
「――アンジェリカ!?」
まるで彼女の心を表すかのような、憤怒の炎を身に纏い、憎悪の咆哮を上げながら大鎌を振り上げアンジェリカがこちらへと攻撃を仕掛けてきた……。
小野山です。
仕事の都合で明日の更新時刻は未定となります(時刻は不明ですが、更新自体はします)。




