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5-30. Intermezzo -1-

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「……陰気な場所ねぇ、嫌だわぁ……」


 げんなり、と言った様子でつぶやく少女。

 鮮血のような真紅の髪と真紅の瞳――その手に持つは茨の如き鋭い棘を無数に生やした巨大な槍……使い魔(ユーザー)リュウセイのユニットであるフランシーヌだ。

 近くにリュウセイの姿はない。彼女はユニットのみでクエストに参加している。


「それにしてもリュウセイのやつ、面倒なことを……。

 『他のユニットに姿を見られないように、モンスターをいっぱい倒してこい』よ……こっちはどこにユニットがいるのかもわからないってのに」


 ぶつくさとぼやくフランシーヌの足元から、ぬるりと『黒い泥』が持ち上がる。

 『黒い泥』は彼女の目の前で形を変え――大きく『×』を描く。


「あー、はいはい。愚痴ばっか零してないでお仕事はちゃんとしますよ、っと」


 『黒い泥』を恐れることなくフランシーヌは返す。

 と、次は『黒い泥』が人間の手のような形状となり、ある方向を指さす。

 そちらの方を見ると――フランシーヌの存在に気付いたのであろうモンスターたちが押し寄せてきている。

 やってくるモンスターは、既にラビたちが何度も戦った大芋虫の大群であった。

 それを見てフランシーヌは嫌そうに顔を顰める。


「うげ、虫系……!? あたし、嫌よ!? 虫の血なんて吸いたくないわ」


 モンスターを恐れることはなく、倒したその後に『血を吸う』こと――彼女のギフト『吸血者(ブラッドサッカー)』を使うことを嫌がっているようだ。

 『黒い泥』がまた『×』印を出すが――両腕を組んでぷいっと横を向いてフランシーヌは拒否の姿勢を示す。

 やがて、諦めたように『黒い泥』がぷるぷると震えると……。


「あ、()()が戦ってくれるの? ありがとー♪」


 地面から湧き上がった『黒い泥』が巨大な人型へと変わる。

 上半身だけが異様に大きく、また両腕が胴体と同じくらいに太い。その反面下半身は小さく、人間であれば頭部にあたる部分はない――歪な人型へと『黒い泥』が変形する。

 頭部こそないものの首に当たる部分には二つの白い光――おそらくは『眼』だろう――が灯っている。

 ()()の名は『ゼラ』――フランシーヌと同じくリュウセイのユニットである。

 歪な人型形態へと変形したゼラがのっしのっしとゆっくりと歩をモンスターの方へと進めるのを見て、フランシーヌが白々しく声援を送る。

 ……ゼラがため息を吐いたようにがっくりと一度肩を落としたのは気のせいではないだろう。


「いやー、ゼラが一緒に来てくれてほんと助かったわ。

 本当ならあたし一人でも十分な相手なんだけどなー。虫じゃなければなー」


 大芋虫の群れへと巨腕を叩きつけ蹴散らしていくゼラの後ろから、のんびりとフランシーヌは着いていく。




 ――彼女たちに下したリュウセイの命令は二つ。

 一つは既にフランシーヌが呟いた通り、『他のユニットに姿を見られないようにしつつ、モンスターをひたすら倒していくこと』。

 そしてもう一つは――


「じゃ、この調子でいきましょう、ゼラ。

 ……つっても、このクエストを作った黒幕を探せって、無茶言ってくれるわよねぇ……」


 命令に従うのは吝かではない。

 フランシーヌとしてはモンスター相手に大暴れが出来るのであれば特に文句はない――その点で言えば、今回のクエストは彼女が苦手とする虫系モンスターばかりということが不満ではあるが、いざとなれば彼女が戦うのは厭わない――し、他のユニットと関わるなというリュウセイの方針に特に否はない。モンスターよりもユニットとの対戦の方が暴れられるという思いはあるものの、フランシーヌは自身の能力がそこまで対戦向きではないことを理解している。

 ただ、今回の命令――二つ目に関しては漠然としすぎていて何をどうすればいいのかがわからない。


 ――ま、無理なら無理でさっさと諦めましょ。クエストに着いて来ないリュウセイが悪いんだしね。


 とフランシーヌは軽く考えている。

 積極的に『命令違反』をする気は毛頭ないが、チームの頭脳(ブレイン)である使い魔がいないのでは限界があることも知っている。体力・魔力の回復の限度もあるし、猶更だ。


 ――いざとなったら責任を取るのが、責任者(使い魔)の役目よね。


「あー、虫以外のモンスターも出てこないかなぁ……」


 そんなことをぼやきながら、フランシーヌはモンスターを蹴散らすゼラを眺めていた……。




 今回のクエストにおけるフランシーヌとゼラの配役は、『脇役』である。

 決して表向きに活躍するわけでもなく、ラビたちの手助けをするわけでもない。

 しかし、誰にも知られずに最も多くのモンスターを倒し、ラビたちの負担を減らすという彼女たちの行動は、結果として今回のクエストの行方を大きく左右するものであったのだ――ラビたち『主役』も、そしてフランシーヌたち本人も知ることではないが。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ラビたちから遠く離れた場所――すり鉢状になった地形、その底の部分でアリスとヴィヴィアンは背中合わせになり『敵』と対峙していた。

 ……互いの背中を守るため、という意味はもちろんあるのだが、それ以上に二人とも疲労困憊でお互いを背中合わせで支え合っているという状態の方が近い。


「……流石にそろそろやべぇかな……」


 珍しく気弱なことをアリスが口にする。

 その表情はいつもと変わらず好戦的な笑みを絶やしてはいないが、疲労の色が濃い。


「……否定したいところですが、そうですわね……」


 ヴィヴィアンもやはり同じだ。

 互いに顔は見えてはいないものの、どちらも限界に近いことは理解している。

 『ゲーム』的な意味での体力と魔力についてはまだ猶予はある。幾つかはグミとキャンディは残してあるし、何よりもかつてない長丁場の戦いにより珍しく魔力の自然回復が効果を発揮しているのだ。魔力については節約しながら戦えばまだしばらくはもつだろう。

 問題なのは精神的・肉体的疲労だ。これだけはいかにアイテムがあろうともどうしようもない。

 二人がそろそろラビたちが異変に気付くだろう、と思ってから更に数時間が経過――ジェーンを探しながらもあちこちを逃げ回っていたが、流石に限界が近い。


「倒しても倒しても出てきやがって……!」


 憎々し気に吐き捨て、自分たちを取り囲むモンスターの群れを見る。

 すり鉢の『淵』に当たる部分にはずらりと大芋虫の群れが押し寄せ、アリスたちを取り囲んでいるのだ。


「ふぅ……あの奇妙な『蜂』から逃れたと思ったら、今度は芋虫に追い詰められるとは……」


 虫が苦手なはずのヴィヴィアンだが、今はそうも言っていられない。

 嫌悪感を堪えつつこちらも苦々し気に吐き捨てる。

 自分たちが虫によって誘導され、死地へと追い詰められていることを二人は忌々しく思うが、もはやどうにもならない。


「ふん、案外ここでやられてリスポーン待ちになる、というのも一つの手かもしれんな。

 使い魔殿が来ていれば気付いてくれるだろうしな」

「……まだ来ていなければ、わたくしたちは二人揃って退場ですわね……」


 リスポーンをしてもらえれば体力も魔力も全快の状態で復帰できる。確かにいざとなればわざとリスポーンするというのも手だろう。

 だが、ヴィヴィアンの指摘する通りラビがいなければリスポーンも出来ずにそのまま『ゲーム』から退場になってしまう。

 以前『嵐の支配者』の戦いの時にジェーンが使い魔なしでクエストに参加していたが、その時の話ではユニットのみでクエストに参加し体力が尽きた場合はクエストから退場、その後同じクエストには二度と参加できないようになる……と聞いている。

 最終手段としてはそれはありかもしれないが、ラビたちと入れ違いになってしまった場合、それにどこにいるかもわからないジェーンが一人取り残されることを考えると出来ればとりたくない手段だ。

 そして二人には今ラビが同じクエストに来ているのかどうかも判断できない――強制移動で呼び戻されてもいないし遠隔通話も来ないということは、ラビは未だにクエストに来ていない可能性が高い、とさえ思っている。

 ――尤も、強制移動も遠隔通話も使えないためであってラビは既にクエストに来ている、ということを二人は知る由もないのだが。


「あぁ、冗談だ。そんな曖昧でリスキーなことしねぇよ」

「ええ、わかっておりますわ、姫様」


 様子を窺っているのか芋虫たちは襲い掛かってくる気配はない。ただ二人を包囲しているだけだ。

 蜂型と違って芋虫型は空を飛ぶことは出来ない。アリスたちならば飛行系魔法を使って飛んで逃げるということも出来るのだが……。


「……ヴィヴィアン」


 緊張した声音でアリスがヴィヴィアンに呼びかける。

 尋常でない様子にヴィヴィアンは何事かが起こっていることを察知する。


「はい、姫様」

「……ヤバいのが来た。雑魚は無視して、二人でかかるぞ……!」


 ――にわかには信じがたい発言がアリスからされる。

 だがヴィヴィアンはアリスの言うことは疑わない。

 すぐさま振り返りアリスと同じ方を向く――自分の背後については《ペルセウス》を放って守らせる。


「……あれは……!?」


 二人を取り囲む芋虫の中に、一匹だけ明らかに違うものが混じっていた。

 まるで宝石のように煌めく甲殻を持ち、高さだけでも人間の大人並み――横幅や体長を考えたら丸太よりも太く、重いであろう巨大芋虫が現れたのだ。

 不気味な文様もなく、巨大な宝石の塊のようにさえ見える美しい姿ではあるが、数多くのモンスターと戦ってきた二人はそれが他と一線を画する強敵であることを直感で理解した。


「あいつがクエストのボスで、倒したらクリア――とかだったらいいんだがなぁ」

「ですわね……」


 自分で口にしつつもアリスはそうはならないだろうということはわかっていた。

 このクエスト、討伐目標は未だ不明なままだが少なくともあの宝石芋虫が大ボスではないだろうということだけはわかる。

 なぜならば、ここに至るまでにアリスたちは芋虫型、蜂型、蜘蛛型……様々な虫系モンスターと戦い続けていた。

 あの宝石芋虫はあくまで『芋虫型のボス』なだけであって、このクエストを支配する全ての虫のボスというわけではないのだ。


「やるぞ、ヴィヴィアン!」

「はい、姫様!」


 そして二人は宝石芋虫――アビゲイルが『逃げろ』と忠告した『XC-10』ことダイヤキャタピラとの戦いに挑む――


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