5-28. 遭遇戦 3. 休戦
戦いをどうにかして止めないと……。
もしかしたら彼女たちと協力しあえるかもしれない。でも、戦いが続いてしまったら――私たちはこの謎のクエストに現れる大量のモンスターだけではなく、ユニットとも戦わなければいけなくなってしまう。
そうなってしまったらアリスたちを探すのが更に難しくなる。
厭らしい言い方だけど、敵は少ないに越したことはないのだ。
けれど現状、ジュリエッタもガンマンもやる気満々と言った感じで、私が言ったところで戦いを止めてくれそうにもない。下手に止めようとしてジュリエッタがやられました、となったら困る。
どうしたもんか……。
戦いの方は一進一退の互角の状態で進んでいる。
ジュリエッタはライズを使ってガンマンへと接近、攻撃を仕掛けようとするが、それをガンマンは銃撃で防ぎ距離を取ろうとする。
相手のガンマンの魔法によるものだ。
彼女が持っている魔法はスカウターによってわかっている。
リローデッド――弾丸装填魔法は彼女の持つ霊装の弾丸を最大まで補充する魔法だ。それもただ補充するだけではなく、貫通弾等の特殊効果を持つ弾丸を作ることも出来る。
コンセントレーション――集中魔法、これがジュリエッタの猛攻を凌ぎ切っている理由だ。スカウターでの説明によれば、ほんの一瞬だけガンマンの『集中力』を高めることで、まるで時間が止まっているように彼女には見えるようになる魔法らしい。
ジュリエッタがいくら《アクセラレーション》で加速しても、慣性を無視した動きが出来るわけではない。あくまで『超素早い動き』をしているだけであって、動作自体は普通の人間と同じなのだ。
ガンマンはコンセントレーションを使ってジュリエッタのその時の体の向きや視線から移動先を見極め、予想される位置へと発砲したり動いて回避をしているようだ。
……この魔法、地味だけどかなり厄介だ。彼女自身の動きを早くする効果こそないものの、相手の動きを的確に予想さえすれば回避も反撃も自由自在なのだから。
その上、わかったところで破る手段がない。
敢えて言うならフェイントを混ぜていくくらいか。だが、タイミング次第ではフェイントも見切って反撃してくるだろう。
更にもう一つ魔法があるのだが、こちらは今のところ使ってくる様子はない。
状況は一進一退――だがややジュリエッタが不利。
何かの拍子に一気にジュリエッタがやられてしまう可能性が高い。
早く止めないと拙い……というか、下手をするとジュリエッタよりも前に私が狙い撃ちされてしまうかもしれない。
相手側にはもう一人、巫女の姿をしたユニットもいるのだ。そちらが動く前に戦いを止めないと……。
”ちょっと待って、話を聞いて!!”
ガンマンにも呼び掛けてみるが、返答は銃弾だった。
「殿様、ダメ。あっちは完全にやる気」
むぅ……そうなんだけど……。
いや、諦めるのは早い。例えガンマンがやる気であっても、向こうの使い魔が話を聞いてくれれば……。
”そっちの使い魔さんも! 私の話を聞いて!”
”そ、そんなこと言われても……”
……うん? これは手応えあり、か?
向こうの馬の姿をした使い魔も戸惑っているのがわかる。巫女の方も動かないのではなく、状況がよくわからず動けないのか。
これなら説得の余地はある、かもしれない。
だが、ガンマンは相変わらずこちらに銃口を向けたまま戦闘態勢を解くことはない。
「バトー! ダメよ! こいつらは敵よ!!」
「……こっちのセリフ……」
むむぅ、いかん。ガンマンとジュリエッタは全く話を聞くつもりがない。というか、互いに完全に『敵』として認定してしまっているっぽい。
でも考えようによっては、この二人が互いに攻撃しあうのを止めさせてしまえば話し合いの余地はあるってことだ。
ならば――
”わかった。今からこっちは戦闘を止める! だからそっちももう攻撃してこないで!”
「何をふざけたことを!」
相変わらずガンマンは聞く耳を持たないが、構わない。
戦闘を止めるには――こういう手もある。
ガンマンが引き金を引く気配を察し、ジュリエッタも動こうとする。
そこで私は――
”強制命令! ジュリエッタ、移動して!!”
「……え?」
ジュリエッタに対して強制命令を使う。
目的はジュリエッタの移動――移動先はガンマンの背後から20メートル離れたくらいの場所だ。
一瞬、ガンマンがジュリエッタの姿を見失うが、すぐに気づき振り返ろうとする――が、それよりも早く私は再度強制命令を使う。
”ごめん、ジュリエッタ! 強制命令――ジュリエッタ、両手を上げて動きを止めて!”
両手を上げて――まぁ要するに『抵抗しませんよ』のポーズを取らせてジュリエッタの動きを止める。頭の後ろで組ませる方が良かったんだけど、私が頭に乗っているので止めておいた。
振り返ったガンマンは銃を構えるが、こちらが全く動かないことに戸惑いを見せる。
”……アビー、撃っちゃダメよ。銃を下げなさい”
「でも……」
”あんた、それで撃ったら『悪役』になっちゃうわよ?”
「うぐっ……わかったわよ……」
渋々といった様子でガンマン――アビーと呼ばれた少女が銃を腰のホルスターに収め、こちらから視線を外さないままゆっくりと巫女の方へと下がる。
”……ジュリエッタ、君も攻撃しちゃダメだからね”
ジュリエッタから返事がない。
――って、そうか。まだ強制命令が効いているのか。
”えーっと……強制命令解除”
放っておけばいずれ効果は切れるだろうけど、それを待っている時間も惜しい。私の意思で強制命令を解除する。
「……むー、殿様……」
動けるようになったジュリエッタが頭の上にいた私を両手で持って非難めいた視線を送ってくる。
だが速攻で攻撃を仕掛けようとしない辺り、こちらの言うことは聞いてくれるらしい。
”ごめんよ、ジュリエッタ。こうでもしないと、向こうも止まってくれないと思って”
「むー……わかってるけど、殿様も危なかったかもしれない」
……そっか、私のことを心配してのことか。
…………いかんな、前に千夏君に自分の命を粗末に扱うな、なんて言っちゃってたけど、私自身が自分の身を顧みてなかった。
”そうだね……心配してくれてありがとう。次からは気を付けるよ”
「うん……」
さて、とりあえずこれで一旦戦闘は中止してくれたかな?
向こうは巫女と合流して何やら話しているようだ――相変わらずガンマンはこちらから視線を切らないけど。
”えーっと、今からそっちに近づくけど、攻撃しないでね!?”
”……わかったわ”
少し悩んだ様子だったが、向こうの使い魔――今気づいたけど、野太い男性の声なのに何で女口調なんだろ……?――も了承し、ガンマンと巫女に攻撃しないように指示を出している。
”それじゃジュリエッタ、話し合いに行こうか。
あ、私は両手で抱えて行って。一応、攻撃しにくい体勢の方がいいだろうし”
「うん」
ジュリエッタの場合、メタモルでどうにでも出来るから『攻撃出来ない』体勢ってとり辛いんだよね……。まぁ相手はそんなことはわからないだろうし、使い魔を抱えていればそうそう攻撃出来ないと思ってくれるだろう。
……これで向こうが攻撃して来たらかなり危ないけど、これは賭けだ。ガンマンはともかく、巫女と使い魔の方は話が通じそうだしそう悪くない賭けだとは思っているが……。
微妙な不安を抱えつつも私たちは相手へとゆっくりと近づいて行った……。
* * * * *
「ほんっとーにごめんね!」
両手を合わせ、ガンマン――アビゲイルことアビーが私たちに謝罪する。
「……むー、ごめんなさい」
相手にだけ頭を下げさせられない。ジュリエッタもぺこりとお辞儀するように頭を下げて謝罪。
――私たちはお互いに警戒しつつも話合い、戦いを止めることで合意した。
で、軽く自己紹介をしたところでジュリエッタとアビーは互いに頭を下げて和解、といったところである。
まぁなかなか相手に信用してはもらえないだろうけど、私としては他のユーザーと積極的に争いたいわけではない。むしろ積極的に戦いは避けていきたいくらいなので今後も攻撃するつもりはない。
”それにしても、対戦ってあんな感じなのねぇ……”
男性の声であるにも関わらず口調は完全に女性という何とも奇妙な使い魔、バトーが呟く。
うーん? 何か話しっぷりからして対戦するのは初めてなのかな?
”いや、普通はちゃんと対戦を承諾してから始まるよ。
あんないきなり対戦が始まったのは初めてかな……”
私も人に言えるほど沢山対戦をしたわけではないからわからないけど。
ただ、クラウザーのチート以外では強制的に対戦が始まるなんてなかったはずだ。
”そうなの? あたしたち、他のプレイヤーと会ったのも初めてだからわからなかったわ”
”え? そうなんだ……それは……何か、凄いね……”
『ゲーム』が開始して大体四か月くらいか。その間一度も他の使い魔と会わなかったってのは、それはそれで凄いことだと思う。
なぜか『イレギュラー』扱いされている私ですらそこそこの数と出会っているというのに。
対戦リストに上がってきても拒否し続けていたり、COOP可能なクエストを意図して避けていけばありえない話ではないけど……。
私の内心の疑問を読み取ったか、バトーが続ける。
”ま、あたしたち、特に他のプレイヤーに接触するつもりがなかったってのもあるんだけどね”
ふーん、やっぱり意図的か。
そういうプレイスタイルがあるのも否定はしない。トンコツたち『EJ団』とはまた違った方向性だが、ソロプレイに徹すると言うのもありだろう。
”じゃあ、私たちが初めて会った他のプレイヤーってことになるのかな?”
”そういうことね。
何にしても、お互い争わないというのであれば大歓迎だわ。なにせこのクエスト……かなり厄介なのよねぇ”
……むぅ? 何かバトーの言い方からすると、この謎のクエストについて何かしら知ってそうな口ぶりだけど……。
となるとやはり彼女たちとの戦いを止めたのは正解だった。
私たちの知らない情報を彼女たちが知っているかもしれない。
”ねぇ、バトー。私たちと情報交換しない? 私たちはこのクエストについて知らないことが多すぎるんだ……でも、撤退するのも今はちょっと出来ないし……”
”そーねぇ……”
考えるそぶりを見せつつ、バトーはアビーと自らを抱きかかえている巫女――ミオの方を見やる。
アビーの方は未だ警戒中――とは言っても私たちに対してではなくモンスターの方をだ――もう一人のミオの方はというと、何だか思いつめたような暗い表情をしたまま俯いている。
……何だかあっちの方にも事情がありそうだ。
うーん、だったら……。
”私たちの方でも何か協力出来ることがあるならするよ? ……まぁ、ちょっと事情があってそこまで余裕もないんだけど……”
最優先は変わらずありすたちの救出だ。それの妨げになってしまう程、時間を割くことも出来ないが情報の見返りに何かをするくらいは必要だろう。
”――ま、いいわ。こっちにも事情があるし、戦力が増えてくれるのであれば大歓迎よ。
こんなところで立ち話も何だし、ちょっと移動しましょ。まぁどこに行っても大体モンスターがいるけどね……”
そうバトーは提案する。
確かにここは比較的見晴らしもいいし、今はモンスターの襲撃は落ち着いているもののいつまた大群に襲い掛かられるかわからない。
バトーの提案に乗り、私たちは比較的背の高いビルの屋上へと向かって移動を開始した。
小野山です。
ついに250回目となりました。
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