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5-17. 幽霊団地の怪 2. JS調査団の冒険(前編)

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「うーん……やっぱり手がかりゼロかぁ……」


 千夏が『幽霊団地』を見に行った翌日――土曜日の放課後。

 桃園台南小、ありすたちのクラスの教室にて。

 ありす、桃香、美々香の三人は教室の隅で集まって話をしていた。


「仕方ありませんわ。そもそも、件の『幽霊団地』は桃南(とうなん)の学区外ですもの」


 桃南とは、桃園台南小の略称である。

 桃香の言葉通り、神道を挟んだ向かい側にある『幽霊団地』のある場所は、桃園台小の学区であり桃南の学区とは異なっている。

 ありすたちは凛子に言われた通り、律儀にクラスメートや知り合いに聞き込みをしていたのだが、学区が違うこともあり余り成果は上がっていないようだった。


「……うー、でも凛子ちゃんのお願いとか、何か裏がありそうで嫌だなぁ……でも言うこと聞かないと、後が怖いし……」


 桃香同様、美々香も凛子には苦手意識があるのか、苦々し気な表情で呻く。


「そもそもさ、恋墨ちゃん何でそんなに『幽霊団地』のことが気になるのさ? それに今って、アンジェリカのこととかで手一杯なんじゃない?」


 美々香の疑問は尤もである。

 彼女たちが知るありすであれば、あまり興味を惹かれるような話ではないと思う。そして、ありすが凛子を恐れて言うことを聞くというのも考えにくい。

 ただでさえ今彼女たちは、アンジェリカとジュリエッタの微妙な関係という問題を抱えているのだ――トンコツを通じて美々香も話は聞いている――『ゲーム』外の余計な問題に首を突っ込む余裕もないはずだ、と美々香は思う。

 美々香の言葉に、ほんの少しだけ不機嫌そうに顔を顰め、ありすは言う。


「ん……ジュリエッタの方は、別に……ラビさんとなつ兄がどうにかすればいい、と思う……」


 ――丸投げかい!


 と言葉には出さなかったが美々香も、桃香でさえも心の中で思った。

 実際、ジュリエッタの件についてはありすに出来ることは特にないというのも事実ではあるが。

 ありすは続ける。


「『幽霊団地』は……わたしはお化けなんていないと思うし、それはどうでもいい……」

「んん? じゃあ何で?」


 言われて振り返ってみれば、確かにありすは今まで『幽霊団地』の噂を集めることはしていたが、そこまで積極的というわけではなかったように思える。

 凛子に言われたことに従っているというよりは、一応『義理』は果たすといった感じが強かった。

 千夏や美々香にも協力をお願いしてはいたものの、成果自体は特に気にすることもなく、半ば放置していたようなものだ。お願いをしてから二週間ほどが経っているが、それぞれが得た成果の報告会も今日初めて開いたくらいだ――もっとも、今まで何の成果もなかったため特にお互い報告することもなかっただけでもあるのだが。

 だというのに、今日になって急にありすは二人を集めて『幽霊団地』の噂についてまとめよう、と提案してきたのだ。


「……昨日、なつ兄の話を聞いて、やっぱり気になった」

「千夏さんのお話……ですの?」


 昨夜の千夏の報告はラビにしかされていない。ラビを通じてありすには話はしたものの、桃香にはまだしていなかったのだ。当然、美々香も詳しいことは聞いていない。


「『蜘蛛の化物』がいる、って話……」


 ありすは昨夜ラビ伝いに聞いた千夏の話を二人にする。

 千夏が出会った人物は、『巫女の幽霊』ではなく『蜘蛛の化物』がいるという話をしていた。

 凛子から聞いた話とは全く異なる怪異が存在するということになる。


「……わたし思った。

 もしかして、『幽霊団地』に出てくる化物って、『ゲーム』に関係しているんじゃないかって」

「『ゲーム』に? もしかして、モンスターか何かってこと?」

「ん。そういえばミドーには話してなかったけど……」


 ありすは現実世界に侵蝕してくるモンスターの存在について美々香へと説明する。

 現実世界にまで影響を与えるモンスターには今まで四回遭遇している。

 桃南の生徒たちに被害を与えた『アラクニド』、影響自体は少なかったがそれでも事故を起こす原因となった『テュランスネイル』、雷雲を呼び寄せた『雷精竜ヴォルガノフ』、そして爆弾低気圧を発生させ桃園台はおろかその周辺の幅広い地域に甚大な被害を齎しかねなかった『嵐の支配者』……その四回だ。

 理屈は全くわからないが、どうも『ゲーム』のモンスターの中には現実世界に影響を与えるものが確かに存在しているのだ。

 各モンスターは、それぞれが冥獣、怪獣、神獣と一貫性はないので法則は全く不明ではあるが……。


「あ、そういえば前に何かみんなして急に気分が悪くなったことあったっけ」


 ありすの話を聞いて、美々香も思い出す。

 約三か月前――まだ暑かった時期に、学校中の生徒が体調不良を訴え一時騒然となったことがあった。

 結局、しばらくして全員体調は回復したため原因不明のままであった事件だ。給食の前の時間だったこともあり、集団食中毒の可能性も考えにくい不可解な出来事であったことを覚えている。


「……アラクニド……『蜘蛛の化物』、ですか?」


 桃香もようやくありすの言わんとしていることに気が付く。

 千夏が聞いた『幽霊団地』に現れた『蜘蛛の化物』は、もしかして以前桃南に現れた『アラクニド』と同一のものではないのか、と。


「ん、わたしは無関係じゃない、と思う……」

「なるほどねぇ……恋墨ちゃんが興味持つわけだわ」


 『嵐の支配者』のようなモンスターが複数いるとは考えにくいが、アラクニドであれば話は別だ。

 アラクニドには『冥界の主』という呼び名もあったもののそこまで強力なモンスターではなかった――尤も当時のアリスでは一人で勝つのは厳しい相手ではあったのだが、それでも『嵐の支配者』とは比較にならないレベルなのは確かだ。

 雷精竜ヴォルガノフも複数存在するのだ、アラクニドも複数いても不思議はない。あの時現れた子蜘蛛が成長すると、もしかしたらアラクニドになるのかもしれないし、生物が繁殖しないわけがないのだから。

 それに、原因不明の体調不良で倒れるという被害の状況がアラクニドの時と似ている、とありすは重ねて思う。


「……というわけで、今日、『幽霊団地』に行ってみる」

「今日ですか?」

「んー、あたしは別に構わないけど」


 後は現地に行って確かめてみるだけだ。

 都合よくモンスターの姿を確認できるかどうかはわからないが、これ以上噂話を集めようとしても無駄だろう、とありすは判断する。


「け、けれど……あやめお姉ちゃん、今日は何やら用事があるということで午後はいないし……」

「ん。ラビさんも午後はしばらく出かけるって言ってた」


 あやめに言われたことが気になり及び腰の桃香と、対照的に都合がいいと言わんばかりににんまりと笑みを浮かべるありす。いまいちピンと来ていない美々香。


「……明るいうちに行けば、大丈夫……夜中でもなつ兄が大丈夫だったんだし」

「そ、それはそうですが……でも……」


 と、一転して今度は不機嫌そうな表情となるありす。

 桃香に対して――ではない。


「……それに、ラビさん……最近何か隠れてこそこそしてるし……わたしに秘密にして……」

「お、おう……恋墨ちゃんでも嫉妬とかするんだ……」


 ぶつぶつと最近のラビに対しての不満を呟くありすに、若干引き気味に美々香も呟く。

 実際のところ、ありすが不機嫌だった理由はここにある。別に最近の『ゲーム』がジュリエッタとアンジェリカのことが中心になっているためではない――あれが必要なことだというのはありすも理解しているし、納得もしている。確かに多少退屈している面もないことはないが。

 主な原因は『ゲーム』ではなく現実世界での話なのだ。現実世界においてラビに構ってもらえないことこそが、ありすのここ最近の不機嫌さの理由なのである。

 そのこと自体にラビは気づけているのかどうかはわからない。ラビ自身、ありすが感じている通り、今は『やること』があるので忙しくしているのだ。


「……そういえば、あやめお姉ちゃんもここのところいないことが多いですわ。免許は取り終わったから時間に余裕が出来る、と少し前は言ってたのに……」


 どうやら桃香の方もあやめに放置され気味らしく、押し殺していた不満が噴出してきたようだ。


「……行っちゃう?」

「……ん、行こう」

「……ですわね」


 構ってくれない保護者への不満あるいは反抗心と、『幽霊団地』の謎を解き明かせるかもしれないという期待が、三人の未知への恐怖と不安、そして保護者の言いつけを守らなければという思いを上回った。

 昼間、あるいは夕方暗くなる前ならば近くには普通に家もあるし大丈夫だろうという思いもあっただろう。いざとなれば防犯ブザーを鳴らすなり大声で叫ぶなりして周りの人に危険を知らせることも出来るという安心感もあった。

 その後三人は集合時間と集合場所を決め、一度帰宅したのだった。




 この三人の軽率な行動が引き金となり、ありすたち――そしてラビたち使い魔をも巻き込んだ、過去最大の戦いが巻き起こることを誰も予想してはいなかった……。


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