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5-15. 復讐戦 10. 兆し

*  *  *  *  *




 アンジェリカの復讐戦が始まって一週間ほどが経過した。

 その間、毎日というわけではないけど結構な頻度で対戦をしている。

 ……流石に毎回アリスたちが見学しているのは暇だったようで、たまにアリスが代わりに戦ってみたりしたこともあったけど。

 概ね、事態は()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていいだろう。今のところは、だけど。

 で、今日はと言うと、ちょっと趣向を変えて対戦ではなくCOOP可能なクエストにヨームたちと来ている。

 私たちが一緒に行けるクエストはトンコツに探してもらった。まぁ彼は不参加なんだけど……。

 参加メンバーは、私の方はありす(アリス)千夏君(ジュリエッタ)――ヴィヴィアンは今日は不参加だ。

 ヨームの方はアンジェリカと未来(フォルテ)である。嵐はこの一週間でも余り対戦には参加出来ていない。彼女はメンツの中では最年長の高校生だし、『らぁめん屋』のバイトが忙しいので仕方ないところだ。

 尚、同じように部活に塾にと忙しいはずの千夏君だけど、参加率はいい。まぁ彼がいなければ話が始まらないというのもあるのだけど、頑張ってスケジュールを開けてくれているみたいだ。

 無理してないか心配になるが、本人曰く『期末試験も終わってるんで大丈夫っす』だそうだ。部活の方も冬場には大会も特になく、そこまで根を詰めて練習をするような状況でもないらしい。


「アンジェリカ、前に出すぎ」

「ち、違いますよ! ジュリエッタが後ろに行きすぎなんです!」


 場所はいつもの荒野フィールド。敵は火龍の亜種である『熱龍』というドラゴンが数体。他にもお供の小型モンスターが一杯、という割と普通のクエストである。

 ……ドラゴン数体がターゲットなのを『普通』と言えるようになるとは、昔は思ってもみなかったなぁ……などと遠い目をしてみる。

 それはともかく。

 ジュリエッタとアンジェリカがやいのやいのとやり取りしながら敵を蹴散らしていっている。

 フォルテは能力が能力なので後ろでヴィヴィアンの代わりに私とヨームを護衛しつつ――まぁ私はアリスの肩に掴まっているから護衛不要だけど――折を見てオラクルで占ったり、ドローでランダムではあるものの支援を。

 アリスは基本的にはジュリエッタたちに任せるつもりなのか、こちらも珍しく後ろに下がって遠距離攻撃での支援に徹している。


「……なーにをイチャイチャしてんだ、貴様ら」


 後ろから二人のやり取りを見ていたアリスが呆れたように言う。

 二人の間にはもう険悪な空気もなく、確かにアリスの言うようにイチャイチャしているだけのように見えなくもない。


「い、イチャイチャなんてしてません!」


 アリスの言葉にアンジェリカが顔を真っ赤にして反論する。

 ……その顔色じゃ説得力ないよなぁ……。

 ジュリエッタはと言うと、むっつりとした顔で押し黙っているが、言いたいことはアンジェリカと大体同じだろう。ま、こっちは多分表情通りなんだろうけど。


「そら、モンスターがこっちに向かってくるぞ」


 アンジェリカの反論には付き合わず、アリスが迫りくる熱龍の存在を教える。

 むむぅ、とうなりながらもアンジェリカは熱龍の方へと向き直る。


「ジュリエッタ、行きますよ!」

「……うん」


 疾うに熱龍の接近に気付いていたジュリエッタは、アンジェリカに言われるまでもなく走り出そうとする。

 その後ろをアンジェリカが追いかけていく。


「……ふん、ま、使い魔殿たちの思惑通り……じゃないか?」

”あぁ、アリスも気づいてた?”

「そりゃ、流石に一週間も付き合ってりゃな」


 どうやらアリスも私とヨームの思惑に気付いたようだ。


「ま、オレにはあんま関係ねーし好きにすればいいんじゃねーの」


 ただ、思惑に気付いてはいても特に何かをするというわけではないらしい。

 実際アリスに出来ることはあんまりないしねぇ……。


「結局のところ、オレたち外野がどうこう言ってどうにかなるもんじゃねーだろ」

”……ま、その通りなんだけどね……やっぱり放っておけないっていうか”


 アリスの言う通りだ。

 ()()()()、私とヨームで思うところはあるし可能な限り『良い』と思える結果にしたいとは思っていて、それに向けて色々とやっているところではあるのだが、最終的には私たち外野がどうにか出来る問題ではなく、()()()()()()()()が結論を出すしかないのだ。

 でもなぁ……放っておいたら最悪の結果になりそうだったし、放っておけなかったんだよね……ヨームに言われるまで放置していた私が言うのも何だけど。

 私の言葉にアリスは口を尖らせる。


「お人よしのお節介焼きめ」

”……いいじゃん、出来るだけ皆がハッピーになれる方がいいでしょ?”

「ふん、なら現在進行形で放置されているオレのことも気にかけて欲しいもんだな」


 ……おや? もしかして、アリス……。


”……拗ねてらっしゃる?”

「ふんだ」


 ……しまった。確かにここ一週間アンジェリカとジュリエッタのことばかりでアリスとヴィヴィアンのことが放置気味になってたかもしれない――いや確実に放置してた。

 拙ったな……。


”ご、ごめんねアリス。もうちょっとだけ、ちょっとだけ我慢して!”


 言ってて思ったけど、これ、世のお父さんお母さんが子供との約束を反故にした時の言い訳だわ……。

 でもそう言うしかないんだよね……もっとうまい言い方があるかもしれないけど、情けないことに私には思い浮かばない。

 私の言い訳にアリスはますます口を尖らせる。


「ふーんだ。

 ……別に『ゲーム』の話だけじゃないんだけどな……」

”……ん?”

「何でもねぇよ」


 後半の方は小声で何かつぶやいたっぽいけど、よく聞こえなかった。

 ともあれ、このままだと拙いな……うーん、でもどうすればいいんだろう……。

 アリスのご機嫌取りにクエストに行くとか? むぅ……。


「……苦労、なさってますね」

”すまないね、ラビ氏。アリス君もアンジェリカのために申し訳ない”


 後方から私とアリスのやり取りを見ていたフォルテとヨームがフォローしてくれるが、それでもアリスの機嫌が直ることはこのクエスト中はなかった……。




*  *  *  *  *




「やった! やりましたよ、ジュリエッタ!」

「……うん」


 最後の熱龍を倒し、クエストクリアとなった。

 熱龍にとどめを刺したのはアンジェリカであった。それも、最後の一匹に限っては、ジュリエッタも手出しをせずにアンジェリカ単独でやっつけたのだ。

 まぁ流石に後ろからジュリエッタがアドバイスをしながら、だったけど。

 それでもアンジェリカ一人で熱龍一匹を仕留められたのだ。かなりの成長を遂げたと言えるだろう。

 ……ジュリエッタやアリスなら、熱龍は物の数ではないくらいなのは置いておいて。火龍の亜種というくらいだから火龍よりは強いのは間違いないんだけど、流石にテュランスネイルとかとは比較にならないレベルだし。


「アンジェリカも、やればできる」


 まるで弟子の成長を喜ぶ師匠だ。

 実際、先週大鎌の使い方を教えた時くらいから、ジュリエッタの中でアンジェリカの立ち位置が弟子みたいな感じに変わったことは私も感じていた。

 アンジェリカの方も意外と素直にジュリエッタの言うことを聞くようになってきているし、何と言うか……『倒すべき敵』から『目標』に変わっているようにも思える。

 当の本人はというと、ちょっと成長したら相変わらずジュリエッタに挑んでは負ける……を繰り返しているから、私の思っている印象が間違っている可能性もないことはないが。

 傍から見てみれば、そう悪くない関係に見えるのは間違いない。


「もう一回行きましょう!」


 自分の成長を実感できているのだろう、嬉しそうにアンジェリカはそう提案してくるが……。


「……ごめん。今日はもう無理」

”ごめんね、アンジェリカちゃん。ジュリエッタの方がこの後ちょっと用事があるんだ”


 今日は金曜日。千夏君は塾のある日なのだ。

 なので、そこまで難易度の高くないクエストを一回行くくらいが精々である。

 今までも対戦出来なかった日、あるいは時間を短くしても一回しか対戦出来なかった日とかもあった。そのいずれも、平日に千夏君が塾のある日だった。

 平日に部活を終わらせて、塾までの短い時間をアンジェリカのために開けてくれていたのだ。彼自身にも無関係とは言えない問題ではあったが、本当に千夏君には感謝してもしきれない。

 ジュリエッタがこの後はクエストに参加できないと知ってアンジェリカは明らかに残念そうな顔をしたが、


「そうですか……仕方ないですね」


 と意外とあっさりと引き下がってくれた。

 ……うん、やっぱりアンジェリカの中でジュリエッタに対する認識が変わってきていることは間違いない。

 今のところは悪い方には向かってないと思えるけど……。


”ふむ。それでは今日のところはこれで解散しましょうか”


 ヨームの言葉に誰からも反論は上がらなかった。

 こっちはアリス一人になってしまうし、アンジェリカとジュリエッタが一緒にクエストに参加しないのであれば私たちの『目的』にも沿っていないし。


”うん。それじゃ、今日は解散しようか”


 こうして私たちはヨームたちとの初めての合同クエストを終えるのであった。

 明日明後日なら時間は多めにとれるし、対戦するだけではなく今日みたいに合同でクエストに行ってもいけるかな……何てことをこの時は呑気に考えていたのだが――


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