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5-12. 復讐戦 7. 第二回戦に向けて

 ジュリエッタとアンジェリカたちとの対戦が終わった翌日の夕方。


”うーん、歩くとやっぱり結構遠いなー……”


 私はヨームとの待ち合わせ場所である桃園台記念公園へとやってきていた。

 目的は昨日と同様にヨームと直接顔を合わせて対戦をするためである。

 昼間の間に千夏君とアンジェリカの予定を確認し、トンコツを通じて時間を調整しての待ち合わせだ。

 流石に今日はありすたちは一緒には来ていない――当然のようにありすは渋ったものの、今日からは外でヨームと待ち合わせなのだ。流石に風邪を引いてしまうので幾ら渋ろうが認めるわけにはいかない。

 で、恋墨家から一人で歩いてやってきたわけだが、流石にこの小動物並みの体では移動に時間がかかってしまった。

 一応待ち合わせ時間丁度ではあるが、果たして……。


”こちらだよ、ラビ氏”


 他の人に見つかると厄介なので――見た目が子猫のような兎のような姿のため、特に子供に見つかると厄介なのだ――公園の隅っこを隠れながら移動していたところ、ヨームから声を掛けられる。

 私が移動していた茂みのすぐ傍にあるベンチに、一人の少女がヨームをぬいぐるみのように抱きかかえて座っていた。


”ヨームさん……と、未来ちゃんだっけ?”


 私の言葉にぺこりと未来が頭を下げる。もしかして一緒に挨拶をしたのかもしれないけど、声は何も聞こえない。

 ヨーム一人じゃなかったのか……いや、だからと言って何かされるかもとは思わないが。


”ふむ、そちらはラビ氏だけかね?”

”ええ、はい……”


 ふむ、とヨームは頷くと、


”では移動しようか”

”移動? どこへ?”


 ここでそのまま対戦するのかと思ってたけど……。

 あぁ、でも未来がここにいたまま対戦するとなると、未来の体が心配か。

 私の疑問にヨームは答える。


”未来の家である。ここからならすぐだ。

 ――未来、すまないがラビ氏も運んでくれるかな”

「……」


 ヨームの言葉にこくりと頷き返すと、未来が私を抱き上げる。

 右手にヨーム、左手に私を抱えたままのっしのっしと未来はすぐさま歩き始めた……。




*  *  *  *  *




 未来の家はヨームの言葉通りすぐ傍だった。

 桃園台記念公園はかなり広く、東西に横長の形状をしている。西側は桃園台高校、東側は七燿桃園の入り口近くまで伸びているので学校の校庭よりも大分広いと言えるだろう。

 公園は幾つかの区間に分かれていて、子供向けの小さなプール、遊具の置いてある至って普通の公園、遊具とかはない広場、更には草野球をするには最適な大きな運動場まである。

 私が連れられて行った未来の家は、この桃園台記念公園の東の方――道路を挟んで向かい側にある比較的新しいマンションの一室であった。


”お、お邪魔します……”


 道すがら、この時間は未来の家族は家にいないということは聞いていたため声を聞かれても困ることはないが、何となく小声で挨拶をしてしまう。


「……」


 私の挨拶に未来が何事か返したようだが、やっぱり何を言っているか聞こえない……。

 ……もしかして本当は何もしゃべっていないんじゃないかと疑ってしまうくらいだ。

 抱きかかえられたまま家の中を移動、そのうちの一室――未来の部屋へと私は案内させられる。


”……う、うーん……”


 思わずうなってしまったが、未来もヨームをそれを聞きとがめることはなかった。

 何というか、ありすとは違う意味で女の子らしくない部屋というか……。

 とにかく『黒ずくめ』の部屋だ。シックと言えば聞こえがいいけど、多分趣味で黒くしているんだろうなぁ……。

 部屋の本棚にはぎっしりと本が並べられている。背表紙を見ると、どうも占いとか『魔術』の本――本当にこの世界に魔法があるわけではないと思うけど――らしい。ところどころ、私の読めない多分外国語の本も混じっているようだ。

 他には謎の水晶玉とか、何に使うのか見当もつかない髑髏の飾りとか……とにかく怪しさ満点の部屋である。


「……」


 私とヨームはそんな未来の部屋の真ん中に座らされ、当の未来は部屋から出ていく。


”お茶を入れに行っただけだよ”

”そ、そうですか……”


 どうぞおかまいなく、って言いたいところだけど、言う前に行っちゃったしな……。

 何だか落ち着かない雰囲気の部屋でヨームと未来を待つこと数分。人数分のコーヒーを入れて未来が戻って来た。


”ありがとう、未来ちゃん”

”ふむ、すまないね”

「……」


 私たちの感謝の言葉にふるふると首を振って応える。

 ……ヨームもそうだが、未来も表情があんまり変わらないので何を考えているのかわからない。ありすも似たようなものだけど、こちらの方が更にわかり辛い。

 ま、それはともかく――


”じゃあ、どうしようか。まず少し話でもする?”


 折角コーヒーを入れてもらって放置するのも何だし。

 それに――実は今日の待ち合わせ時間、千夏君たちに予告した対戦をする時間よりも()()()()()()なのだ。

 対戦とは別に、ヨームの『お願い』について少し話しておきたいことがあったためなのだが……。


”……そうですね。それが良いでしょう”

”未来ちゃんもいて大丈夫なの?”


 別に聞かれて困る話をするわけではないけど、積極的に聞かせたい話かどうかと言われるとちょっと悩ましい話をするのだ。


”構いませんよ。むしろ、『あのお願い』は未来が私に対してしたものが発端です。彼女にも状況は説明しておくべきでしょう”

”あ、そうなんだ?”


 意外というわけではないが、未来が発端だとは思わなかった。

 ……うーむ。


”わかった。それじゃ、例の件についてだけど――”




*   *  *  *  *




 ヨームと未来と一緒になった『お願い』について語ること……大体二十分くらいだろうか。

 やはりというか何と言うか、いい案は思い浮かばなかった。

 最終的には昨日と同じく、しばらくの間はアンジェリカの好きなようにさせるしかない、という『様子見』に落ち着いてしまう。

 ……うーん、なかなか難しい問題だ。

 今までだったら、現れた敵をとりあえず倒していけば問題は解決してきたんだけど、今回はそういうわけにもいかないし……。

 ……あれ? 案外私、ありすのこと脳筋って言ってられない?


『ラビラビ、仕方ないっすよ。気長に行こうぜ!』

”う、うん……”


 やたらとフランクな言葉遣いで話しかけ――いや、文字を見せてきているのは未来だったりする。

 彼女も話し合いには参加すると言って、部屋のノートPCを持ち出してきたのだ。

 なるほど、筆談なら声が小さくても問題ないな――と思った私が馬鹿だった。


『アンジェリカたんかわゆす』

”お、おう……”

『アンジェリカたんは俺の嫁』

”え、あぁ、はい……?”


 ……とまぁ、時折わけのわからないことを口走るのだ。

 まさかとは思うが、本当にこんなことを喋っているわけではない……よね? 書き言葉で悪乗りしてるだけ……だと思いたい。


”ふむ、ラビ氏に来ていただいて正解でした。

 私は歳のせいか最近の若者の言葉に疎くてね”

”……いや、彼女の言葉がわからないのは歳のせいではないかと……”


 これ、ネットスラングが大分混じっているだけだと思う。ネットスラング自体、なぜか日本と同じなので私は何とか意味がわかるんだけど。


『アンジェリカたん……(;゜∀゜)=3ハァハァ』


 おいおい、とうとう顔文字まで使いだしたよ。

 収拾がつかなくなってきたぞ、これ……。


”と、とにかくそろそろ対戦の時間だし、行こうか!”


 相変わらずカチャカチャと物凄い勢いでキーボードを叩き続ける未来。

 延々と『アンジェリカ可愛い』と『嵐はBBA』と書き続けている――ヨームから聞いたが、未来と嵐は従姉妹同士らしい――嵐に怒られるぞ、これ。

 このまま小説でも書き上げるつもりかと言わんばかりの未来を放置しておくわけにもいくまい。私は頃合いを見計らって二人に提案する。


”ふむ、確かに。未来、行きますよ”

『おk』


 ようやく未来がキーボードから手を離してくれる。

 むぅ、PCがないとまともに話が出来ないけど、PCを持たせたらそれはそれでまともな話が出来ないとは……恐るべし。


”ちなみに、今日はアンジェリカ君とフォルテ――未来だけが参加です”

”あ、そうなんだ。そっか、嵐はバイトって言ってたっけ”


 さらりとヨームがばらしたが、やはり未来がフォルテで確定らしい。

 別に追求する気はないけど、アンジェリカの本体には会ったことがないわけだし、気になると言えば気になる。

 ……『お願い』を叶えようとする過程で会うことになるかもしれない――その時は千夏君も顔を出す必要があるかも――まぁ別に会う必要もないと言えばないのかもしれないけど。


『BBAがいても勝てないのにアンジェリカたんと漏れだけとかw それなんて無理ゲーwww』


 今時自分のことを『漏れ』とか書く人、いるのか……。

 それはともかく、確かに未来の言う(書く)通り、昨日は三人がかりで勝てなかったというのに今日は凛風もいないと来た。

 これが抜けたのがフォルテというのであればまだ何とかなるかもしれないのだけど、前衛の凛風がいないというのだ。まぁまず勝てないだろう――昨日私のアドバイスでいい勝負が出来るようになってきたとは言え、それも三人のバランスが取れていたからに他ならない。

 ヨームチームの三人、それぞれ特徴があってなかなか扱いの難しいチームではあるが、能力が嵌った時は強いと思う。

 その中でも中核を担うのが凛風だと思う。彼女が抜けるとなるとかなり厳しい戦いになると言わざるを得ない。


”……まぁ、私たちの最終目的は()()()()()()()()()()()()()()()のですから。今日のところは経験を積むつもりで行きましょう”


 ……ヨームの『お願い』を受け入れたのは私も()()がいいと判断したからに他ならないからだけど、まだまだ先は長そうだななぁ……。


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