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5-11. 復讐戦 6. 対戦終了、幽霊団地へ

*  *  *  *  *




「……ずるい。殿様、ジュリエッタにもアドバイスして」


 むすっとした表情でジュリエッタはそう言う。

 一対三の対戦は既に終わり、後はマイルームに戻って一旦解散、という場面である。

 対戦の結果だが――


「ふふん、流石は使い魔殿だな」

「ええ。短時間であの三名をあそこまで戦わせることが出来るとは……わたくし、感服いたしました」


 結果だけ見れば、やっぱりジュリエッタの勝ちではあった。

 ……が、ジュリエッタが膨れていることからわかる通り、前ほど余裕のある勝ちだったというわけではない。

 なにせ今回は《狂傀形態(ルナティックドール)》まで使()()()()()のだから。

 正直私自身が一番驚いているけど。まさか時間ギリギリまで粘るとは思わなかったのだ。


”うーん、正直ジュリエッタに私から教えられることなんてないと思うけど……”

「……ずるい」

”……わかったわかった。何か考えておくから、ね?”


 いつまでも膨れられても困る。適当に宥めておく――いや、まぁ言った以上は何か考えておかなきゃいけないけど。


”さ、外でヨームさんたちも待っているだろうし、戻ろうか”


 予定外の二回目の対戦、それと対戦前の会話で時間を使ってしまっている。

 早いところ戻らないとありすが帰るのが遅くなってしまう。

 私は三人に宣言し、現実世界へと戻るのであった。

 ……ま、戻った後に少しヨームと話さなきゃならないことがまだ残っているんだけどね。




*  *  *  *  *




「……おかえりなさいませ、ラビ様、ありす様」


 場所は『らぁめん屋』の座席。

 目覚めた私たちをあやめが迎えてくれる。


「お、戻って来たね!」


 私たちよりも先に現実世界に戻って来たのであろう、嵐たちも出迎えてくれる。

 未来の方は相変わらず何を喋っているのかわからないくらい声が小さいけど……。


”お待たせ、あやめ。

 えーっと、それじゃヨームさん。次の対戦のことだけど――”


 そう、話さなきゃならないこととは、これから先の対戦についてだ。

 今回の対戦でアンジェリカは結局ジュリエッタを倒すという目的を達することは出来なかった。

 一度戦って負けたなら納得しろ、とはちょっと言えなかったし、まだアンジェリカは諦めたわけではないだろう。

 ……この辺のアンジェリカの気持ちについて、実はヨームとも既に対戦中に話してはいるのだが……話した上で、しばらくの間はアンジェリカの気が済むまで対戦させよう、という意見で一致した。

 となると残る問題は、明日以降の対戦を開始するためにどうするか、というところだ。


”……流石にまたここに集まって、というわけにもいかないでしょうね”

「そーね。明日は普通に営業日よ」


 営業中のお店で対戦するってわけにもいかないよね、そりゃ。

 まぁそもそもの話、ありすにしろ嵐と未来にしろ、毎回集まるというのが無理がある。

 今回は初対面だったし、何があるかわからないからという理由でお互いにユニット本体の子(それと第三者としてあやめ)に来てもらったけど、次回からはもういいかなぁって気はしている。

 ヨームは雰囲気が胡散臭いだけで別に本当に怪しい人物ってわけではないみたいだし、嵐と未来も私を人質にとって……とか考えるような子でもないだろう。それで言うと、実はアンジェリカ本体の方が少し気になるんだけど……。


”ふむ、それでは、桃園台記念公園辺りで私とラビ氏で落ち合いましょうか”

”そうだね、それが妥当かな”


 ありすの家からだと神道を渡らないと行けない、というのがネックではあるけど距離的にはそこまで遠いわけでもないし無理はない。

 一度対戦したのでこれからはヨームの対戦リストに私の名前が挙がってくるようになるのだろうけど、それでも確実に対戦したいときに現れるとは限らない。

 今回の件については、出来る限り望んだタイミングでの対戦をしたい。

 なので、少々面倒でも私とヨームが顔を合わせる必要があるのだ。


”じゃあ後はジュリエッタとアンジェリカの時間の都合が合えばって感じかな。

”そうですね。こちらは三人揃うのは……少し難しいですが、アンジェリカが対戦には必ずいるようにしましょう”

「あー、そーねぇ……あたし、バイトあるしね……」


 聞くところによると、嵐はこの『らぁめん屋』で働いているらしい。

 どうもこの『らぁめん屋』、嵐のご両親のお店なんだとか。嵐自身は高校生だが、将来は自分もラーメン屋をやりたいとかでバイトとして働いているとのことだ。

 流石に『ゲーム』のためにバイトを休ませるわけにはいかないだろう。


”昼頃にお互いのスケジュール確認して、集合時間を決めようか”

”はい、結構です”

”例の『お願い』については……まぁ、おいおい考えていきましょうか”

”そうですねぇ……”


 ヨームの『お願い』について承諾はしたものの、具体的に私が何をすればいいのか、全く方針が見えていない状態だ。

 これについては少し気長にやるしかない、というのが私とヨームの見解だ。


「ん、お話終わり?」

”ああ、終わったよ。

 それじゃ、帰ろうか”


 ……あ、思ったより遅くなっちゃったし、結局またあやめの運転に頼らざるを得ないのか……。




*  *  *  *  *




 さて、帰り道だが――


「鷹月おねーさん、少し寄り道してもいい?」


 とありすが車に乗る前に言ったことにより、真っ直ぐ家に帰るということではなくなってしまった。

 どこに行きたいのか尋ねてみたところ、少し前に話題になった『幽霊団地』へと行きたいとのことだった。

 もちろん時間も遅いし、中に入るための許可も得ていないため外から眺めてみるだけだが……。


「……私は構いませんが」


 そう言いつつ私の方をちらりと見る。

 ……うーん、本当はありすたちを近づけさせる気は全くなかったんだけど……。


”……そうだね、一度行ってみようか。

 あやめ、外から見る分には別に危険もない……よね?”

「おそらくは……」


 まぁ流石にあやめも原因不明なのでわからないよねぇ。

 でも、結局私たちは『幽霊団地』へと向かうこととした。

 一つは車の中から通りすがりに見る分にはそこまで危険はないだろうという判断、もう一つは、『幽霊団地』の正確な場所を私が知らないので一度場所を確認しておきたい、という思いがあったからだ。

 昼間の暇な時間、私が一人で行く分には特に問題はないはずだ。現実世界では私は不死身なわけだし。

 というわけで、私たちは帰り道の途中で『幽霊団地』へと向かうこととなった。




 『幽霊団地』は桃園台にある。

 とは言っても桃園台という地名に含まれる箇所は結構広い。桃園台駅もありすの家も同じ桃園台ではあるものの、徒歩では15分程度かかる……まぁそれを考えると、ありすの家は『桃園台』の端の方にあるとも言えるんだけど。

 さて、問題の『幽霊団地』であるが、尚武台駅前の『らぁめん屋』から線路に沿って桃園台駅の方へと少し向かった先にある。丁度中間地点――やや桃園台駅寄りか。


”おや、もしかしてあれかな?”


 尚武台駅と桃園台駅の中間地点と思しき辺りで、ちょっと古めかしい団地らしき建物が見えてきた。

 周囲は一軒家やそれほど大きくないアパートが並んでいるため余計に目立つ。


「いえ、あれは七燿桃園の官舎でございます。

 ……あの官舎も、もしかしたら『幽霊団地』の一部となっていた可能性はありますが」

”ふぅん?”


 あやめが言うには、元々あった団地のうちの一部は七燿桃園が買い上げて『官舎』としているらしい。

 あの広い敷地の中でも『兵隊さん』ではなく内部で働く従業員や、外で暮らしたい人なんかが住んでいるとのことだ。

 で、残りの団地は誰も使うことはなく、そちらが『幽霊団地』と呼ばれているものらしい。

 そのまま住宅街の中をノロノロ運転で走っていくと……。


”……あれか”

「ん、あれ」


 先程見えた官舎のすぐ隣に、明らかに誰も住んでいないことがわかる建物が見えてきた。

 結構広い敷地に、地上六階建てのかなり大きな団地――私の感覚からすると、少し小さめのマンションと言えるかもしれない――が立ち並んでいる。

 敷地内には本来ならば街灯もあるのだろうが、誰も住んでいないため灯はともっておらず真っ暗闇だ。

 ……なるほど、これは『幽霊団地』と言っても頷ける雰囲気だ。


”周囲は金網で囲われている……と”


 道路に沿って話に聞いた通り背の高い金網が張り巡らされており、内部に立ち入ることは出来なくなっている。


”……うーん、本当に住宅街のど真ん中だねぇ……”


 道路を挟んで向かい側には、官舎の周囲と同様に一軒家が立ち並んでいる。

 廃墟と言うと人里離れた場所にあるものを想像してしまうが、この『幽霊団地』に至っては完全に住宅街のど真ん中にある。廃墟と呼ぶには若干違和感がないこともない。


”あっちの奥の方には何があるんだろう?”


 車を脇に停めてもらい、中から少し様子を見てみる。

 団地の建物は二列三組で並んでいる。私たちがいる道路から見て奥に二列と言った並びだ。

 その二列目から奥はまた開けており、背の高い建物はないように見える。家が並んでいるのだろうか?


「幽霊団地を挟んで向こう側は、桃園台高校の敷地ですね。

 私たちが今いる位置からだと校舎は見えませんが」

”ああ、なるほどね”


 尚武台駅にありすの家から向かう途中、神道から曲がったところの道に出るのか。

 あの道路沿いには、右手に桃園台小学校――更に右に曲がると桃園台記念公園がある――左手に桃園台高校がある。

 桃園台高校の敷地はかなり広かった覚えがある。ほとんど尚武台駅まで伸びるくらいだ。校庭が広いだけではなく、畑のようなものもちらりと見えたのでもしかしたら農業科とかがあるのかもしれない。

 ……いや、行きの車ではあやめの運転にハラハラしっぱなしであんまり見ている余裕もなかったから、本当にチラ見レベルでしか見てないけど……。


”なるほどね、大体わかってきた”


 もちろんわかったのは『幽霊団地』の謎ではない。この辺りの地理についてだ。

 『幽霊団地』、桃園台高校が東西に大きく場所を取っており、尚武台駅側の方に住宅街が並んでいるといった感じか。大きい四角形の敷地を想像してみて、その三分の二くらいが『幽霊団地』と桃園台高校というわけだ。

 この二つの敷地に関しては当然のことながら自由に中を突っ切ることはできないし、車で通れる道路があるわけでもない。外から見えずらい場所が多いというのも、『幽霊団地』の不気味さを増している原因の一つだろう。


「んー……」


 私と一緒にありすも『幽霊団地』を覗き込んでいる。

 ……もしかして本気で幽霊を探しているのだろうか。幽霊はいないと思うけど、不審者には気を付けたい――ま、車の中にいるし早々心配することはないだろうけど。


”場所も大体わかったし、今日はもう帰ろう。いいね、ありす”

「ん……わかった」


 ちょっとだけ残念そうだが、ありすも素直に頷く。

 もう日も落ちて真っ暗だ。美奈子さんには予め許可を得ているものの、あまり遅くなりすぎても問題だろう。

 それに、あやめも危ないしね。変質者とかがどうこうではなく、暗い道であやめに運転させるのは……ちょっと怖い。


「かしこまりました。それではこのままありす様のご自宅までお送りいたします」


 あやめはそう言うと車を急発進させた。

 ……だから怖いって!!


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