表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/786

5-10. 復讐戦 5. ラビの戦闘講座

”……んー、なるほど……”


 一通り三人の持つ能力――アンジェリカは散々渋ってたけど――を聞いて考えをめぐらす。

 あんまり時間をかけることは出来ない。元々予定にない二回目の対戦なのだ、帰る時間が遅くなっては拙い。なので、対戦時間は今回は15分としている。

 さて、前回の対戦を見た時に思ったことを踏まえ、思ったことを伝えよう。


”まずは……アンジェリカちゃん”

「……」


 むすっとした表情のままそっぽを向いているアンジェリカだが、構わず私は続ける。


”君は中距離からの支援に徹すること。君の魔法なら出来るよね”

「そ、それじゃ【復讐者】が使えないじゃないですか!?」

”うん。使わないで”


 アンジェリカの反論を私はばっさりと切り捨てる。

 この意見には流石に凛風たちも驚いたような表情を見せるものの、アンジェリカのように食って掛かってきたりはしない。


”うーんとね、確かにダメージを倍返しってのは強いし、ジュリエッタに当たれば一発で倒せるとは思うんだけど……”


 ちょっと言いづらいけど、言わないわけにはいかないか。

 私は断言する。


”君じゃ、ジュリエッタに当てられないでしょ?”

「うっ……」


 幾ら強い攻撃を持っていたとしても、相手に当たらないのでは意味がない。

 加えて【復讐者】のダメージ倍返しは初見殺しの性質が強い。一度ジュリエッタに見られている以上、もう二度と通用しないと思った方がいいだろう。

 少なくとも、当てるために色々と工夫しないと無理だと思う。それこそジュリエッタの動きを完全に封じるなり出来なければ……。


「で、でも私の【復讐者】は……私の切り札で……」


 ……うーん。


”アンジェリカちゃん……【復讐者】は残念ながら()()()()()()()()()よ”

「……え?」


 どうも彼女は誤解しているっぽい。

 ちょっと厳しいことを言うけど、この誤解を正さない限り彼女が勝てるようになる見込みはないだろう。


”確かに威力だけ見るなら一発逆転出来るかもしれない切り札っぽくは見えるんだけどね。

 でもね、確実性がないものは『切り札』とは言えないと思うんだ”


 あくまで私が思うところでは、だけどね。

 いざ切り札を……ってところで不発に終わるんじゃ何の意味もないと思う。そして、【復讐者】は威力はともかく確実に当てることは出来ないんだから不発に終わる可能性が結構高い。実際ジュリエッタには当たらなかったし。


”少なくとも【復讐者】を最後の頼みの綱とするのは無しだね。【復讐者】を使うこと前提で作戦を組み立てるのも、もちろん無し”

「う、うぅ……」


 あらら、頭抱えちゃった……。

 ま、彼女の戦闘能力が今よりも上がらないことには【復讐者】を使うのは諦めた方がいいだろう。

 【復讐者】は能力の性質上どうしても『ダメージを受ける』ことが必要となる。

 極論、戦闘は自分はダメージを受けず相手にダメージを与える、ということが出来れば勝てるのだ。【復讐者】に頼っている内は『ダメージを受けない』ことについて練習することも出来ない。それでは戦闘能力はいつまでたっても上がらないだろう。特に、ジュリエッタのように近接戦闘能力に優れた相手と戦う上で、アンジェリカ本人の戦闘力が上がらないままでは一生勝てはしない。

 ……まぁ体力が減って今にも負けそう、という時の一発逆転を狙うのまで禁止する必要はないと思うけど。ギャンブルには違いないが。

 ただ【復讐者】を軸に物を考えるのは無しだ。最悪のケースだと、【復讐者】を使おうとして体力を削ってしまい、【復讐者】を使う前に倒されてしまうということもありうるし。

 とにかく戦術として組み込みづらいのだ、現状。もっとアンジェリカの戦闘力が上がれば……考えないでもないんだけど。


”じゃあ次は、凛風ちゃんね”

「はいアル」


 何気に三人の中で一番悩ましいのが彼女なのだ。

 その理由は、彼女の持つ各種能力にある。


”君はアンジェリカよりも前に出て戦うこと。で、シフトでギアを上げられるようになったら、即上げる――まぁ魔法を使おうとして攻撃された、じゃ意味がないから相手の動きには注意ね”


 悩ましい点その一。全身強化魔法であるシフトだけど、段階的にしか強化できない、という点が難点だ。

 一気に強化したくてもそれが出来ないというのがもどかしい。

 話を聞いてみたところ、15分の対戦時間では《4thギア》までしか上げられないということだ。《4thギア》だとジュリエッタがライズを使えば簡単に抑え込めるくらいなので、ちょっと厳しい。まぁジュリエッタのライズは効果時間が短いという欠点があるので、そこを上手く突いていくしかないか。

 後は『全身強化』なので、ピンポイントに上げたい能力を上げられないというのも難しい点である。

 いい点としては一度シフトを使えば後は魔力消費なしで強化が続くという点か。彼女は他の魔法に魔力を割きたいのでこれはありがたいと言える。


”で、凛風ちゃんのギアが上がるまではアンジェリカちゃんがフォローね。

 凛風ちゃんはブロウを使って攪乱、攻撃はあまり深追いしないように”


 対ジュリエッタ戦に限った話ではないけど、相手が速攻を仕掛けてきた場合が一番厄介だ。

 凛風のギアが上がる前に倒されてしまっては元も子もない。

 ここだけはちょっと賭けになってしまうけど仕方ないだろう。アンジェリカの魔法と合わせて凛風には生き残ること最優先に立ち回ってもらう必要がある。

 幸いと言えるのは、アンジェリカの点火魔法(イグニッション)と凛風の操風魔法(ブロウ)の相性が良いことか。

 イグニッションは『点火』という名の通り、単純に炎を発生させる魔法というわけではなく、『指定した対象に火を点ける』という魔法なのだ。それも、火を点けたものそのものは火の影響を受けず、酸素や燃料がなくても解除するまで燃え続けるという特性がある。

 なので直接ジュリエッタにイグニッションをかけてダメージを与えるということは出来ないが、代わりに凛風のブロウで『作った』風については効果の対象となりえる。

 ……燃える風、というのも何だか現実味がないが、とにかく魔法なのだから出来るとしか言いようがない。


「んー、目つぶしとか、そういうのでいいアルか?」

”そうだね。後は足元を狙うとか、突風で移動を邪魔するとかかな。ジュリエッタは小柄だし、いっそのこと吹き飛ばすくらい考えてもいいかもしれない。

 あ。凛風ちゃんの攻撃は基本的には霊装付きで。ギアが最大まで上がった時くらいかなぁ……外していいのは。今のところはね”

「なるほど……了解アル!」


 凛風のブロウはかなり便利な魔法だ。

 単純に『風』といっても色々な種類がある。それこそ、熱風や冷風なんかですら発生させることが出来るというのだから驚きだ。

 だから強風でジュリエッタの動きを防ぐだけではなく『砂嵐』みたいなので目つぶし……まではいかなくとも視界を塞ぐということも出来る。

 また、凛風の作った風自体は魔法の産物となるので、さっき私が考えた通りアンジェリカのイグニッションで燃やすことが出来る。その上、風自体は延々吹き続けることが出来るので、長時間ジュリエッタの動きを拘束することが期待できるだろう。

 で、もう一つの霊装についての話が悩ましい点その二だ。

 というのも、凛風のギフト【格闘者(グラップラー)】の効果が『素手での攻撃時に威力アップ』という何とも微妙なものなのだ。魔法の威力そのものには影響しない上に、霊装を身に着けてしまうと何の効果も得られないというのだから、微妙としか言いようがない。

 そして霊装――虎柄の手甲だ――の効果はというと、彼女の魔法の『起点』を霊装にすることが出来るというものである。要するに拳から風を発生させることが出来るということで、ブロウと組み合わせることで結構な攻撃力を発揮できると思う。

 とりあえず現状の戦闘力から判断して、ギフトの効果は一旦忘れることとした。ギアが最大まで上がればブロウの利便性よりも素手での攻撃を取った方がいいだろう。今回は《4thギア》までが最大なのでギフトの出番は無しだ。

 ちなみに後一個魔法を持っているんだけど、こちらについては特に触れることはない。効果も使い方も特に改めて私から説明すべきことはないからだ。


”アンジェリカちゃんと凛風ちゃんのコンビネーションについては、二人で動きながら色々考えてみて。

 最後にフォルテだけど――”


 アンジェリカのギフトを『ギャンブル』と言って戦術に組み込めないことを言ってしまったものの、フォルテについては本当に能力自体がギャンブルだ。確実性という言葉がこれほど似合わない能力というのもないってくらいに。

 でも、だからと言ってフォルテを遊ばせておくのももったいない。

 何度も言うようだけど、現状では三人で戦わなければジュリエッタには歯が立たないのだから。


”確実に狙った効果を出すことは出来ないだろうけど、君は『ドロー』と『ビルド』を躊躇わないで使うようにして”

「……承知しました」

”うん、いい効果が出れば万々歳だけど、少なくとも味方に被害が行くような効果はないって話だしね”


 フォルテの主軸となる能力は、未来視の魔法『オラクル』とギフト【予言者(プレディクター)】だ。

 このうち、ギフトの方は完全に忘れ去ってよい。発動がランダムな上にその場で役に立つ『予言』が来るとは限らないのだし、期待するだけきっと無駄だろう。

 他に持っている魔法が『ドロー』と『ビルド』なのだが、これもギャンブル性の高い魔法だった。

 まず『ドロー』で全54種類のカード――霊装ではなく魔法の産物のようだ――から()()()()()一枚ずつ引く。そしてカードが五枚揃ったところで『ビルド』を使うと、その時の手札に応じた『役』が決まり、様々な効果を発揮するというものだ。

 ……多分だけど、トランプと同じなんだと思う。『剣』『杖』『盃』『楯』の4種類に1~13までの数字札、残り2枚がジョーカーらしいのでほぼトランプと思っていいだろう。

 で、この魔法を使って、言ってしまえば一人ポーカーをやるようなものだ。高い『役』が作れればありがたいが、ランダムすぎる。

 狙った効果を発揮させることが出来ないのが難点ではあるが、さっき私が言った通り味方に不利な効果というのはない――『ブタ』とかだと魔力を消費するだけ無駄になるっぽいけど。

 なのでフォルテの役割は後方支援……というより攪乱となるだろう。狙った効果を確実に引けないというのはデメリットだが、『何をしてくるかわからない』というのはプレッシャーを与えるには十分だ。


”それと、後は適宜オラクルを使って欲しい”

「オラクル……ですか……。

 使うのは構いませんが、あまりお役には立てないかと」

”いやいや、そんなことないと思うよ? フォルテから見て安全な場所ってことは、そこからなら安全に攻撃が出来る場所ってことでもあるわけでしょ”

「あー、なるほど。そこからなら、ワタシやアンジェリカがいい感じに攻撃できるってことアルな?」

”そういうこと。後は、危なそうな時に凛風ちゃんたちが回避することにも使えるだろうしね”


 これに関しても若干ギャンブル気味な面はある。

 でも私が思う通りなら、フォルテの魔法で導き出される『安全なルート』とは、回避にも攻撃にも使えるはずだ。


”まぁ、まだ次が初めての戦闘になるわけだし、色々試してみよう。コンビネーションにしても、一朝一夕で使い物になるわけではないだろうしね”


 ヨームに頼まれて思うところをアドバイスしてみたものの、結果はそうすぐには出ないだろうと予想している。

 特に凛風とアンジェリカのコンビネーションについてはかなり練習する必要があるだろう。慣れてくれば、この二人の攻撃を主軸に、凛風の全体強化による打撃か、あるいはアンジェリカの【復讐者】による一撃必殺も視野に入ってくる。


「……ジュリエッタの弱点とか教えてくれたらいいのに……」


 と、アンジェリカはぶつぶつと文句を言っている。

 ……うーむ、彼女は素直に言うことを聞いてくれそうにないなぁ……いや、まぁ私の言うことが絶対正しいってわけじゃないし、そもそも私はジュリエッタ側の使い魔だしそれはいいんだけど。


”えー……?

 うーん、じゃあ、次の対戦で私の言う通りにやってみて。ちゃんとできたら、対ジュリエッタできっと役に立つことを教えてあげる”


 こういう言い方は本当は良くないんだけど、仕方ない。


「…………約束ですよ……?」


 ちょっと悩んだようだったけど、最終的にアンジェリカは頷いてくれた。


”ふむ、それではそろそろ対戦を開始しようか”


 一通り三人には動き方を伝え終わった。後は実戦で試すだけだ。

 私とヨームはアリスとヴィヴィアンの元で観戦。

 一回目の対戦とは異なり、今度はジュリエッタに対して凛風・アンジェリカ・フォルテの三人で同時に挑む。

 さて、どうなるかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ