4-40. MEGALOMANIA 8. Amazing Break
2019/4/21 本文を微修正
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《メデューサ》に加え《フェニックス》をインストールしたヴィヴィアンの猛攻がメガロマニアを完全に抑え込んでいた。
ステータスだけならば今のヴィヴィアンは【殲滅者】で強化したアリスや、対モンスター戦におけるジェーンと同等かそれ以上となっている。
戦術も何もなく、相手の攻撃を回避し、隙を見て拳や蹴りを叩き込み、石化の魔眼で動きを鈍らせる。
各種耐性を備えたメガロマニアにダメージを与えることは出来ないものの、怯ませることは出来ている。
もちろん、このまま戦い続けていてもヴィヴィアンは勝利することは出来ない。ダメージを与えてしまいメタモルを使われること自体は防げているが、相手はヴィヴィアンを叩き潰すためにメタモルを使い続けている。
つまり、続けていけばメガロマニアの魔力が尽きてしまうのだ。そうなるとジュリエッタは救うことは出来なくなる。
――今少し、時間を……!
そんなことはヴィヴィアン自身も理解している。
そもそもヴィヴィアンは先程の発言とは裏腹に、自分の力でメガロマニアを倒そうとは全く思っていない。
ラビの指示通り、準備が整うまでの時間稼ぎをしているだけなのだ。
「ぐっ……!?」
とはいえ時間稼ぎをするのも一苦労だ。
ステータスが底上げされていると言っても、元々ヴィヴィアン単独での戦闘能力はそこまで高いわけではない。格闘戦もアリスやジェーン程慣れておらず、力任せに戦っているだけに過ぎない。
次第にヴィヴィアンの動きに慣れてきたメガロマニアの反撃に、追い付けなくなってきている。
「ヴィヴィアン!」
そこへジェーンが駆けつけメガロマニアへと(通じないが)打撃を与え、注意を引き付ける。
その隙に一旦退き、ジェーンが視界から外れたところで石化の魔眼で動きを鈍らせる。
二人がかりでも今のメガロマニアはもはや止めることは難しくなってきている。
稼がなければならない時間はそう長くはない。
だが、そのわずかな時間でも厳しい。それほどの相手なのだ。
GRURUUUUUUUUUUUUUUUUU!!!
ヴィヴィアンとジェーンを叩き潰せないことに苛立ったようにメガロマニアが唸り声を上げる。
同時に、メガロマニアの背中が大きく裂け、そこから歪な形状の『翼』が現れる。
――拙い!
「くっ……飛ばせるわけには……!!」
メガロマニアに何とか食いついていられたのは、相手が『空を飛ばない』からというものがあった。
だがメガロマニアも空を飛んでしまえば、そのアドバンテージもなくなる――移動力が同じ条件になった途端、ヴィヴィアンとジェーンによる抵抗は虚しく瓦解してしまう。
何としてでも飛行だけは阻止しなければならない。
しかし、今のヴィヴィアンではそれを止める術がない――当然翼にも耐性があるので、翼を切り落とすなりすることも難しいのだ。
こうなれば、更にオーバーロードで強化し、無理矢理足に張り付いてでも止めるしかない。そうヴィヴィアンが決断した時だった。
GU……GAAAAAAAAA!?
翼をはためかせ空へと飛ぼうとしたメガロマニアが苦し気に呻き、地面に膝をつく。
時間稼ぎが実った――わけではない。
「……シャロ!?」
驚いたような声を上げるジェーン。
何が起こったかはヴィヴィアンからはわからないが、ジェーンの言葉からシャルロットが何かをしたのだけはわかる。
重要なのはシャルロットが何をしたか、ではない。
ここが、命の張りどころだということだ。
「オーバーロード《ヘラクレス》!」
キャンディで魔力を回復、そして新たな召喚獣を自らの体に合成召喚する。
召喚するのは剛力無双、あらゆる怪物を屠った『最強』の英雄ヘラクレスだ。
見た目は変わらないものの、ヴィヴィアンの腕力が大幅に上昇する。
更に、
「オーバーロード《ナーガ》!」
四体目の召喚獣をオーバーロードする。
《ナーガ》を合成したことにより、尻尾が更に長く太く変化する。
「このまま……拘束します!」
《ナーガ》の尻尾による拘束、そしてそれを《ヘラクレス》のパワーで無理矢理抑え込もうと言うのだ。
メガロマニアはシャルロットの行った何かによって未だ苦しんでいるようだが、それもそう長くは続かない。いかにインストールした身体が頑丈とは言え、拘束する尻尾など簡単に引きちぎることが出来るだろう。
「ボロウ《テイル》、アクション《プリズンテイル》!」
ヴィヴィアンの意図を理解しているのかしていないのか不明だが、ジェーンもまた尻尾を生やしメガロマニアの拘束に参加する。
こちらも《ベルゼルガー》によって強化されたパワーでメガロマニアを締め上げ、逃がさないようにしている。
「後……少し……!!」
ぶち、ぶち、とメガロマニアを拘束している尻尾が少しずつ引きちぎれて行く音が聞こえてくる。
稼がなければならない時間はもう少し残っている。
このままでは――
「逃がしません」
そう宣告したのはヴィヴィアンでもジェーンでもなかった。
普段の言動からは想像も出来ないほどの冷たい声音――そして、感情が抜け落ちたような無表情でシャルロットの姿をした何かが宣告する。
「《アルゴス》最大出力……《麻痺の邪眼》」
シャルロットが何かの魔法? のようなものを使う。
すると、今にも拘束を引きちぎろうとしていたメガロマニアの動きが鈍る。石化の魔眼だけではない、それ以上の『何か』によってメガロマニアの動きが封じられたのだ。
”……ああ、畜生め。けど、こうするしかなかったか……”
シャルロットに抱かれたまま、トンコツがため息を吐く。
”くそ、この借り必ず返してもらうからな……ラビ!”
言葉とは裏腹に、空を見上げ嬉しそうにトンコツは言う。
その視線の先を追ってヴィヴィアンとジェーンも何が起きているのかを悟る。
――彼女たちの時間稼ぎは実り、そしてメガロマニアを撃破するための『鉄槌』が下されようとしていた。
* * * * *
”目標捕捉……いいよ、アリス!”
私たちは戦場を離れた上空へと来ていた。
先程メガロマニアのブレスによって消滅したアリスは本物ではない。あれは《影分身》である。
……まさか一日に二回、それも同じ相手にあんな手が通用するとは思わなかった。知能はあるとは言っても、そこまで冷静な判断はメガロマニアには出来なかったのだろう。
「おう! 今度こそ決めるぜ!」
私の言葉にアリスは応え、手に持っていた《イージスの楯》を足元へと置く。
……そう、《イージスの楯》だ。
メガロマニアにシャルロットの目つぶしを仕掛けた時、ヴィヴィアンが召喚し、アリスは《イージスの楯》を持ったまま気づかれないように上空へと私と共に飛んでいたのだった。
何のためか? ……そんなことは決まっている。
「ext《嵐捲く必滅の神槍》!!」
使うのは本日三発目の《グングニル》――それも『杖』の方ではない、『麗装』の方に対して使うヴィクトリー・キックの方だ。
アリスの足元に置いた《イージスの楯》の裏側からアリスのヴィクトリー・キックが炸裂、そのまま眼下のメガロマニアへと向けて突撃する。
やろうとしていることは単純だ。
《イージスの楯》をアリスのヴィクトリー・キックの勢いで押し出し、それをメガロマニアへとぶつける。
自然に落下させるのでもそれなりの速度にはなるが、メガロマニアが動いてしまったら外れてしまうし、確かある程度まで落下したら落下速度は一定になる……とかそんなはずだった。
だからこうした。最も推進力が高いのは《ペガサス》による突撃だが、《ペガサス》では《イージスの楯》に触れることは出来ない。
次に推進力があるのはアリスのヴィクトリー・キックだと思ったから、このような手段を取ることとなった。
『相手にダメージを与えず、それでも意識を刈り取るほどの衝撃を与える』方法……私にはこれしか思いつかなかった。
要するに、超高速で《イージスの楯》をぶつける。やろうとしているのは本当にこれだけの話だ。
《イージスの楯》はあらゆる攻撃を防ぐことが出来るという破格の性能ではある。
だが、これは《イージスの楯》が硬いから……というわけではない。硬いだけの楯なら、それ以上の衝撃があれば防げなくなってしまうからだ。魔法少女の魔法もそうだし、モンスターによる攻撃でも想定を上回るものは今後もないとは限らないだろう。
だから思ったのだ。《イージスの楯》による『絶対防御』は、単純に楯の硬さで実現しているのではなく、そういう魔法なのだろうと。
単純に防御力を硬さに換算することは出来ないけど、おそらく《イージスの楯》の防御力自体は『ゲーム』のシステムの上限に達しているはず。
……それを、相手の攻撃を防ぐためではなく、こちらからぶつけるのだ。その威力は計り知れないだろう。
加えて、あくまでも《イージスの楯》は相手の攻撃を防ぐものであって、システム的には攻撃力は存在しないはずだ。
つまり、どんなに勢いをつけて相手にぶつけたとしても致命傷を与えることはない。
……うん、楯でぶん殴ってダメージを与えず気絶させる。自分で思いついたアイデアだけで意味がわかんない。
わかんないけど……もうこれしか思い浮かばないのだ。
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
フリーフォールよりも早く、鋭く、あらゆる害悪を跳ねのける最硬の防御力を持ちながら相手を傷つけない楯が――
GA……!
ヴィヴィアンたちに動きを封じられたメガロマニアの脳天へと直撃した……!




