4-37. MEGALOMANIA 5. Immortal
これはかなり拙いことになっているのでは……?
私たちはジュリエッタの魔力が尽きるよりも前に体力を削り切りたい。
けれど、攻撃をすればメタモルを使って向こうは傷を修復、つまり魔力をどんどん減らしていってしまう。
それだけならまだしも、これもおそらくメタモルを応用しているのであろう、受けた攻撃に対しての耐性を獲得しているというのだ。
今、アリスの《竜殺大剣》ですら弾かれるほど、メガロマニアの皮膚は硬くなっている……この耐性上昇が厄介すぎる。体力を削りたいのに、削ることさえできなくなってしまう――その上向こうは耐性獲得のためにメタモルを使ってしまうので魔力は減っていくという最悪の悪循環だ。
むむ……どうすればいいんだ……?
「チッ……なら、ab《鋭化》!」
《竜殺大剣》をはじき返されたアリスは諦めることなく、更に《鋭化》を掛けて切れ味を上げて攻撃する。
だが、切れ味が上がったと言っても元々の《竜殺大剣》自体が様々な強化をされた状態なのだ。上昇値は微々たるもの。わずかにメガロマニアの皮膚を切り裂くことは出来るものの、さっきのように一刀で腕を切り落とすということはもはやできなくなっている。
「くそっ!?」
ここでメガロマニアも反撃に移る。
新しく生えた腕を振り回してアリスを迎撃しようとする。
流石に受け止めることはせずにアリスも後ろに下がって回避しようとしたが……。
「うおっ!? なんだ!?」
確かにかわしたはずの腕から、更に細い腕が生え、アリスへと迫る。
生えた腕に捕まれまいと《竜殺大剣》を振るう――こちらは本体ほどの耐性は持っていないのか、簡単に切り裂くことが出来た。
……もしあの腕に掴まれたらかなり拙いことになる予感がする。こちらの動きを封じつつ、本体からの打撃というコンボであっさりとやられかねない。
加えて、あの細い腕を生やすこと自体がメタモルを利用しているはずだ。
”くっ……攻撃も出来ればさせたくないってのに……!”
こちらが攻撃しても魔力を消費するし、向こうが攻撃してきたらそちらでも魔力を消費する。
困った……何をしても魔力を減らされてしまうとなると、いくらアイテムホルダーにキャンディが残っていたとしてもすぐに使い切ってしまいかねない。
アリス達が牽制をしようとするだけでも向こうの反撃で魔力が使われてしまうのだ。
これは予想以上に危ない。一刻も早く打開策を考えなければ、ジュリエッタの魔力が尽きてしまう。
”……仕方ない。アリス、ジェーン! メガロマニアの頭を吹っ飛ばして!”
”うぇっ!?”
「ああ、仕方ないな」
私の言葉にトンコツは驚き、アリスはというと仕方ないと言いつつニヤリと笑って応える。
……いや、私だって好き好んで残虐シーンを見たいわけではない。けれど、この状況を打開する方法が他に思いつかないのだ。
この『ゲーム』、人体の構造については非常にいい加減ではあるものの、身体の各パーツについての役割については比較的まともな判定をしていると思う。腕がなければ当然物をつかむことは出来ないし、足がなければ歩けないと言った具合に。
だから頭がなければ魔法を使えなくなるのではないか? と私は考えたのだ。今メガロマニアは「メタモル」という発声はしていないように思えるので、口を封じるだけでは魔法は封じることは出来ないと思う。
頭がない――もっと言えば思考するために必要な『脳』を無くせば、メガロマニアを止めることも出来るのではないかと推測した。
今ならまだ斬撃耐性がついているだけだ。他の耐性をいっぱい獲得されて何一つ攻撃が通じなくなってしまう前に、アリスとジェーンの火力で頭を吹き飛ばせば何とかなるんじゃないか……そう思うのだが……。
「ジェーン、こいつの足を止めてくれ!」
「うにゃっ!? アタシ!?」
ジェーンの魔法で一発でメガロマニアの頭を吹き飛ばせるほどの威力を持つものは今のところない。今後のアイデア次第では出来るかもしれないけれど、今ないものは仕方ない。
だから足止めだけをジェーンには頼む。頭を吹き飛ばすのはアリスの役目だ。
「mk《弾丸》、ab《弾丸》、mp!」
アリスが作り出したのは小さな弾丸。それをmpで沢山複製する。もちろん、これだけではメガロマニアにダメージなんて与えることすら出来ない。
ここからどうするのか――
「ボロウ《テイル》、アクション《テイルスイング》!」
アリスの魔法に合わせてジェーンも足止め用の魔法を使う。
まずは貸借魔法で長く太い尻尾を生やし、それに対してアクションを使う。
鞭のようにしなる尻尾が、メガロマニアを打ち据える。下手に尻尾を絡めてもパワーで引きちぎられてしまうだろうから、手数で攻める気か。
ジェーンの意図通り、メガロマニアは振り払っても振り払っても襲い掛かってくる尻尾に気を取られているようだ。ジェーンのボロウの優れたところの一つは、ボロウで新しく付けた体のパーツについては例えダメージを受けても本体の体力ゲージは減らないところにある。そのくせ、《ベルゼルガー》とかの強化魔法の効果はきっちりと受けるのだから便利としか言いようがない。
《テイルスイング》は名前の通り尻尾を振り回す魔法なのだが、ただ振り回すだけではない。尻尾が自動で動いて攻撃してくれている。身体に本来ない器官を動かす魔法なのだし、ジェーンの意思通りにも動くし足りないところは補ってくれるのだろう。
目的は足止めだ。ダメージは与えられなくても、メガロマニアの意識をアリスから少しの間逸らせれば十分。
「行け! ext《弾丸雨》!」
メガロマニアの意識が逸れたところを狙い、アリスが弾丸の雨を放つ。
一発の弾丸の威力は低いし、これだけでは到底頭を吹っ飛ばすことなんて出来るわけがないが……。
無数の弾丸の内、一発がメガロマニアの口内へと飛び込んでいく。
狙いはこの一発だ。
「cl《赤爆巨星》!」
弾丸が口の中に入った瞬間、アリスがその弾丸に対して更に魔法をかける。
次の瞬間、メガロマニアの頭部が大爆発を起こし木端微塵に吹き飛ばす! 頭部だけではなく、胸付近までが粉々に砕け散った。
アリスの魔法はマジックマテリアルがある限りは何度でも上書き可能だ。タイミングはシビアだったけど、メガロマニアの口の中に入った弾丸を《赤爆巨星》で上書きし、内部から吹っ飛ばしたのだ。流石に体の内側まで防御力を上げることは出来ないとアリスは予測したのだろう。実際、上手くいってくれたようだ。
頭部から胸部にかけて吹っ飛ばされたメガロマニアは動きを停止し、ゆっくりと崩れ――ない!?
”う、嘘でしょ……?”
「こいつ……」
巨体は少しだけ揺らいで崩れるかと思ったが、崩れ落ちる前に踏みとどまり……吹き飛んだ胸元から新たな肉が湧き出てあっという間に再生してしまったのだ。
”頭を吹き飛ばしても再生って……”
反則とかそんなレベルではない。いくら『ゲーム』が人体内部の構造についてはいい加減とは言え、口どころか頭すらないのに魔法を使えるなんておかしすぎる。
”……くそっ、そういうことか……!”
トンコツが何かに気付いたのか忌々しそうに舌打ちする。
”何かわかったの?”
”ああ。おそらくは――”
時間もない。トンコツが手早く説明してくれた中身はこうだ。
今のメガロマニアは、クラウザーの『強制命令』により『戦い続ける』という指令が出されている。例え頭が吹き飛ぼうとも、『戦い続ける』ために自動で魔法が発動するようになっているのだという。
……何だよ、それ……ちょっと納得いかない。
そもそも、魔法にしろ何にしろ、ユニット本人の意思をどうこうすることは出来ない、という話だったと思うんだけど……今のメガロマニアは、どう考えてもジュリエッタの意思はないように思える。
”むぅ……まさかとは思うが、強制命令自体にも何かチートを仕込んでいるってことか……?”
その可能性は高いか。
クラウザーの強制命令の内容は『戦い続けろ』だった。それを実現させるために、メガロマニアは自動で魔法を使い続け、消耗したらアイテムホルダーから勝手にアイテムを補充して……という具合に動いているのか。
ユニットから外れているはずなのに強制命令が継続しているのもチートなのかもしれない。クラウザーの強制命令が効いているうちは、私がユニットにすることも出来ないのだろう。
……って、考え事ばかりしてもいられない。
新たな頭部を生やしたメガロマニアは、更に狂乱したかのように腕を振り回してアリスとジェーンを攻撃する。
「くっ……!」
「にゃー!?」
振り抜いた腕が突如戻ってきたりと、普通ならありえない動きをしている。
相当体に負担を与えるはずなのだがメガロマニアは全く怯む様子はない。メタモルで身体を常に作り替えながら攻撃しているのか……。
拙い、攻撃がこちらに当たらなくても、向こうが攻撃するたびに魔力が減っていってしまう。そうなると、たとえアイテムホルダーにキャンディがいっぱいあったとしてもすぐに使い切ってしまうだろう。
一体どうすればいいんだ……!?