4-36. MEGALOMANIA 4. 魔獣の王
2019/4/21 本文を微修正
ジュリエッタの残り魔力は果たしてどのくらいあるのか? 流石にそこまでは私たちもわからない。
さっきの対戦中にも結構メタモルやライズを使っていたし、結構減っているのではないかとは思う。キャンディを使っている様子は、少なくとも私からは見えなかったが……メガロマニアとなっている状態でキャンディでの回復を行うのかどうかは疑問が残る。
回復出来ないのであれば、タイムリミットは本当にわずかしかない。
「使い魔殿、指示を頼む!」
”うん!”
アリスの言葉に応えると共に、ちらりとトンコツの方を見る。
彼もこくりと頷く。
……責任重大だ。ジュリエッタ救出、メガロマニア撃破の作戦は、私に委ねられてしまったのだ。
泣き言は言わない。今までだって様々な困難を乗り越えてきたんだ。今回も乗り越えてみせる!
”アリス、ジェーンは身体強化で! メガロマニアの攻撃の直撃だけは避けて!”
「おう!」
「わかったよ!」
離れて攻撃を仕掛け続けるというのは少し難しい。
今のメガロマニアは遠距離攻撃は持っていないようだが、今後もそうとは限らない。
相手をくぎ付けにする上でも、アリスとジェーンにはちょっと危険でも近距離で粘ってもらわなければならない。
さて、ヴィヴィアンとシャロは――
”ヴィヴィアンは召喚獣を呼び出して二人の援護を。危なくなったら《コロッサス》とか大型の召喚獣を楯にして!”
「畏まりました」
インストールで接近戦を三人で行うという手もないわけではないが、いくらインストールを使ってもヴィヴィアンのステータスではメガロマニアと殴り合いに行かせるのは怖い。
小型~中型の召喚獣を彼女の判断で呼び出し、二人の援護に向かわせる。いざとなったら大型の召喚獣を『楯』として使うなり、パワーで抑え込ませるなりする。そのタイミングはヴィヴィアン自身に任せることとする。
後はシャロだけど……。
”トンコツ、今更だけどシャロちゃんのステータス見せてもらうよ?”
”ああ、構わない。
シャロとジェーンの回復は俺に任せろ。指示はラビがやってくれ”
本人から直接聞くという手もあるが、話している時間がもったいない。
『索敵能力』では全能力を見ることは出来ないけれど、とにかくそれでシャロの能力を確認する。
……っと、これは……へぇ……?
何ともこの状況におあつらえ向きの能力を持っているようだ。
でも、これでちょっとは希望が見えてきたかな?
「ext《邪竜鎧甲》!」
「アクション《ベルゼルガー》!」
危険な近距離で戦う二人が、それぞれ自己強化の魔法を使う。
それでも直撃を受けたら危ないというのは《狂傀形態》の時でわかっているし、今のメガロマニアが《狂傀形態》よりも弱いとは到底思えない――そうだったらいいなぁとは思うけどさ。
アリスとジェーンは強化魔法を使って接近しメガロマニアの注意を惹きつつ攻撃。それをヴィヴィアンが支援する。
そして致命的な隙を相手が見せたところでアリスの神装で一気に決める……これしかないと思う。
「さぁて、それじゃ今度こそ終わらせるか」
更に《竜殺大剣》を発動させたアリスが宣言する。
クラウザーも姿を消したことだし、もうどんでん返しはないと思いたい。今度こそ決着の時だ。
* * * * *
シャロの持つ能力の内、私が見ることが出来たのは魔法二つとギフトだ。
このうち、ギフトが今の状況ではとても役に立つものだった。
”シャロちゃん、メガロマニアの監視、よろしく”
「は、はいぃ!」
私の言葉にかくかくと頷きながら、シャロは視線をメガロマニアへと向ける。
……近距離で攻めるアリスとジェーンに基本意識を向けているとは言え、いつ後方のこちらにヘイトが向くかもわからない。
隠れていられれば安全なのだろうけど、彼女のギフトを使うためにはどうしてもしっかりと相手を見る必要があるのだ。
シャロのギフトの名は【観察者】。
その効果は、相手の現在のステータスを知ること、である。
体力・魔力の最大値に加え現在値がわかるだけでなく、耐性のある属性や逆に弱点となる属性の情報を知ることが出来るという、とても便利なギフトである。
「……魔力、どうも減っても回復しているようです……」
ん、それは朗報かもしれない。
おそらくジュリエッタのアイテムホルダーに入っていた分のアイテムを使って回復しているのだろう。どのくらいアイテムが残っていたのかにもよるけど、タイムリミットが少し伸びてくれたと思って間違いない。
残念ながら弱点となる属性は特にない。反対に耐性も特にないようだ。
となれば、こちらは特に深く考えず、アリスとジェーンの得意な魔法でガンガン攻めていった方がいい。
「cl《赤色巨星》!」
アリスが《赤色巨星》を放ち、メガロマニアの巨体を吹き飛ばそうとする。
吹き飛んだところをジェーンが追い打ちをかける……つもりだったのだが、
「なにぃ!?」
驚きの声をアリスが上げる。
《赤色巨星》は、何とメガロマニアが突き出した右腕一本で受け止められてしまったのだ。
受け止めた時の衝撃でほんのわずか後退させただけに過ぎない。突っ込もうとしたジェーンが慌ててストップ、後ろへと跳ぶと同時に、ジェーンの立っていた位置に向かって受け止めた《赤色巨星》を握りしめたまま、まるでハンマーのように腕を振るい叩きつける。
ずぅん、とこちらにまで伝わるほどの地響きが鳴る。叩きつけられた《赤色巨星》は砕け、更には地面にも大きくヒビが入った。
……うん、これは本当に直撃イコール死が見える。なるべくなら近づきたくないところだけど、《赤色巨星》を受け止めるくらいのパワーとなると、他の射撃系魔法ではどうにもならない気がする。
「チッ! 舐めんな!」
それでもアリスは怯むことなく《竜殺大剣》を手にメガロマニアへと向かう。
危険ではあるが、流石に神装の一撃ならば――
「おらぁっ!!」
アリスを迎撃しようとメガロマニアが滅茶苦茶に振り回す腕を巧みにかわし、お返しにとばかりに《竜殺大剣》を一閃。メガロマニアの右腕を肘辺りから切断する。
期待通りの威力だ。丸太というか、もはや神殿の柱ともいうほどの巨大な腕がごとりと地面に落ちる。
GYYYYAAAAAAAAAAAA!!
痛みは感じるのだろう、メガロマニアが天に向かって咆哮――今度は苦痛の――を上げる。
よし、向こうの攻撃を食らったら痛いけど、こちらの攻撃も通じることは通じる。
むしろ、相手が巨大化したことによって攻撃は当てやすくなったと言えるかもしれない。
……前にアリスが言っていた、『苦し紛れに巨大化した悪役なんて、後はやられるだけ』とかなんとかの通りだ。
「あ、メガロマニアの体力ゲージが減りましたです!」
”よし!”
このままダメージを与え続けることが出来れば、何とかなるかもしれない。
……そんな私たちの希望をあざ笑うかのように、事態は更に悪化していく。
叫び声を上げるメガロマニアだったが、切断されたはずの右腕の部分がボコボコと盛り上がり、新たな腕を生やす。
マジか。再生能力……? いや、メタモルの応用、かな……?
「……え?」
【観察者】でメガロマニアのステータスを監視していたシャロが戸惑ったようにつぶやく。
”どうしたの?”
何だろう、ものすごく嫌な予感がするけど、聞かないわけにはいかない。
シャロは戸惑いながらも見たものをそのまま私に報告する。
「め、メガロマニアの体力が回復……魔力が減りました……です」
”はい?”
「……あ、魔力も回復しました」
グミとキャンディを使った、ということか?
それとも……。
先刻の切断された腕を再生させたことから考えると、メタモルで腕を生やす(魔力減少)、アイテムホルダーのキャンディで回復……という順番だろう。
……厄介だな。ダメージを与えても、グミで回復されるだけならともかく、メタモルで魔力も消費されてしまうとなると……やっぱり時間をかけるわけにはいかないということか。
「小癪な!」
折角腕を切り落としたというのにあっさりと回復されて気分を害したか、アリスはそのままメガロマニアに張り付き《竜殺大剣》を振り回し切り刻もうとする。
メタモルで回復するとは言っても、その回復よりも早く体力を削り切ってしまえばそれでいい。
それは正しい判断だとは思う。
――だが、先程は易々と腕を切断できたはずの《竜殺大剣》が、あっさりとはじき返されてしまう。
「な、に……!?」
刃筋が立っていない、とかそんなレベルではない。
さっき弾かれた時、明らかにキィン、という甲高い金属音が聞こえてきた。
まさか……。
シャロの方を見ると、彼女は真っ青な顔で呆然と呟いた。
「嘘……!? 斬撃耐性が増えてる……」
――攻撃されたら、その耐性を獲得するってこと!?