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アリスの流儀 ~脳筋バーサクJSは魔法少女となり全ての理不尽に立ち向かう~  作者: 小野山由高
第4章3節 メガロマニアは地上最強の夢を見るか?
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4-34. MEGALOMANIA 2. 終極異態

 クラウザーの強制命令によって霊装が破壊され、更にメタモルを使わされたジュリエッタの肉体が異様な変化を始める。

 ぼこん、ぼこん、とまるで音が聞こえてきそうな程の勢いでジュリエッタの体のあちこちが膨れ上がっていく。


「がぁ、ぎゃあああああああっ!! い、たい……痛いよぉ……!!」


 無軌道な、まるでジュリエッタ自身を破壊するかのような肉体の変化に、悲鳴を上げるジュリエッタ。

 普段のメタモルでも結構無茶な変化をしていたと思うんだけど、霊装が痛みを出さないようにしていたのだろうか。その霊装が破壊されているのだ、めちゃくちゃな変形に痛みを感じているのだろう。

 見る間に小さな少女の姿だったジュリエッタが、巨大な化物へと変化していく。


”何をしたんだ、クラウザー!?”


 嫌な予感がする。

 私の叫びに対して、クラウザーは……。


”クカカッ、なぁに、そいつの『願い』を叶えてやったまでさ。

 ――『最強』になるって願いをな”

”……どういうことだ?”

”ククッ”


 明らかにジュリエッタはクラウザーの強制命令を嫌がっていたし、意思に反したことをさせようとしていることは間違いないんだが。

 ……いや、クラウザーの言うことだ。どうせまともな話じゃない。


「おいおい……」

「こ、これって……」


 アリスとジェーンが戸惑った声を上げる。ちなみに二人とも危険だと思ったのか、少し下がって私たちの傍へと合流している。

 ジュリエッタの体はどんどん膨れ上がり――それだけではなく、身体のあちこちがメタモルを使った時のようにモンスターと化している。

 その大きさは、もはや『巨人』としかいいようがないほどだ。既にかつて戦った水蛇竜くらいの巨体となっている。

 見た目は……ミノタウロス、という表現が一番近いか。頭部は牛のような、馬のようなものに変化しているが基本的な身体付きは巨大化しているとは言え、手足が二本ずつあり直立した人型ではある。ただし、頭に生えている角は複雑に分岐した……何だろう、鹿の角のように見える。


”強制命令――ジュリエッタ、戦い続けろ”


 GYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!


 クラウザーの強制命令に対し、ジュリエッタ――だったものは天に向かって咆哮を上げ応える。

 一体どうなってるんだかさっぱりわからない……。

 けど、まだ戦いは終わっていない。それだけは確実だ。


「チッ、相変わらずのクソったれが!」


 アリスが毒づき、ジュリエッタを無視してクラウザーへと魔法を放つが、そのことごとくを謎のユニットの刀が切り落として迎撃してしまう。

 あっちの方も本当によくわからない相手だ。何と言うか……まるで『人形』のようで、人間らしい意思とかが全く見えない。無理矢理従わされてた頃のヴィヴィアン以上に生気が感じられない。


”クククッ……お前にとっても本望だろう、ジュリエッタ?

 今のお前は望んだ通り『最強』の姿となった――そうだな、《終極異態(メガロマニア)》とでも名付けるか”

”クラウザー!!”


 確かにジュリエッタは強くなることを望んでいたようだが、決してこのような形を望んではいなかったはずだ。

 このままジュリエッタを放置しておくことは出来ない。かといって、今積極的にジュリエッタと戦う必要もない。

 私たちはクラウザー本人へと攻撃を集中し、今度こそとどめを刺す。そうしようとした。

 しかし、巨大化したジュリエッタはクラウザーを守るように立ち塞がり、私たちへと剛腕を振るう。

 ……ただ腕を振り回しただけだというのに、掠った地面が深く抉れ、振るった腕の巻き起こした風が少し離れたヴィヴィアンとシャルロットの体へと叩きつけられる。


「くっ……」

「はわわ……す、すごいパワーですぅ……」


 《狂傀形態》の時もかなりのパワーだったが、今の《終極異態》は比べ物にならない。

 まるで大型モンスターみたいだ。モンスターよりも知恵や魔法がある分、更に厄介である。


「うにゅ~……直撃したら結構ヤバいね、これ」

「くそっ!」


 技も何もなく、ただ暴れる。それだけで近づくことも難しい暴力の嵐だ。

 ……巨体を生かして辺りを薙ぎ払うところはテュランスネイルに似ているけど、それなりの知恵があるところは氷晶竜が近い相手かもしれない。

 魔法が使えるという点を考慮すると、氷晶竜よりも厄介かもしれないけど。


”……ラビ、アリス――”


 声をかけてきたのは、意外なことにクラウザーの方だった。

 彼は私たちの方を真っすぐに見つめながら言う。


”今日のところは引いてやろう。

 だが、()だ! 次にてめぇらと戦うその時が――てめぇらの死ぬ時だ!”

「何だと……!?」

”ククッ、まぁてめぇらに()()()()()の話だがな”


 そう最後に笑って言い残すと、クラウザーともう一人のユニットの姿がその場から消える。

 ――相変わらずの対戦から自由に離脱できる『チート』か。まぁ元々乱入対戦はゲートまで行けば脱出することは出来る。

 向こうは『チート』でこちらの降参(リザイン)を封じていただけだし、逃げようと思えばこちらも逃げることは出来たんだけどさ。

 対戦結果も……私たちの勝利となっている。ただ、乱入対戦はバトルロイヤル形式なので、クラウザーが敗北判定となっているだけで私とトンコツの間ではまだ戦闘判定になっているんだけど。

 クラウザーもいなくなったことだし、私たちのリザインも出来るようになっているだろう。それか、ジュリエッタを放置してそのまま逃げてしまえばいいか。

 そう考えていた私だったが……。


”……マジか……? そんなこと、本当に起こるのか……?”


 呆然とトンコツが呟いている。

 え? 何? 何かおかしなことが起こっているの?

 ちなみに私たちは今ジュリエッタには下手に構わず、じりじりと距離を取りつつ様子を窺っているところだ。

 ジュリエッタは暴走しているのか、特に狙いを定めることなく目に付くものを片っ端から破壊し続けているだけで、積極的に私たちに襲い掛かっては来ていない。

 これなら簡単に逃げ切れそうな気もするけど……。


”……ヤバいぞ、ラビ”

”え、何が?”


 冗談で言っている口調ではない。

 でも、何がヤバいのかがわからない。


”モンスター図鑑見てみろ”

”う、うん……”


 言われてモンスター図鑑を開いてみると、そこに新たなモンスターが登録されていた。


”え、これは……ジュリエッタのこと、なの……?”


 新たに登録されていたモンスターの名は『メガロマニア』。そういえばさっきクラウザーも、今のジュリエッタの形態をそんな名前で呼んでいた気がする。

 ……ヴィヴィアンの《アングルボザ》の時と同じだ。見た目がモンスターっぽいからだろうか、それとも別の理由があるのか、今のジュリエッタもモンスター図鑑に登録されているようだ。

 でも、これが……?


”くそったれ、クラウザーの奴め!!”


 トンコツが既にいなくなったクラウザーに向けて罵声を上げる。


”ちょっと待って、一体どういうこと?”


 トンコツは何が起きているのか理解しているようだけど、私にはさっぱりわからない。

 ああ、とトンコツは一つ頷くと、衝撃的なことを口にした。


”拙いぞ、これは……。今、ジュリエッタは『ゲーム』のシステム的には()()()()()()()になっている”

”うん”


 それはモンスター図鑑に登録されていることからもわかる。《アングルボザ》の時もそうだった。


”このまま放置しておくと、ジュリエッタはそのまま()()()()()()()()()()()()()ことになる”

”……うん?”


 モンスターとして『処理』されるって……。

 いまいち理解が追い付かない私に対してトンコツは決定的なことを告げる。


”つまり……このままだと、ジュリエッタはそのままモンスターとして生きていくことになるか、あるいは死ぬことになる”

”……はぁ!?”


 えっと、どういうことだ……? トンコツの言った言葉を(時間はないけど)じっくりと考えてみる。

 まず、ジュリエッタは今システム的には『モンスター』という括りに含まれている。だからモンスター図鑑にも載っている、と。これは――システムが用意していないモンスターなのに何で図鑑に載るのかは納得いかないけど――理解した。

 で、この状態のまま私たちが撤退するなりして放置すると、ジュリエッタはそのままモンスターになる……と。正しくは、モンスター扱いが解除されないまま、ということだろう。これも、確かにそうと言えばそうかもしれない。クラウザーが最後にかけていった強制命令のせいでジュリエッタは自分の意思とは無関係に暴れている状態だ。《終極異態》を解除することも出来ないだろう。そうなると、ずっとモンスター扱いのままというのもわかる。

 ――そうか。ジュリエッタをどうにか止めない限り、ジュリエッタ(メガロマニア)はそのままモンスターとしてこのステージに居続けることになる、というわけか。

 ……でも、一つわからないのは、それでジュリエッタが『死ぬ』ということだ。


”トンコツ、この『ゲーム』ってユニットの子には危険はないんじゃなかったの!?”


 この状態でトンコツが嘘を吐くとも思えない。ジュジュの時みたいに私を騙し討ちで……という可能性もないことはないが、トンコツにそれをするメリットはないと思う。

 私としては一番気になるのは、ユニットの子に危険が及ぶ可能性が出てきたことだ。冷たいようだがジュリエッタはともかくとして、アリスとヴィヴィアンに危険が及ぶというのは聞き捨てならない。


”……確証はない。が、あのジュリエッタの状態は拙い”

”自分の意思はなく、モンスター扱いになっているってこと?”

”ああ。今の状態でジュリエッタの体力ゲージがゼロになった場合、モンスターを倒した時と同じ扱いになってしまう可能性が高い”


 ……そうか。モンスターと同じだから、体力がゼロになったらそれで終わり。リスポーンの対象にもならず、そのまま消えてしまうかもしれないということか。

 そうなったら、ユニットの元となった子の目が覚めずにそのまま……という可能性もありうる。

 かといってこのまま放置していたら、それでもやっぱり目は覚めないままだろう。

 ……むぅ。


”……ちょっと待って”


 ふと思いついたことがあり、私は『ユニット捜索モード』を切り替えてジュリエッタを見る。

 すると、『ユニットとして選択可能』という表示が出ている。

 どうやらクラウザーは乱入対戦から撤退すると同時にジュリエッタをユニットから外したようだ。


”ねぇ、トンコツ。今ここで私がジュリエッタをユニットとして登録し直して、それから強制命令で《終極異態》を解除させたらどうなる?”

”……なるほど。それなら行ける……か?”


 物は試しだ。

 ジュリエッタはプリンというプレイヤーの仇ではあるものの、だからといって死んで償わなければならないほどの罪を犯しているわけではない。

 流石にここで本当にジュリエッタに死なれては寝ざめが悪い。

 私は早速思いつきを試そうとした。

 ……のだが。


”あ、あれ? 『エラー』ってなる?”


 細かいエラーメッセージが出てこないから何が悪いのかさっぱりわからないけど、ユニットにしようとするとエラーが返ってきてしまう。

 ……どうすればいいんだ、これ……?


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