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アリスの流儀 ~脳筋バーサクJSは魔法少女となり全ての理不尽に立ち向かう~  作者: 小野山由高
第4章3節 メガロマニアは地上最強の夢を見るか?
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4-31. All out to struggle 6. 勝利への一撃

 ジュリエッタはかつて言った。


『ジュリエッタ、強くなる……そのために、戦え……っ!』


 あれは密林遺跡の時だったか。

 つまりは、それがジュリエッタの『ゲーム』に挑む動機なのだろう。

 なぜ強くなりたいのか。強さの先には何があるのか……それは私にはわからない。

 ただ一つわかることは――ジュリエッタとアリスは共に『戦う』ことが手段となっていることだ。

 でも、目指すところが二人では決定的に異なっている。

 ジュリエッタは『強くなる』ことそのものが戦いに対する目的であるのに対し、アリスは『勝利する』こと――そしてそれは『ゲームのクリア』のために戦うことになっている。

 ……どちらか一方が正しく、どちらか一方が間違っている……なんてことは決して思わない。この『ゲーム』に対するスタンスが参加者によって異なるのは当然のことだ。

 ただ――この最終局面において、二人の意識の差が勝敗を決するものとなることを、果たして本人たちは気づいていただろうか……?




*  *  *  *  *




 ヴィヴィアンがインストールを解除したことにより、次第に周囲の炎が弱まってきている。

 火山地帯が舞台となっているため一見『炎』がより強くなるような気はするが、結局のところ燃える物がなければ炎はそう長続きはしない。

 周囲は既に一度噴火によって焼かれていたのか、植物のような燃える物は何もない。魔法が解除されれば炎は消えるだけだ。

 まぁ元々アリスが目覚めるまでの時間稼ぎでしかなかったのだ。消えたところでどうということはないのだけど。


「……」


 まだ勢いの残る炎の海の向こう側から、人影がこちらへと向かってくるのが見えた。

 ――ジュリエッタ。

 かつて戦ったことのある魔法少女(ユニット)たちの誰よりも、そしてどのモンスターよりも凶悪で強靭な相手。

 炎など気にすることもなく、一直線にこちら側――私たちの前に立つアリスへと向かって突進してくる。

 その姿は襲われる側の私が言うのもおかしな話だが、とても純粋で……綺麗に見えた。

 脇目も振らず、ただひたすら真っすぐに相手へと向かって行く姿は、まるで全力で戦うスポーツ選手のようにすら見える。


「……」


 対するアリスは『杖』を構えたまま、不動の姿勢でジュリエッタを迎え撃つ。

 《狂傀形態(ルナティックドール)》で強化した一撃をまともに受けたら、いかに《邪竜鎧甲》を纏っていたとしても危うい。

 先程の一撃は辛うじて致命傷を避けられたにすぎない。それも、狙ってかわしたわけではない、偶然そうなっただけの話なのだ。

 にも関わらずアリスは動かず、ジュリエッタを迎え撃とうとする。こちらも、これで勝負を決める気なのだ。


「ライズ……《アクセラレーション》!!」


 ジュリエッタの姿が見え、アリスの魔法も届くだろうという距離にきて、更にライズを掛ける。《狂傀形態》を使っていてもライズは使えたのか……メタモルは果たしてどうだろうか。いや、今そんなことを考えている場合ではない。

 私たちの予測よりも圧倒的に短い時間でジュリエッタがアリスの目前へと迫る。

 アリスはまだ動かない。いや、動けないのか。


「ライズ《ストレングス》!」


 更にダメ押しとばかりにジュリエッタが腕力強化を施す。

 さっきの一撃は何の強化も重ね掛けせずに《邪竜鎧甲》を打ち破るほどの威力だった。それに加えてライズを使ったとなると、まともに食らえば本当に一撃でやられてしまう。


「これで、終わり!」


 想定外のスピードで目前に迫ったジュリエッタにアリスは反応することも出来ず――

 突き出したジュリエッタの手刀がアリスの胸を貫いた……!


「――!?」


 顔に狐のお面を被せているため表情はわからなかったが、きっとこの時ジュリエッタは驚きで目を見開いていたことだろう。

 なぜならば、確かに手刀が突き刺さったというのに、全く手応えがなかったのだから。

 胸を貫かれたはずのアリスの姿が、どろりと溶け――


「ext《天魔禁鎖(グラウプニル)》!」


 魔法の名を叫ぶ声は、私たちの()()から聞こえてきた。

 アリスの魔法が発動すると同時に、ジュリエッタに貫かれていた方のアリスが弾けて消える――と同時に黄金の鎖となってジュリエッタを拘束する。


「な、んで……っ!?」


 相手を拘束することに特化した神装に全身巻き付かれ、もはやジュリエッタは身動きを完全に封じられた。

 この神装については密林遺跡でも食らっている。彼女も警戒はしていただろう。

 私たちからすれば、変幻自在なジュリエッタの動きを封じて確実にとどめの一撃を刺すためには、この神装に頼らざるを得ないとは思っていたし、いかにして当てるかということを考える必要があった。


「残念だったな、ジュリエッタ」


 私たちの後ろ――ジュリエッタからは死角となっていたであろう背後の岩陰からアリスが現れる。

 既に《邪竜鎧甲》は解除されておりいつもの姿ではあるのだが、一点だけ異なるところがある。

 それは、彼女の体を包む白いドレス……『麗装(ドレス)』はなく、水着――というかレオタードというか、とにかくそれだけを身に着けた姿であるということだ。




 種を明かせば、そう難しいことではない。

 目覚めたアリスはジュリエッタへととどめを刺すために、まずは《天魔禁鎖》で動きを封じようとした。

 でも普通に正面から使っても回避される恐れがあるし、何より《狂傀形態》のパワーとスピードでは魔法を撃つ前にアリスが倒されてしまうということもありえる。

 そこでアリスは、一計を案じた。

 まずは《邪竜鎧甲》を解除。そして、『麗装』を引きちぎっておく。

 今度は私たちも初めて目にする魔法――その名も《影分身(ドッペルゲンガー)》を引きちぎった『麗装』を巻き込む形で使用する。

 この魔法の効果は単純明快。アリスの姿そっくりのマジックマテリアル製の人形を作り出すこと、である。


「今までもアイデアとしてはあったんだが、いまいち使い道が思いつかなくてな」


 とアリスは語っていたが、まぁ確かに使い道は難しい。

 なぜなら、作った人形は見た目だけはアリスにそっくりなのだが、動かしたりすることは出来ないのだ。やろうと思うと更に大量の魔力を消費してしまうため、はっきり言って効率が悪すぎる。

 まぁモンスターの注意を引き付ける囮としてくらいなら使えないこともないが、わざわざそれなりの魔力消費をして囮を立てるくらいなら、その魔力を使って攻撃した方が早い。

 こういう事情もあって今まで使えたけど使えなかった魔法なのだが、今回に限り使い道があったというわけだ。

 今更言うまでもないが、戦闘というのは非常に神経をすり減らす行為だ。格下の雑魚モンスター相手であっても、それなりに神経を使うことは間違いないし、ましてや相手が同格以上であれば猶更だ。

 更にジュリエッタは傍から見ても冷静さを欠いている。アリスに対しての異様な敵意もあるし、手早く決着をつけたいという思いもあって目の前に現れた(ドッペルゲンガー)に引っかかる確率は高い。

 もう一つ。弱まっているとはいえ、周囲の炎も視界を遮る役割を持っている。炎による照り返しのおかげで、ぴくりとも動かないアリスの人形でも、ちょっと見ただけではすぐに人形であると判別しにくくなっていたのだ。

 後は簡単だ。

 ジュリエッタがアリス人形に攻撃を仕掛ける……または最低でも接近したところで、《天魔禁鎖》を使って動きを拘束する。これだけだ。

 神装は霊装に対してしか使えないという欠点はあるが、アリス人形には引きちぎった『麗装』が含まれている。アリスの手から離れていても、霊装に対してなら神装は発動する。

 そしてアリスの魔法は、離れた位置にマジックマテリアルがあってもアリス本人が位置を把握していれば(距離の問題はあるけど)発動することはわかっている。これは神装も同じだ。

 ――こうして、アリスはようやくの思いで《狂傀形態》となったジュリエッタの動きを封じることに成功したのだ。


「今度こそ終わりだ」


 もちろん動きを止めただけでは勝ちではない。

 とどめを刺すべくアリスが前へと出る。


「焼き尽くせ――ext《終焉剣・終わる神世界(レーヴァテイン)》!!」


 攻撃の直前には《天魔禁鎖》を解除しなければならない。

 アリスがとどめの攻撃に選んだのは、多少回避されたところでも問題なく相手を焼き尽くせる――『嵐の支配者』すらも焼き尽くした《レーヴァテイン》だった。


「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 神すらも焼き尽くす炎の剣が、ジュリエッタへと振り下ろされた――!


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