表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリスの流儀 ~脳筋バーサクJSは魔法少女となり全ての理不尽に立ち向かう~  作者: 小野山由高
第4章3節 メガロマニアは地上最強の夢を見るか?
190/786

4-29. All out to struggle 4. ルナティックドール

「くっ……」


 電撃を直接食らったジュリエッタだが、そこまでダメージを受けている様子はない――ノーダメージというわけではなさそうだけど。

 アリスの魔法も《雷星》のようなものを直撃させたわけではない。巻き付けた尻尾から電撃を流しただけだし。


「ライズ……《ストレングス》!」


 電撃のショックで怯んだものの、すぐさまジュリエッタはライズを使用。


「うおっ!?」


 自身に巻き付いたアリスの尻尾を強引に引きちぎり脱出する。

 ……あれもそんな簡単に引きちぎれるようなものじゃないはずなんだけど……やはりジュリエッタは以前に戦った時よりもステータスが数段強化されているようだ。前と同じつもりで二対一なら余裕、と思っていたら足元を掬われかねない。


「おい、ジェーン! そろそろ立てるか?」


 ジュリエッタと再度距離を離し仕切り直しとなった。

 アリスは倒れていたジェーンに声をかける。


「う、うにゃあぁぁぁ……大丈夫」


 まだダメージが残っているのかふらふらとしつつもジェーンも立ち上がりアリスに並ぶ。

 ヴォルガノフの雷撃を受けても一撃でやられない、ということを考えると、ジェーンも大分強くなっているようだ。


”……どう思う、トンコツ?”


 彼女たちの戦いを見守る私たち。

 状況は悪いというわけではない。良いわけでもない。

 けど……。


”ん……行けそうな感じはするな”

”うん、このまま押し切れそうな感じだね”


 厄介なことには変わりないけど、それでも絶望的な戦力差は全く感じない。

 それどころか、ジェーンはともかくアリスはまだまだ余力をたっぷりと残している。切り札の神装も残しているし、キャンディにも余裕はある。

 加えてこちらにはヴィヴィアンとシャロという控えもいる――まぁシャロには直接戦闘力はないみたいだけど。

 向こうにも未だ動かないクラウザーという不安要素こそあるものの、何だかこのまま倒してしまえそうな雰囲気がある。

 もちろん油断することなんて出来ないのだけれど……。


”……クラウザー、何考えているんだ……?”


 こんな状況、クラウザーが理解できていないわけがない。

 だというのに何も手を打ってこようとしないのは……何か不気味だ。何か隠し玉を控えているというのだろうか。

 それとも……?


「さて……そろそろ決めるか」

「うん!」


 私たちの不安を余所に、アリスたちはいよいよ決着をつけようとしていた。

 うん、不安要素はあるものの、とにもかくにも早めにケリをつけてしまえばいい。実にアリス的だけど悪い選択ではないと思う。

 とはいえ、ジュリエッタもまだそこまでダメージを受けているわけではない。都合よく一撃必殺、と行けるかどうか……。


「……こっちのセリフ」


 対するジュリエッタも決める気だ。

 実力はともかく、数の上では圧倒的に不利な状況なのは彼女も十分理解している。長期戦になればなるほど追い詰められていくのはジュリエッタの方なのだ。

 ――と、ジュリエッタが頭に載せていた狐のお面を手に取り、それを顔に被せる。

 ……あれは彼女の霊装だとは思ってたけど……?


「メタモル――《狂傀形態(ルナティックドール)》!!」


 彼女が魔法を使う――それも、メタモルなのに二語で。

 瞬間、ジュリエッタの体が大きく変化する。


「……マジか」


 幼稚園児くらいだった小さな身体が瞬く間に大きく成長――アリスと同じくらいの身長の、大人の女性へと変化する。ちなみに着ている服も体に合わせて大きくなっている。

 体が大きくなっただけ、とは思えない。薄っすらと彼女の肉体を取り巻く青白い光が見える。確証はないが、おそらくは同時にライズもかかっているのではないだろうか。

 単にリーチが伸びただけと思わない方がいいだろう。これは、ジュリエッタの魔法の集大成と見るべきだ。


「……アリス、お前には負けない。絶対に!」


 声音は大人のものとなっているが、相変わらずポツポツとした喋り方だ。

 しかし、その言葉には強い意志が秘められているのがわかる。

 ……でも、なんでアリスにそんな執着しているんだろう? それがちょっとわからない……。クラウザーに言われたから、というわけでもないだろうが……。


「ふん、手足が伸びた程度で、オレに勝てるかな?」

「むー、とことんアタシを無視するんだね、ジュリエッタ!」


 ジュリエッタの変化を見ても二人には驚きはない。いや、驚いているのかもしれないけど。

 ともあれ、最終形態となったジュリエッタとの最後の戦いになる。


「――行くぞ」


 言ったのはアリスか、ジュリエッタか。それとも両方か――言葉と同時に三者が動き出す。


「cl――ッ!?」


 魔法を使おうとしたアリスが、大きく後ろへと跳ぶ。

 ……いや、違う! 後方へと()()()()()()()のだ。

 地面に仰向けに倒れたアリスの胸部の装甲がボロボロに砕け散っているのが見える。

 《邪竜鎧甲》は神装だったはず……攻撃力だけでなく防御力も上昇させる、全身強化の魔法だというのに、それを殴って破壊したのだ。

 ジュリエッタは踏み込み、拳を突き出した姿勢からすぐさま動き出す。


「ふぅっ!!」


 そのまま今度はジェーンの方へと回し蹴りを放つ。


「うわっ!?」


 アリスが吹っ飛んだことに気を取られてはいたものの、ジェーンも何とかそれに反応することは出来た。ジュリエッタの蹴りを霊装で受け止めはしたものの……。


「こ、こいつ……っ!?」


 ガードは出来たが予想外の衝撃だったのだろう、驚愕の表情を見せている。

 ……拙いな、ジュリエッタのさっき使った魔法、私たちが思う以上に彼女の能力を強化しているみたいだ。

 格闘戦に付き合っていたら、こちらがいくら強化していてもダメかもしれない。


「にゃぁっ!」


 私の思いは通じず、ジェーンはブーメランを振りかざしジュリエッタへと殴り掛かる。

 アリスは……ダメだ、まだ倒れたままだ!


”ヴィヴィアン!”

「心得ております!」


 クラウザーの警戒も必要だが、このままではアリスとジェーンが倒されてしまう。

 私の思いを汲み取り、ヴィヴィアンもすぐに動き出す。


”シャロちゃん、クラウザーの警戒をお願い!”

「ふぇっ!?」


 戦闘力はないが監視能力だけは相当なレベルのシャルロット一人がいれば、とりあえずクラウザーの動きを見る分には問題ないだろう。

 ヴィヴィアンに抱かれたまま、私たちも戦場へと躍り出る。


「サモン《ペルセウス》!」


 召喚するのは《ペルセウス》、最も近接戦闘能力に長けた召喚獣だ。

 呼び出されるなり《ペルセウス》はジェーンと援護へと向かう――って、ほんの数秒の間だというのにいつの間にかジェーンがノックアウトされてる!?

 ジュリエッタはヴィヴィアンが迫るのを察知、既にこちらへと矛先を向けようとしていた。

 《ペルセウス》の剣がジュリエッタへと迫る……が、ジュリエッタは躊躇うことなくそのまま突進。刃が当たる直前に軽く右腕で払って回避する。

 そして勢いそのままに《ペルセウス》へとタックルをブチ当てる。


「……《ペルセウス》、そのまま堪えて!」


 タックルを食らい揺らいだように見えた《ペルセウス》だったが、破壊されることはなくそのままジュリエッタを受け止めようとする。

 でも、これは良くない。動きを止めるにしても、今のジュリエッタのパワーを《ペルセウス》が受け止め切れるとは思えない。

 とはいえ目的はジュリエッタの足止めだ。ほんのわずかでもいい、彼女の突進を止めることさえ出来れば……。


「サモン《ナイチンゲール》」


 《ペルセウス》がジュリエッタを止めている隙に、魔力を回復させたヴィヴィアンが《ナイチンゲール》を呼び出す。

 アリスの回復が目的だ。

 とにもかくにもアリスがいなければ話にならない。ジェーン一人では今のジュリエッタは到底止めることは出来ない。

 《ナイチンゲール》にてアリスの傷を手当……《邪竜鎧甲》は砕けているものの、本人には大した傷はついていない。衝撃で気を失っているだけみたいだ。

 すぐに目を覚ましてくれればいいが、それまではジェーンとヴィヴィアンの二人で耐えるしかない。


「……ご主人様、こちらへ」


 ヴィヴィアンが胸に抱いた私を首の後ろ――アリスと一緒にいた時の定位置へと私を追いやる。

 理由はすぐわかった。

 《ペルセウス》に組み付いたヴィヴィアンが強引に引き倒し、《ペルセウス》の顔面を叩き割った音が聞こえてきた。

 ……召喚獣はちょっとやそっとでは壊れないくらい頑丈なはずなんだけど、それをあっさりと、しかも武器型の霊装や魔法を使うことなく砕くとは……。

 アリスも《邪竜鎧甲》を使っていなければ、あの一撃でやられていたかもしれない。

 ともかくここからはヴィヴィアンも戦う必要がある。そうなった時、私を両手で抱きかかえていてはいざという時に出遅れてしまうだろう。

 彼女の邪魔にならないように、しっかりと肩にしがみついてじっとしていることとする。


「サモン《イージスの楯》!」


 突進しようとしてくるジュリエッタへと向けて、《イージスの楯》を召喚する。

 直後、楯へと衝突――体当たりを仕掛けるジュリエッタ。辛うじてそれは受け止めることは出来たものの、もし直撃を受けたとしたら体力お化けのヴィヴィアンでも危うい。

 ジュリエッタは楯へと体当たりを仕掛けるとすぐさま上へと跳び、楯を飛び越えてこようとする。

 ……残念ながら、《イージスの楯》は『攻撃を防御する』ということに関しては文句なしの能力を持っているのだが、物理的に『硬い』というわけではないようだ。激突したはずのジュリエッタにはダメージを与えることは出来ない。


「サモン《グリフォン》」


 楯で止められるのはほんの一撃だけ。そんなことはヴィヴィアンにだってわかっている。

 続けて今度は《グリフォン》を召喚し、ジュリエッタを迎撃しようとする。

 けれども、《グリフォン》は小型の召喚獣……今のジュリエッタに大してダメージを与えられるものではない。

 狙いは――


「……邪魔!」


 楯を飛び越えようとしたジュリエッタの顔面や足へと向けて《グリフォン》が飛来し、爪で攻撃を仕掛ける。

 それを鬱陶しそうに払いつつ、ジュリエッタは着地。更に執拗に《グリフォン》はアキレス腱や首元を狙って動きを妨害しようとする。

 これだけでジュリエッタは倒せまい。しかし、無視するわけにもいかない箇所への攻撃をすることによってジュリエッタを止めることは出来るだろう。

 これも一時しのぎに過ぎない。本命は、もちろん。


「サモン――《ペガサス》!!」


 ジュリエッタが頭上を飛び越えたのを見ることもなく、《グリフォン》の直後にヴィヴィアンは《ペガサス》を召喚。《グリフォン》に纏わりつかれているジュリエッタへと突進する!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ