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アリスの流儀 ~脳筋バーサクJSは魔法少女となり全ての理不尽に立ち向かう~  作者: 小野山由高
第4章3節 メガロマニアは地上最強の夢を見るか?
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4-28. All out to struggle 3. 怪物二匹

2019/4/21 本文を微修正

「ext《邪竜鎧甲(ファブニール)》!!」

「アクション《ベルゼルガー》!!」


 本気を出す――その宣言通り、二人が『本気』の魔法を使う。

 アリスが使ったのは《邪竜鎧甲》。私は直接目にするのは初めてだが、『嵐の支配者』戦で私とヴィヴィアンが敵に飲み込まれていた時、つまりアリスが孤軍奮闘していた時に使っていたという話は聞いている。

 彼女の全身を漆黒の甲殻が覆い、背中からは四本の触手、そして太く長い尻尾が生える。

 《剛力帯(パワーベルト)》と異なり、腕力だけではなくあらゆる攻撃力を上昇させ、また硬い甲殻での防御も行える文字通りの全身強化の魔法だ。

 ……体を覆うだけでそんな強化が出来るものなのか? と疑問に思わなくもないけど……何か危険なことしてないか、心配だ。


 一方、ジェーンの方はと言うと、こちらもアリスと同様の全身強化の魔法となるみたいだ。

 身体の至るところに複雑な文様――意味は全くわからないけど、見た目は昔テレビで見たどこかの部族が刻む全身の入れ墨のように見える――が現れ、魔力を発しているのか赤く発光する。

 両手両足の爪が長く鋭く伸び、口元には牙のようなものが見える。そして、文様と同じく彼女の目も真っ赤に染まり、狂暴な光を放つ。

 ベルゼルガー……『狂戦士』化の魔法、と言ったところだろうか。彼女の格好も相まって、野生の猛獣のような印象だ。


「……メタモル!」


 対するジュリエッタはメタモルを何度も使い己の肉体を『改造』する。

 右腕は鋭い『角』――『一角獣』の角のようなものに変化させて槍と化し、左腕は蟹のハサミへ。頭部には複雑に枝分かれした鹿の角を生やす。

 対するアリスは『槍』を、ジェーンは戻って来たブーメランを剣のように両手で握る。


「……行くぜ!」


 ジュリエッタから見て左側からアリスが、右側からジェーンがそれぞれ武器を手に飛び掛かる。

 アリスの突き出した『槍』をハサミで、ジェーンのブーメランを角でそれぞれ受け止める。

 二人とも攻撃力――そして筋力もだろう――を強化しているというのに、ジュリエッタはそれを平然と受け止めている。それも、片手で、だ。

 ライズの効果もあるにしろ、見た目からは想像も出来ないほどのパワーを持っているようだ。


「がぁっ!!」


 獣のような雄たけびと共にジュリエッタが全身に力を込めて二人を押し返そうとする。

 予想外の抵抗だったのだろう、アリスたちがわずかに後ろに退くほどの勢いだ。


「ほう?」


 けれども焦っている様子は見えない。

 あっさりとアリスは引くものの、ジェーンはそのまま逆に押し切ろうと更に前のめりに力を籠める。


「にゃあぁぁぁぁっ!!」

「……!」


 ……って、彼女、何か狂暴になっているような……? まさか、本当に『狂戦士』になったとでもいうのだろうか。流石に『心』をどうにかするような魔法はない、と思うんだけど……。

 ジェーンの勢いに今度はジュリエッタの方が戸惑っているようだ。

 片手ではジェーンを押さえられないと悟ったか、左手のハサミを向けようとするが、


「cl《剣雨(ソードレイン)》!」


 アリスがすかさず魔法で追撃をする。

 威力は《流星》系の魔法に比べれば劣るが、消費も少ないし連射はしやすい魔法だ。

 無数の剣がジュリエッタへと突き刺さ――らない!? 何本かは命中しているのだが、それらのことごとくが弾かれてしまっている。

 どうやら見た目自体は変わっていなかったものの、防御系の魔法も使っていたらしい。先程の小型竜巻とかを受けても無事だったのと同じか。


「ふん、なるほどな。生半可な攻撃は通らないってわけか」


 攻撃を防がれたことを全く気にするわけでもなくアリスは呟く。

 そしてジェーンはと言うと……。


「う、うにゃああああああああっ!!」


 気合の叫びと共に滅茶苦茶にブーメランをジュリエッタに連続で叩きつけようとする。

 まさにバーサーカーと言ったジェーンの攻撃は流石に受け止め続けるのはきついのか、ジュリエッタは攻撃の隙をついて後ろへと下がろうとする。

 逃がさないとばかりにジェーンはそれを追いかけて攻撃を続けようとするが、


「メタモル……邪魔!」


 ジュリエッタが新たにメタモルでトカゲのような尻尾を生やし、ジェーンの足を掴んで放り投げようとする。


「にゃっ!?」


 空高く放り投げられたジェーン。

 翼をボロウで作るなりしなければ地面に叩きつけられるのは免れられないだろう――が、戸惑ったのは一瞬だけ。ジェーンは空中で体勢を整えると眼下のジュリエッタ目掛けてブーメランを投擲する。


「アクション――《メガトンスライダー》!」


 それはブーメランの投擲というよりは、巨大な鉄塊を投げ落とした、という表現がより近い。

 ジェーンの魔法によって投げられたブーメランは、くるくると回転することもなく、一直線に真下へと向かって()()()ように飛ぶ。

 アリスへと向き直ろうとしていたジュリエッタの頭目掛けて落下してくるブーメラン……ジュリエッタも回避しようと横へと飛ぶが、


「おらぁっ!!」


 逃げようとしたジュリエッタをアリスの尻尾が直撃する。

 そして叩き落とされたジュリエッタへと向けて、ジェーンのブーメランが落下――直撃する!


「ぐっ……!」


 咄嗟に両腕を交差しブーメランを受け止めることは出来たものの、角もハサミも大きくひび割れ欠けている。ジュリエッタ自身も衝撃で地面に叩きつけられた状態だ。


「にゃあああっ!!」


 更にブーメランに続けて落下してきたジェーンがジュリエッタへと追撃を掛ける。

 落ちながらのキックでひび割れた角とハサミを完全に砕くと、そのままジュリエッタへとマウントを取る。


「ぎにゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そしてマウントポジションから押し倒したジュリエッタへと今度は拳の乱打を放つ。


”……いやいや、何か、ジェーンってあんな狂暴なの……?”


 『嵐の支配者』戦の時にはあまり彼女の戦いっぷりを見れたわけではない。

 でも、何というか……本当にバーサーカーみたいな戦い方だ。意外というか、何というか……。


”ん? いや、ジェーンは普段からあんなもんだぞ。

 ……もうちょっとよく考えて動けっていつも言っているんだけどな……考えて動くと、今度は手数が少なくなっていまいちな動きになるんだがな”

”そ、そうなんだ……”


 意外だけど、ちょっとだけ納得できる節もある。

 あんな戦い方では、モンスターの大群を相手にしてはやっていけないだろう。単体相手であれば……と言いたいところだけど、相手の体格が大きくなるにつれて効率は落ちていくことは目に見えている。

 でも同じくらいの体格の相手、特に対魔法少女(ユニット)に関して言えばあれでいいのかもしれない。

 魔法少女の強さは結局のところ『魔法』によるところが大きい。息を吐かせぬ連続攻撃で畳みかけて魔法を使わせる前に倒すことが出来ればいいのだ。

 ジェーンのギフト【狩猟者(ハンター)】による攻撃力・防御力アップはモンスター相手にしか効果を発揮しないものの、《ベルゼルガー》でステータスを大幅に上昇させているようだし、対戦では有効な戦い方と言える。

 ……相手がジュリエッタでなければ、だが。


「ジェーン、離れろ!!」

「にゃ?」


 近づくことも魔法で援護することも出来ず、少し離れた位置から見守っていたアリスが何かに気付き警告を発する。

 顔にはてなマークを浮かべるジェーンが状況を理解するよりも早くジュリエッタが動く……いや、既に動いていた。

 マウントポジションから殴られる一方だと思われたジュリエッタであったが……。


「うにゃっ!?」


 ジェーンは自分の足首に細長い紐のようなもの――ジュリエッタの体から伸びる細い触手にようやく気が付いた。

 そして気が付いた時にはもう遅かった。


「う゛にゃっ!?」


 一瞬、激しい閃光が迸ったかと思うと、悲鳴と共にジェーンの体が弾き飛ばされる。

 あれは……話には聞いていた、ヴォルガノフの触手か!

 電撃のショックでジェーンはそのまま倒れ伏している。幸い、まだ体力ゲージは残っているようだ。


「チッ、あの状態で魔法を使うか……厄介な奴め!」


 マウント状態でいつの間に魔法を使ったのかもわからない。それに、ジュリエッタの魔法は他の魔法と違って大きな変化を伴わないことも可能なのだ。今みたいに気付かれないように触手を生やして、こっそり巻き付けておくということだって出来てしまう。

 油断して相手の変化を見逃せば、それが一気に致命傷に繋がりかねない……強大な力を振るった『嵐の支配者』とかとは違った方向で厄介な相手である。

 ジェーンの回復は自分自身で行ってもらうしかない。立ち上がろうとするジュリエッタへとすぐにアリスが駆けつけ槍を突き立てる。


「メタモル」


 アリスの槍が突き刺さる直前、ジュリエッタの姿がどろりと溶けてその場から消える。

 密林遺跡の時にもやった、全身をスライムへと変化させての回避だ。


「逃がすか! cl《炎星雨ブレイズミーティアレイン》!」


 ジュリエッタのいた地点に向けて広範囲魔法を放つ。

 火炎を纏った《流星》が地面を抉るが……。


「メタモル!」


 ジュリエッタの声はアリスのすぐ後ろから聞こえてきた。

 いかなる動きをしたのかは定かではないが、アリスの魔法が着弾するよりも早く後ろへと回り込んでいたのだ。

 スライム状になって更にライズを掛けて高速で移動か……ただでさえ《アクセラレーション》を使ったら早いのに、スライム状になると視認もしづらくなってしまう。

 アリスの背後から現れたジュリエッタが使ったメタモルは、彼女の右腕を巨大な竜巻へと変える。

 ……トンコツたち『EJ団』を壊滅に追いやった『嵐の支配者』の巨大竜巻触手だ。

 いかに《邪竜鎧甲》で防御力も上げているとは言え、まともに食らえばアリスでも危ない!


「ふん、そう来るか」


 だが、アリスは全く焦ることなく――


「……っ!?」


 振り下ろそうとしたジュリエッタの右腕が、あらぬ方向へと曲がる。

 ……いや、曲げられたのだ。アリスの背中から生える四本の鉤爪付き触手でジュリエッタの腕を押さえつけることで軌道を反らしたのだ。


「そら、今度は逃がさねぇぞ」


 必殺の竜巻をあっさりといなされたジュリエッタに対し、更に尻尾を胴体へと巻き付ける。


「くっ……メタモ――!」

「遅い! ab《(サンダー)》!」


 そしてジュリエッタが再びスライム状になって逃げだそうとするよりも早く、自らの体――身に纏う邪竜の甲殻に《雷》を付与したアリスの攻撃の方が早かった――


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