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4-25. オペレーション:TONKOTSU

*  *  *  *  *




 トンコツとの会話から二日が経過した。

 今日は祝日のため学校はお休みだ。

 私、ありす、桃香、そしてトンコツ、和芽ちゃん、美々香の計6名は揃って桃香の部屋へと集まっていた。


”それじゃあ、作戦の確認ね”


 今日集まったのは他でもない――ジュリエッタとクラウザーの討伐作戦を決行するためである。

 昨日一昨日と私たちは私たちでジュリエッタと遭遇出来ないか色々とクエストに行っていたのだが、結局一度も会うことは出来なかった。

 向こうの狙いは正確なところはわからない。けど、前回と違って恐らくクエスト中の乱入対戦で強引に使い魔を狙い撃ちすることだとは思う。

 もし通常対戦で戦う気なら、クラウザーならとっくにやっているはずだ。特に私たちについてはそうしない理由はない――まぁ前回みたいな『罠』を警戒しているという可能性もないことはないけど、通常対戦でダイレクトアタック可能としてクラウザーからの対戦を受ける人は少ないだろう。


”今日はCOOP可能なクエストに集中して向かう。

 どれが対象かは……ラビにはわからないんだよな? ……だから、俺がそれを判断する”

”で、私の方にもそのクエストがあったら、トンコツたちと一緒にクエストに向かう”


 乱入対戦可能なクエストは限られている。

 そもそもの前提として、複数のプレイヤーが参加できるクエストでなければならないのだ。つまり、COOP可能なクエストだけということになる。

 ……流石にCOOP不可のクエストで乱入対戦を仕掛けるような『チート』は持っていないとは思いたい。他の『チート』も大概だけど、もしCOOP不可なクエストに介入できるようであれば、それはもう『ゲーム』のシステム自体をどうにかしているとしか思えないし。

 で、今回の作戦だが、一先ずCOOP可能なクエストでクラウザーが乱入対戦を仕掛けてくるであろうことを前提として立てている。


「ん……ジュリエッタが来なかったら?」


 ありすの疑問にトンコツが応える。


”その時はさっさとクエストをクリアして、次のクエストに向かう。

 向こうがこちらを補足して乱入してくるまでにそれなりに時間はかかるだろう――まぁ、1クエストにつき10分程度は様子を見て、来ないようならクリアして次へ行く”


 トンコツたち『EJ団』がジュリエッタに襲われた時、モンスターを探すためにそこそこの時間はかかっていたらしい。

 クラウザーがどうやってクエストにいるプレイヤーを把握しているのかはわからない――もしかして本当に偶然だった可能性もあるけど、それはとりあえず考えないでおく――けど、クエスト内にプレイヤーがいることを確認してから向こうも出発する、と考えれば多少のタイムラグはあるだろう。だから、とりあえず10分間程度の様子見をすることとした。


”それでクラウザーたちが来たら、乱入対戦をする。向こうがしてこないとしても、今回に限ってはこちらから仕掛ける”


 トンコツはかなりやる気だ。

 ……どうも仲間をやられたことについて、本気になったらしい。


「あの、よろしいでしょうか?」

”何、桃香?”

「クラウザー様がラビ様()()対戦を仕掛けなかった場合はどうすればよいでしょう?」


 その可能性はゼロではない。

 トンコツだけに乱入対戦を仕掛け、私たちは蚊帳の外……となるのが最悪の事態ではある。

 けれど……。


”うーん、多分ないとは思うけど、その場合は私からクラウザーに乱入対戦を仕掛けるよ。

 ……これで拒否されたらどうしようもないけどさ。まぁ多分クラウザーが私の対戦から逃げる、なんてことはないと思う”


 私の仲間を見てる前で――という性格の悪いことをする可能性もある。

 でも、どちらかというと彼の場合は、私から対戦を仕掛けられてそれを受けない、という方がプライドが許さない方だと思うのだ。


”……まぁやつがラビからの対戦を受けなかったとしたら――最悪、その場合はクエストから撤退だな”


 トンコツもその可能性は考えているのだろう。

 もし私の対戦も拒否されてしまった場合は、クエストから撤退だ。対戦中でなければこちらからジュリエッタに攻撃は出来ないが、向こうの攻撃も当たらない。ヴィヴィアンの《ペガサス》にトンコツを乗せて全力で退避すれば、流石にジュリエッタも追い付くことは出来ないだろう。

 私たちが実際に戦った時に目にした実力と、『EJ団』戦との話を総合すれば、逃げに徹すれば何とかなる……はずだ。

 そうなると再戦は……ちょっと難しくなるか? COOP可能なクエストをトンコツに聞いて、私たちが単独で向かっていく、っていうことになるんだけど、それはそれで問題があるんだよなぁ……。


「そーいや、師匠。ヨームさんたちは?」


 おおよその行動方針は決まった。後はクラウザーがやってくるかどうかだけだ。

 といったところで美々香がトンコツに尋ねる。

 ヨーム……確か『EJ団』の一人だっけ。


”いや、今回はヨームは不参加だ。

 プリンから引き継いだアンジェリカがショックを受けているようだしな……”


 ヴィヴィアンを救出した時の話をトンコツが知っていたことが幸いした。プリンのユニットの一人であるアンジェリカとやらは、ゲームオーバーとならずにヨームのユニットとして引き継がれたらしい。

 だけど、アンジェリカの使い魔(ユーザー)ともう一人のユニット・ヒルダはジュリエッタによってやられてしまったのだという。

 ヒルダとアンジェリカの関係はわからないけど、ショックを受けていてもおかしくはない。


「ん、下手に人数増えると混乱する……わたしたちだけでいい……」

”ありす……”


 ちょっと冷たいようだが、ありすの意見には同意だ。

 話を聞いただけだけど、ヨームのユニットの二人――フォルテと凛風はそこまで戦闘力が高いわけではない。特にフォルテの方は完全に支援特化だ、狙われた場合にタイミングによっては守り切ることが出来ない可能性もある。

 まぁ、凛風とアンジェリカはそれなりに戦闘力はあるみたいだけど、あくまで『それなり』だ。ジュリエッタに対抗できる程ではないようだし、申し訳ないけどいてもアリスの広範囲魔法の邪魔になる可能性が高い。

 それを言ったら、ジェーンとシャルロットも同じかもしれない。ただ、彼女たちはともかくトンコツには一緒に来てもらわないとCOOP可能なクエストかどうかがわからないし……何よりも、私たちしかいないと密林遺跡の時のようにジュリエッタだけが送り込まれてくる、という可能性もある。

 言葉は悪いが、トンコツは『釣り餌』としての役割があるのだ。

 複数人が参加しているクエストに乱入してくるのであれば、ユニット並みの戦闘力を発揮できるクラウザーも参戦してくる可能性は高まるだろう。

 この戦いの目的はジュリエッタを倒すことだけではない。クラウザーも倒さないと意味がないのだ。


”他に何かない?”


 確認事項がないか皆に聞いてみるが、特に何もないようだ。

 ……一人、ずっと押し黙って何事か考えているような和芽ちゃんのことは気になるけど……。


”……大丈夫かな?

 よし、それじゃあ――行こう!”


 私の宣言に、皆が頷いた。

 さぁ、ジュリエッタ・クラウザー討伐作戦開始だ。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 一方でクラウザーたちの方はと言うと――


”……ふん、誘われてるか……?”


 『EJ団』を襲った時と同様、今どのクエストに何人が参加しているのかを彼は把握している。

 数多あるクエストの内の一つ……そこに二人のプレイヤーがいる。

 ラビとトンコツだ。

 どちらもクラウザーが乱入対戦を狙っているということは把握しているだろう。それすらわかっていないのであれば、それはそれで別に良い。


”ジュリエッタ”

「うん。行く」


 相手がクラウザーたちが乱入してくるのを待っているのをわかっていても、退くわけにはいかない。

 ラビたちが予想した通りである。ラビがクラウザーの挑戦から逃げないように、クラウザーもまたラビからの挑戦から逃げることはない。

 ……以前のように『罠』にかけられる可能性はあるとしても、だ。そこのところはお互いに変わりはない。

 尤も、ラビの方はクラウザーと異なり、いざという時は遠慮なく逃げる心づもりはあるようだが。プライドの置き場が二人の間では異なっているだけの話だ。

 ――それはともかく。


”……ふん、これはまた……おあつらえ向きなクエストを選んだもんだぜ”


 対象となるクエストの内容を確認し、クラウザーは呟いた。

 討伐対象のモンスターのレベルは大したことはない――とは言っても、あくまでそれはラビたちの基準になるが――が、ひたすら『数』が多いクエストだ。

 ジュリエッタであればディスガイズを使ってモンスターに紛れ込んで奇襲、という手も使えるクエストではあるのだが……。


”まぁあいつらもそれは予測済みだろうな。

 ふん、まぁいい。行くぞ、ジュリエッタ”

「……うん」


 そう何度も引っかかるような相手ではないだろう。

 となれば、ラビたちの狙いは強力なモンスターに邪魔されないようにするため、であろうと予測できる。

 いずれにしろ今度の争いはそう長く時間はかからない――いや、クラウザーにとって()()()()()()()()のだ。


(くくくっ……まぁいいさ。()()()計画の目標は既に果たした……。

 ラビを始末出来ればそれで良し、そうでなくとも――)


 ジュリエッタに対しても己の『真の目的』を隠しつつ、クラウザーはほくそ笑んだ……。




*  *  *  *  *




 私とトンコツが選んだクエストは、『火山に生息する魔物の群れの討伐』というものだ。

 トンコツ曰く、大体レベル2~3くらいのモンスターを多数討伐するというタイプのクエストらしい。

 このクエストを選んだのは、まず当然COOP可能であるということ。

 そして、テスカトリポカみたいな大ボスの存在しないクエストであるということだ。

 反面、小型~中型のモンスターが数多く現れるというのは難点ではある。ジュリエッタがディスガイズで紛れ込んで来る可能性が高い。

 けど、大して強くないモンスターであればアリスの魔法で簡単に一掃できる。たとえジュリエッタが紛れ込んでいても、他のモンスターだけは何とか出来るだろう。

 それに密林遺跡みたいな入り組んだ地形でもない。オブジェクト破壊不可のような制約もないし、戦うには便利だ。


「……さて、来るかな」


 実はこれでクエストに挑むのは二回目だったりする。

 一回目は空振りに終わったが、さて……。


”……来た!!”

”うん、こっちにも!”


 クエストに挑戦してからしばらく経った後、私とトンコツの元に乱入対戦の通知がやってきた。

 どうやら私たちの狙い通り、クラウザーがこのクエストに来て早々、乱入対戦を挑んできたようだ。

 断る理由などない。私とトンコツはそれぞれ乱入対戦を受け入れる。

 ……クラウザーたちの姿はまだ見えない。


”アリス、ヴィヴィアン!”

”シャロ、ジェーン、始まったぞ!”


 私はヴィヴィアンに、トンコツはシャルロットにそれぞれ抱えられている。

 二人は背中合わせに立ち、それぞれの前にアリスとジェーンが霊装を構えてジュリエッタの襲来に備えている。

 さぁ、どこから来る――!?

 周囲はごつごつとした大きな岩が転がり、ところどころから噴煙が立ち上っている。

 視界はそこまで良いというわけではないが、どうしようもなく悪いというわけではない。

 隠れる場所には事欠かない。不意打ちは警戒しておくべきだ。


小野山です。

次回よりジュリエッタ戦の最終決戦編に入ります。

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