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4-23. 凶獣の咆哮 6. 逃走の果てに……

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 両目を潰されたジュリエッタは、トンコツたちがその場から逃げ出しているのはわかってはいたものの、追撃が出来ないでいた。

 当てずっぽうに攻撃を仕掛けたところでまず命中しないことはわかっていたからだ。


「ぐっ……メタモル!」


 視力が回復するかどうかはわからない。

 ならば、とメタモルを使い、()()()()を体に作り出す。

 ヒルダを逃がしたのは痛いが、代わりにアタッカーを一人潰した。残る二名のアタッカーもまだ背後にいるのはわかっている。そちらを潰せれば、後は逃げる獲物を追いかけるだけだ。


「うっ、もう見つかったアル!?」


 背後に倒れているであろう二人の方へと振り返ると、いつの間に起き上がったのか凛風がジェーンを抱えていた。

 雷撃のダメージを間近で受けたとはいっても、ジェーンが盾となってくれたためにまだ動ける程度だったようだ。既にグミで体力も回復している。


「……凛風、アタシを置いて早く逃げて……」

「そういうこと、言うなアル」


 アンジェリカがいない以上、使い魔たちを守れるのはここにいる二人だけだ。

 二人揃ってジュリエッタにやられるよりは、まだ凛風一人でも生き延びた方がゲートまで逃げ延びれる可能性が高い。

 もはや、ジュリエッタを倒して安全を確保する、という考えはない。

 逃走こそが最善にして唯一の道なのだ。


「……大丈夫、逃がさないから」


 メタモルで自分の目の代わりに猫のような生き物の目を作ったジュリエッタはそう言う。

 逃げた方を優先しないのは、すぐに追いつけるという自信の表れなのか、それとも――使い魔自体を倒すことに興味がないからなのか。

 ジュリエッタの宣言に対して、凛風はしかしにへらと笑って応える。


「……?」


 逃げ出せる算段でもあるのか――ヒルダのオーダーは一人ずつにしか掛けられない。仮に一人に逃げられても、その間にもう一人を倒すことは出来る。後は使い魔の傍へと寄せる『強制転移』があるが、先程使わなかったことから持っているとは思えない――全速力で逃げようとしても、ライズを使えば簡単に追いつくことは出来る。

 到底逃げ出せる状況ではないはずだが……。


「ブロウ――《竜巻》!」


 凛風の操風魔法(ブロウ)――その効果は、先に述べた通り『風を操る』ことである。

 いかなる風であっても、それが一般に『風』という事象に含まれるものであれば、魔力の消費量に応じてどのような場所であっても吹かせることが可能な、風属性に特化した魔法なのだ。

 そのブロウで生み出したのは『竜巻』。つい先ほどアンジェリカを仕留めた、そして現実に発生したのであれば大きな被害をもたらす『災害』となるものだ。

 その対象はジュリエッタ――ではない。


「いくアルよ!」

「う、うにゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」


 凛風の()()()()吹き上がる強力な風が、抱きかかえたジェーンごと一気に上空へと凛風を吹き飛ばす。


「……おー……」


 予想外の動きに、ジュリエッタは呆然と上を見上げるしかなかった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「ジェーン、このまま飛んでいくアル!」


 竜巻で一気に上空へと逃れた後、更に続けて《強風》を使い自らの体を今度は横方向へと吹き飛ばす凛風。

 確かに凛風には飛行系の魔法は存在しない。ジェーンのように翼を生やして飛ぶことも出来ない。

 だが、風魔法を使うことで『飛ぶ』だけなら可能なのだ。自由自在に動くことが難しいだけで。


「……こ、これは『飛ぶ』じゃなくて、『吹っ飛ぶ』って言うんだよ……!?」


 ――確かに普通に『飛ぶ』よりは圧倒的に早いが、着地はどうするのか、とか落ちそうになってきているけどその都度魔法を使うのか、とか色々と問い詰めたいジェーンであった。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




”くくっ、逃げられたな”


 面白そうに笑いつつ、クラウザーが森の奥から姿を現す。

 辺り一帯は未だに燃え続けているものの、彼も自らの肉体を武装で覆うことにより炎をものともしていない。

 揶揄うようなクラウザーの言葉に、表情はそのままなものの詰まらなそうにジュリエッタは口を尖らせる。


「……あんな面白い飛び方、初めて見た……」


 しかし馬鹿に出来ない。瞬間的な加速で言えば、ジュリエッタの《アクセラレーション》といい勝負となるだろう。

 戦闘時に使ってこなかったところを見るに、コントロールが難しいのだろうということはわかる。いずれコントロールしてくる可能性はあるが、少なくともこの乱入対戦中は考慮する必要はないだろう、とジュリエッタは判断する。

 逃げる時に使うとしても、一度見た以上は次からは同じ手は許さない――それが出来るだけの実力はジュリエッタにはあるのだ。


「追いかける」

”ああ、そうしろ”


 ジュリエッタは頷くと、地上を逃げたトンコツたちを追いかけ燃え盛る森の中へと姿を消す。


”……ふん、まぁ()()()()()()()()でここまで出来るなら上出来か。

 それに、一匹死にかけがいたな……あいつが上手くやれりゃ――くくくっ”


 自らは参戦せず、クラウザーは一人ほくそ笑む――




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




”プリン、生きてるか!? 生きてるよな!?”


 ジュリエッタから逃走を続ける中、トンコツがヒルダに抱えられたプリンに声をかける。

 使い魔の体力がゼロになれば、そのまま消滅するためまだプリンが生きていることなのは確かだが――


”……えぇ、何とか……”


 弱弱しくプリンが応える。

 いつもの陽気さの欠片もない、息も絶え絶えと言った声ではあるが、まだ体力は残っているようだ。そんな瀕死の状態で意識を失うことも出来ずにいることが果たして幸運かどうかはわからないが。


”良かった。済まないけど、状況は相変わらず危機的だ。

 すぐにアンジェリカ氏を復帰させて欲しい。ヒルダ氏、アンジェリカ氏が復帰したらこの場へオーダーで転移させてくれないか?”

「うむ、わかっておる」


 乱入対戦で他のユニットに倒された場合は即時復帰が可能だ。ただし、そのユニットはもはや対戦に参加することは出来ない。つまり、アンジェリカは復帰したところでジュリエッタの足止めをすることもクラウザーを直接攻撃することも出来ないのだ。

 それでもアンジェリカを復帰させることには意味がある。


「師匠、モンスターがこっちにも来ます!」

”くそっ、プリン、ヒルダ、急いでくれ!”


 このクエストはまだクリアしていない。

 焼かれた森の中には討伐対象となる森林の覇者オルゴ・ガルバルディア以外の小型モンスターが多数生息していた。

 それらも炎に追われ森の中を逃げ惑い、そして次第にまだ燃えていない場所――つまり、トンコツたちが今いる場所へと向かって来ているのだ。

 アンジェリカは確かに対戦ではもう戦えないが、モンスター相手にはまだ戦える。

 凛風たちも何とかジュリエッタを振り切って逃げている最中ではあるが、合流には少し時間がかかる。

 ジュリエッタに襲われるのも脅威だが、その他のモンスターに襲われるのも十分危ない。特にフォルテ、シャルロット、ヒルダは三人とも直接モンスターへと攻撃を仕掛けるのは余り得意としていない。

 アンジェリカはモンスターから皆を守る、という役目があるのだ。


「……来ました! オラクル――このまま真っすぐ進んでください」


 同時にフォルテのオラクルが発動する。

 次にジュリエッタが追い付くまでの間だが、このまま進めばとりあえずは安全なルートではあるらしい。

 ただ、それが『フォルテにとって』という但し書きがつくのが不安要素ではあるが……とりあえずフォルテの周囲にいれば比較的安全である、と信じて行動するしかない。


”……アンジェリカを復帰させたわ……ヒルダ”

「うむ、オーダー《強制転移:アンジェリカ》!」


 走りながらアンジェリカを手元へと強制転移させる。

 復活したばかりのアンジェリカは状況がすぐにはわからなかったらしいが、


「あ、待ってくださいぃ!」


 ヒルダたちが走っていく方へと駆け出す。




 ゲートまであと一息……最悪、ジュリエッタに追い付かれても誰かがわずかでも足止めできれば、使い魔だけでも逃がせるかもしれない――そんな後ろ向きながらも希望が見えてきた頃であった。


「え!? オルゴ・ガルバルディアがこっちへ来ます!!」


 《アルゴス》をあちこちに撒きながら逃げていたため、周囲の様子はわかる。

 シャルロットがこちらへと急接近してくるオルゴ・ガルバルディアの姿を捉えた。


「……私が!」


 アンジェリカも自分の役目はわかっている。小型モンスターと一緒になって向かってくるオルゴ・ガルバルディアを迎え撃つべく、大鎌を構えて前へと出る。


”ジェーンと凛風は……くそっ、もう少しかかるか!?”

「むぅ、ワシが呼び寄せる!」


 ユニットに強制的に命令を実行させるという強力な効果を持つ反面、ヒルダのオーダーは魔力の消費がかなり大きい。

 本人たちがジュリエッタを振り切って逃げられるというのであればと敢えて使っていなかったのだが、モンスターも現れだした今余裕もあまりない。

 残った魔力を使ってジェーンたちを呼び寄せようとするヒルダであったが、


「ヒルダ様!!」


 森の奥から向かって来ていたオルゴ・ガルバルディアが大きく跳躍、木々を乗り越えてヒルダへと襲い掛かろうとする。

 アンジェリカは素早く前へと出てそれを迎撃しようとする。


「イグニッション《フレイムウェポン》!!」


 大鎌に魔法の炎を纏わせ、オルゴ・ガルバルディアを迎え撃とうとする。

 しかし――


「……え?」


 大鎌は虚しく宙を薙ぐだけで終わった。

 オルゴ・ガルバルディアがかわしたのではない。

 確かに命中したはずの鎌が、まるで幻影を薙ぐかのようにオルゴ・ガルバルディアの体をすり抜けたのだ。


「……メタモル」


 その声はオルゴ・ガルバルディアから聞こえてきた。


「……何ということじゃ……!?」


 現れたのはオルゴ・ガルバルディアではない。

 ディスガイズで化けたジュリエッタだったのだ。

 ジェーンに対してオーダーを使おうとしていたヒルダは、ジュリエッタのメタモル――先程アンジェリカを倒したのと同じ、嵐の触手をかわすことが出来ず……。


「ひ、ヒルダ様! マスター!!」


 プリンを投げて離すことも出来ず、竜巻の中へと飲み込まれ、そして――消滅していった。


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