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4-22. 凶獣の咆哮 5. 脅威の魔法少女

2019/4/21 本文を微修正

 広範囲に放たれた電撃は、間近にいたジェーンと凛風だけではなく、後方に控えていた他のメンバーにも届いていた。


”うぐ、くそっ……ヴォルガノフ、だと……!?”


 大半の電撃はシャルロットが(本人にその意図があったかは疑わしいが)受けたものの、トンコツもかなりのダメージを受けている。

 『嵐の支配者』戦においてヴォルガノフが出現していたことはジェーンから報告を受けていたが、その力を使ってくるとまでは思っていなかった。

 ――トンコツ、ヨーム、プリンの三人でジュリエッタに索敵能力(スカウター)を使い、互いに補完しあったことで彼女の魔法、ギフトについては明らかになっている。

 だからといって全ての能力がわかっているわけではない。

 ジュリエッタのギフト【捕食者(プレデター)】の効果は倒したモンスターの能力を吸収する、ではあるが、ジュリエッタが今までどのようなモンスターを倒してその能力を吸収しているのかまではわかるわけがないのだから。

 『嵐の支配者』本体はアリスたちが倒したためジュリエッタが吸収していないことはわかるくらいだ。もちろん、ジェーンを責めることもない――『嵐の支配者』戦の時点でジュリエッタの能力はわからなかったし、敵対するとも思っていなかった。あの時点でそれがわかっていたら予言者としか言いようがない。


”シャロ、無事か!?”

「う、うぅ……何とか……」


 離れていたことが幸いして、体力は削られたものの一撃でやられるということはなかった。

 安心できるほどのダメージではないが、すぐにやられるほどでもない。


”ジェーンたちはどうなった!?”


 雷撃の間近にいたジェーンたちが無事で済んでいるかは疑わしい。

 彼女たち自身の心配もあるが、それ以上にジェーンたちがやられたとしたら、ジュリエッタから逃げ切ることも不可能となる。

 ジュリエッタの攻撃からまだ数秒も経っていない。生きていればまだ間に合うはずだ。


「……うぅ……」


 ジェーンと凛風は共に地面に倒れ動けないでいる。

 トンコツが知る由はなかったが、ジュリエッタのメタモルがヴォルガノフの触手であることに気付いた瞬間、ジェーンはアクションで自らの体を『ゴム』へと変化させて凛風に覆い被さり、雷撃のダメージを大幅に減らそうとしたのだ。

 しかし、アリスの《護謨壁》とは違い、自分自身の体で電撃を受けることには変わりない。また、電撃そのものは防げても『熱』は防ぐことが出来ない。

 結果として一撃で体力ゲージが消し飛ばされることは防げたものの、大ダメージは免れなかった。

 一方で、少し距離が離れていたヒルダとプリンであったが、こちらは防御する術が全くない。ジェーン警告も間に合わず――魔法を使用しようとしていたというタイミングの悪さもある――雷撃を受けて倒れている。


「くっ……団長殿……」


 トンコツ、ヨームと違いヒルダと共に比較的前にいたプリンのダメージは大きい。


”……”


 まだ体力は残っているようだが、全身を電撃で蹂躙され、虫の息といったところだ。


「……どっちからにしようかな……」


 『EJ団』は全員何かしらのダメージを受けている。

 特に間近にいたジェーンと凛風は深刻だ。

 ジェーンたちにとどめを刺すか、それとも先に後ろにいるメンバーを潰すか……すぐに追撃に移らずジュリエッタは考えているようだ。


”くかか……まぁどっちからでもいいが、きっちり片はつけろよ?”

「うん、わかってる」


 未だ姿を現さないクラウザーの声に、ジュリエッタは頷く。

 クラウザーもヴィヴィアンの時とは異なり、ジュリエッタについてはあまり口を挟まないようだ――これもトンコツが知る(《アルゴス》を通じてだが)クラウザーとはまるで様子が異なる。今はその違いについて考える余裕はない。


「……やっぱり、こいつが厄介。先に潰そ」


 やがてジュリエッタが目を向けたのは――ヒルダの方であった。

 味方への支援だけでなく、相手の動きを封じることの出来るヒルダの魔法は厄介だ。先程はタイミング良く先に潰すことが出来たが、状況によっては致命的な隙を作る原因となりかねない。

 ジュリエッタは足元に倒れる二人には目もくれず、ヒルダの方へと向けてダッシュする。


(くそっ……最悪だ……!)


 トンコツもまたジュリエッタの狙いが正しいことを理解している。

 ジェーン、凛風、アンジェリカ――この三名が『EJ団』でのアタッカーなのだが、それぞれがアタッカーとしては微妙な面がある。例えばジェーンであれば対モンスター戦以外では実力が発揮しづらいなどだ。

 そうした面を補うことが出来るのが、ヒルダによる強化(バフ)や支援なのだ。ヒルダがいなくなったとしたら『EJ団』の戦闘力は半減すると言っても過言ではない。


(フォルテは……まだか、くそっ)


 オラクルで逃げ道を早く見つけて逃げたいところだが、フォルテも電撃を食らい倒れている。

 未来を占うという効果は絶大ではあるが、その分結果が出るまで時間がかかってしまうのがオラクルの欠点でもある。

 どのみち、全員が倒れている時点でオラクルの結果が出ても動くことは出来ないのだが。

 逃げ出すことも出来ず、ヒルダが襲われるのを防ぐことも出来ない……たった一撃で『EJ団』は壊滅に追い込まれようとしていた。


「やあぁぁぁぁっ!!」


 誰もが動けない――そう思っていた時だった。

 アンジェリカが大鎌を振りかざし、ヒルダを守るように前に立ちジュリエッタを迎え撃つ。

 彼女自身は前述の通りアタッカーでありフォルテやシャルロットに比べれば体力等のステータスが高い、かつ後方にいたためダメージは思ったよりは低かったのだ。

 事態を察し、すぐさまグミで体力を回復させ、痛みを堪えて動いたということだ。


「……邪魔」


 アンジェリカの鎌をかわし、あるいは受け止めてジュリエッタが反撃する。

 ライズを使っていなくてもアンジェリカの攻撃を軽々と受け流すことが出来ることから、ジュリエッタとの戦闘力の差が絶望的に開いていることは明白だ。

 それでもこの場でアンジェリカがジュリエッタの足を止めたのは大きい。


”ヨーム、急げ!”

”あ、ああ……”


 使い魔自身の体力を回復する方法は存在しない。

 二人はシャルロットとフォルテの体力を回復し、動けるようにする。その上で近づくことが出来ればジェーンたちの回復も行おうとする。

 ヒルダとプリンについては、トンコツたちから回復は行えない――やれることと言えば、シャルロットたちが抱えて逃げることくらいだろう。


「獲物、逃がさない」


 トンコツたちが動き出したことを察知し、ジュリエッタもさせまいとする。

 ここで逃がしたり回復させたりすれば厄介なことになるのは目に見えている――あくまで『厄介』なだけで『勝てない』ではない、と思っているのだが。

 アンジェリカの振り下ろした鎌がジュリエッタの防御をすり抜け、左肩から深々と突き刺さる。


「やった!?」


 攻撃が当たった――と喜ぶのも束の間、それが()()()であることにアンジェリカはすぐに気が付く。

 突き刺さった鎌が抜けないのだ。

 ジュリエッタが押さえつけているわけでもない。だというのに、まるで腕で掴まれているように鎌が動かせない。押しても引いてもびくともしない。


「メタモル!」


 ヒルダを倒すためには、まずはアンジェリカが邪魔だ。

 そう判断したジュリエッタは目標を変更。アンジェリカを先に倒すために動く。

 メタモルで肉体を変化――ジュリエッタの右腕が今度は白い触手へと変わる。

 ……それを目にしたアンジェリカの顔色が変わる。

 ヒルダとジェーンが見れば同じような反応を返しただろう。

 白い、吸盤のようなものが付いた『タコの触腕』のようなそれは、やはり『嵐の支配者』戦の折に彼女たちが目にしたもの――あの時フィールドを風の壁で閉じ込めた、()()()()()たる八本の触手である。

 アンジェリカは鎌を手放し、ヒルダを抱えて逃げようとするも、


「遅い」


 ジュリエッタの攻撃の方が圧倒的に早かった。

 アンジェリカの脇腹を打つように触手が振り抜かれ、胴に触れた瞬間、触手が巨大な風の渦となりアンジェリカを巻き込む。


「うっ……!?」


 悲鳴を上げることも出来ず巻き込まれたアンジェリカは宙へと舞い上げられ――


「終わり」


 地面へと叩きつけられ、そのまま竜巻で全身を引き裂かれて体力ゲージが尽き、消滅させられてしまう。


”……一撃、だと……!?”

”拙いね、これは”


 アタッカーであるアンジェリカをたった一撃で倒したことから、ジュリエッタの本気の攻撃力がどれほどのものかわかる。フォルテやシャルロットが食らえば、同じように一撃で倒されてしまうだろう。

 一語であることから何を使ってくるのかも読みづらい、という点も脅威だ。防御や回避をしようとして、フェイントに引っかかったりする可能性も高い。


「……なるほど、流石に()()は消費が多い」


 そう呟きつつ、ジュリエッタは右腕を元に戻す。しかし、消費が多いといいつつも、アイテムホルダーからキャンディを使おうとはしない。クラウザーも黙って様子を見ているだけのようだ。

 ともあれ、これで邪魔者はいなくなった。

 今度こそヒルダにとどめを刺そうとするジュリエッタだったが……。


「師匠、ごめんなさい! コンビネーション《アルゴス》!」


 体力を回復させたばかりのシャルロットが自らの魔法を使う。

 魔法の発動と同時に先程撒いておいた《アルゴス》の一部が円を描くように配置され――


「《ハレーション》!!」


 描いた円を結ぶように《アルゴス》が発光、空中に魔法の鏡――いや、『レンズ』を作り出す。

 『レンズ』は光を集め、それを一点に収束しジュリエッタへと向けて放つ。


「うぐっ!? うぅ……」


 文字通りの光の速さでジュリエッタの顔面へと突き刺さった光線自体には、実は攻撃力は一切ない。太陽光をレンズで収束した場合にはもちろん熱が発生するのだが、《アルゴス》自身の発する光ではそういった攻撃力となりえる要素はない。

 しかし、光は光だ。

 まともに顔面に光を浴びたジュリエッタは、手で目を押さえて苦悶している。

 要するに、ダメージは与えられなくとも、収束された強烈な光を受けてジュリエッタの視界を潰したのだ。


”よし、ナイスだシャロ!

 フォルテ、とにかく走れ! ヒルダ、走れるか!?」

「う、うむ……」


 よろよろとヒルダも起き上がり、そして自分の使い魔が瀕死の重傷を負っているのを見て顔をしかめる。

 アンジェリカのことに気付いているのかどうかはわからないが、どちらにしても今考えている余裕はない。


”今の内だ! フォルテ、走りながらなんとかしてくれ!”

「……かしこまりました」


 フォルテのオラクルは『その時点』から見た未来についての託宣を受け取る魔法だ。移動しながら――つまり『その時点』が常に変わり続けている状況だと、その分効果が発揮するまでに余計に時間がかかってしまう。

 それでもこの場に留まり続けるよりはマシだとトンコツは判断。フォルテもヨームも異論はない。


”シャロ、フォルテに続け!”

「は、はい! ……で、でも……」


 シャルロットも走り出そうとするが、未だ倒れたままのジェーンたちのことが気になっているようだ。当然のことだろう。


”シャルロット氏、問題ないよ。凛風に任せたまえ”

「はぁ……わかりました!」


 ヨームの言葉に何の根拠があるのかはわからないが、素直にシャルロットは頷きフォルテたちに続いていく。


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