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4-07. 密林遺跡の冒険 6. 遭遇

*  *  *  *  *




 入口から見ると奥側にあるビルの内部は、ショッピングモールとは異なり細い通路と幾つかの大部屋に分かれた構造となっていた。

 うーん、何となくこちらはオフィスビルっぽい気がする。商業施設とはちょっと思えない。

 こちらの建物内部も植物に侵蝕されており、ところどころ壁や天井が崩れていたり、通路や部屋への入り口が逆に植物によって塞がれていたりしている。

 道を塞ぐ植物を薙ぎ払いつつ、私たちはモンスターの反応を追って進んで行く。


「がぁっ、歩きづらい!!」


 建造物と異なり植物は破壊できる。かといって毎回魔法を使っていては魔力がもったいないため、アリスの『杖』を炎の槍へと変えて薙ぎ払っていっているのだが、頻度が高い。

 イライラと煩わしそうに槍を振るいつつアリスが吠える。


「やはりわたくしが《フェニックス》をインストールし直しましょうか?」

”いや……流石に《フェニックス》だと火の勢いが強すぎるかな……。

 ほら、アリス。念願のダンジョンなんだし、もっと頑張って”

「うがー」


 複雑な構造はダンジョンと言えないこともない。まぁ、アリスが望んだダンジョンと言えるかというと話は別だけど。

 ヴィヴィアンの《フェニックス》であれば確かに一気に植物を焼き払うことは可能だけど、場所が狭いために火の海になってしまって逆に動きづらくなる。《フェニックス》をインストールしたヴィヴィアン自身はともかく、アリスの方が今度は火を防ぐ必要があるため結局あまり効率的ではない。

 それに、火の勢いが強くなりすぎるとモンスターが逃げ出してしまうかもしれない。モンスターとは言っても生き物であることには変わりない。自らに危険が迫っていることがわかれば回避しようとするだろう。

 なので私たちは地道に植物をどかしながら狭い通路を進んで行くしかない。


”モンスター反応、近い……!”


 相手もこちらに気付いているのか、段々と接近してくる。

 崩れた天井の上からも来る可能性がある、アリスは油断なく槍を構えて相手に備えようとするが……。


”来た!”


 レーダー上の反応が私たちの位置に被ると同時に、植物で隠されていたのであろう横の大部屋へと続く扉――があった場所――からモンスターが飛び出してくる。

 向こうは植物が障害物とならないのか、完全な不意打ちだった。


「チッ!」


 飛び出してきたモンスターの突撃を間一髪かわすと、相手を確認することなく炎の槍を突き立てる。

 現れたモンスターは、先程戦った小型のテスカトリポカと同じ姿をしていた。

 弱点が炎なのも同様らしく、槍から燃え移った炎に包まれすぐに動かなくなる。


「……またこいつか」

”みたいだね……さっき倒したの以外にもテスカトリポカがいるってことかな”


 最初に遭遇したテスカトリポカは、分裂した小型も全て倒している。

 それなのにまた現れたということは……まぁそういうことなのだろう。


「……『神』の名を冠するモンスターが、こうも複数現れるものなのでしょうか……?」


 ヴィヴィアンは少し納得がいっていないようだ。

 彼女の意見もわかる。確かテスカトリポカは何かの神話の神様――それも結構な大物だった記憶がある。

 そんな大物の神の名を持つモンスターが複数現れるというのは、確かにちょっと不自然というか納得がいかないという気もするか。

 まぁRPGとかに出てくるモンスターの名前と同じと考えれば、元ネタのことなんて気にしても仕方ないという考え方もあるが……。


”うーん、テスカトリポカが複数いるのか、それとも実は最初のを取り逃していたのかどっちなのかはわからないけど、レーダーの反応を見る限りだとこのサイズのテスカトリポカがターゲットっぽいね”


 反応自体はそれほど大きなものはない。全て同じくらいの反応である。

 となれば、まだ遭遇していないものも、この小型テスカトリポカなのではないかと思える。


「あるいは『嵐の支配者』と同じタイプ……か?」


 ヴィヴィアンの疑問を受けて少し考え込んだ末、アリスはそう言った。

 『嵐の支配者』と同じタイプというと……この小型、それにあの象型のテスカトリポカは風竜に当たるものであって、本体のテスカトリポカが別にいるということか。


”……ありえるね。レーダーには今のところそれらしき反応はないけど、『嵐の支配者』もそうだったしなぁ……”


 あの時は相手があまりに巨大すぎてレーダー全体を覆っていたために気付かなかったんだけど、今回もそうなのだろうか?

 それとも、まだ隠れているだけなのか……何とも判断がつかない。


「とにかく、今はこの遺跡を探検しつつモンスターを倒していこうぜ!」

「はい。前進いたしましょう」


 敵の正体がわからない現状、足踏みしていても仕方ないか。

 アリスの言う通りだ。今は前進していくしかない。


”そうだね――って、また来た!”


 あちこちからモンスターの反応が迫ってくる。

 向こうも完全にこちらの位置を把握しているようだ。


「ふん、向こうから来るというのなら都合がいい。蹴散らすぞ!」


 アリスはやる気に満ちているが……。


”待った、ここじゃどこから相手が来るかわかり辛い。さっきモンスターが出てきた部屋に一度入ろう”

「ん? ああ、それもそうか」


 植物があってわかり辛いところに通路があったりして奇襲を受けやすい今の位置よりは、部屋の中の方がいいだろう。仮に天井が崩れていてもその方がわかりやすいと思う。

 私たちはすぐ隣の部屋へと入り込み、邪魔な植物を薙ぎ払い、迫りくるモンスターを迎え撃つ……。




*  *  *  *  *




「――結構片づけたが……ふむ」


 あの後現れたのは、やはり小型のテスカトリポカであった。

 それらを片っ端から片づけていたのだが、テスカトリポカの死体から立ち上る毒の煙をかわすために結局あちこち移動する派目となってしまっていた。

 大分ビルの奥――というか上階へと昇って来たが、一向にボスと思しきモンスターは現れない。


「うーむ、小型を全滅させるのが条件なのか、それともどこかに潜んでいるのを見つけなければならないのか……」


 戦闘自体はそこまで大したことはない。大型の方ならまだともかく、小型テスカトリポカならばアリスの攻撃で簡単に倒せる。

 ただ、数が結構多いのと倒すと毒をまき散らして行動を阻害させてくる点が厄介だ。毒を受けてもヴィヴィアンの《ナイチンゲール》で治すことは出来るが、その分体力も魔力も消耗してしまう。食らわないにこしたことはない。

 そんなこんなで私たちは移動しながらの戦闘を強いられていた。


「あの……道、覚えていらっしゃいますか……?」


 不安そうにヴィヴィアンが私たちに尋ねる。


「ははは……」

”お恥ずかしながら……”


 結構あちこちを移動してきたため大分怪しい。


「まぁ、最悪その辺の壁をブチ破って……って、無理なんだったか。まぁどこか崩れた壁でも探して外に出ればいいだろ」


 そうなんだよねぇ……緊急脱出、と思ってもオブジェクト破壊不可ルールがある以上、こっちで脱出口を作ることも出来ないんだよねぇ……。アリスの言う通り、崩れている壁とかありそうだし、そこから出ていくこと自体は可能だろうけど。


”ごめん、私がちゃんとマッピングしておけば良かった……”


 モンスターとの戦いをしながらという言い訳は出来ない。こういう事態にならないようにサポートするのが私の役目だったのだから。


「ご、ご主人様の責任では……!」


 ヴィヴィアンはそう言ってくれるが、私の責任だ。

 幸い、強化したレーダー機能のおかげでビルの大体の構造はつかめるようになっている――ただ、植物で塞がれている場所も『壁』として表示されているので隠し通路みたいになっている箇所も結構あるんだけど……。崩れた壁から脱出といかなくても、レーダーを頼りに進んで行けば脱出することは出来るだろう。


「ま、何とかなるって」

「……はい」


 アリスが楽観的なのは本当に大した問題と思っていないからだろう。

 ただそれに甘えてばかりもいられない。モンスターの反応を探るのも重要だが、レーダーのマップを見てどう進むべきか、あるいは撤退するためのルートを探しておかなければならないだろう。


”……あれ?”


 と、レーダーを見ていて私は奇妙なことに気が付いた。


「どうした? ボスでも見つけたか?」

”いや……ボスらしきものは相変わらず見えないんだけど、何かモンスターの反応が減っていってるような……”


 どうも私たちが倒した以外の離れた場所……具体的にはショッピングモール側にもあったはずの反応が無くなっているのだ。

 こちら側へと移動してきた、というわけでもない。本当に反応自体が消えている。

 レーダーの範囲外に移動した可能性もあるけど、だとするとショッピングモールから密林遺跡の外へと移動したということになるし……。


「ふむ?」


 例えば小型モンスターが大型モンスターに捕食されて数を減らす、ということは起こりえる。

 うーん、でも今回は皆同じくらいのサイズだったし、そもそもテスカトリポカしかいないっぽいし、共食いとかはなさそうだし……。


”――え?”


 その時、私の視界の隅に『怒っている顔』のようなアイコンが現れる。

 このアイコンは――対戦依頼!? こんなところで!?


「……追い付いた」


 アイコンが現れると共に、私たちの背後から小さな声が聞こえてくる。

 そちらを振り返ってみるとそこには見たことのない小柄な少女――幼稚園児くらいと言ってもおかしくない程の幼い少女の姿があった。

 もちろんこの場にいる以上ただの人間のわけがない。幼い見た目なだけで、彼女もユニットなのだろう。

 それよりも何よりも――この対戦依頼をかけてきた相手が問題なのだ。


”……クラウザー……!?”


 対戦依頼を仕掛けてきた相手の名は『クラウザー』。そして、目の前にいるこの少女は、クラウザーのユニットなのだ……。


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