表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/782

4-06. 密林遺跡の冒険 5. 遺跡深部へ

*  *  *  *  *




 小型テスカトリポカは目の前の『沼』から出現したのが合計8匹。

 他にも離れた場所にある反応が……合計15匹。もしかしたらまだまだ他にもモンスターが現れるかもしれない。


「まとめて一掃……ってわけにもいかないか、くそ」


 ここが開けたフィールドならばアリスの魔法で一掃も出来るのだが、多少は広いとはいえここには障害物が多すぎる。オブジェクト破壊不可の条件が地味に効いてくる。

 それに離れた場所にいるモンスターは位置からして建物内にいると思われる。ますます一掃は難しい。


「!? テスカトリポカが逃げていきます!」


 いざ攻撃、と私たちが動こうとしたところで、小型テスカトリポカたちはこちらに向かってくることはせずに散り散りになって逃げだしていく。

 ……いや、逃げているだけではないか。おそらく、狭い建物内に入ることで不利になることをわかっているのだ。


「えぇい、面倒な!」


 このクエストのクリア条件である『密林遺跡のモンスター』がテスカトリポカだけなのかはわからないが、少なくともやつが対象なのは疑いようはない。

 ただ、テスカトリポカが象型からジャガー型に分裂したため、どこまで倒せばいいのかは不明だ。最悪、ジャガー型全部を斃さなければならないことも覚悟する必要がある。

 そうなるとあちこちに散らばって逃げられるのは非常に厄介だ。レーダーで探知可能とは言え、万能ではない。むしろ、見落としが出てくる可能性の方が高い。


「cl《火龍絞鞭(ヒュドラバインド)》!」


 敵が散らばる前に、とアリスが四方八方へと広がる炎の鞭を繰り出す。

 何匹かが炎の鞭に絡めとられるが、数匹は逃れてしまう。


「お任せください。オーバーライド――《フェニックス》!」


 この場から一匹も逃さない。私の指示を待たず、ヴィヴィアンが新たな魔法『オーバーライド』を使う。

 瞬間、ヴィヴィアンの身を包む《ナイチンゲール》の白衣が消失、代わりに炎の衣を身に纏う。

 これが、彼女の新たな魔法『オーバーライド』の効果だ。

 サモン、インストールをしている間のみ有効な魔法なのだが、その効果は『呼び出し済みの召喚獣を新たな召喚獣で上書きする』というものである。リコレクトやアンインストールを挟むことなく、新たな召喚獣を使用することが出来るようになるというメリットがある。

 サモンで呼び出した召喚獣については自動でリコレクトがかかるので一手省けるというメリットがあり、インストールについては消費なしで別の召喚獣へと切り替えられるというより大きなメリットがある。むしろ、インストールでこそ輝く魔法だ。

 デメリットらしいデメリットは特にない。敢えて挙げるとすれば、消費の大きい召喚獣を消費の少ない召喚獣で上書き(オーバーライド)すると、差分の魔力は返ってこないというところか。リコレクトそのものを使っているわけではないので、サモンで使う場合には要注意だ。後は、オーバーライドの結果で消費する魔力がヴィヴィアンの最大魔力量を超える場合には使えない、という点もある。

 《フェニックス》を改めてインストールしたヴィヴィアンが空へと舞い上がり、逃げようとするテスカトリポカへと炎弾を浴びせかける。


「……そういえば、何も考えずに『炎』を使いましたが、効果は――」

”……うん、十分あるみたいだね”


 どうやらテスカトリポカには炎属性が有効だったらしい。

 アリスとヴィヴィアン、それぞれの攻撃を受けたジャガーたちは炎に包まれ身悶えし、やがて動かなくなった。

 象型の時の最後、毒をまき散らしていたが、それも完全に焼却さえしてしまえば問題ないようだ。


「よし、全滅させたか?」


 分裂した小型テスカトリポカは一匹残らず焼き尽くした。

 ……のだけど、クエストクリアの通知はまだ来ていない。


”いや、まだみたい。別のモンスターがいるのかな?”


 オブジェクト破壊不可のルールは厄介だったが、出現したモンスターがあまりに弱すぎる――いや、これもどちらかといえばアリスたちが強すぎるのかもしれないけど――と思う。『高難度』を謳う割にはあっさりしている。

 となれば、まだ他にもモンスターがいると考える方が自然だけど……。


”あ、待って……レーダーに反応!?”


 その時、まるでテスカトリポカがやられるのを待っていたかのようにレーダーに次々と反応が現れてくる。

 大きさはさっきいた小型テスカトリポカと同じくらいだが、数が多い。その上、出現場所もおかしい。


”さっき通った道にも反応あり……?”


 あの無人のショッピングモールにもモンスター反応がある。さっき通貨した際には何もいなかったはずだが……。

 他にも、この先にある建物内、それにさっきは行かなかったショッピングモールの上層部にも反応がある。


「……うーむ……全部倒すのか……?」


 倒すのが面倒、というわけではないだろう。このクエストをクリアするための目標がわからずアリスが首を傾げる。

 確かに……今までのクエストから考えると、標的となるモンスター以外の小型モンスターはあまり相手にする必要はなかった。必要があれば、メガリス討伐のように最初から指定されていたと思う。

 そうなると、このクエストは『嵐の支配者』の時のように『ボス』がいて、その取り巻きの小型モンスターが無限湧きする……というものなのかもしれない。

 私の予想に二人は頷く。


「うむ、大物がどこかにいるはずだ、そいつを探して討ち取ろう!」

「はい。小物ばかり相手にしていては、以前のように追い詰められてしまいます」


 『嵐の支配者』戦の時を思い出す。

 あの時はジェーンがいてくれたおかげで、『嵐の支配者』本体を早く見つけることが出来た。もし本体を見つけられずに延々と戦っていたとしたら……きっと勝つことは出来なかっただろう。

 今回も同じようにどこかにいるボスを斃せばいいはずだ。まぁ、ボスの登場条件が雑魚の撃破数とか言われると困るんだけど……。


”よし、とにかく敵のボスを探そう。小型は見つけ次第撃破で、遠くにいるのは放っておくってことで”

「うむ!」


 小型を完全に無視というわけにもいかない。撃破数が条件の可能性も考え、道すがら遭遇したものは倒していくこととする。

 さて、どこから探しに行くかなんだけど……。


”――この先の建物にまず進もう”


 ショッピングモールの方にもモンスターが現れているのは気になるけど、通り過ぎた時には特に何もなかったはず。ボスがいるとは考えにくい。

 であれば、まだ行っていない先の建物内を探索してみるのがいいかと思う。モンスターの反応も、どちらかと言えば先の方に多くある――小型の群れがボスを守っていると思えば、奥の方にまず進んでみるべきだろう。

 ……これで実はショッピングモールの方にボスがいました、となったら……その時はその時だ。

 アリスは建物内に入ると空を飛びづらくなるので、《跳脚甲(グラスホッパー)》へ換え、また狭い建物内では近接戦闘になる可能性が高いので《剛力帯(パワーベルト)》を装備しておく。《剛神力帯(メギンギョルズ)》はもったいないけど一旦解除だ。

 ヴィヴィアンは再度オーバーライドで《ナイチンゲール》へと戻る。《フェニックス》の消費量との差分で魔力が大きく減った分はキャンディで回復させておく。


”どんなモンスターがいるかわからない。二人とも、なるべく離れないように気を付けて”


 いざとなれば私が『ユニットの強制移動』を使って合流させることも出来るけど、予想していないタイミングで強制移動をさせてしまうと混乱を生む恐れもある。

 そもそも離れ離れになる事態が望ましくないしね。

 二人は頷くと、ショッピングモールとは逆の方向――先にある建物へと侵入していった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ラビたちが密林遺跡に侵入し、テスカトリポカを撃破したのとほぼ同時刻――

 レーダーに無数のモンスター反応が現れるのと同時に、『彼女』もまたモンスターの存在を感知していた。


「……なるほど」


 『彼女』の目の前に現れたのは、牛の角、不気味な複眼を持つジャガー型のモンスター……先程までラビたちが戦っていたテスカトリポカである。

 倒したはずのテスカトリポカが現れたことに――『彼女』は少し離れた位置からラビたちが戦っていたのを見ていたのだ――特に驚きを感じはしていない。

 なぜならば、『彼女』にはこうなることが()()()()()()()からである。


「……観察力が足りない」


 ラビたちのことをそう切り捨て、『彼女』は目の前のジャガーと対峙する。


「腕試し前の、準備運動……」


 表情一つ変えず、そう『彼女』は呟くとジャガーへと自ら接近していく。




 頭に載せた狐のお面、深い紺色の半纏に作務衣を着た幼児――

 『彼女』の名はジュリエッタ。『嵐の支配者』戦においてはジェーン、ケイオス・ロアと協力してアリスを助けたものの、今この場においては――彼女たちの『敵』である魔法少女(ユニット)だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ