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4-04. 密林遺跡の冒険 3. 冥獣の降臨

*  *  *  *  *




 私たちが最初にいた建物は果たして何階建てだったのだろうか。結構な距離を降りてきたと思うがはっきりしたことはわからない。多分、10数階はあったと思うけど。

 地上まで降り立ち、大きく開いた入り口から内部へと入った私たちが最初に見たものは、巨大な吹き抜けのホールだった。

 横幅は……多分数十メートルはあるか。縦方向は3階分――これはテラスがあることからわかったことだ。そして、奥行きは優に100メートルくらい以上はある大広間だ。


「……ショッピングモール……みたいですね」

”ああ、それだ”


 ヴィヴィアンの小さな呟きに合点する。

 人が誰もおらず、がらんどうのショップが立ち並ぶショッピングモール――それが一番近い表現だ。というよりも、この建物は本当にショッピングモールなのかもしれない。

 試しに両脇にある区切りのあるスペース……ショッピングモールという推測が正しければ、店が入っていたであろうスペースを覗いてみる。


「何もないな……」


 どこからか生えてきたのであろう植物に侵蝕されたそのスペースには、本当に何もなかった。

 棚の残骸と思しきものが転がっているくらいで、他には何もない。目立つものと言えば、植物に生っている巨大果実くらいか。

 念のためいくつかのスペースを覗いてみたが、どれも同じような様子だった。


「むぅ……詰まらん。古代の遺跡というのなら、もっとこう……ダンジョンみたいになってたり、宝箱が置いてあったりするものではないのか!?」

”いや……そんなことないでしょ”


 アリスのゲーム脳が炸裂する。

 まぁ、実際、謎めいた古代遺跡とか言っても、結局のところその時代の人が住んでいた住居だったりするわけで、そんなダンジョンとかこれ見よがしに宝箱が置いてあったりするなんてことはないだろう。

 神殿や寺院のような宗教施設やお城とかならもう少し複雑な構造をしているかもしれないけど……。


「それよりも……妙に現代的な建物のような気がいたします」

”そうだね。むしろそっちの方が気になるかな”


 アリスのことは放っておいて、私とヴィヴィアンはこの建物がいやに現代的なものであることの方が気になる。

 ――このクエストでやってくる世界が、遥か未来の東京、あるいはありすたちの世界の未来である、というSFとかにありがちな展開なんじゃないだろうか、という考えも浮かんでくるが……今のところそれを確かめる術はない。

 ただ、『ゲーム』の謎の超技術を考えるとそういうことも十分ありえるのではないだろうか。まぁ、だからと言ってどうするというわけでもないんだけど。


”うーん、この辺りにモンスターの反応はないみたいだ。

 ショッピングモールの奥の方がまだ続いているみたいだし、そっちに行ってみよう”


 私たちの目的は密林遺跡の探索ではない。モンスターの討伐だ。

 モンスターを探しに更にショッピングモールの奥へと進んで行く。

 特に入り組んだ作りにはなっておらず、真っ直ぐに進んで行くだけだ。

 この建物の上階も気になるけど、まずは低階層を一通り見回ってみるべきだろう。


”……おや? 外?”


 しばらく進んで行くと建物が途切れ、外へと出たことがわかる。

 上を見上げてみると、わずかながら日の光が差し込んできてはいるが、天井は謎の植物で覆われている。


「うーん、この辺りがスタート地点の真下、か?」

”ああ、そうかも”


 現在地が『屋内』と判定されているためはっきりとはわからないが、移動してきた距離から考えるとそうかもしれない。

 となると、私たちが最初に出現した地点は、地面が見えないくらいに樹木が生い茂っていたのではなく、本当に地面がなかったということになる。

 建物と建物の間をまるで橋を渡すかのように木の枝? それとも根? が伸びており、まるで植物で作られた建造物といった感じだ。

 ……なるほど、このクエストの指す『密林遺跡』の名にふさわしい。密林にある遺跡というだけではなく、密林で作られた遺跡ということか。

 私たちが今いる空間は、建物と建物の間のスペース――中庭とでもいうのか、そういう開けたスペースだ。


”……待って、モンスターの反応がある!”


 開けた空間を進んで行こうとした時、レーダーがモンスターの反応を捉えた。

 しかも、結構大きな反応だ。大きさは……火龍くらいはあるか。

 私の警告に、二人も表情を引き締め慎重に動く。

 無警戒に進むのではなく、物陰――出鱈目に生えている樹木や崩れた柱に隠れながらモンスターの反応のある方へと進んで行く。


「……あいつか?」


 やがて、私たちから少し離れた位置――最初のショッピングモールの奥にある別の建物の入り口付近に鎮座する『それ』を見つける。


「……何て醜悪な……」


 ヴィヴィアンが嫌悪感を露わに吐き捨てる。

 彼女がそう言いたくなるのもわからないでもない。それほど、そこにいたモンスターは不気味な姿をしていた。

 ぱっと見た印象では『象』が一番近い生き物だろうか。小山のような巨体に四本の太い足、長く伸びた鼻は正に象そのものだ。

 だが、私たちの知る象とは大きく異なる、異形の生き物なのは間違いない。

 全身は毒々しい黄色と黒のまだら模様の毛皮で覆われており、足も象のように太くはあるが形状としてはネコ科の肉食獣のようなものとなっており、足の先端からは巨大な鎌のようになった鋭い爪が生えている。

 象のような耳はないものの、代わりにヤギのような捻じれた大きな角が生えている。

 また、私たちが『象』を連想した大きな原因である長い鼻は一本ではなく八本――内側に鋭い牙を生やした細長い、奇妙な口となっている。代わりに象牙はない。

 そして何よりも不気味なのは目にあたる部分だ。そこには普通の目はなく、代わりに赤い宝石のような石が無数にびっしりと張り付いていた。まるで虫の複眼のように……。


”……モンスター図鑑に登録を確認。

 あいつは――『テスカトリポカ』というらしい”


 戦闘前にモンスター図鑑を確認すると、あのモンスターも既に登録されていた。やっぱり細かい情報や弱点は載っていないけれど。

 名前は『テスカトリポカ』――なんだっけ、どこかの神話の神様の名前だったような気がする。

 分類は『冥獣』。もう大分前のような気もするが、かつて現実に侵蝕してきた謎のモンスター『アラクニド』と同じ分類となる。

 確か、『世界にとっての敵』『この世にありえざる生命体』……だったっけ。

 あのテスカトリポカの不気味な姿を見ればなるほど、普通の生き物とは思えない禍々しさを持っていることがわかる。単なる合成獣(キメラ)というわけではない、もっとおぞましい何かをテスカトリポカから感じさせられる。


「どうする? まだこちらには気づいてないようだが」

「先制攻撃を仕掛けるべきかと思いますが」


 二人が私の指示を求める。

 テスカトリポカはまだこちらに気付いておらず、建物の入り口付近でうろうろとしているだけだ。


”……ここで様子を見ても仕方ないね。相手に気付かれていないなら好都合だ、こっちから攻撃を仕掛けよう。

 ただ、他にもモンスターが出てくるかもしれないから注意を”


 気になる点としては、このクエストが『テスカトリポカを討伐する』だけなのかどうか、ということだ。

 クエストの説明文には特に何も書かれていなかったし、テスカトリポカ以外のモンスターがいないとも限らない――小型モンスターだけならまだいいのだが、他の大型モンスターがいたら乱入されるとかなり危険だ。

 私の危惧はわかっているのだろう、二人は神妙に頷く。二人ともこういう時は素直なのはありがたい。


「よし、ここは――ext《神馬脚甲(スレイプニル)》!」

「わたくしも――インストール《ナイチンゲール》!」


 二人が戦闘態勢を整える。

 アリスは機動力を強化する《神馬脚甲》を。建物内だと若干微妙だったが、今の広間なら十分動き回れるスペースがある。《巨星》系魔法は障害物が多めなので上手く使えない可能性はあるが。

 ヴィヴィアンは最近はちゃんと使いこなせるようになったインストールを。使うのは《ナイチンゲール》だ。

 ……この《ナイチンゲール》、サモンで使っていた時も結構破格の能力だったと思うが、インストールでは実に使い勝手のいい魔法だということが最近わかってきた。

 インストールの特性としてヴィヴィアンの能力値全般を強化するのもそうだし、元の召喚獣の能力や特性をヴィヴィアン自身が自由に使えるというのが実に強力なのだ。ヴィヴィアンが単独で戦う場面であれば、再生能力を持つ《フェニックス》が最適解となりやすいが、アリスと共に戦うのであれば他者の回復能力を持つ《ナイチンゲール》がとても使いやすい。

 欠点としては、インストール中はサモンが使えなくなる――インストール前に呼び出していた召喚獣はそのまま有効であるが、新たにサモンを使うことは出来なくなる――という点と、アンインストールをしてもリコレクトのように魔力の回収が出来ないということか。

 臨機応変に召喚獣を呼び出せるというヴィヴィアンの魔法の利点を潰していると言えばそうだが、各種能力強化に回復能力を持つ《ナイチンゲール》ならばあらゆる場面で活躍できるだろうことを考えれば、そこまで欠点というわけではない。

 インストールするとヴィヴィアンの姿も変化する。《フェニックス》のような魔獣型の召喚獣の場合もそうだが、《ナイチンゲール》等の英雄型の場合もだ。《ナイチンゲール》をインストールしたヴィヴィアンは、普段のメイド服(エプロンドレス)のデザインは同じだが色は薄いピンク色に、頭部に載せた姫冠(ティアラ)は看護婦さんが被っている帽子によく似た何かに、そして手に持った彼女の霊装『全書』は巨大な注射器へと変化する。

 英雄型のインストールを行った場合、装備もインストールした英雄に合わせたものと同じになるようだ。《ペルセウス》辺りをインストールすると、おそらく剣や楯、それに翼のサンダル辺りが装備されるだろう。


「ご主人様、こちらへ」

”うん”


 普段のサモンを中心として戦う場合は彼女に抱きかかえてもらっているが、インストールで戦う場合は実際にヴィヴィアンも色々と動く必要がある。

 彼女の邪魔にならないように、以前にアリスと戦っていた時と同様に肩からぶら下がるようにしがみつく。


「よし、まずはオレが切り込む。ヴィヴィアン、援護を頼む」

「かしこまりました、姫様」


 こちらの戦闘準備は整った。

 テスカトリポカはまだこちらに気付いておらず、背――というかお尻を向けている。

 先制攻撃のチャンスか。


「……お?」

「……え?」


 だが、いざ先制攻撃という段階で二人が戸惑う。

 理由は……テスカトリポカの尻尾だ。


”……あ!?”


 最初こちらに尻尾を向けていなかったので気づかなかったが、テスカトリポカの尻尾は象の尻尾とは異なりトカゲや蛇の尻尾のようになっている。

 そしてその先端には蛇の顔がついていた。

 蛇の目が真っすぐにこちらを見ている。


「気づかれたか!?」


 アリスが言うと同時に、テスカトリポカが大きく身震いし、こちらへと向き直る。

 ……完全に気づかれてしまったか。

 仕方ない。先制攻撃――というか不意打ちは出来なかったが、このまま戦うしかないか。


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