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3.5-09. 使い魔座談会その4、そしてフレンドへ……

 ――さて、そろそろ頃合いかな?

 そこそこ長い時間話し込んでしまった。和芽ちゃんにありすの足止めをお願いしているが、そろそろ限界だろう。

 ありすがお冠になる前に、一旦この場は解散した方がいいかな。

 丁度私のビールとトンコツのお酒が無くなったのを見計らって、私は解散の宣言をすることにした。


”それじゃ、そろそろ終わりにしようか。ありすと和芽ちゃんも待ってるだろうし”

”ああ、そうだな。

 ――その、ありがとな。久しぶりに酒も飲めたし、楽しめた”


 お、おう……私としては酒に酔わせて口を軽くしようとか、そんな下心があったんで素直にお礼を言われると……ちょっと罪悪感が……。


”い、いやこちらこそ。色々と聞きたかったことも聞けたし”


 一番聞きたかったケイオス・ロア=美鈴を裏付ける話については、私の予想を裏切る答えだったものの、それ以外でも有益な話は聞けたと思う。他にも聞きたいことはいっぱいあるんだけど、質問内容をもうちょっと整理してから聞かないとトンコツも答えにくいだろう。

 ……うん、トンコツはお酒を飲めた、私もお酒を飲めたかつ話も聞けたで、WIN-WINだと思っておこう。


「師匠、いちいちラビちゃんと話すのにあれこれ調整するのメンドーじゃない? フレンドになっちゃえば?」


 と、ここで美々香からのナイスアシストが入る。

 マイルームでのチャットは盗聴の危険があるかも、と以前言っていたが、他人に聞かれて困るような話題なら日程と場所を調整して直接会えばいいし、フレンドになればそれもやりやすくなる。あるいは前みたいに対戦フィールドで話すという手もあるし。

 出会った当初はちょっと信用ならない相手だとは思ったものの、今はトンコツは信用してもいいんじゃないかなと私は思っている。姿の見えない(暫定)フレンドが気にはなるけど、トンコツの動きを見ると少なくともクラウザーのような危険な相手ではないと思うし。


”あー……うーむ……”


 美々香に言われてトンコツも悩んでいるようだ。

 ……おや? これは結構脈ありなのでは?


”ただなぁ……こいつら『ガチ勢』だからなぁ……”

”いやいや、別にだからといってトンコツたちに無理なクエスト行こうとか言わないよ”


 ありすは『ガチ勢』ではあるが、他人に強要はしないだろう。彼女は誰もいなくても一人で黙々と高難易度に挑み続けるタイプだ。カッコよく言えば『求道者』だろうか。

 ……まぁ、私と桃香は否応なく付き合うことになるんだけどね。それは別に望んで一緒に行くのだからいいけど。


”……クエストのノルマとか、ないよな?”

”ないない、そんなの”


 どこのソシャゲのイベントなのか。

 週一でテュランスネイル狩れないフレンドは切ります、とか真顔で言うありすを想像して――あ、別に違和感ないな、と思ったのは黙っておこう。実際言わないだろうし……多分。


”うーん……まぁ、そうだな。クラウザーの件もあるし、いいか”

”お、いいの? それは嬉しいな”


 情報が手に入りやすくなる、という点を差し引いても嬉しい話だ。

 早速トンコツからフレンド申請が来る。もちろん、即OKだ。




 ――こうして、晴れて私とトンコツはフレンドとなったのであった。

 このことが後々大きく響いてくるとは――そして、『ゲーム』の結末があんなことになるとは、もちろんこの時の私たちは知る由もなかったのだが、それはまた後の話。




*  *  *  *  *




 後片づけをあやめに任せ、私、桃香、トンコツ、美々香は再び武道場へと戻る。

 もしかして途中でありすから遠隔通話が来るかな? とも思っていたのだがそれもなかった。どうやら、和芽ちゃんが上手くやってくれていたようだ。彼女にも何かお礼をしたいところだけど……今の私じゃ出来ることはたかが知れてるしなぁ……。

 トンコツとフレンドになったことだし、クエスト内で手助けとかはやりやすくなったかな? それで恩返しになるかどうかはわからないけど。




 さて、武道場へと戻って来た私たち。


「ん……ラビさんお帰り。どこ行ってたの?」


 ありすと和芽ちゃんが道場の隅で休憩していた。

 どうやら体験入門は終わってたらしい。遠隔通話が来なかったってことは、さっきまでやってたか、あるいは和芽ちゃんとおしゃべりでもしてたか……。


”ちょっとね。ありすの方はどうだった?”


 ありすたちの周囲には誰もいない――道場の方ではまだ大人たちは稽古をしているし、私たちの声も聞こえないだろう。ただ、動くと流石にバレると思うのでぬいぐるみのフリだけはしているが。

 私の言葉に、ありすは小さく頷く。


「ん、有意義な体験だった」


 む、難しい言葉で返してくるなぁ……。

 和芽ちゃんの方はと言うと、こちらは最初はありすに対して緊張していたようだったが、今はもうそうでもないようで美々香に向けるような柔和な笑みを浮かべている。


「ありすさん、本当に素人ですか? 本気で剣道やったら、かなり強くなると思いますよ」

”へぇ……”


 私は素人なので剣道の強い弱いは全く判別つかないけど、経験者が語るということはそうなのだろう。

 ……勧誘のためのリップサービスかもしれないけどね。ま、ありすが剣道をやりたいというのであれば別にいいか。

 一方で褒められたありすも満更ではなさそうだ。相変わらずのぼんやり顔だが、心なしか口元がほころんでいるようにも見える。


「んー……ちょっと考えてみる」


 実際に剣心会に入るかどうかはわからないが、入りたいというのであれば私は賛成だ。前にもちょっと思った通り、『ゲーム』のため云々は抜きにしても道場なり他のクラブ活動なりで運動をするのはいいことだと思う。

 ありすたちとも合流したし、これで今日は解散かな? 時間は――そろそろ17時か。美奈子さんには前もって言ってあるけど、これ以上遅くなると流石に問題だ。


”うん、ゆっくり考えるといいよ。

 それじゃ、今日は時間も遅くなってきたし、解散しようか”


 私の言葉に皆が頷く――桃香だけはちょっと不満そうだったが、今日は別にお泊り会をするわけでもない。小学生はもう帰る時間だ。

 とは言っても、事前にあやめから帰りは送ると言われているので、私たちは一旦また桃香の家に戻るわけだが。美々香は……まぁ和芽ちゃんもいるから大丈夫か。七燿桃園の敷地からは彼女の家はありすの家より近いみたいだし。


「ん、今度は、わたしの番……」

”へ? 何が?”


 和芽ちゃんが着替えているのを待つ間、唐突にありすがポツリと呟く。


「……カナメを、鍛える……対戦で……」

”お、おう……?”


 何だ、しごかれでもしたのかな?

 ……いや、ありすのことだし、本気でただの恩返しのつもりかもしれない。

 困惑しつつトンコツと顔を見合わせる私だが……。


”ま、まぁ……フレンド同士の対戦ならダイレクトアタック無効の対戦モードもあるしな……”

”あ、そんなのあるんだ。じゃあ、折角だし試してみようか……”


 前に対戦の種類を聞いた時には教えてくれなかったけど、そういう対戦モードもあるのか。もちろん通常対戦も出来るんだろうけど。

 桃香と美々香は苦笑いをしているだけであった……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




”――っつーわけで、噂のイレギュラーとフレンドになっちまったわ”


 ごつごつとした岩場のフィールド――空は灰色の雲に覆われ、ところどころで白煙が立ち上る、『火山』フィールドのクエスト内にてトンコツは集まったメンバーに対してそう言う。


”……そうですか”


 トンコツの言葉に、落ち着いた男性の声が返す。

 その姿は……ラビやトンコツたちと同様、ぬいぐるみサイズとなった『羊』である。


”ま、いいんじゃない?

 ……別にガツガツクエストに行かされるようになるっていうんじゃなければ、あたしは構わないわ”


 『羊』の使い魔に続いて、陽気な女性の声が返す。

 こちらもぬいぐるみサイズの『兎』の姿をしている――『兎』と聞いて想像するような、耳の長い種ではなく、ふわふわの毛玉のような、知らない人間が見たら『兎』とは思わないであろう種ではあるが。

 今、彼ら三匹の使い魔はフィールドの隅、モンスターに見つからない岩場の陰に隠れ、車座となって話し合っている。

 使い魔の後ろには、それぞれのユニットが控えて、モンスターの襲撃に備えているようだ。


”すまねぇ、ヨーム、プリン。事前に相談出来れば良かったんだが、なにせ急だったんでな……”


 流石に酔った勢いでフレンドになった、とまでは素直に告白しない。彼の後ろで唯一状況を知るジェーンがにやにやと笑っている。

 ヨーム――『羊』の使い魔と、プリン――『兎』の使い魔は共に気にするな、というように頷く。


”仕方ないですね。ただ、噂のイレギュラー……あのクラウザー相手に対戦で勝利し、更にレベル9モンスターをも下したということですし、そんな人が味方についてくれるというのはありがたいですねぇ”

”そうね。……ま、そんな強い人だと、うちらレベルが行けるクエストなんかじゃ満足してくれなさそうだけど……喧嘩売られないというだけでも感謝だわ”


 ヨームとプリンはどちらもラビとトンコツがフレンドになったことには異論はないようだ。


 ――まぁあいつらなら不用意に他人に対戦を挑んだりはしないだろうけど、一応この二人には対戦をしないように言っておいた方がいいな……。


 と心の中でトンコツは思う。

 この場にはいない――そしてヨームたちも知らない()()()()()()()()()については、本人との約束があるため特に触れることはしない。

 もう一人のフレンドについてラビにもヨームたちにも話していないのは騙しているようで悪い気もしているが、『彼女』についてはクラウザーのような危険人物でもないし、積極的に他のプレイヤーを襲うようなこともない。なにせ『彼女』の目的は『ゲームの勝利』ではなく、■■■■■の■■だけなのだから――おそらく、他の誰とも目的が競合することもない。後で『彼女』にもラビとフレンドになったことは報告せねばなるまい、とは思うが。


”ふむ、話はこれで終わりかい?

 ……それでは、そろそろモンスターの討伐に向かおう”


 ヨームの仕切りに、特に異論はない、とトンコツたちは頷く。

 そして三匹の使い魔とそのユニットたち――3チームはクエストの討伐対象を求め、火山フィールドを進み始める。




 彼らは『EJ団』と名乗る合同チームである。

 『ゲーム』のシステム的にはフレンド機能こそあるものの、ソーシャルゲームでありがちな『ギルド』のようなものはない。なので、彼らが勝手にそう名乗っているだけだ。


「ふぅむ……しかし、折角強力なユニットが味方になったのだ、もう少しやる気を出してもよいのではないか? 団長殿」


 移動中、自らの使い魔にそう語りかけたのは、軍服を纏った小柄な少女の姿をした魔法少女(ユニット)――『嵐の支配者』のクエストにも参加していた、ヒルダである。

 ヒルダの被った軍帽の更に上に、彼女の使い魔プリンがまるで置物のように乗っかっている。


”うーん……でもなぁ……。ほら、本気出すと疲れるじゃない?”

「……はぁ……まぁ、団長殿に欲がないのであれば、それはそれで結構じゃが」


 陽気な声とは裏腹に、実に怠惰なことを言う自らの使い魔に対してヒルダは呆れたようにため息をつくが、それ以上は強く主張はしない。

 ガツガツとモンスターを狩ったり、対戦をこなしていくというのは『EJ団』の趣旨に反するのをわかっているためだ。


(……とはいえ、このままで済むとも思えぬしな……うぅむ)


 こちらにその気はなくとも、相手が必ずしもそうとは限らない。

 対戦は拒否できることはわかっているが……それでもヒルダの脳裏には一抹の不安がこびりついている。


「ぜー、ぜー……ひ、ヒルダ様……そろそろ自分で走ってくださいぃ……」


 ちなみに、ヒルダは同じくプリンのユニットであるアンジェリカにおぶられて運んでもらっている状態だ。

 アンジェリカの願いは――聞き届けられることはなかった。




 ちなみに、『EJ団』とは『エンジョイ勢の団』の意である。

 団の趣旨は名前の通り、『ゲーム』の勝利にこだわらずエンジョイすること、である。




 そんな『EJ団』に対して、恐るべき試練が迫りつつあることを、この時はまだ誰も知らないのであった――


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