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3.5-08. 使い魔座談会その3

”というよりも、何で名前覚えてねーんだよ。自分で付けた名前だろうに”


 ……言われてみれば、そうかも。

 確か前にトンコツが言っていたけど、使い魔(ユーザー)の名前は最初のユニットが決めるんじゃなかったっけ。

 私の名前も、知らず知らずありすが付けたものだし。


「いえ、向こうがそう名乗ったもので……」

”……あー、そっか、そういうこと出来るのか……じゃあ、俺も最初に自分で名前決めてカナに呼んでもらえば……”


 なるほど。ユニットに対して先に自分で決めた名前を名乗っておけばいい、ということか。

 馬鹿正直に名前を付けてくれって言って、トンコツとか付けられたりすることもなかったんだ……哀れな。

 もしかして、と思って桃香の方を見てみると、


「あ、わたくしも同じですわ。クラウザー様がそう呼べと……」


 あやめと同じく、クラウザー自身が名乗ったそうだ。

 ふーむ、どうやら各プレイヤーには『本名』がやはり別に存在していて、ジュジュとかトンコツとかは『ゲーム』内での名前に過ぎないようだ。

 なんでプレイヤー名だけはユニットが決めるのかはさっぱりわからないけど……その方が愛着がわくとか、かなぁ……?

 ……けど、本当にそうなのだろうか?


”……あやめ、君がマサ何とかに初めて会った日って、何月何日か覚えている?”


 折角の機会だ。疑問は解消できるならしておきたい。私の思い過ごしならいいんだけど……。

 あやめは「少々お待ちを」と言って携帯電話を手に取る。スケジュールのアプリかなんかを見てるのかな?


「私があの使い魔(ろくでなし)と出会ったのは、今年の8月16日――ですね」


 酷い。でも、流石というか、正確な日付を覚えているのか。


”トンコツ、そのあたりの日付って何かある?”


 日本人で8月16日というと、終戦の日の翌日とかお盆の終わりとか想起するけど、こっちの世界では事情が異なるし。


”は? 何かって……あー、まぁ言っても大丈夫か?

 確かその前日が『ゲーム』開始日だな。ちなみに、俺がカナをユニットにしたのは――確か……そう、8月の21日くらいだったか?”


 つまり、『ゲーム』開始日は8月15日。その翌日にあやめはユニットになったということか。

 私の疑問はとりあえず否定されたかな?

 何を疑問に思っていたかというと、マサ何とかは実はあやめが最初のユニットではなく、別のユニットがいるのではないか? ということだ。つまり、ユニット枠+1を取得した後に、あやめをユニットにしたのではないかと。

 ユニット枠+1はそこそこ高額のアイテムだ。確か1回目は5000ジェム、2回目が30000ジェム、そして3回目が50000ジェムとなる。『ゲーム』開始当日に、いきなり5000ジェムを集めるのは――不可能ではないとは思うけど、回復アイテムの購入やユニットの成長を一切無視してひたすら『ゲーム』に挑み続けなければならないため、かなりハードだし時間もかかる。まぁ2回目以降に比べたらかなり安い額だとは思うけど。おそらく、トンコツのように初期ユニットがあまり戦闘力の高くない場合の救済措置なのだろう。

 これはクラウザーについても同じだが……。クラウザーの場合、桃香がユニットだった期間が一か月以上あったわけだし、全く無理はないんだけど……。

 あれ? でもマサ何とかもユニットを2人以上持っていることは確定しているわけで……。でも、あやめをユニットにしたのが当日で、クラウザーに恐れをなして姿を消した期間を考えると……ちょっとおかしい気がする。あやめが二人目のユニットだというのであれば納得できないこともないけど、先に述べた通り少し無理があると思うのだ、不可能というほどのことはないんだけど。

 ……考えすぎ、かなぁ……? うーん……。


”桃香は?”

「え? わたくしは……えぇっと……」


 こちらは正確な日付は覚えていないのだろう、オロオロとして必死に思い出そうとしている。

 まぁ覚えてないのは仕方ない。


「桃香も同じです。時間的には私の()になります」


 おっと、こちらも流石というか、あやめが覚えていたらしい。

 ……え? 『後』?


”……それ、間違いない?”

「はい。同日に使い魔二匹と出会って驚いたのを覚えています」

”あ、そっちじゃなくて……桃香の方が『後』っていうところ”


 私の質問の意図が掴めないのか、あやめは首を傾げ、少し思い出すように目を閉じるが……やがてゆっくりと頷いた。


「はい、そちらも間違いありません。私は夕方に遭遇したのですが、桃香は夜――眠っている間にクラウザーと夢の中で出会ったはずです」

「思い出しましたわ! それで目が覚めて、あやめお姉ちゃんの部屋に行ったのでしたわ!」


 あやめの方はよくわからないけど、桃香の方はありすの時と同じパターンかな。ありすも、寝ている間に強制的に『ゲーム』に巻き込まれて、そこで私と会ったんだっけ。

 そうか……いや、でも、うーん……。


「何か気になることでも?」

”うーん……ちょっとね……いや、何がどうってわけじゃないんだけど……”


 何だろう……何か、ものすごく不気味なことに気が付いてしまった。

 『特殊な人間を選べば優秀なユニットになる』という噂話が確かあったはず。で、この周囲では桃香がそれに当たるから、というのがヴィヴィアン=桃香の根拠の一つだった覚えがある。

 私以外のプレイヤーの事情はわからないけど、おそらくそういう『特殊な人間』を選別することは出来るんじゃないかと思う。仮にそういう機能でなくても、ある程度時間をかけてこの近辺を探っていけば、桃香が周りに比べたら特別な人間だということはわかるだろう。

 で、クラウザーが桃香を選択した……これはわかる。

 何かおかしいのはマサ何とかの方だ。クラウザーよりも前に七燿桃園の敷地に来たのは間違いないのに、桃香ではなくあやめの方を先にユニットとして選択しているのだ。まぁ結果的にあやめも七燿藍鳥の人間なので、特殊な人間といえばその通りなんだけど……。すぐ側に桃香がいるというのに、真っ先にあやめを選ぶ理由はないんじゃないかなぁ……『特殊な人間の方がユニットが強くなりやすい』という噂を信じて行動するならばの話だけど。

 マサ何とかとクラウザーが組んでいる、という可能性もゼロじゃないけど、だとしたらマサ何とかが『クラウザーに恐れをなして』あやめを放置する理由はないと思うのだ。

 ……もしかして、私は今まで軽く考えていたけど――クラウザーよりも、マサ何とかの方が厄介な相手になる可能性があるんじゃないか……?




*  *  *  *  *




 その後、色々と話はしたものの、特に『ゲーム』の謎について深く突っ込んだ話題はあえてしなかった。

 トンコツに請われて『嵐の支配者』戦のことを話したくらいか。

 流石にレベル9のモンスターを倒したことについては驚いていたみたいだ。


”……ふーむ……どういうわけか、お前らはやけにレベル高い相手と戦っているな……”


 話は更に過去にさかのぼって、テュランスネイルやヴォルガノフとも戦ったことについて話している。

 私が予想した通り、どうも私たちは他のプレイヤーたちよりも早い段階で強いモンスターと戦っていたらしい。


”何だろうな……レッドドラゴンと戦ったくらいまでは、まだわかるんだが……”


 トンコツも首を傾げている。

 彼にわからないものは私にもわかるわけがない。


”例えば、俺たちもレッドドラゴンとは割と早い段階で戦ったことはあるが……勝てるようになったとしても、それ以上の敵はすぐには出てこない”

”うん、まぁ多分『ゲーム』的には同レベル帯の相手がしばらく出続けるようになってるんじゃないかな”


 これはドラハンとかの普通のゲームも同じだ。

 レベル3の相手を一回倒したらすぐにレベル4が出てくる――なんてことにはならない。しばらくの間は、同じレベル3の様々なモンスターと戦っていくことになるはずだ。

 トンコツたちもレッドドラゴンを倒した後も、しばらくは同じくらいの相手と戦い続けている状態だろう。


”何だろうな……もしかして、お前、どこかでいきなりレベル5以上のモンスターと戦ってたりしたんじゃないか?”

”……あ”


 言われて気付いた。レベルは不明だが、明らかに強力なモンスターと私たちは戦ったことがある。

 現実世界に侵蝕して来たアラクニドと、天空遺跡にいた氷晶竜たちだ。


”そういえば、一回だけある……”

”もしかしたらそれかもなー。今までに倒した最高レベルのモンスターに合わせて、基本的に戦うモンスターのレベルが決まるみたいだから”


 それはあり得る話かもしれない。

 例えば氷晶竜が仮にレベル5だとして、それを私たちは倒したわけだ。

 となると『ゲーム』のシステム的に、私たちの適正レベルは「5」と判断されてしまい、テュランスネイルとかが現れるようになった――うん、まぁわからない話じゃない。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! では、わたくしたちは今後レベル9が相手になる……と?」

”……うわ、確かに”


 色々な人に助けてもらいはしたものの、間違いなく私たちは『嵐の支配者』を倒している。

 倒しはしたものの、あれと同等のモンスター、あるいはテュランスネイルよりも上のモンスターが適正かと言われると……。

 流石にこちらの身も心ももちそうにない。いずれそういう相手と戦う日が来るとは思ってたけどさ。


”……ご愁傷様”


 トンコツは無情だった!


”まぁ、あのクエストに限って言えば、俺たちにも通達されてたくらいだし……ノーカンになるんじゃねぇか? わからんけど”


 無責任だった。いや、トンコツに言っても仕方ないけど!


”う、うーん……まぁ、ありすなら喜ぶかもしれないけど……ちょっと今後はクエストは選ぶようにした方がいいかな……”

”ははは。まぁ、お前さんらは『ガチ勢』なんだから、願ったり叶ったりじゃねぇか?”

”……他人事だと思って……”


 『ゲーム』に本気で挑んでいる私たちは、確かに『ガチ勢』と言えるだろう。

 クラウザーも姿勢や方針は私たちとは相いれないが、『ガチ勢』ではあるか。

 ……ん? じゃあ、トンコツは違うのかな?


”トンコツは『ガチ勢』じゃないんだ?”


 私の問いかけに、トンコツはへらへらと笑う。


”いやー? 俺は『エンジョイ勢』だからな”

「いやいや、師匠……あたしたちはガチれないからエンジョイ勢なだけでしょ……」


 美々香の呆れたような呟きは無視された。

 うーん、この『ゲーム』……ますますわからない。ゲームを楽しむ(エンジョイ)勢がいる余地があるのか……そう考えると、私が以前心配していたように、ユニットだけではなくプレイヤー側も命の危険は基本ないものと思っていいのかもしれない。

 それは安心材料と言えるんだけど、じゃあ何でクラウザーはあんな必死に――『チート』を使ってでも勝とうとしているのかがわからない。あれは単なる負けず嫌いという言葉で片づけられるようなものではない気がする。

 まぁ、でも、『ゲーム』はゲームとして楽しむのがいいと私は思う。その意味では、トンコツたち『エンジョイ勢』は正しく『ゲーム』に挑んでいるプレイヤーと言えるかもしれない。

 彼の(暫定)フレンドはどうだかわからないし、トンコツも演技しているという可能性も捨てきれないけど……。


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