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3.5-07. 使い魔座談会その2

 さて、その後も色々と雑談をしつつも私たちはお酒を(桃香たちはジュースやお茶だが)呑んでいたわけだが、そろそろ本題に入ろう。

 ……和芽ちゃんがありすを引き留めてくれているうちに話をしておかなければならない。


”で、さ、トンコツ。今日の本題――というか、一番聞きたいことなんだけど……”

”あ? なんだよ?”


 おっと、大分酔いが回ってらっしゃるご様子で。

 私たち使い魔は、『ゲーム』内以外ではダメージを受けることはないし汚れとかもすぐ落ちるのは既に述べたことがある。

 ただ、お風呂で洗った時につく石鹸の泡とか、害のないものについてはその限りではないらしく、すぐに綺麗になったりはしない。放っておくとしばらくしたら消えるのは同じなんだけど。

 で、『酔い』についてはどうかというと……私自身が何度も美奈子さんとお酒を飲んでいた経験から言うと、『普通に酔う、けどしばらくすると醒める』ということがわかっている。

 なのでトンコツも放っておけば元に戻るだろうが、逆に言えば一度酔っぱらったらしばらくは戻らない、ということになる。

 構わず私は続ける。


”『ゲーム』中にユニットがリスポーンできなかったりしたら、この『ゲーム』の記憶を失うっていうじゃん?”

”ああ、そうだな”

”でさ―― 一度ユニットではなくなった人間が、またユニットになる、ってことはあるのかな?”


 これこそが、今日トンコツに一番聞きたい内容だ。

 『嵐の支配者』との戦いの際に、私たちは『ケイオス・ロア』と名乗るユニットと出会った。

 そして彼女は明言こそしなかったが、おそらくは美鈴なのではないかと思う。

 あの時はありすは意識を失っていたため彼女と直接話したわけではない。

 美鈴が再び『ゲーム』に参加しているとなれば、幾らありすでも冷静ではいられないだろうと思う。

 ……別に意地悪をしてありすに伝えないわけではない。もう一度美鈴と『ゲーム』が出来るのであれば、彼女は喜ぶだろう。桃香も……うん、まぁ大丈夫じゃないかな。もちろん私だって嬉しい。

 けど、彼女を取り巻く状況が全くわからないのが不安の種だ。

 『嵐の支配者』と戦う前、ありすと美々香が美鈴と一緒に遊んでいた日、偶然私たちと出会ったあの時――美鈴は何も言わなかった。

 戦っている最中についても、桃香を通じて美々香から色々と聞いたのだが、どうも私たちを避けて行動していた節がある。

 それに、ケイオス・ロアの去り際のセリフ……。


『いずれ、あたしたちは敵対することになる』


 これが決定的だった。

 彼女は、私たちとは一緒にはいられない。それが彼女の意思なのか、彼女の使い魔の意思なのかどちらかまではわからないけれど……。

 だからありすにはまだ話せない。少なくとも状況がはっきりするまでは。

 状況をはっきりさせるために、トンコツに尋ねるのだ。

 まずはケイオス・ロア=美鈴が本当であるかを確認しなければならない。


”んー、いや、ないな”

”え、ないの?”

”ああ、ない”


 ……あっさりとケイオス・ロア=美鈴説が否定されてしまった……いや、状況証拠だけ見ればケイオス・ロア=美鈴は間違いないと思うんだけど……。


”そんなことが出来たら、リスポーン代節約で何度もやり直しができちまうだろーが”

”そ、そりゃそっか……”


 仮にできたとしたら、トンコツの言う通りだ。

 クエストでリスポーン待ちになったらさっさとリタイアして、で、また同じ人間をユニットにしてしまえばノーリスクでコンティニュー出来てしまうか。

 まぁ、成長に注ぎ込んだジェムは無駄になってしまうだろうけど……うぅん……?


”だから俺たちは最初に選んだユニットを何より大事にするんだ。替えが効かないってのもあるし、一番長い付き合いになるのは間違いないからな”


 酔っぱらってはいるものの、これはトンコツの本心だろうと思う。

 彼は彼なりに、和芽ちゃん、それに美々香と誠実に付き合おうとしているのはわかる。もちろん私だってそうだ。

 ……そう考えると、クラウザーやマサ何とかってかなり特殊な方なんだろう。特にマサ何とかは。

 しかし、トンコツには悪いけど――その起こりえないことが起こっている、そうとしか私は思えない。口には出さないが。

 とにかく、ケイオス・ロア=美鈴はシステム的にはありえないことだということはわかった。また、万が一ありすや桃香がリスポーン不可になった場合、取り返しがつかないことになるということも理解した。


”あ、だが例外が一個あったな”

”あるの!?”

”……お前が自分でやったことじゃねーか”


 呆れたようにトンコツは言うと、手酌で神酒を注ごうとし――小瓶が空になっていることに気付く。


”おーい、あやめちゃーん、もう一本くれない?”

「はい、お持ちいたしました」


 トンコツがまるで飲み屋のおねーちゃんに注文するようにあやめに呼びかけると、小瓶が空きそうなのを既に察知していたのだろう、新たな神酒の小瓶をあやめが差し出す。

 ……私がこういう場を設けておいて言うのも何だけど、トンコツ大丈夫かな? 心なしか美々香の視線が冷たくなってるように思えるんだけど?

 って、それはそれとして……私が自分でやったこと?


”……えーっと……?”

「あの、ラビ様。わたくしのこと、ではないでしょうか」

”……ああ!”


 いかん、どうやら私も少し酔っぱらっているみたいだ。桃香に言われてようやく思い至った。

 確かに桃香についてはちょっと例外っぽい動きをしていた。


”そっか。確かに桃香――ヴィヴィアンは一度ユニットじゃなくなったんだったね”

「はい。あの時、わたくし自身も感じてました。けれど……」

”『ゲーム』終了――普通のゲーム風に言えば、ログアウトする前にもう一度私がユニットにした”

「おかげで、今もラビ様のユニットして『ゲーム』に参加できていますわ」


 これは確かに例外っぽい。バグか? と言われると……うーん、何とも言えないけど……。

 条件としては結構シビアだ。

 まず、ユニットではなくなるのが『ゲーム』内でなければならない。かつ、ユニット枠に空きのある別のプレイヤーがその場にいて、ユニットとする選択をしなければならない。

 対象がリスポーン待ちの場合はどうなるだろう? 試すわけにもいかないから予想するしかないけど、何となく出来そうな気はする。ただ、もしできた場合はリスポーン代も払う必要がありそうだけど。

 私たちの場合は本当に偶然出来たというだけだろう。

 これを狙ってするのは難しい。使い道としては結構有用だとは思う。例えばフレンド同士でクエストに行って、片方が斃れた場合にユニットを引き継ぐ時とかだ。

 ……ますます以て美鈴(ホーリー・ベル)の時のことが悔やまれる。ジュジュについてはどうしようもなかったと割り切るしかないが、少なくともあの時私にユニット枠+1があの時あれば、美鈴だけは何とかできたはずなのに……と。

 まぁ命がかかっていないのだから、そこまで深刻になる必要はないと言われるとそうかもしれないけど――トンコツは否定したものの、ケイオス・ロアのことがどうしても気になる。

 何らかの理由で彼女が利用されているのだとしたら……そして、桃香たちも同じような目に遭う可能性があるとしたら……。避けられるものは避けたい。


”ああ、しかし、旨いな……この酒。久しぶりなのを差し引いても、実に旨い”


 完全に酔っぱらってるトンコツ。

 そんなに気に入ったのか。


”家では飲まないの……って、そっか、ぬいぐるみのフリしてるんだっけ”

”あー。つーか、カナの親も酒飲まねーみたいだからな。カナたちに買って来てもらうわけにもいかねーし”


 そりゃそうだ。

 ちなみにこの国は、日本と同じで二十歳までは飲酒喫煙は禁じられている。

 私が子供の頃なんかは、親のおつかいでお酒もタバコも普通に買いに行ったりしたものだけど、これも日本同様に今は厳しいみたいだ。

 今日、この場に持ってきたお酒は、美奈子さんから譲ってもらったものだ。流石にあやめに買って来てもらうわけにもいかない――恋墨家からここへはあやめに運んでもらったんだけど。

 ……って、そうだ。それと引き換えに、あやめに頼まれていたことがあるんだった。


”話変わるけどさ、トンコツは――えーっと、マサ何とかって名前のプレイヤー知ってる? ちょっと正確な名前は私も知らないんだけど”

”……はぁ?”


 う、やっぱり正確な名前がわからないと何とも出来ないか。

 と諦めかけた私とあやめであったが、


”そいつ、どんな姿だ?”

”えーっと……”


 そういえば私は知らないんだった。

 困ってあやめの方に視線を向けて助けを求める。


「……トンコツ様やラビ様と同じくらいの大きさの、茶色い猿のような姿をしております」

”――だって”


 『エテ吉』だの『エテ公』だの口走ってたことがあったけど、本当に猿みたい。

 茶色い猿……と聞いて何となくニホンザルみたいな姿を想像する。


”……あー、あいつかー……”

”知ってるの?”

”いや、今の名前は知らん。うーん……あいつもよくわからんやつなんだよなぁ……”


 どうやら知り合いのようなものらしい。その程度の薄い繋がりっぽいけど。


”よくわからんやつって?”

”うーん、何が目的でこの『ゲーム』に参加しているのか、いまいちわからん”


 ……それはそもそも『ゲーム』が何なのかわからない私たちには推測すら難しい。


「あの、今どこにいるかとかわかりますか?」


 あやめの問いかけに、トンコツは首をひねる。


”いやー、わからん。リストでもあいつは見かけたことないような気がするなぁ……”


 頼りにならん。いや、トンコツを責めるのも筋違いなんだろうけど。

 あやめが『ゲーム』に参加している状態である以上、知らない間にマサ何とかが退場していた、ということもないはずだけど……。


「そう、ですか……」


 落胆を隠さずにあやめはそう言うと、再び部屋の隅へと引っ込む。

 うーん、何とかしてあげたいんだけど、そもそも遭遇していないからなぁ……。


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