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3.5-05. インタビュー・ウィズ・トンコツ

*  *  *  *  *




 少年少女の元気な気合の声が体育館――否、武道場に響き渡っている。

 土曜日、時刻は14時くらい。場所は七燿桃園の敷地内に建っている巨大複合体育館内、そのうちの一角にある武道場だ。

 私たちは武道場の隅で見学をしているところである。

 何を見学しているかというと……。


「……ん」

「おぉー……カナ姉ちゃん、結構カッコいい……」


 七燿桃園の武道場を借りて開催されている剣道道場――『剣心会』と言ったかな? そこの小学生の部の練習を見学させてもらっているのだ。

 メンバーは、私、ありす、桃香、美々香、それと――


”おい……”


 ちょっとだけ低い青年の声が、周りに聞かれるのを憚ってだろう小声で私たちへと語り掛ける。

 が、私たちは周囲の音が大きかったので聞こえないフリをしてスルーする。

 諦めたか、小さくため息を吐く音が聞こえた。

 ……そう、私たちの他には、我らがトンコツ先生をお迎えしての見学会である。

 ちなみに、カナ姉ちゃん――美々香の姉は中学生ではあるが、今日はちょっと私が無理を言ってOBとして剣心会の練習に参加してもらっている。あやめのようにOBが参加するのはいつものことなので、特に問題はないことは確認済みだ。




 やがて、練習が終わり自由時間となる。


「カナ姉ちゃん、結構強かったんだね……」


 見学している私たちの元へとカナ姉ちゃんこと和芽(かなめ)ちゃんがやってくるなり、美々香はそう言う。

 練習の最後の方で、試合形式で次々と相手を変えて打ち合いをするものがあったのだが、横で見ていてもわかるくらい彼女は他を圧倒していた。

 ……まぁ、相手の大半が小学生だったから、とは言うまい。高学年であれば和芽ちゃんとそう体格も変わらない――和芽ちゃんはかなり小柄で、ありすよりは少し大きいかな? と言ったくらいなのだ。

 和芽ちゃんは妹に褒められて照れているのか嬉しいのか、『ふにゃ』っとした笑顔を浮かべている。

 うーむ……彼女がシャルロットの正体だということは一応聞いてはいたのだが、あんまりそんな感じはしないかなぁ。シャルロットが小学校低学年くらいの容姿に対して、和芽ちゃんは小柄と言ってもやはり中学生だ。妹の手前もあるだろうが、『お姉ちゃん』らしく落ち着いているので余計そう思えるのかも。

 一方で、道場の方はと言うと、剣心会の主な参加者である小学生たちは終わりであるが、和芽ちゃん以外のOBと講師――聞くところによると、剣心会の講師は七燿桃園の『兵隊さん』の有志がやっているらしい――との稽古が行われている。

 小学生相手に教えている時はもちろん本気なんて出していなかったであろう大人同士の稽古は、剣道なんてさっぱりわからない私から見ても実に迫力がある。

 その中で一人だけ、他の大人よりも小さな――とは言っても小学生よりは大分大きな子供、多分中学生だろう男子が目立つ。彼もOBのようだ。

 尚、OBも参加しているとは言っても数は少ない。まぁ中学生以上になったら部活とか色々あるしね。

 普段ならあやめもよく参加しているとのことだが、今日は私が『あること』をお願いしているため不参加である。


『……ラビ様、そろそろ良いタイミングなのでは?』

『”……うん、そうだね”』


 桃香から遠隔通話が来る。

 彼女も私たちのすぐ傍にいるのだが、あえての遠隔通話だ。

 私の返事を受けて、ちらりと桃香が美々香を見る。美々香も意図を理解し、小さく頷くと――


「ねぇ、恋墨ちゃん。折角だからちょっとだけ練習していったら?」

「……ん?」

「剣心会入るかどうかはともかく、一回素振りとかしてみるのもいいんじゃない?」

「んー」


 ありすは少し迷うそぶりを見せるものの、内心では少しやってみたいと思っているんじゃないだろうか。

 元々、『ゲーム』のために武道をしてみようかと思っていた時もあったのだ。これはいい切欠だろう。


「カナ姉ちゃん、恋墨ちゃんに教えてあげてよ」

「え、あぁ、うん……」


 これも事前に私がお願いしていたことだ。

 和芽ちゃんはぎこちなく笑って頷く――が、頑なにありすと目を合わせようとしない。そ、そんなにトラウマになるようなことはしてな……いや、した、かも?


「ん、じゃあ、やってみる」


 そんな和芽ちゃんの態度に気付いているのかどうか……気づいていてもスルーしそうだけど、ありすはようやく頷いた。


『”それじゃ、ありす。行っておいで”』


 快くありすを送り出す私たち。

 ビクビクとしつつも、ありすに小学生用の竹刀を渡して、持ち方から説明を始める和芽ちゃん。

 二人の様子を見つつ、ありすがこちらに背を向けたところで――


「さ、わたくしたちは練習のお邪魔にならないように、一旦移動いたしましょう」

「さんせーい」


 桃香の提案に白々しく棒読みで同意する美々香。

 二人はそれぞれの使い魔(ユーザー)をぬいぐるみよろしく抱き上げ、そっと武道場を抜け出す。

 ――和芽ちゃん、後は頼んだ!!


”お、おい……?”


 何も聞かされていないトンコツが戸惑う声が聞こえるが、


”ほら、他の人に聞かれたら面倒だよ”

「そうそう、師匠は今はぬいぐるみぬいぐるみ」

”……”


 軽くスルーだ。

 私たちはそのまま移動、体育館も抜け出し、七燿桃園の敷地内を進み――


”お、おい?”

”まぁまぁ”


 やがて桜家――つまりは桃香の家へとたどり着き――


”ちょ、おい?”

「いーからいーから」


 家の中には入らずそのまま庭を通り抜け、家の裏手にある小さな小屋へと入っていった。


”いい加減に説明しろ!”


 と、小屋の中に入ったことで人目も完全になくなり、トンコツがついに爆発する。

 うん、まぁごめんね。そうだよね。


”ごめんよ、トンコツ。ちょっと話したいことがあったんだ”


 これは嘘ではない。

 彼と話すのは約一か月ぶりくらいだが、ちょっと色々と尋ねたいことがあったのだ。


”はぁ? だったらわざわざこんなことしなくても――”

”いや……その、ありすには聞かせたくない話もあったからさ……”


 ……そうなのだ。こんな回りくどいことをしてトンコツを連れ出したのも、ありすには()()聞かれたくない話も含まれていたからである。

 ここまで根回しに苦労した。まずは桃香と相談し、美々香を巻き込み、和芽ちゃんにもお願いをして……。


「皆様、揃われましたか」


 そこで小屋の扉を開けてあやめが入ってくる。

 彼女にも物凄く無理なお願いを色々としてたのだ。本当にあちこちに手伝ってもらって、ようやくありすがいない場を開けたと言える。

 あやめが入って来たことで慌ててトンコツはぬいぐるみのフリをしようとするが、時すでに遅し――というかあやめは既に知っているし。


「お初にお目にかかります、トンコツ様。私は鷹月あやめと申します」


 初対面で噴き出すこともなく、あやめは優雅に一礼してみせる。


”……む”


 あやめがユニットかどうかもわからないからか、それともトンコツを笑わなかったからか、微妙な表情で唸るのみだ。

 微笑みもせずクールな表情のままあやめは続ける。


「それでは皆様揃われたようなので、お飲み物をご用意いたします」

”うん、よろしく、あやめ。あ、私たちの方は――そこの冷蔵庫に入ってるのでいいんだよね?”

「ええ」


 この小屋、トイレとお風呂はないが、小さなキッチンはついており、そこに小さめの冷蔵庫もあった。キッチンというか洗面台と流し台の中間くらいの大きさの、中途半端だけど使うのには困らない程度のサイズだ。

 尚、部屋はドアから直結のワンルームだ。大きさは6畳間くらい……かな? 部屋の中央には四角いテーブルがあり、部屋の隅にはベッドもある。

 ここで暮らすのは流石に難しかろうが、周囲から隔離されて勉強とかに集中するには良い感じだ。


「あやめお姉ちゃん、わたくしとみーちゃ……美藤さんにも」

「もちろんです」


 再度一礼し、あやめは一旦小屋の外へと出る。

 さて――


”桃香と美々香ちゃんは座って待ってて。あ、トンコツも”

「ああ、いえ、わたくしが手伝いますわ」

「あ、あたしもー」


 流石に自分の飲み物くらい自分で用意しようと思ったが、私の体のサイズだと小さいとは言え冷蔵庫を開け閉めするのも一苦労だ。

 ありがたく二人の申し出を受けて手伝ってもらう。


”おいおい、そろそろ教えてくれ。お前ら、何をするつもりなんだ?”


 危害を加えられるとは流石にもう思っていないのだろう。声に不安はないが不審そうにトンコツが尋ねてくる。

 うん、準備もほぼ整ったし、そろそろ説明しないとまずいか。

 テーブルの上に載せられたトンコツに合わせ、私もテーブルへと上がり――


”慌てない慌てない。

 ところでトンコツ君。……君、お酒、好きかい?”


 とにっこりと微笑んで尋ねた。


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