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3-46. ラグナレク 13. 邪竜のごとく

2019/4/21 本文を微修正

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 ラビたちを助けるための『計画』は至極単純だ。

 アリスの持つギフト【殲滅者(アナイアレイター)】はモンスターを倒すほどにステータスを強化するものである。

 上限がどこまでなのかは不明だが、今までの経験から中型モンスターの一匹でも倒せば実感が出来る程度には強化されていることがわかっている。

 風竜は中型モンスターだ。そして、新たに出現してきた巨大鮫や触手型は大型に分類されるだろう。

 既にかなりの数のモンスターを倒してステータスが倍以上に上がっていることをアリスは実感してはいるものの、まだ()()()()と感じている。

 だから、アリスはシンプルな結論を出した。


 ――もっと、もっと、多くのモンスターを倒して極限までステータスを上昇させ、グラーズヘイムへと限界を超えた一撃を食らわせる。


 ただそれだけだ。

 そのためには幾つも魔法を使う必要はない。むしろ、下手に魔法を連射しない方が結果的にはいいと考える。

 必要なのはアリス自身の『強化』である。これは《邪竜鎧甲(ファヴニール)》、およびそれを最大まで強化させるための《滅界・無慈悲なる終焉(ラグナレク)》で済ませる。

 武器も《竜殺大剣(バルムンク)》一本あれば十分だ。また《邪竜鎧甲》で生やした触手や尻尾も武器となる。

 後は――()()()()()()のために魔力を完全回復させるキャンディを一個残しておけばいい。魔力がそこまで減るまでは、ひたすらに風竜たちを狩り続けるのみだ。


「あ、アリス……!?」


 遠くから――いや、そんなに離れてはいなかったはずだが、やけに遠くからの声に聞こえる。ジェーンが呼びかけている。

 アリスは問題ない、と答えようと口を開く。

 しかし、その口からは言葉は出ず……。


「グオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 獰猛な獣の咆哮だけが発せられる。

 今のアリスは、立ち塞がる敵を皆殺しにするためだけの存在なのだ。

 敵は四方からアリスに向かって迫ってくる。


 ――問題ない、まとめて殺す!


 既に風竜など敵ではない。所詮、【殲滅者】のための()()に過ぎない。

 彼女の目に映るのは、自身のステータスを上昇させるための材料だけだ。


「ガアアアアアッ!!」


 更にもう一度咆哮。

 視界から『色』が消える――不要な感覚は除去する。敵の姿だけわかればいい、色など不要だ。

 目に映る世界は白と黒のモノクローム。それでも倒すべきモンスターの姿がわかっていれば十分だ。

 後ろから迫る風竜へと向けて背中の四本の触手、そして尻尾を振るう。

 前から来るものは《竜殺大剣》で切り捨てる。

 触手の先端に生えた鋭い鉤爪が風竜の口内を貫き、尻尾が薙ぎ払う。そして《竜殺大剣》はまるで紙を切るかのようにあっさりと風竜を切り裂く。


「ク……ハハハハハハハッ!!!」


 まともに戦えばそれなりに苦労するであろう巨大鮫型の風竜が、成す術もなく切り伏せられ消滅していく。

 限界を超えた身体強化、それに神装の力――最初からこうすればもっと話は早かったのに、とアリスは思う。

 自らの力を振るうことに、完全に彼女は酔っていた。


 ――そうだ、()()は強い――他の、どのユニットよりも、モンスターよりも――


 誰に憚ることなく、全力で力を振るいさえすれば負けることなどありえない。例え相手が『神』であろうとも、絶望的なまでの戦力差があろうとも。

 アリスは自身の力を確信する。

 確信し、そして『神』を殺せることを自覚し、そのために動く。

 手始めに、身の程知らずにも近づいてくる()()を狩る。

 懲りずに向かってくる風竜へと四本の触手と尻尾を振るう。

 風竜の口内から頭蓋を砕き、貫き、あるいは胴体を貫き、更に後ろから迫る風竜諸共纏めて屠る。

 とどめを刺せずとも、触れるだけでアリスの全身を覆う黒炎が風竜を焼き尽くす。

 正に鎧袖一触。もはや巨大鮫の大群であろうとも、アリスを止めることは出来ない。

 それでも風竜たちは一向に引く様子はない。むしろ、彼女こそが最大の危険であると判断しているのか、より攻撃を集中させるようになる。


「好都合だ……!」


 こちらへと向かって来てくれるのであれば、わざわざ殺し回る必要もない。ひたすら来る相手を倒していけばいい。

 とはいえ、ただ巨大鮫を倒しているだけではそこまでステータスの上昇は望めない。アリスが求めているのは、もっと大幅なステータス強化だ。それも、極短時間での上昇である。時間がかかればかかるほど、グラーズヘイムに飲み込まれたラビたちが無事である確率が下がっていく。


「……あれか」


 アリスが目を付けたのは、グラーズヘイムを中心にフィールドを取り囲む巨大触手だ。アレならば、大型モンスターと判定されるだろう――もしかしたら、超大型という判定もあるかもしれない。

 また、あの触手が嵐の壁を巻き起こし、フィールドを隔絶しているのもわかる。隔絶されているからと言ってアリスには不都合はないが、やや戦場が狭くなっているのは確かだ。グラーズヘイムからの砲撃をかわす際に邪魔になるかもしれない。

 よって、優先して倒すべきと認識する。

 最初は8本あった触手だが、今は6本しかない――アリスは知る由もないが、同じようにフィールドに取り残された他のユニットの誰かが倒したのだろう。


 ――ならば、残り6本は全てオレが戴くとしよう!


 ニヤリ、と禍々しい笑みを浮かべてから一番近い位置にある触手へと向けて走る。

 道すがら立ち塞がる風竜を殺戮しながら……。




◆  ◆  ◆  ◆  ◆




「アリス!!」


 一体アリスの身に何が起こっているのか。理解が及ばずジェーンは戸惑う。

 確かに今までも戦闘狂的な一面はあったが、今のアリスはそんなものではないとわかる。

 あれは――もはや『モンスター』だ。

 アリスの姿をしているものの、その内面はもはや人間ではない。目に映る全ての存在を殺戮する、凶悪なモンスターにしか見えない。


「……っ」


 そこまで考え、ジェーンはぞっとする。

 あのアリスの前に立ったとしたら、もしかして()()()攻撃の対象となってしまうのではないか。そんな考えが頭を過った。


「……いやいや、そんなことないって!」


 頭を振り嫌な考えを振り払う。

 確かに異様な状態だとは思うし、異常な戦闘力をアリスは発揮している。それこそ、対戦したのであれば神装を使われるまでもなく瞬殺されるくらい、今のアリスとジェーンとの間の戦闘力は開いているのがわかる。

 先程使用した魔法《邪竜鎧甲》の効果で強化しているのだろうことはわかる。似たような魔法はジェーンも使える――《邪竜鎧甲》ほど極端な強化は流石に出来ないが。

 それでも――人格そのものまで変化させるような魔法ではないはずだ。そういう、ユニットの元となる人間に対しての『変化』を起こすような魔法は存在しない、と以前使い魔(ユーザー)であるトンコツから聞いたことがある。ユニットに変身することで性格が変わったように見えても、それは結局『出力』が変わっているだけであって本当に性格が変わっているわけではないのだ。

 つまり、やや乱暴な口調はともかくとして、好戦的なあの態度や思考はアリスの元となっている『恋墨ありす』のものであるということだ。アリスとなったことで何かが変わったわけではない。

 ジェーン――美々香は思い出す。一年半前、三年生になった時にありすと同じクラスになった時のことを……。


(……そういえば、()()()()()だったよね、恋墨ちゃん)


 積極的に話したりするようになったのはごく最近だが、美々香も、そして桃香も、以前からありすが本当はどういう人間かを知っていた。大人しそうな外見に似合わず気が強く、けれど正義感に満ち溢れた男前な性格。強く自己主張はしないものの、結構わがままで他人に迷惑をかけない範囲を的確に見定めては好き勝手に行動したり……。

 彼女たちがありすのことを気にしだした一件にしても――と、そこでジェーンの思考は現実へと戻る。

 アリスの方により多くの風竜が向かっているとはいえ、ジェーンの方にも相変わらず来ているのだ。

 向かってきた風竜へとブーメランを投げ、近くの敵には《火尖槍》を突き付ける。

 彼女自身のステータスはアリスよりも数段低いものの、ギフト【狩猟者(ハンター)】の効果とヴィヴィアンの召喚獣の攻撃力のおかげで、巨大鮫型の風竜でも相手にすることが出来ている。

 だが、それももうあまりもたない……ジェーンはそれを感じていた。

 こちらが敵を倒すペースよりも、増加のペースの方が圧倒的に早い。また、倒せると言ってもアリスのように鎧袖一触というわけでもない。一匹倒す間に三匹新たに寄ってくるような有様だ。

 まだギリギリ逃げながら攻撃することで防げてはいるものの、このままではいずれ取り囲まれてどうにもできなくなるだろう。


「まだ……もうちょっとだけ……!」


 『まだいける、はもう危ない』という格言を思い出すが、そんなことには構っていられない。

 ここでクエストを攻略できなければ、きっと現実世界の方の被害が拡大する。仮にここで()んだとしても、代償にジェムを払うだけで済むのだ。痛みや恐怖こそあるものの、現実世界を――家族や友人のために戦う、という使命感の方が勝る。

 風竜たちを迎え撃ちながら、そして恐れを抱きつつもジェーンはアリスの方へと向かおうとしていた……。


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