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3-43. ラグナレク 10. 異世界の中の異界

 そういえば、私がこの世界に転生してきてから一瞬でも意識が途切れたのは初めての経験な気がする。

 この感覚をどうにか自由にコントロールできるようになれば、夜も時間を持て余すことはなくなるかもしれない

 ……が、今はそんなことを考えている場合じゃない。


”……私たちは、確かグラーズヘイムに飲み込まれて……あれ?”


 周囲を見回してみるが、やっぱりグラーズヘイムの内部とは思えない光景が広がっている。

 見た目はさっきまで戦っていた草原フィールドに似ている。比較的背の高い草が一面に生い茂る見晴らしのいい平原だ。

 外と違うのは、平原の至るところに巨大な『塔』――土や岩で作られたと思しき建造物が幾つも屹立していることである。自然にできたものの可能性はもしかしたらあるかもしれないが、どれも似たような形をしているし、『窓』のような穴が幾つも開いているのが見える。また、ビルとビルを繋ぐ橋が中空には掛けられている……これは自然のものではちょっと考えにくい。

 まるでビル群のようだ。誰が作ったのかはわからないけれど、明らかに『都市』であると思える。

 天を見上げてみると、そこには灰色の分厚い雲が渦を巻いているのが見える。天気は良くないけど、不思議と辺りは明るい。


「わたくしも先程目を覚ましたところなのですが……気が付いたらここに」


 ヴィヴィアンも状況がつかめていないようだ。私と一緒にグラーズヘイムに飲み込まれたために、ここに来たということだろうか。

 ……そうだ、アリスたちはどうなったんだろう!?


”アリスは?”

「姫様は……ここにはいないようです」


 私が目覚めるまでにアリスは現れなかったことを考えると、どうもアリスはグラーズヘイムに飲み込まれるのを免れたのだろう。

 試しに遠隔通話で呼びかけてみるが……。


”……ダメだ。応答がない”


 何度呼びかけてもアリスからの返答は返ってこない。

 アリスがリスポーン待ちになっていて通じないというよりは、携帯の電波が届かない場所にいるのと同じような感覚だ。そういうアナウンスが流れているわけではないのだけど、なぜかそんな感覚がある――この『ゲーム』の訳の分からないところだけど、私がわからないだけでそういうものなのだと思うしかない。

 うーん、となると……。


”私たちはグラーズヘイムの中? にいるのかな? で、アリスは外にいる……と”

「はい。そのようです」

”体力が尽きた……ってわけでもないみたいだね”


 ヴィヴィアンのステータスを見てみたが、特に体力が減っているというわけでもなかった。飲み込まれたものの、大ダメージを受けたということではないのだろう。

 彼女も頷く。


「ええ、外で呼び出しておいた《火尖槍》や《ワイヴァーン》を召喚することも出来ませんでした。となれば、わたくし自身は無事ということに……」

”そうなるね”


 ヴィヴィアンの召喚獣は同じものは呼び出すことが出来ない。後から召喚した方が優先されるということもない。

 つまりは、飲み込まれる前に召喚した《火尖槍》とかが今呼び出せないということは、『外』にあるということになる。そして、彼女の召喚獣は魔力が尽きた瞬間に消えてしまうため、『外』にそのまま残っているとなるとヴィヴィアン自身は無事だということになる。まぁ、実際今目の前に無事でいるわけだし。

 ……うん、とりあえず私たちは実は死んでて死後の世界にいる、ということだけはなさそうだ。


”さて……ここでぼーっとしてても仕方ない。アリスと合流しなきゃ”

「はい」


 おそらく状況はこうだ。

 私たちはグラーズヘイムの内部へと飲み込まれてしまった――その内部にはなぜか草原都市が広がっているというわけのわからなさなんだけど――ために、アリスとは分断されてしまっている。

 アリスの方はと言うと、きっとそのまま外で戦っているのだろう。ジェーンもいるとは言え、あの数の敵を相手に戦うのは流石に無理がある。私がいないために回復もアイテムホルダーの分までしか出来ないのだ、途中で魔力が尽きてしまう可能性が高い。

 よって、状況は更に悪化したと言ってよいだろう。一刻も早くアリスと合流しなければならない。


”……強制転移、使ってみるかな……?”


 以前にアイテムショップで購入した、ユニットをユーザーの元へと引き寄せる機能がある。それを使えばもしかしてアリスをこちらへと呼び寄せることが出来るかもしれない。


「……差し出がましいようですが、やめておいた方がよろしいかと」


 が、ヴィヴィアンはそれを使うことを反対する。

 一応理由を聞いてみる。


「ここがグラーズヘイムの中であると仮定して、脱出方法がわからない今、姫様もこちらへと呼び寄せてしまうと――全滅の恐れがあるかと」

”そうだね”


 ヴィヴィアンの言う通りだ。

 巨大モンスターの内部に潜入して内部から破壊する、というのもありえない話ではないんだけど、現状では『どこ』を攻撃すればいいのかすらわからない。ここがもっと、いかにも『体内』って感じだったらわかりやすかったんだけど……。

 下手をすると、グラーズヘイム内部に入り込んだ時点で『詰み』という可能性もありうる。そんな状態でアリスを呼び寄せてしまったら、私たちは脱出することも出来ずに全滅が確定してしまう。まぁ私が死んだ時点で結局全滅にはなるんだけど、アリスが生きてさえいればもしかしたらグラーズヘイムを倒して外の状況を止められるかもしれない。希望は残しておくべきか。

 外側からアリスが何とかしてくれるのを待つしかない、のだろうか……。そっちはそっちで、アリスが一人で戦えるのにも限界はある。私たちの方でも脱出できないかを模索するべきだろう。


”うん、よし。

 ヴィヴィアン、《ペガサス》は呼べる?”

「はい。《ペガサス》は飲み込まれた時に破壊されてしまったようですので……」


 ……よくもまぁ私たちは無事だったものだ。もしかしたら、《ペガサス》が一緒に飲み込まれた時に庇ってくれたのかもしれない。

 とにかく、まずは移動手段の確保。そして周囲の捜索からだ。


”じゃあ《ペガサス》に乗って移動しよう。で、その後偵察用に何か呼び出せないかな?”


 自分たちで移動しつつ、更に小型の偵察機のようなものを出して捜索範囲を広げたい。

 グラーズヘイムの内部――だとは思うんだけど、明らかに外で見たグラーズヘイムよりもこの空間は大きい。自分たちだけで捜索するのは時間がかかるだろう。


「そうですね……《グリフォン》と《ハルピュイア》を呼び出しましょう。『何か』あればわたくしに伝わってきます」

”うん。それで行こう。キャンディも大分使っちゃったけど、何が起こるかわからないから私の方で回復ね”


 今のところ敵が現れる気配はないが、グラーズヘイムの内部だとしたら何が起こるかわからない。アイテムホルダーのキャンディはもしもの時のために温存しておくべきだろう。

 そして、私たちは召喚獣を呼び出し、この謎の『異界』の探索を始める……。




 《グリフォン》と《ハルピュイア》を放ちつつ、私たちは《ペガサス》に乗って『異界』の空を飛ぶ。


「……どうやら、この『塔』はビルのようですね」

”そうだね……”


 最初の印象通り、『塔』は私たちの世界で言うビルのようなものであることがわかった。近くによって見ると、『窓』と思しき穴から内部が見れる。そこから内部を覗き込んでみると、明らかに『人』が住んでいると思しき部屋があったのだ。住人らしきものは見当たらなかったが。

 何だろう、超高層マンションのようなものなのだろうか……? 覗き込んだ中にはかなり大きな部屋もあったので、マンションというよりはオフィスビルの方が近いかもしれない。


「ご主人様、あちらをご覧ください」


 しばらく飛んでいてヴィヴィアンが何かを見つけたようだ。

 彼女が指さす方向を見ると――


”……あれは、お城?”


 背の高いビルに視界を遮られていたためよく見えなかったが、少し離れたところにひときわ大きな建築物がある。

 高い山の上に、他のビルよりもより精巧な装飾を施された建造物が見える。城壁に囲まれたそれは、私の印象では『お城』が一番近い。

 そのお城の真上の空は、渦巻く雲の中心だ。

 ……あのお城がこの『異界』の中心であると推測できる。


「いかがいたしましょう?」


 ヴィヴィアンの問いに少し悩んだが、


”行ってみよう。《グリフォン》たちを先に向かわせておいて。何かあればすぐ対応できるように”

「かしこまりました」


 あそこが中心であるのだとすると、何かがあるのは間違いないと思う。

 ……おそらく、『敵』がいるのではないかと。

 このまま周囲を飛んでいても何も起こらないし、時間をかけすぎると外で戦っているアリスがどんどん追い詰められていく気がする。

 危険は承知で、私たちの方も動かなければ状況は変わらないと思うのだ。

 私の言葉にヴィヴィアンは頷き、《グリフォン》と《ハルピュイア》を先行して向かわせる。《グリフォン》たちには悪いが、敵が待ち受けているかもしれない。彼らにはカナリアになってもらおう。

 《グリフォン》たちに先行してもらいつつ、私たちも城へと向かう。もちろん、そこかしこにあるビルからも何かが出てくるかもしれないので警戒は怠らない。

 幸い、特に何かが襲い掛かってくるわけでもなく私たちも城へと到達した。


「……お城、ですね」

”……そうだね……”


 城壁にある門は開け放たれている。その先にはやはり『城』としか言えない建造物があった。

 大きさとしてはそこまで大きくない。私の世界のネズミの国にあったあの城よりも全然小さい。高さとしては地上三階か四階建てといったところか、高い山の上に建っているから巨大に見えるだけで、大きさとしては周囲のビル群の方がよっぽどの規模だ。

 無骨な作りの、戦争に備えた城という印象はない。ファンタジー世界のお城、と聞いて思い浮かべるような城だろう。


”《グリフォン》たちは?”

「今中へと侵入しているようです――あっ!?」


 何かあったか?


「……《グリフォン》と《ハルピュイア》が何者かの攻撃を受け、倒されました……」

”うーん……やっぱり『敵』がいるってことか……”


 予想はしてたとはいえ、やはりという思いが強い。

 もしかしたら、話が通じる相手なんじゃないかなとも思ってたんだけど……問答無用で攻撃を仕掛けてくるか。まぁ、《グリフォン》と《ハルピュイア》を見て様子見してくれるとも思えないから仕方ない。

 戦闘は避けられない、か。


”……行こう、ヴィヴィアン。相手の様子を見て、次の召喚を使おう”


 どんな敵が待ち受けているかわからない。内部の広さもわからないし、次の召喚は相手を見てからの方がいいだろう。

 覚悟を決め、私たちは城の内部へと突入した――


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