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3-39. ラグナレク 6. グラーズヘイム

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

2019/4/21 本文を微修正

◆  ◆  ◆  ◆  ◆




 地面へと落下していったジェーンだったが、


「あ、危なかった……サンキュー!」


 あわやというところで上空から舞い降りてきた《ハルピュイア》がキャッチ、地面への激突は免れる。

 だが安心してもいられない。比較的低空にいた風竜はジェーンへと向かってくる。

 翼を付けなおし、《ハルピュイア》と共に風竜を迎え撃つ。


「うー、ダメだ、アリスたちに追い付けない!」


 自分の身を守るのが精いっぱいで、ジェーンはとてもではないが上空まで飛んでいくことができない。

 彼女の力では風竜を数匹倒すのが精々だ。それも鮫型が倒せるかどうかで、クジラ型ともなると一撃では倒せない。

 魔力にはまだ余裕がある――ジェーンの魔法は消費自体は非常に少ないのだ――が、魔力全部を使い切っても敵を倒しつくすことはできないし、またアリスたちのところまでたどり着けそうにない。

 じゃあ撤退してしまうか、と言えばそれも難しい。ゲートまでたどり着くのも同じくらい厳しい状況だ。

 それに何より、友達が必死に戦っているのを見捨てて自分だけ逃げるというのは我慢ならない――例えアリスたちが気にしないとしても、だ。


「何とかしないと……!」


 焦るジェーン。しかし、現状の彼女の魔法では状況を打破することは難しい。

 ふと周囲を見渡すと、どこか遠くで風竜と誰かが戦っているのがわかる。おそらく、ジェーンと同じでユニットだけ送り込んで様子を見に来たプレイヤーがいるのだろう。

 だが、そちらもジェーンと同じで普段はレベル3程度の敵と戦っていると思われる。風竜の群れに苦戦しているのか、こちらへと向かってくる様子はない。


 ――いっそ、そっちと合流すべきか。


 ジェーンはそう考える。

 一人だけなら無理だが、数人で協力しあえば何とかなるかもしれない。例え一人ずつの力はアリスよりも数段劣っているとしても。


「どう思う、はるぴー?」


 一緒に戦ってくれている《ハルピュイア》に尋ねてみるが、「おまえはなにをいっているんだ?」と言わんばかりに首を傾げ、すぐに風竜へと向かって行く。

 どうやらジェーンについてきてはくれているようだが、思考力はあまりないらしい――今は「ジェーンを助ける」という命令だけをヴィヴィアンから受けているのだ。そもそも、ヴィヴィアン以外からの命令は受け付けないだろう。状況に対しての判断力はあるが、決断することは出来ない。


「うー……!」


 トンコツがいれば、あるいはシャルロットがいれば……とジェーンは思う。

 基本的にジェーンはアリスと同様に『脳筋』だ。編成的にも能力的にも『突撃役』に向いているため、今まであまり自分でものを考えることはなかった。

 対して残り二人はというと、積極的に戦闘をする方ではないものの、明らかに頭脳派だ。特にシャルロットは臆病で弱気ではあるものの、その分周囲をしっかりと見て的確な状況判断を行える。また、千里眼能力である《アルゴス》のおかげで安全なルートをジェーンに指示し、雑魚敵を最小限の戦闘で下して敵のボスへと到達させることが出来る。

 この二人がいれば、対モンスター戦に限って言えば多少格上の相手でも何とか出来るのだが……今いないものは仕方ない。ジェーンは自分自身で何とかしなければならない、と必死に考える。

 取りうるルートは三つ。アリスたちの元へ向かうか、遠くで戦っている誰かのところへ向かうか、ゲートに向かうか。


「……やっぱりアリスのところだ!」


 どのルートを通るにしても、無数の風竜が立ち塞がる。

 ならば、一番クエストの勝率が高い――敵のボスへと肉薄しているであろうアリスたちの元へと行き、共に戦うことが最良の選択であると判断する。

 決断し、行動しようとしたジェーンだったが……。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


 上空で異変が起こった。


「な、なにあれ……!?」


 大分地表に近い位置にいるジェーンからも見えるほどの巨体――白いクジラが出現する。

 あれが『嵐の支配者』の本当の姿か、ということはアリスたちはどうにか目的地までは到達できたのか、とジェーンは一瞬安堵する。

 しかし安堵するのも束の間――


「え、え? あれ……?」


 飛ぼうとしても上手く飛べず、バランスを崩す。


「な、なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」


 周囲の風が乱気流となり、そして――『竜巻』となりジェーンの体を上空へと引っ張り上げようとしているのだ。

 決して自分たちの味方ではない、それはわかる。

 しかし、地表のもの全てを上空へと巻き上げる竜巻のパワーには敵わず――ジェーンは一気に上空へと放り投げられていた……。




*  *  *  *  *




 『嵐の支配者』――その真の名は、神獣『グラーズヘイム』。モンスター図鑑にはそう登録されている。

 あれを倒さない限りこのクエストは終わらないし、今現実世界を襲っている爆弾低気圧も消えることはないだろう。もしかしたら、勢いだけでなく範囲も広げて、爆弾低気圧どころか台風並みの広範囲にとんでもない被害を及ぼす可能性もある。

 アリスは【殲滅者】のおかげで大分ステータスが強化されており、既に風竜程度ならば一撃で倒すことが出来るくらいにはなっているが……それでもグラーズヘイムを倒すにはまだまだ攻撃力が不足しているような感はある。

 ――で、グラーズヘイムを引きずり出せたはいいが、私たちはその後防戦一方となっていた。


「くそっ! 近づけない!」


 近づくどころか、攻撃を回避するので精一杯だ。

 無数の風竜はいつの間にか大分数を減らしている。よく見ると、大半の風竜は自らグラーズヘイムへと近づいていき、『融合』しているようだ。

 嵐の眷属というわけか。アリスが『放っておくとよくない気がする』と言っていた予感が当たったか。風竜を吸収して、どんどんグラーズヘイムの巨体が更に膨らんでいくのがわかる。

 結局のところ、風竜は所詮グラーズヘイムの一部なのだろう。本体が姿を現したことにより、弱めの風竜は不要となって本体へと融合。完全体へとなろうとしている。

 まぁこの状況を見ると雑魚を幾ら蹴散らしてもグラーズヘイムのパワーアップは余り止められなかったかもしれないけど……。

 それはともかく、私たちはグラーズヘイムから放たれる攻撃を回避し続けるので精一杯だ。


「くっ……《ワイヴァーン》でもダメのようです……!」


 必死に《ペガサス》を駆り敵の攻撃を回避し続けるヴィヴィアンが言う。

 見れば《ワイヴァーン》はいつの間にか現れた風の柱――地上から伸びる竜巻に絡めとられ、動きを封じられてしまっている。脱出しようにも竜巻の勢いには勝てないようだ。

 出現した竜巻は計8本。グラーズヘイムを中心に円を描くようにして出現している。風竜たちもその竜巻へと巻き上げられ――いや吸収されているようだ。

 ……拙いな、あの竜巻、おそらくしばらくしたら風竜となって襲い掛かってくるんじゃないだろうか。グラーズヘイム一匹でも辛いのに、雑魚の代わりに大物が現れたとしたら手が付けられない。


「ヤバい、来るぞ!」


 アリスの警告の後、私たちはその場から飛ぶ。

 グラーズヘイムの周囲に唐突に現れた『水の渦』――そこからまるでレーザー砲のように水が発射される! 直撃した時のことなど考えたくもない。

 水レーザーは空を裂き、地面まで到達。地面へと深い亀裂を刻む。

 ……うん、食らったら一発で終わりっぽい。

 更にグラーズヘイムの周囲には風が渦巻き、魔法を弾くバリアが作られている。アリスが《赤色巨星(アンタレス)》を撃ち込んでみたが無駄だった。


”本体はバリア、離れてても水レーザー、それに竜巻……”


 圧倒的すぎる。流石にレベル9は伊達じゃない。明らかにテュランスネイルよりも強い。

 こちらからはグラーズヘイム出現後に碌にダメージを与えられていない。それでいてこちらは回避や迎撃のために魔法を使い続けている。

 このままでは魔力が尽きてしまう……!


「――ほわぁぁぁぁぁぁっ!?」

”……ジェーン!?”


 と、その時竜巻の中からジェーンの悲鳴が聞こえてくる。

 どうも地上から巻き上げられてきたらしい。

 彼女もこちらに気付くと、何とか脱出しようともがく。


「リコレクト《ワイヴァーン》、サモン《ワイヴァーン》!」


 竜巻に捕らえられた《ワイヴァーン》をリコレクトし、新しく呼びなおしてジェーンの方へと向かわせる。

 《ワイヴァーン》がジェーンへと突進、


「ボロウ《尻尾(テイル)》!」


 ジェーンは新しく太い尻尾を生やして《ワイヴァーン》に捕まり、そのまま強引に竜巻を突破して脱出する。捕まった《ワイヴァーン》は再度リコレクトしてまた呼びなおす。

 《ワイヴァーン》に乗っかり、ジェーンは再度の落下は免れた。


「し、死ぬかと思った……」

”よく無事だったね……”


 全身あちこちに傷を負っているものの、命にかかわるほどのダメージは受けていないようだ。グミで回復している。

 けがの功名……と言っていいのか、竜巻に巻き込まれたことで私たちのところまでショートカットしてきたらしい。意図的ではないだろうけど……。


「サモン《火尖槍》――ジェーン様、これを!

 ……あ、《火尖槍》を《ワイヴァーン》に接触させないようにお気を付けください」


 ジェーンのために《火尖槍》を作って渡してあげる。彼女の攻撃力不足はいかんともしがたいが、ギフトの能力に加えてヴィヴィアンの武器があれば大分マシになるだろう。

 《ワイヴァーン》と接触させないことだけは一応忠告しておく。今度地上に落ちたら二度と合流できないかもしれない。

 ともあれこれでこちらは手数が増えた。何とか打開できないものか私は考える。

 ……が、考える隙を相手は与えてくれなかった。


「! ご主人様、失礼を!」

”え……?”


 突如ヴィヴィアンが私を抱きかかえたまま《ペガサス》から飛び降り、


「サモン《イージスの楯》!」


 すぐさま《イージスの楯》を召喚する。

 理由はすぐにわかった。私たちのすぐ側に、あの『水の渦』が出現していたのだ。本体から離れた位置にも出現させられるのか!?

 放たれた水レーザー砲を《イージスの楯》で受け止める――《ペガサス》に乗っているままだと、《イージスの楯》とどうしても接触してしまうため弾かれてしまう。だからヴィヴィアンは飛び降りたのだ。


「使い魔殿! ヴィヴィアン!」


 水レーザーに追いやられて私たちとアリスの距離が離れてしまっている。アリスが警告の声を上げたが――遅かった。

 上空から一直線にこちらへと向けて、グラーズヘイムが降下してきたのだ!


「ご主人様!!」


 ヴィヴィアンが私を抱き、咄嗟に体を丸める。

 そんな私たちを――グラーズヘイムはその巨大な口で丸呑みにした……!


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