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3-38. ラグナレク 5. 神への一撃

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

「ジェーンは!?」

”わからない!”


 落ちていくジェーンを助けにも向かえない。可哀想だが、彼女には自力で何とかしてもらうしかない。


「いえ、大丈夫です。《ハルピュイア》が一匹向かっています」


 と思いきや、既に召喚済みの《ハルピュイア》がジェーンの方に向かってくれているらしい。なら一旦任せよう。

 今は私たち自身の方がピンチだ。

 小型魚群――ダツ型の群れまで現れるなんて……ただでさえ相手の数が多いというのに、小型は鮫型とかよりも何倍も多く現れる。というか、モンスターとして現れたというより、攻撃手段の一つとして現れている気がする。攻撃が終わったらさっさと姿を消してしまうのだ。

 敵の包囲網はちゃくちゃくと狭まってくる。突破も難しくなってきたか……?


「くそっ……使い魔殿、神装を使う! キャンディを頼む!」


 いちかばちか、アリスが神装の使用を求めてくる。

 一撃でこの群れを突破できるとは到底思えないが、包囲網に『穴』をあけることくらいは出来るかもしれない。


”わかった!”


 出し惜しみして負けるよりはマシか。私が近くにいれば回復も出来るし、撃てる時に撃ってしまうのもありだろう。

 アリスの言葉に了承を返す。


「行くぞ!

 sts『神装解放』――ext《嵐捲く必滅の神槍(グングニル)》ッ!!」


 使うのは《嵐捲く必滅の神槍》、属性的には余り風竜には有効ではないとは思うが、単純な攻撃力だけで押し切るのであれば問題ない。


「おりゃあぁぁぁぁっ!!」


 アリスが狙うのは私たちを取り巻く風竜――の更に先にある嵐の中心、『嵐の支配者』と思しき『目玉』だ。

 一気に親玉も狙うか! いや、合理的と言えばそうか。

 すかさずアリスにキャンディを使って魔力を回復。


”このまま突っ切るよ!”

「はい」


 《嵐捲く必滅の神槍》を追ってアリスとヴィヴィアンも一直線に飛ぶ。

 途中に立ち塞がる風竜は神槍がなぎ倒していってくれている。これなら届くか……!?

 だが、そんな私たちの期待を裏切るように、風竜たちが『嵐の支配者』を庇うように次々に神槍の進路に立ち塞がる。

 テュランスネイルの触腕をも貫く神槍はそれをものともせずに突き進んでいくが、やがて段々と勢いを失っていってしまう。


「……くそっ!?」


 神槍ですら届かないのか!? 『嵐の支配者』に到達するよりも前に神槍は勢いを失い、止まってしまった。

 これは……かなり拙い状況だ。取り巻きを蹴散らすのも難しいし、かといって一気に親玉を狙うことも出来ない。

 連発すればもしかしたら届くかもしれないが……。


”後ろから来る!”


 前に展開されていた軍団は神槍が倒したが、後ろから次々と新手が押し寄せてくる。

 更に悪いことに、空中のあちこちから再度風竜が湧き出てくる。

 ……これはもう間違いないかな。多分『嵐の支配者』がいる限り、風竜たちは無限湧きしてくるのだろう。多勢に無勢どころじゃない――絶望的すぎる戦力差だ。

 レベル9は伊達じゃないというところか。

 でも裏を返せば、周辺の眷属が無限湧きなのだから本体まで攻撃を届かせることが出来れば、本体の戦闘力はそれほどでもない……という気もする。そうだといいなぁ……。


「ちっ……cl《赤・巨神懐星群(メテオクラスター)》!」


 背後から迫る風竜たちへと向けて広範囲爆撃魔法を放つ。

 幾つかの巨星はクジラ型に飲み込まれてしまうが、それでも何発かはその他の風竜を薙ぎ払う。しかし数が一向に減らない。


「サモン《フェニックス》!」


 再度ヴィヴィアンも《フェニックス》を呼び出し自身の周辺の敵を攻撃する。

 だが相手ももう《フェニックス》の対処法はわかっているのだろう、ダツ型とシャチ型を集中的に向かわせて鮫やクジラは近寄っても来ない。

 じりじりと押されて行っているのがわかる。かといって今更引くことも出来ないほど、私たちは食い込んでしまっている。

 落ちていったジェーンも気になる。彼女の方に集中的にモンスターが向かってしまったら、一人では対処しきれないだろう。逃げ回って私たちと合流しようとしても、さっきと違って私たちもだいぶ上空へと昇って来てしまっている。飛行能力にはあまり自信がないと言っていたし、敵を突破して合流するのは難しい。

 進むも地獄、引くも地獄――どうするべきか。

 ……いや、考えるまでもない。


”アリス、もう一発だ! ヴィヴィアン、回復するから《フェニックス》以上の何か――飛べる召喚獣を!”

「! わかった!」

「かしこまりました!」


 進むのも引くのも難しいのであれば、ここは進むを選択すべきだ。どちらが生き残る確率が高いかはわからないけど、逃げれば逃げるほど敵の数は増え追い詰められていくのは疑いようがない。

 なら、私たちの取るべき道は、前へと進むことだ。

 アリスとヴィヴィアンにそれぞれキャンディを与えて魔力を回復させ、最大の攻撃力で突破する!


「ext《嵐捲く必滅の神槍》!」

「サモン《ワイヴァーン》!」


 再度アリスの神槍が『嵐の支配者』へと向かう。

 同時にヴィヴィアンが呼び出したのは《ワイヴァーン》――巨大な飛竜だ。特殊な効果は持っていないが、《フェニックス》よりも大きく、かなり頑丈なのがわかる。力任せに飛び回り、次々と風竜を蹴散らしていく。

 『嵐の支配者』を守ろうと風竜が神槍を妨害しようとする。そこまでは前回と同じだ。

 今回は違う。すぐさま二人にキャンディを与え――


「cl《赤・巨神懐星群》!!」


 アリスは続けて『嵐の支配者』の方へと向けて魔法を放ち風竜を倒そうとする。

 そして私たちは再び前進、周囲に寄ってくる雑魚は《ワイヴァーン》に任せてひたすら『嵐の支配者』を目指す。

 一撃でダメなら二撃、それでもだめなら三撃目だ。

 邪魔者を蹴散らしつつ神槍がついに『嵐の支配者』へと到達する!


「よし!」


 途中で風竜たちが妨害しようとしてたが、今度は勢いを全て殺されずに命中した。

 嵐の中心にある巨大な目玉の中心に神槍は突き刺さる。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!


「うおっ!?」


 巨大な風のうねりにも似た咆哮がフィールドに響き渡る。

 効いてるのは間違いない。

 やはり風竜たちさえいなければ、『嵐の支配者』そのものの戦闘力はそれほどでもない……のか?


「……これ、は……」


 ――私の甘い予想はあっけなく打ち砕かれた。

 アリスの神槍を受けた目玉が、瞼を閉じるようにして消える。

 倒した……わけではない。

 レーダーに巨大な反応が現れる。

 いや、今までフィールド全体を覆っていた反応が徐々に一点へと収束しているのか。


「あいつが……『嵐の支配者』か!」


 閉じられた瞼の部分から、一匹のモンスターが現れる。

 見た目は『クジラ』だ。風竜にもクジラ型のものはいたが、大きさはその比ではない。テュランスネイルよりも更に大きな白いクジラが現れた。

 他のクジラと異なるのは、頭部から二本の巨大な角が生えていること、普通のクジラよりも大きな翼の形状をした胸鰭が一対。その後ろの胴体部分からはやや小型のやはり翼の形状をした腹鰭が三対。尾びれはないが、代わりに長い尻尾が生えている。その先端には無数の棘が生えている。

 煌々と輝く紅い瞳がこちらを捉えている。その視線からははっきりとわかるほどの『敵意』が満ちている。

 ……周囲の眷属を倒して本体に攻撃を加えられるならば勝てる、などというのは甘すぎる幻想だった。

 あれこそが『嵐の支配者』――テュランスネイルですら及びもつかない、『レベル9』の神獣なのだ……。


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