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3-37. ラグナレク 4. 空中戦

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

2019/4/21 本文を微修正

 私たちの目標は決まった。上空にある『目』――『嵐の支配者』本体だ。

 が、向こうもこちらが気づいたことに気付いたらしい。動きが変わる。


「新手か!」


 こちらへと向かってくる風竜に、クジラ型とも違う新たな姿の風竜が混じってきた。

 他の風竜は全て白一色なのだが新たな風竜の色は鮮やかな水色の――イルカ? あるいはシャチだろうか、ともかく今までとは異なるモンスターだ。


「何となく属性が違う気がする」


 ジェーンはそういう。

 確かに。色からして『風』というよりは『水』の属性な気はするな。『嵐の支配者』の眷属ということを考えれば……風竜は暴風の化身、あの新手は『大雨』の化身といったところか。


”《フェニックス》をぶつけるのはちょっと怖いかな。

 ヴィヴィアン、《フェニックス》は他の風竜に向けさせて! クジラはアリスが。ジェーンはあの新手を任せていい?”

「任せてもらっていーよ!」


 今更だけど、私が指図していいのだろうか?

 まぁトンコツがいないし仕方ない。彼女に無理させないよう、気を付けよう。


「よし、それじゃ『嵐の支配者』のところまで――突破するぞ!」


 アリスを先頭に私たちは一直線に嵐の中心へと向かう。

 ……と、その前に。


”ジェーン、悪いけど君の能力確認させてもらっていい? 『スカウター』使うけど”

「あー、そうね。どうせ戦えばわかることだし、いいよ」


 トンコツには悪いけど、一緒に戦うのであれば能力は知っておきたい。彼がいればジェーンは任せておけるから知る必要もないかもなんだけど。


「使い魔殿、来るぞ!」

”うん、さっき言った通りで! とにかく突破して『嵐の支配者』のところまでたどり着こう!”


 のんびり見ている余裕はないか。戦いながら確認するしかない。


「よし、ヴィヴィアン、あんがと! こっからは自力で飛ぶわ!」

「はい。お気を付けて」


 《ペガサス》の背中からジェーンが飛び降りる。

 そのままだと落下するだけだが……。


「ボロウ――《(ウィング)》!」


 彼女が魔法を使うと共に、その背に巨大な鳥の翼が出現する。


「アクション《フライ》!」


 立て続けにもう一つ。次の魔法で翼が羽ばたき、彼女の体を空中へと押し上げる。

 スカウターで見たジェーンの魔法、一つは『ボロウ』――borrowかな? 意味は確か『借りる』とかだった覚えがある――自分の体に()()部位や器官を一時的に付ける魔法だ。

 そしてもう一つが『アクション』。ジェーンの体にある器官を使って『何か』を実行する魔法だ。

 今の場合だと、まずボロウで翼を生やし、アクションで飛行能力を得たということになる。ボロウを使用しなくてもアクションは使えるが、あくまで『今時点でジェーンの体にある器官』のみが対象となる。飛行したければ翼をまずはやさなければならない。


「行け、『牙神』! アクション――《パワースロー》!!」


 『牙神』――彼女の持つブーメラン型の霊装を握りしめ、大きく振りかぶり投擲。吹き荒れる暴風をものともせずにブーメランは空を裂き風竜たちへと向かう。

 投擲直前に使ったアクションは《パワースロー》。おそらくは彼女には腕力強化が施されたのであろう。

 『何か』を実行するというのは非常にあいまいだが、アリスの魔法と同じく『やろうと思ったこと』を実現する魔法なのだと思う。ただし、制約としてジェーン自身の肉体を使ったものに限る、というものがある。ジェーンの肉体で実行可能であれば、諸々の強化も一遍に行えるのだろう。アリスのextと似たようなものか。

 もう一つ、彼女には強力な武器がある。それこそが彼女のギフト――【狩猟者(ハンター)】だ。

 ブーメランが風竜に当たり、あっさりと体を引き裂きそのまま勢い衰えず次々と風竜を撃墜していく。


「おお、何だ、ジェーン結構攻撃力あるじゃないか!」


 クジラを拘束、炎上させながら様子を見ていたアリスが感心したように言う。


「んー、ま、モンスター限定だけどねー」


 彼女のギフト【狩猟者】の効果は非常にわかりやすい。内容は『モンスター相手に対して与ダメージ上昇、被ダメージ減少。モンスターの気配を探知する』というものだ。

 なるほど、彼女が対戦を苦手としているのもうなずける。完全にモンスター戦特化のギフトだ。今回のクエストでは特に頼りになる能力である。

 返って来たブーメランをキャッチ、再度パワースローで投擲する。

 近づいてくる風竜もいるが、こちらはヴィヴィアンの呼び出してある《フェニックス》が逃がさない。

 このままの勢いで『嵐の支配者』までたどり着けるか……? そう思いたいが、敵もそのままやられる一方ではない。というより、ジェーンが増えてもまだまだ敵との圧倒的物量差は覆らない。

 というのも、ジェーンの攻撃力がやはりアリスたちに比べると低いのだ。ギフトのおかげでステータス以上のダメージは与えられているはずだが、元々のステータスが低いため、結局のところアリス程の威力を出せていない。

 ……いや、きっと()なんだろう。アリスの方が強すぎるのだ。

 さっきのジェーンの話からすると、トンコツを含めた他のプレイヤーのほとんどは、今はレベル3――火龍やらスフィンクスやらの相手をするのが精々というところなのだろう。ちょっと背伸びしてレベル4に挑めるかどうかだろうか――レベル4に該当しそうなモンスターはゴーレム辺りかな。

 だからジェーンの攻撃の威力は決して低いわけではないのだろう。レベル3と言われた風竜にしっかりとダメージを与えることは出来ている。一撃で倒すことは出来ていないようだけど、腕や足を切り落として飛行能力を奪うことは出来ているのだ。それで本来は充分なのだ。

 なぜ私たちだけレベル以上の相手とばかり戦うことになっているのか。そして、それを倒せるアリスの謎もある……。が、それは今は考えるのはやめよう。いつも通り、考えたってわかるわけないし。

 問題なのは、ジェーンが増えても今の状況を覆すことができないという事実だ。助けにはなっているが、状況にそれほど変化は起きていない。


「……また新手、でしょうか?」


 召喚獣に攻撃を任せているため周囲を見回す余裕のあるヴィヴィアンが最初に異変に気付く。

 鮫、クジラ、シャチと比較的大型の風竜に混じって幾つかの見慣れない風竜が現れる。

 かなり小型の――細長い……魚?

 ……あっ、拙い!


”アリス、ジェーン気を付けて!!”


 私がその細長い魚の正体に見当をつけて二人に警戒を呼び掛けるとほぼ同時に、私たちの正面に展開した魚群が一斉にこちらへと『突進』してくる。


「ぎにゃぁっ!?」

「ぐっ!」


 超高速で飛来してくるその魚群――アリスとジェーンはかわしきれなかった。


「お、落ちるぅぅぅぅ!?」

「ジェーン様!」


 魚がジェーンの翼に突き刺さり穴を開け――ジェーンは地上へと真っ逆さまに落ちていく。

 アリスもある程度は魔法で弾いたようだが、かわしきれなかった魚が左肩に一匹()()()()()()いる。

 鋭い刃にも似た魚――確か、『ダツ』だっけ? あれの風竜版だ。それが刃の雨となって降り注いできたのだ。しかも、的確にアリスとジェーンを集中的に狙って。


「く、そっ!?」


 突き刺さった魚を無理矢理引っこ抜き吐き捨てる。

 アリスたちの攻撃が止んだ瞬間を見逃さず、鮫たちが一斉に襲い掛かる。


「《フェニックス》!」


 ジェーンを助けに行きたいが、こちらも動けない。

 アリスの左肩も治してあげたいが、空中では《ナイチンゲール》も使えない――飛行能力がないので召喚しても地上に落ちてしまう。

 とりあえず《フェニックス》をアリスのカバーへと向かわせる。

 だが、今度は《フェニックス》に向かってダツ型が一斉に飛来する。

 《フェニックス》の全身にダツが突き刺さるが、自己再生能力を持つ《フェニックス》ならば――いや、ダメだ! そのすぐ後に水色のシャチ型が突進してきて《フェニックス》を呑み込む。


「あ、《フェニックス》が……!?」


 不死身のはずの《フェニックス》が全身の炎を消され、そのままボロボロと崩れていってしまう。流石に完全に不死とまではいかないらしい。

 リコレクトも間に合わず《フェニックス》が倒されてしまう。


「cl《雷星ライトニングミーティア》、mp――ext《雷星雨ライトニングミーティアレイン》!!」


 《フェニックス》の炎を無効化したことからシャチ型には炎は有効ではない、そう見たアリスが雷の魔法を放つ。

 巨星系魔法よりは大分威力は落ちるが、その分速射に優れた星系魔法だ。

 シャチを打ち抜き、周囲へと電撃をまき散らすが――クジラやシャチ型には余りダメージを与えられていない。


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