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3-18. キング・アーサー討伐戦 11. 聖剣王とバーサク姫

2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正

*  *  *  *  *




 アリスの放った黒い聖剣――いや、『魔剣』の一撃はキング・アーサーへと直撃した。

 食らう直前に《ヒュドラ》を『槍』によって破壊し、カウンターとしてアリスに向けて《王剣無双・一刀斬破》を放ちはしたものの……降り注ぐ『黒い光』は聖剣の光を呑み込み、真っ黒に塗りつぶしてしまっていた。

 ……凄まじい威力だ。元の《エクスカリバー》の威力はもちろん、《嵐捲く必滅の神槍(グングニル)》等の神装さえも凌駕している。それでいて、アリスの魔力消費はそこまでではない。確かに神装らしく大きな消費はしているものの、《神馬脚甲(スレイプニル)》よりも少ないくらいである。威力と消費が逆の意味で見合ってない……何か罠というか裏がありそうな気はするが、それを確かめるのはとりあえず後回しだ。


”キング・アーサーは!?”


 それよりもキング・アーサーはどうなっただろうか。

 確信できる。さっきのあのアリスの攻撃――あれはおそらく、私たちが行える最大威力の攻撃だ。これで倒せないとなると……もはや打つ手がないかもしれない。後はキャンディがなくなるまでひたすらアリスが神装を撃ち続けるという方法しかないが……《エクスカリバーの鞘》を使われたら終わりだ。


「……そんな……」


 震える声でヴィヴィアンが言う。

 彼女が指さす方向には……。


”……アレでもダメなのか……!?”


 通常の《極光聖剣・一刀両断》と異なり、熱も爆風もない。ただ、『黒い光』が放たれ――触れた部分が『消滅』していくだけだ。

 その『黒い光』が消えた跡に、キング・アーサーは尚も立っていた。

 ただ、全身のあちこちはまるで侵蝕されたかのように黒ずみ崩れ落ちている。手足も千切れている箇所もあり、立っているのが不思議な程のダメージだ。というか胴体も抉れているし、生き物なら普通死んでいる。


”追撃を!”


 いかに深いダメージを与えたとしても《エクスカリバーの鞘》を使われたら無に帰す。

 この攻撃を無駄にするわけにはいかない。二人へと攻撃の指示を出す。


「……は、あ、あぁ……」


 しかし、アリスは動かない――いや、動けない?

 地面に降り立ち、剣を振り下ろしたままの姿勢で動かないでいる。

 目は見開かれ、体は小刻みに震えている――もし近くで見たら、全身に冷や汗をかいているのがわかるのではないだろうか、顔色も真っ白になっている。

 ……さっきの攻撃の代償、か?

 体力も魔力も特に危険な減り方をしているわけではない。だが、明らかにアリスに何かしらの負担がかかっている。

 アリスが動けないことを見て、ヴィヴィアンがサモンをしようとする。


『キング・アーサー……』


 そしてキング・アーサーもまた、崩れかけた体を引きずるようにしてアリスの元へと歩み寄る。

 一歩進むごとに体が崩れ、三歩目で右腕がぼとりと落ち、五歩目で左足が崩れて地面へと倒れる。

 だというのに、ゆっくりと彼はアリスへと近づこうとする。


「……貴様……」


 苦しそうに、だが瞳の力は衰えず、アリスは近づくキング・アーサーを睨みつける。

 どちらも満身創痍といった様相だが……。


『――見事である』


 もはや歩み寄ることも出来ず、片足だけで立ち上がり、まっすぐにアリスの視線を受けてキング・アーサーがそう言う。

 ……喋れたんだ、あいつ……。

 言われたアリスもぽかんとしているが……。

 満足そうに頷くと、キング・アーサーの姿が掻き消え――後には何も残されていなかった。


「……倒した、のでしょうか……?」

「さ、さぁ……?」


 もはや襲い掛かっては来ないだろう、私たちもアリスのすぐ側に寄る。

 やはり近くで見るとかなり消耗しているのがわかる。

 ……って。


”あれ? 何か《エクスカリバー》が光ってない?”


 アリスの手に持つ《エクスカリバー》が再び輝きを取り戻している。

 これは……まるで一番最初に召喚した時のような……。

 はっとしたようにヴィヴィアンが『全書』を捲る。

 彼女が開いたページは《エクスカリバー》が載っている。そこに、一行の記述が追加されていた。


『――聖剣はあなた()()を所有者として認め、真の力を開放した』


 と。


「……もしかして、あのキング・アーサーは、《エクスカリバー》の守護者だったのでしょうか……?」

”そうかも。

 あ、それに《エクスカリバー》って確か――”


 私はまたもや思い出した。

 元ネタの《エクスカリバー》って、確か相応しい所有者を選ぶとかなんとか、そんな伝説があったような……まぁそのあたりの伝説は色々な聖剣やら魔法の武器にありそうだけど。

 そうなると、ヴィヴィアンの言う『《エクスカリバー》の守護者』という言葉も頷けるものがある。《エクスカリバー》を召喚したはいいが、それを扱うに足るかどうかを判定する役目を持っていたと……まぁそう考えればわからないでもないだが、問題は――これってイベントでもなんでもなく、ヴィヴィアンの魔法で作られたものだってことなんだよねぇ……。

 うーん……わからないことだらけだ。推測するにも頭が上手く働かない。状況についていけていないというのもあるけど……。


「お、モンスターがやっときたな!」


 そこでキング・アーサーがいなくなったことを知ったか、ようやくクエストの討伐対象のモンスターがやってきた。

 今更だけど、キング・アーサーがいないのだから自分たちで倒す必要がある――いや、まぁ自分たちで倒すのが当たり前なんだけどさ。何かしばらくの間、キング・アーサーに全部横取りされて自分たちで戦っていなかったからなぁ……。


「ふむ、《エクスカリバー》の真の力か……。

 使い魔殿、ヴィヴィアン」


 さっきまでの疲れ、というか後遺症は癒えたのか、キラキラとした笑顔でアリスが問いかける。

 何が言いたいのかはわかりやすいほどわかる。


”……いいよ、好きにしなよ”

「はい。すべては姫様の御心のままに」


 わざわざ拒否する理由もない。

 折角『真の力』とやらが開放されたらしいのだ。キング・アーサーなんていうお邪魔虫が出てこないのだから、どれだけの性能を秘めているのかは確認しておきたい。

 私たちの許可を得て、うきうきとアリスが迫りくる風竜の群れへと《エクスカリバー》を振りかぶり――




 ……たった一撃で風竜を全滅させ、平原を地獄絵図へと変えたのだった……。

 これは……流石に強力すぎる……。


”……おや? 何かちょっとおかしい、ような……?”


 絶対に何か落とし穴があるはずだ、と二人の様子を見ていて私は気づいた。

 ヴィヴィアンのステータスが何かちょっと減っているような……?


「……どうやら、代償として魔力の代わりにステータスを消費する武器、のようですね……」


 表情一つ変えずにヴィヴィアンが言う。

 『全書』に記載される情報は、召喚獣を使うたびに増えていくことがある。新しい能力が発揮したり、ヴィヴィアンの『思い』によって性能が変化することがあるためだ。また、『全書』の機能で、召喚獣のカスタマイズをすることも出来る。

 で、それによると、《エクスカリバー》は振るうたびにヴィヴィアンのステータスのどれかを消費――減少させるのだという。


”……よし、封印決定!”

「「えー」」


 私の決定に二人は揃って不満の声を上げるが、流石にこれはいくら何でも二人のわがままは聞いてあげられない。

 ただでさえ体力特化の歪なステータスなのに、《エクスカリバー》を使うたびにランダムで減らされるのだとしたら――特に突出している体力が減る分にはまだマシだが、魔力が減ってしまったらかなり痛手だ。アリスの神装と違い割合消費ではないので、下手すると《イージスの楯》が使えなくなるくらい魔力が下がるということもありえる。

 これは本当の意味での切り札となる。よっぽどの事態でもなければ使いたくない。

 ……まぁ、前向きに考えるなら、そんな事態が来た時にぶっつけ本番で《エクスカリバー》を召喚していたら、キング・アーサーまで現れるという最悪にして最低の事態に陥っていただろう。そういう事態は起こらなくなったと考えれば……まだマシ……かなぁ……?

 クエストを無事クリアできたというのに、がっくりと肩を落とすアリス。心なしかヴィヴィアンもしょんぼりしているように見える。


「うあー……まぁ確かにヴィヴィアンのステータスが下がるのは困るけど……。

 こういうの何ていうんだっけ? えっと、『大山鳴動して鼠一匹』?」

「うーん、あるいは『いい話には裏がある』でしょうか?」


 いや、『骨折り損のくたびれ儲け』かな。ヴィヴィアンのはことわざでも故事成語でもないし。




 ま、そんなこんなでキング・アーサーは撃退され、私たちは強烈すぎるデメリットを持つが、強烈すぎる威力を持つ《エクスカリバー》を手に入れることとなったのだった。

 ……ただ一つ、アリスが最後に使った《滅界・無慈悲なる終焉(ラグナレク)》――これだけはちょっと気になるんだけど……。使った後にアリスがやたらと調子悪そうだったけど、体力も魔力も大して消費していないし、よくわからない魔法だった。いずれ、どういう魔法なのか本格的な調査は必要だろうけど、あまり使わせたくないなぁ……。

 とにかく無事にキング・アーサーの問題を解決することが出来た。これからは予定通り、アリスとヴィヴィアンの二人でクエストに挑んでいくことが出来る――ヴィヴィアンもまだ自分自身に自信は持てていないようだけど、私たちと一緒に戦うことは拒否しない。むしろ喜んでくれているようだし、まぁ彼女の気持ちの問題は時間が解決してくれるだろうと思う。

 クラウザー戦、その後はありすが風邪をひいてクエストに行くことが出来ず、そしてキング・アーサーの登場……思うようにクエストに挑戦できない日々が続いていたが、それも終わりだろう。




 ――この時、私たちは完全に『もう一つの異常事態』について完全に失念していたのだった。

 そう、キング・アーサーが登場した時にいた、風竜と共にあった謎の少女のことを……。


小野山です。

キング・アーサー編は今回で最後となります。

次回からは『ゲーム』外でのお話となります(とは言え、日常編とも言い難い…)。

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