3-16. キング・アーサー討伐戦 9. 恐るべき王
2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正
「……リコレクト《グリフォン》」
と、ヴィヴィアンが《グリフォン》だけをリコレクトする。
「……なんでしょう、何か、嫌な予感がいたします……」
ヴィヴィアンもまた私同様の不安を覚えたらしい。《グリフォン》をリコレクトし、別の召喚獣をいつでも使えるように備えているのか。
でも……うん、彼女も何かを感じているのであれば、その予感は大事にしたい。
”そうだね。ヴィヴィアンはいつでも召喚獣を使えるようにしておいて。使ったらキャンディですぐに回復するから”
リコレクトによって魔力を回収できるとはいえ、常に魔力は満タンをキープしておきたい。ケチっていたらいざという時に魔法が使えなくなってしまう――以前にも触れた通り、アリスと違いヴィヴィアンの場合は魔力切れと同時に召喚獣も消えてしまうのだ。《イージスの楯》で防御しようとして魔力切れになんてなったら目も当てられない。
私の言葉にヴィヴィアンは頷く。
そして……私たちの嫌な予感はすぐに的中することになる。
一方的に攻め立てるアリスと《ペルセウス》、更に《ハルピュイア》が足元を掬ったり顔を狙って援護をしている状態だったが、そこで突如キング・アーサーの動きが変わる。
両手で持っていた聖剣を右手のみに持ち替え、何も持たない左の掌をアリスの方へと向ける。
「……何だ!?」
何も持っていないが、この場で掌を向けるということは――
「いけない――《ハルピュイア》!!」
ヴィヴィアンが危険を察知し《ハルピュイア》へと何事か指示を出すと共に、
『《鬼殺王槍・雷光一閃》!!』
キング・アーサーの叫びと共に、翳した掌から光の柱が伸びる!
《王剣無双・一刀斬破》以外にも持っていたというのか!? 巨大な光の柱がアリスを飲み込もうとする瞬間、ヴィヴィアンの指示を受けた《ハルピュイア》がアリスの持つ《エクスカリバー》へと体当たりをする。
「うおっ!?」
召喚獣同士は弾かれ合う――それは魔獣型と武具型であっても変わりはない。《ハルピュイア》が接触した《エクスカリバー》がアリス毎弾かれる。
そのおかげでアリスが《鬼殺王槍・雷光一閃》の範囲から外れることができた。代わりに、弾かれた《ハルピュイア》の一匹が光に飲まれ、消滅した。
広範囲を一気に薙ぎ払うのが《王剣無双・一刀斬破》だとするなら、《鬼殺王槍・雷光一閃》一直線に突き進み進路上にあるものを貫き破壊するレーザー砲だ。元となった武器は……槍、だろうか。アーサー王と言えば『エクスカリバー』しか知らないが、槍に関する伝説もあったのだろう。
今の一撃はかわせたが、まさか他に攻撃してくるとは思わなかった。しかも、こちらも一撃必殺の威力だ。
『キング・アーサー!』
残った右手で聖剣を振り回し《ペルセウス》の動きを封じる。
アリスもすぐに立ち上がり状況を把握、加勢に向かおうとするが、そちらへと向けて再び左手を掲げる。
「くそっ!?」
今度は《ハルピュイア》に助けてもらうわけにはいかない。アリスは横へと跳んでかわそうとするが――キング・アーサーはすぐにその手を《ペルセウス》の方へと向ける。
「リコレクト――!」
ヴィヴィアンが《ペルセウス》をリコレクトしようとするが、間に合わない……!
『《鬼殺王槍・雷光一閃》!』
残ったもう一匹の《ハルピュイア》がアリスの時と同じように助けに入ろうとするが、それよりもキング・アーサーの槍の一撃の方が早かった。
《ペルセウス》が槍の光に巻き込まれて消滅、更に悪いことに《ハルピュイア》も巻き込まれてしまう。
「くっ……サモン《コロッサス》!」
悲しんでいる余裕はない。《王剣無双・一刀斬破》と違い《鬼殺王槍・雷光一閃》は本当にすぐに連射が出来るようだ。動かなければ負けてしまう。
ヴィヴィアンが《コロッサス》を呼び出しキング・アーサーへと向かわせる。
《ペルセウス》でも敵わなかったキング・アーサーに対して《コロッサス》ではあまりに力不足だが……目的はダメージではない。
『キング……アーサー!!』
迫りくる巨人に聖剣を叩きつけ切り伏せようとするキング・アーサーだが、足一本を半ばまで切り裂いたところで上から《コロッサス》の手によって押しつぶされる。
そう、目的はキング・アーサーをその巨体で押しとどめることだ。
「よし、頼むぜ、《コロッサス》!」
頑丈ではあるが、パワーだけなら《コロッサス》の方が上のようだ。キング・アーサーが完全に抑え込まれている。
すぐに破壊されてしまうだろうが、一瞬だけでも動きを止められれば十分だ。
ふと気付けば、アリスの持つ《エクスカリバー》が再度虹色の輝きを放っている――これで全力攻撃を放つことが出来る。
が、アリスはすぐには《極光聖剣・一刀両断》は使わない。直撃させたところで次の一撃ではまだ倒せないだろうことを予測しているのだ。
だから、ここでは《コロッサス》の犠牲を無駄にしないためにも――
「ext《天魔禁鎖》!」
相手の動きを拘束する神装で確実にキング・アーサーの動きを止める。
アリスの纏う『麗装』の袖から伸びた黄金の鎖がキング・アーサーの体を絡めとり動きを封じる。
槍の一撃を放つことは止められないだろうが、狙いをつけることは出来なくなる。
『キング……ググググッ!?』
脱出しようともがくものの、拘束することそのものが目的で作られた神装だ。そう簡単に抜けられるものではない。
ここが千載一遇のチャンスだ。
「行くぞ……《極光聖剣・一刀両断》!!」
《天魔禁鎖》で動きを拘束した時点で《コロッサス》はリコレクト済み。何に遠慮する必要もない。
全力での一撃がキング・アーサーを襲う!
「……これでもまだダメか!?」
ボロボロになってはいるものの、それでもまだキング・アーサーは倒れない。本当にタフだな!
けど、確実に削ってはいる。このまま攻撃していけば倒せる……か? 魔力切れだけは心配だが、少なくとも私が近くにいればキャンディは補充できるし、アイテムホルダー内のものはどちらも一回も使っていない。まだまだ余裕はある。アリスの方は神装も使ったしそろそろ回復する必要があるだろう。
”大丈夫、攻撃は効いてる!
ヴィヴィアン、召喚獣を!”
「はい!」
再度ヴィヴィアンが《ペルセウス》を呼び出しアリスと共にキング・アーサーに立ち向かわせる。
時間は多少かかるかもしれないが、このまま削り切れれば――
だが、そんな私たちの思惑が簡単に通じる相手ではなかった。
『キング・アーサー……』
いつもの叫び声ではない、静かな声――それと同時に、キング・アーサーの左手に『何か』が出現する。
あれは――『鞘』?
その鞘を手に取った瞬間、ボロボロだったキング・アーサーの姿が元通りに戻ってしまう。
「嘘だろ……回復能力!?」
出鱈目すぎる!
桁外れの攻撃力に、更に生半可な攻撃が通用しない防御力と耐久力。それに加えて一瞬でダメージを回復する再生能力……。
もう疑いようがない。色々とふざけた、冗談のような存在ではあるものの、今まで戦ってきた敵の中でも『最強』の敵だ、こいつ。
どうする……どうやって倒せばいい?
「そんな……」
遠くから見守るヴィヴィアンも呆然と呟く。そりゃそうだ、《エクスカリバー》を呼び出したら現れた存在なのに、まるで《ペルセウス》のように複数の武具の効果を発揮しているのだ。
……そういえば思い出した。確か『エクスカリバーの鞘』にも伝説があった気がする。身に着けている限り傷を負わない、だったか傷を癒す効果がある、だったか。どちらかわからないけど、キング・アーサーに対して発揮した効果を見ると、少なくともアレは後者の効果を持っているようだ。
「ふ、ふふふ……」
一方でアリスは笑う。
この期に及んで、まだ笑う余裕があるか――ああ、いや、そういう娘だったか。
が、いつものような笑みではない。どこか怒りを感じさせる……うん、これは『キレた』時の笑い方だな、きっと。
「よーーーーっくわかった。貴様を倒すには……もっと強力な一撃を食らわせてやらないとならない、ってことだな」
現状、《極光聖剣・一刀両断》の威力は神装とほぼ同じか、もしくはそれを凌駕している。
どう考えても一撃でキング・アーサーを倒す攻撃を私たちは持たないのだが……。
そんなことはアリス自身が一番よくわかっているだろう。よくわかっているが故に――己の力量不足に怒りを覚えているのだ。
「上等だ……次の一撃で、一発で決めてやる!!」
果たしてそんなことが出来るのか。
だが……アリスなら何かやらかしかねない。
「ヴィヴィアン、行くぞ!」
「は、はい!」
どちらにしろ私たちにキング・アーサーを倒す以外の道はない。
やれるかどうかではない。やるしかないのだ。
私たちは今度こそキング・アーサーを倒すべく、最後の戦いに挑む……。