3-15. キング・アーサー討伐戦 8. 猛攻
2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正
キング・アーサーは強敵だ。
アリスだけで勝つのは難しいし、もちろんヴィヴィアンだけでも勝てない。
二人の力を合わせて戦わなければ勝ち目はないだろう。
「……《エクスカリバー》をリコレクトいたしましょうか?」
そうヴィヴィアンが訪ねる。
確かに《エクスカリバー》は強力な武器なのだが、キング・アーサーに直撃をさせても倒し切ることは出来なかった。《極光聖剣・一刀両断》を使うのにアリスの魔力は消費しないのは利点ではあるが、キング・アーサーの聖剣と違って連射はできない。二発目を撃つまでのチャージ時間の間は、普通の剣として扱うしかない。
また、ごく単純な問題なのだが、《エクスカリバー》を持っていると『邪魔』になるというのもある。アリスの強力な魔法――神装は『杖』にかけて使うものがほとんどだ。片手に《エクスカリバー》を持っていると取り回しがききづらい。現に今アリスは『杖』はどこかに放り投げておいて使っていない。
それじゃあヴィヴィアンに持たせておくか……というと、召喚獣同士が接触すると弾かれてしまうという厄介な性質があるため危ない。《イージスの楯》を使おうとして《エクスカリバー》と触れてしまって防御できなかった、なんていう最悪の事態が起こらないとも限らない。
「……いや、このままでいい。というか、《エクスカリバー》を消したら、あいつモンスターの方に向かう気がする」
アリスがそういう。
確かに、今、《エクスカリバー》をアリスが持っているからキング・アーサーはこちらに向かって来ているようだ。この状態で《エクスカリバー》を消してしまったとしたら、アリスの言う通り奴はモンスターへと向かって行ってクエストを終わらせてしまうだろう。
「承知いたしました」
《エクスカリバー》はそのままアリスが持っているしかない。場合によっては一度消してすぐに再召喚、ということもありえるが……。
”ヴィヴィアンは《ペルセウス》を呼んで。アリスは《ペルセウス》と一緒にキング・アーサーに接近して戦う、《王剣無双・一刀斬破》をなるべく撃たせないように”
「ああ。つっても、密着してても撃とうとしてくるからなぁ……」
「問題ありません。仮に撃たれても、わたくしの《イージスの楯》が姫様をお守りいたします」
うん。《イージスの楯》なら完全に守り切れる。後は防御できない体勢で撃たれることだけは避けなければならない。
”ヴィヴィアンには多分色々と召喚してもらうことになると思う。キャンディは一杯使うけど、常に魔力は満タンをキープしておこう。アイテムホルダーのキャンディは温存しておいて”
この戦いの鍵となるのは、いかにキング・アーサーの《王剣無双・一刀斬破》を凌ぐかだ。撃たれてもかわす、あるいは防ぐか、それともそもそも撃たせないようにするか。
どちらにしても重要なのはヴィヴィアンの召喚獣だ。防ぐのなら《イージスの楯》だし、撃たせないようにするのであれば『手数』が必要となってくる。
アリスと連携してキング・アーサーに接近戦を仕掛けるのであればまずは《ペルセウス》の出番だ。その上で邪魔にならないように援護出来る小型の召喚獣――例えば《グリフォン》等で攻めるか、もしくは《コロッサス》等の大型召喚獣で無理やり抑え込むようにするかだ。
ごく短い時間での作戦会議を終え、まずはアリスが《イージスの楯》の影から飛び出る。
「来い、キング・アーサー!」
既に相手の聖剣の光は溜まりきっている。いつでも《王剣無双・一刀斬破》を撃てる状態だ。
対してアリスの聖剣は未だに光が戻り切っていない。大体半分ってところか。《エクスカリバー》の撃ち合いにすらならない。
『キング――』
キング・アーサーが盾から飛び出してきたアリスの方へと剣を翳す。
よし。
”ヴィヴィアン”
「はい。サモン――《ペルセウス》!」
キング・アーサーの視線がこちらからアリスへと移ったと同時に《ペルセウス》を呼び出す。
《ペルセウス》はそのままキング・アーサーの側面から突撃する。
「ふっ、敵だと面倒だが、味方だとなかなかに頼もしいな!」
姿を消す《ハーデスの兜》、空中を走れる羽のサンダル、そして女神アテナより贈られた鏡の楯――たった一人で様々な能力を持つ、ヴィヴィアンの使える召喚獣の中では破格の性能を持つ《ペルセウス》と一緒に戦うのだ。確かに味方であればこれほど頼もしい存在はない。
キング・アーサーは新たな敵にも視線をよこし――剣を両手で握る。
「cl《炎星》!」
《ペルセウス》の突撃に合わせ、アリスも魔法を放ちつつ前進する。
二人で同時に接近戦を仕掛け、《王剣無双・一刀斬破》を撃たせる隙を与えないようにするのだ。
”よし、ヴィヴィアン。一旦《イージスの楯》をリコレクト。状況を見て召喚獣を呼び出して!”
「はい!」
私たちもいつまでも楯に隠れているわけにもいかない。先の作戦通り、適宜サモンを使ってアリスと《ペルセウス》の援護を行う。
『キング……アーサー!!』
こちらの本気を悟ったか、雄たけびを上げてキング・アーサーが剣を振るう。
聖剣の一撃を《ペルセウス》が左腕の楯で受け止め、同時に右手の剣で胴を薙ぐ……が、キング・アーサーの体は物凄く硬い。《ペルセウス》の刃も弾かれてしまう。
そこへアリスが飛び込み、《エクスカリバー》で切りかかる。
剣で受けることは出来ない。キング・アーサーが一歩後ろへと下がってアリスの一撃をかわす。
「流石に硬いようだな――なら! おい、《ペルセウス》、これをくれてやる! ab《鋭化》!」
《ペルセウス》の攻撃力だって本当なら並大抵のものではないのだが、流石にキング・アーサーは硬すぎる。攻撃力不足を見てとり、アリスが《ペルセウス》の剣に対して《鋭化》を付与する。
これがヴィヴィアンの魔法の大きな特徴の一つだ。召喚獣は実体はマジックマテリアル製であるため、アリスの魔法をかけることが出来るのだ。
流石に《炎星》等の材料に使ってしまってはマジックマテリアルを消費しつくしてしまうが、《鋭化》や《硬化》ならば問題なくかけられる。相手によっては《炎》などの属性を付与してもいい結果が期待できるだろう。
強化した剣を携えた《ペルセウス》と、聖剣を持ったアリスが、二人で同時にキング・アーサーへと切りかかる。
手数は単純に倍だ。キング・アーサーがいかに聖剣を持っていようとも捌き切れる攻撃ではない。
『キ、キング……!』
最も警戒すべきアリスの聖剣だけはしっかりと剣で受け止めてはいるものの、《ペルセウス》の剣は止められずに少しずつダメージが蓄積している。《鋭化》をかけたのに少しずつ……というのは、キング・アーサーの防御力が相当高いことを意味している。
「サモン《グリフォン》、サモン《ハルピュイア》!」
二人を援護するため、ヴィヴィアンも新たに召喚獣を呼び出す。
小型の三匹セットの《グリフォン》、そして見たことのない召喚獣だ。こちらは伝説では人間の女性の顔に鳥の体を持つ妖鳥を元にした召喚獣だ。《グリフォン》よりも大型だが、他に比べればやや小ぶりの二匹セットの召喚獣である。
計五匹の飛行能力をもつ小型召喚獣が一斉にキング・アーサーへと襲い掛かる。
流石に《ペルセウス》ほどの攻撃力はない。ダメージは与えることは出来ないだろう。
しかし、小型であり素早さに優れた飛行型であることを活かし、キング・アーサーの顔を狙って攻撃――視界を塞いだり、足を狙ってバランスを崩したりで隙を作り出そうとする。
「オラオラオラァッ!!」
ヴィヴィアンの召喚獣が作り出してくれた隙を逃さず、アリスが何度も切りかかる。
視界が塞がれた隙にキング・アーサーの横へと回り込み、聖剣で受け止められないようにして切り付ける。
ダメージを受けたキング・アーサーがそちらへと剣を振るおうとすると、アリスとの間に《ペルセウス》が割って入り楯で剣を受け止めてガードする。
そして剣を止められて動きの止まったキング・アーサーへと更にアリスが攻撃、魔法も織り交ぜてダメージを与えていく……。
……うん、いい調子だ。まだ向こうは致命傷にはほど遠いが、順調にダメージを蓄積させていっている。
今のところは順調なんだけど――何だろう、順調すぎて何か不安になってくる。いや、そのまま勝てるのならそれでいいんだけど……。