3-12. キング・アーサー討伐戦 5. 信じる
2018/12/30 旧第2章分割に合わせ通番を修正
『キング・アーサーである!!』
アリスを打ち負かしてあキング・アーサーは満足そうにうなずくと、今度は残った風竜へと《エクスカリバー》を放ち全滅させる。
……言い訳のしようもない、私たちの完全敗北だ。
”……アリスは!?”
《イージスの楯》のおかげで身を守ることは出来たものの、爆風に煽られて私たちも大きく吹き飛ばされてしまっていた。アリスが結局どうなったのかまでは見届けられなかったのだが……。
「……ここだ……」
ちょっと離れたところの地面に、力なくアリスが横たわっている。
全身ボロボロになっているが体力ゲージはまだ残っているし、どうやら無事だったみたいだ。
……これを無事と言っていいものかどうかはわからないが。
「少々お待ちを、回復いたします。
――サモン《ナイチンゲール》」
体力ゲージはともかく外傷は治らない。
ヴィヴィアンの召喚獣、《ナイチンゲール》はかなり特殊な回復型の召喚獣である。傷の手当どころか、切断された手足でさえ縫合できるし、解毒も何でも出来る。……正直、絶対ナイチンゲールじゃないと思う。魔法全般に対して突っ込みいれてたらきりがないけどさ。
《ナイチンゲール》によってアリスの傷を治す間に、状況を整理する。
”さて……正直どうしたものかね”
結局キング・アーサーを倒すことは出来ずじまいだ。これからもクエストに行く度にやつは出現し、モンスターを倒してしまうだろう。それでクエストがクリア出来ればいいのだが、結果は失敗となってしまう。そうなるとジェムも手に入らないし、何の意味もない。
何とかしてやつを倒さなければならない――対話が出来れば、と思わないこともないけど……まぁ多分無理だと思う。
で、どうやって倒すかというと……これが手詰まりだ。
《エクスカリバー》の一撃――あれの威力は、おそらくアリスの『神装』と同等だ。その一撃をもってしてもキング・アーサーの放つ《王剣無双・一刀斬破》を打ち負けてしまったのだ。多分、《嵐捲く必滅の神槍》であっても勝てない気がする。威力だけなら打ち勝てる可能性はあるんだけど、アリス自身が弾丸となるのがヴィクトリー・キックだ。魔法の威力だけならともかく、アリスの体が持たないだろう。他の神装でも威力自体は似たり寄ったりだし……。
「……申し訳ございません……」
と、ヴィヴィアンが私たちに向かって頭を下げる。
「わたくしが……余計なことをしなければ、こんなことには……」
やはりというか、ヴィヴィアンは今回の件について責任を感じているらしい。
彼女が《エクスカリバー》を呼び出さなければ、確かにキング・アーサーなんて変なものは現れなかっただろう。
でも――
私が言葉を紡ぐよりも早く、むっくりと起き上がったアリスが仏頂面でヴィヴィアンを見やり、
「おりゃ!」
「はぅっ」
頭にチョップを食らわせる。
それほど力は込められていないだろうが、基礎ステータスが違う。痛そうにヴィヴィアンが叩かれた頭を涙目で抑えている。
……微妙に嬉しそうな顔をしているのは、きっと私の目の錯覚だろう。
「ヴィヴィアン」
「は、はい……」
「信じろ」
ヴィヴィアンの目を真っすぐに見つめ、アリスが言う。
「信じる……でございますか? わたくしは、姫様のことを信じて――」
「違う。オレじゃない。おまえを信じろ」
アリスの言葉の真意がわからず戸惑うヴィヴィアンに続ける。
「さっきキング・アーサーに撃ち負けたのは、お前の力が足りなかったからではない。オレの力が足りなかったせいだ。
《エクスカリバー》自体にはやつと差はないのだ」
……うん、正直それは私もわかっていた。
ほんのわずかな時間ではあったが、剣から放った魔力は確かに拮抗していたのだ。そこを押し負けたのは《エクスカリバー》自体の性能ではないと思う。
まぁ、だからと言って、アリスのどの能力が足りていないから押し負けたのか? なんて考えてもわからないけどね……レーザーの撃ち合いに、そもそも本人の能力差なんて関係あるのかもわからない。
でも少なくともアリスの言う通り、キング・アーサーの聖剣と、ヴィヴィアンが召喚した《エクスカリバー》にそんな差はないと思う。
「安心しろ、次は必ずオレが勝つ! おまえの作ってくれた《エクスカリバー》と、オレの力を合わせてあいつをぶっ倒すんだ!」
「……姫様……」
それでもまだヴィヴィアンは悩んでいるようだ。まぁアリスの言葉がただの励ましではない――どころか本心で言っているのはわかるんだけど。
この事態を引き起こしてしまった、と思い悩むヴィヴィアンにはそう簡単には届くまい。
ヴィヴィアン自身の性格にもよるし、クラウザーに抑圧されていた時の呪縛もあるだろう。全く、本当に厄介なやつだな、クラウザー。
”あのね、ヴィヴィアン”
アリスにだけ任せるわけにはいかない。私は私の思いを彼女に伝えよう。
”君が、まだ君自身のことを信じてあげられないのは……今はまだしょうがないと思う。私たちと一緒に『ゲーム』に参加して、まだ間もないしね”
それに、キング・アーサーのおかげでまともにクエストに挑めていないし。
いや、それはいいとして。
”でも、私もアリスも、君が素晴らしい力を持っていることを知っているし、その力を信じている。
だから月並みだけど――君を信じる私たちのことを信じてくれないかな?”
「うむ。貴様を迎え入れたのは同じクラスの仲間だからってだけではないぞ。オレにはない凄い力があるからでもある」
などと現金なことを言う。まぁ確かにヴィヴィアンの持つ魔法は稀有だし、アリスの持っていない能力ではある。もちろん逆にヴィヴィアンの持っていない様々な力をアリスは持っている。
どちらか一人だけではない。二人の力を合わせることで、更なる力を発揮するのだ。
”君とアリス、二人の力を合わせてあのふざけたキング・アーサーとかいうのを倒そう。
どちらか一人じゃない。君たち二人が必要なんだ”
さっきはつい悲観的な考えに至ってしまったが、話しているうちに考えがまとまってきた。
《エクスカリバー》の性能は同等、でも撃ち合いではキング・アーサーの方が有利。これは事実だ。
例えアリスが『神装』を使ったとしても、《王剣無双・一刀斬破》と撃ち合ってもやはりキング・アーサーの方が有利だろう。これは試していないけど、『神装』に使う魔力の制限とかを考えたらそうなる。一撃目を相殺できても、二撃目は防げない。
でも、まだアリスとヴィヴィアンの力を合わせて、というのは試していない。具体的にどうするとかはまだ思いつかないけど……きっと、キング・アーサーに勝つためには、そしてこれから先現れるであろうテュランスネイルとかをも超える怪物と戦いそして勝利するためには、二人の力を合わせて戦うことが必要になってくるのだと思う。
「……わたくしは……」
まだ少し悩んではいるようだ。まぁすぐに答えは出てこないだろう。
それは仕方ないことだ。
アリスもわかっているのだろう、急かしはしない。
「――よし、まぁとにかく見てろ。次、あいつと戦った時には……」
にやり、と不敵な笑みを浮かべて続ける。
「オレたちが勝つ! それを証明してやる」
具体的な方法は何も考えていない、勢いだけの言葉かもしれない。
だというのに、アリスならばきっと言葉通り何とかしてくれるのだろう――そんな不思議な安心感がある。
ヴィヴィアンもそんなアリスの様子を見て、小さく頷いたのだった。