先祖とのつながり
2017/10/01 08:00(3/16)
本日3部分目。
田所の祖先がゲンゴロウ?
やっぱ、田んぼの虫か?
「タドコロって、やっぱり……!」
自己紹介すると、何故か笑顔で少女がつぶやく。田所って苗字が何かあるのか?
すると、今度は父親が俺に質問してくる。
「君の祖先にゲンゴロウって名前の人物はいるかい?」
「……ゲンゴロウ?」
じぃちゃんの名前は源八って言うし、ひぃじいちゃんは、源……ゲンなんとかって名前だったけど、思い出せない。でもゲンゴロウではなかったはずだ。俺が首をひねっていると、こちらを見ていた皆も眉根をひそめていく。それを見ていると、せめてひぃじぃちゃんの名前だけでも思い出そうとするが……。
あ、そうだ!!
「源五郎は、私の曽々祖父になります」
そうだ。じぃちゃんに、じぃちゃんのじぃちゃんの作り話を色々と聞いたことがあって、中にはファンタジー色の強い作り話もあったので覚えてたんだ。それに、苗字と組み合わせると、田んぼにいるゲンゴロウって事で、虫かよ!なんてダジャレ言って覚えた記憶がある。やっぱり、ひぃじいちゃんの名前は思い出せないけど。
にしても、じぃちゃんが親父に「源」の付く名前をつけなくてよかった!流石に、この時代にゲンゴロウの子孫の源○ですって流行らんわ!
源五郎が俺の曽々祖父だと言うと、三人とも「やっぱり」とか言って笑顔になる。すると、父親が笑顔で話しかけてくる。
「それは悪いことしたね。こっちに来るなり娘に殴られるなんて、君もついてなかったね。いや、申し訳ない」
そういうと、父親と母親が軽く頭を下げてくる。
「ほら、マリアンヌも謝りなさい!」
「えっと……、いきなり殴ってしまったりして、ゴメンなさい」
そういうなり、心底悪かったという感じで謝ってくる。ん?なんで?どうしてこうなったんだ?
「あのー、どうして謝ってもらってるんでしょうか?裸で娘さんの前に出たから、殴られるような事をしたのはむしろこっちだったというか、……いや、もちろん娘さんの前に出てこようと思ったわけではないんですが……」
こっちがアタフタしていると、あっちは、納得したような感じでさらに話を進めていく。
「いや、確かに娘の怒鳴り声をきいて娘の部屋に駆けつけた時は、何だコイツと思ってしまったが、君がタドコロ・ゲンゴロウの子孫と聞いて納得だよ」
「えぇ、そうね。それじゃあ、しょうがないわよ。
そもそもマリアンヌも何かされたわけじゃないんでしょ?」
「はい、セツナが来てから、わりとすぐに手が出たから……」
そう言って、スザーナさんの質問に顔を赤くしてうつむく。グーパンチは、顔を赤くして恥じらうようなことなのか!?いや、この場合の顔が赤いのは俺の全裸を思い出しているのか……ヤメテー!貧相な体はともかく、貧相な息子を思い出して、ポッと恥じらうなんて、何を考えているかわからんが、今すぐ思い出す事をヤメテくれー。
なんて、アホな事を考えていると、父親が尋ねてくる。
「まぁ、恰好が恰好だからね。マリアンヌも悪気があってやったのじゃないので、許してくれないかな?」
何か、この家族の間で俺の全裸はしょうがない事情のようになっているようだが、どうにも話が見えない。なんで、逆に少女が謝っているんだ?これって、日本でいう公然ワイセツ罪っていうやつだろ?正真正銘の事案であるのだ。なのに、やられた方が謝っているのはどうしてなんだろうか?
「あのー、謝るも何も事情がよくわからないのですが……」
「ん?君はゲンゴロウの子孫なんだよね?そのあたりの事情は聞いてないのかい?」
「源五郎は、曽々祖父になりますが、事情って何のことでしょうか?そもそも、私が今どこにいるのかもよくわかっていないですし、先祖代々聞き継がれている事なんて特になかったかと思うんですが……」
「そうか……」
そういうと、父親が考えるように数秒黙っていたが、おもむろに立ち上がって、自分についてこいと言う。この状況を理解してもらうために確認して欲しいことがあるということだ。自分も状況を理解したいので、言うとおりに後をついていくと、自分が寝てた部屋とは違う部屋に入っていく。
その部屋は、さわやかな柑橘っぽい香りがして、ベッドとテーブルが一つあり、物はあんまりないけど、整理整頓されて小ギレイな印象を受ける。その部屋の壁に、見覚えのある鏡が置いてあった。
「あ、ウチにある鏡!?」
「やっぱりそうか!君の家にもこの鏡があるんだね?」
「はい。
そういえば、昨日風呂上りで転んで、この鏡にぶつかったと思ったら、この部屋に倒れていました」
「おぉー、言い伝えは本当だったんだな」
何故か、俺の失敗談を父親が感慨深げに喜んでいる。
「それじゃ、席について食事を再開しよう。そこで、君に起こっていることについて説明するよ」
どうやら、父親の中では、何が起こっているのか理解できたらしい。二人で食事していたテーブルに戻ってきて、席につくと、父親が佇まいを正して説明する。
「まず、ちゃんと自己紹介をしてなかったね。
私がロッテ。そして妻のスザーナ。それに、一人娘のマリアンヌだ」
それぞれが、頭を軽く下げて自己紹介するので、都度こちらも頭を下げる。
「それから、妻は私の従妹でもあるので、皆同じ先祖を持つ。
先祖の名前は、ベルナルド。当時は『付与魔術師ベルナルド』と呼ばれていたようだ」
付与魔術師?なんか、いっきに胡散臭い話になってきた。ロッテさんは、役者か?自然と話しているように見えるけど、付与魔術師って、そんな中二病くさいことを外国人顔なのに日本語で話されると、とたんに嘘くさい印象になってくる。チョイワル風の外国人くらい嘘くさい。
「セツナは、おそらく先祖から鏡についての説明を聞いてないようなんだ」
ロッテさんがスザーナさんとマリアンヌに向かって説明する。「そうなの?」「なるほどね!」と二人はそれで納得したようだが、やっぱり俺には何のことだか話が見えてこない。
「君の祖先であるタドコロ・ゲンゴロウと、我々の祖先である『付与魔術師ベルナルド』が共同で作った魔道具が、先程見てもらった『転移の鏡』なのだ」
「……あのー、冗談ですよね?
転移ってまるでここが地球じゃないみたいに聞こえるんですけど、お互い日本語で会話しているし……」
真剣に話すロッテさんには悪いが、やっぱり今一つ信じられない。そもそも日本語で会話している時点で、後ろから、「ドッキリ大成功」のプラカードみたいなの持って誰か近づいてくるんじゃないかと、ソワソワしだす。カメラとかあるのかな?
「うん、ここは君が生活していた世界とは違う世界だ。我々はこの世界の事を『エアリアル』と呼んでいるし、今いるのは、アストロメリア王国のルベールの村だ」
「えーーと」
これ、いつ「ドッキリ大成功」が出るんだろう?まさか、マジだとか言わないよな?
「どうも信じられないようだが、君たちのいる世界には魔素がないから魔法がないんだったよね」
「はい、『魔素』が何なのかも良くわかりませんが、確かに魔法はありませんよ」
何が何でも、異世界だと信じさせたいようで、魔法でもぶっ放すとか言うのだろうか?
「ほら、『ファイヤ』。君たちの世界では、火は木をこすったり、ライターと呼ばれる道具なんかを使うんだろう?」
「え?マジ?」
さっきロッテさんが『ファイヤ』と言った瞬間に、最大火力のライターくらいの火が、ロッテさんの指先に現れた。この距離では、ちょっと手品とは思えない。今現在もまだ燃えてるし。
「ほかにも、そうだな自分のステータスを確認してみたらよくわかるはずだ。タドコロ・ゲンゴロウもそれで違う世界だと信じていたらしいからね」
ステータスとか、そこまでいくともうゲームの中の話じゃね?なんて思いつつ、『ファイヤ』で急に異世界説が現実味を帯びてきたため、ちょっとドキドキしてくる。ここまで来たら、ドッキリだとしてもノッてみるか!!
「それで、ステータスってどうやって確認するんですか?」
「あぁ、『ステータスウィンドウオープン』と言ってみるとわかるはずだよ!」
一瞬躊躇しかけたけど、もう、「ドッキリ大成功」でまんまと騙されても良いよ。それより、現実だったらどうしよう。そんな事を思いながら言ったんだ。
「『ステータスウィンドウオープン』!?」
そこで俺が見たものは……。
自分の親は、父母。
その親は、祖父母。
さらにその親は、曽祖父母。
さらにその親は、高祖父母。
となっているようですが、ルビの関係上、曽々祖父として、ひぃひぃじぃちゃんとしてます。曽々祖父は誤字になるんだろうか?ネットではいくつか見たんですけど……。