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mutation  作者: 帯藍葉介
7/7

mutation.7『遭遇』

『ナイトに~善を~、加えて~加善~♪正義の~ナイト~、加善~ナイト♪』


昔、お母さんがよく歌っていた。テレビに出てくる、特撮ヒーロー物の歌を。

お母さんは加善ナイトというヒーローが好きだった。よく学校から帰っては、お母さんと一緒に加善ナイトを見ていた。そんなお母さんを見て、お祖母ちゃんは、「いい年した大人が……。」と文句を言っていたけれど、私はそんなお母さんが大好きだった。お母さんが加善ナイトについて熱く語って、お父さんが困った顔で笑い、私は満面の笑みを浮かべるのだ。

そんな家族団欒の夕方時が、私は一番大好きな時間だった。でも……。




(……いけない…ボーとしてた…。)


私は気を引きしめ、周囲を警戒する。今は任務中だ。どこから化け物が出るか分からない。


(……加善ナイト…お母さん、本当に好きだったな……。)


気を引きしめないといけないのに、ついつい昔を思い出してしまう。これから死ににいくからだろうか。昔の思い出が、溢れて止まらない。


(お父さん、いつも笑ってたな…。)


両親の顔を思い出して、涙が溢れそうになる。次第に、私の心に大きな闇が出来る。


(いやだな…死にたくないな…。……でも……。)


生きてどうすると言うのだ。お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもお父さんも、行方不明。唯一、傍にいてくれたお母さんも、いない。戦死だった。見知らぬ女の人はお母さんを讃えた。立派だとか、素晴らしい人だったとか、……そんなのどうでもいい。ただ傍にいて欲しかった。例え立派じゃなくても、素晴らしくなくても…傍にいて笑ってくれたら、それでよかったのに……。


(……ああ、だめ…。涙…止まらない……。)


泣いたらいつでもお母さんは来てくれた。傍にいてくれた。頭を撫でてくれた。……抱き締めてくれた。

今泣けば、お母さんは来てくれるだろうか。


『小雪!大丈夫よ!小雪が苦しい時も、悲しい時も、お母さんが抱き締めてあげるわ!だから小雪、思いっきり泣きなさい。泣いて泣いて、すっきりするまで泣いたら、お母さんが思いっきり抱き締めるわ!いい?小雪。…あなたにはお母さんがついてるわ。…お母さんだけじゃない。お父さんもお祖父ちゃんも、お祖母ちゃんだって小雪にちゃんとついてる。…そう考えたらね、小雪。どんな苦しい事も、どんな悲しい事も、へっちゃらよ!小雪は一人じゃなくて、五人分だから。……あなたはいつでも五人分、苦しくなったら、悲しくなったら、この事を思い出してね?いい、小雪。…あなたは……。』


(いつでも五人分…何て…。)


嘘つき、私はもう一人だ。五人分じゃない。もう私は…一人何だ。


「グルラァァァ!!」


「ッ!?」


突如として後ろから咆哮が聞こえた。


(後ろだけじゃない!?囲まれた!?)


気付くと私は、3体の化け物に囲まれていた。……おかしい、そんな筈は無い。化け物が群れをなすなど今まで無かったのに……何で……。


(くっ!どうしよう!?どうすればいいの?教えてよ…お母さん…。)


最早私に、戦意等無かった。あるのは走馬灯。幸せだった過去の記憶。……この記憶を胸に抱きながら死ねるのなら……それで…もう……。


(駄目!それだけは絶対に駄目!そうだ死ねない!お母さんは私を生かす為に戦死したんだ!ここで私が死んだら……お母さんの死が…死んだ意味が無くなる!!)


私は自分の戦意を焚き付け、握っていた大剣を両手で握る。


(生きる…絶対に生き延びる……!生きて…お母さんが生きてた証を…私達家族が生きていたという証を……。)


無意味に死ぬの何て絶対に嫌だ!お母さんを殺した奴等何かに殺されるのはもっと嫌だ!!大剣を握り締めた私は、前にいる化け物に斬りかかる。肩から脇腹まで切り裂き、絶命させる。右にいた化け物は、私の右手を引きちぎった。私は大剣を落としそうになったが、何とか堪え、左手で握った大剣を、目の前にいる化け物の頭に振り落とす。鈍い音と、赤い液体が周りに飛び散るが、気にせず私は最後の1体を殺しにかかる。しかし……。


(あ……!駄目…!やめて!!)


何時の間にか最後の1体は、私に接近しており、私の左手を吹き飛ばした。私に残されたのはもう両足のみ……。


(嫌だ嫌だ嫌だ!……お母さん…助けて…、お願い……。)


私はもう祈るしか無かった。両手を失って、地面に寝転がる事しか出来ない私の上に、化け物が覆い被さる。やがて、胴体部分を剥ぎ取ると、私という核が露になる。

画面越しに見ていた化け物と、直接眼を合わせる事となった私の恐怖は、最高潮に達して……。


(怖い!怖い怖い怖い!助けて嫌嫌嫌嫌怖い怖い怖い助けて嫌怖い助けて……。)


パニックに陥る私を眺めていた化け物は、やがて口を大きく開き、私を食わんと口を近づけてくる。


(あ……私喰われちゃうんだ……。…ごめんね…お母さん。…私…、今そっちへ……。)


次の瞬間、私の目の前で爆発が起きた。文字通り、私の目の前で爆発が起きたのだ。


(……え?いったい何が……?)


私はよく眼を凝らしてみる。そこには、私を襲おうとした化け物と、私に背を向ける。強大な背中があった。


(……加善…ナイト?)


お母さんが大好きだったヒーローが、そこにいた。


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