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mutation  作者: 帯藍葉介
5/7

mutation.5【考察】

扉を入った先は通路だった。さっきまでの、強者が暴れたような廊下でもなく。理性無き獣が暴れたような通路でもない。

とても綺麗で、さっき起こった事がまるで夢だったんじゃないかと思ってしまう。


(……夢じゃねぇんだよなぁ…。)


俺は自分の体を見下ろす。赤黒くそして膨張した筋肉。化け物、まさしく化け物と呼ばれるべき存在がそこにいた。見るからに狂暴で、見るまでもなく凶暴で、理性無き化け物……しかし何の因果か、俺は…俺達は理性を無くすことなく、知性を無くすことなく存在している。


【人格は二つに増えたけどね。】

(そうだな……それじゃあ聞かせてくれよ。お前の考えを。)

【了解、まずはそうだな。パソコン部屋の異質さは先程説明したね?】

(ああ、パソコンがログインしたままなのと、書類をそのままにしてるって事だったか?)

【そう…ではここで推理してみよう。何故パソコンはログインしたままだったのか?君、何でだと思う?】

(妄想だけどいいか?)

【もちろんだよ。私のだってただの空想だしね。】


俺は顎に手をあて考える。もちろん歩きながらだ。


(実験が失敗して焦ってた?)

【そう!まさしくそれだよ!仮説その二、実験で必要だったから化け物をビーカーから出した。】

(でもそれだけで、どうして外にも化け物がいる事になるんだ?)


俺が私にそう聞くと、右手が勝手に動き出した。


【チッチッチッ。】


私の声に合わせるように人指し指を左右に動かす。


【それだけの理由でその結論に至った訳じゃないさ。】

(ほう、してその心は?)

【実験が失敗、化け物が暴れだす。そりゃ科学者達も慌てだすよね?……でもおかしいな?科学者にとって、それこそ命より大事な研究データ……何故あんな場所に置いてった?】

(それは……。)


科学者にとっては、研究データこそ至上だ。命より、それこそこの世全てよりも、自分の研究データを死守するだろう。


【……出来なかったとしたら?】

(出来な…かった?)

【さて、話は変わるのだけれど。最初に私達が目覚めた部屋に、ビーカーがたくさんならんでいたね?それらは全て空っぽだった。】

(話変わり過ぎだろ!?さっきしてた話と関係ないじゃん!?)

【最初の部屋からこの通路まで、基本一本道。出会った化け物の数はたったの2体。あれ?他の化け物達は?どこにいったのかな?】


最初の部屋にあったビーカーの数は200を超える。しかし、ここまでで出会った化け物の数はたったの2体。


(さっき化け物と遭遇した突き当たりの右の道……そっちにいんじゃねぇの?)

【確かにね、この施設はわりと広いからその可能性も充分にありえる。でもさ、私はこう考察する。】


俺はゴクリッと唾を飲み込み、次の私の言葉を待つ。


【つまり、この施設にはさっきの2体、もしくは10体ぐらいの化け物しかいないということ。他の化け物はもう施設の外にいる。】

(なっ何だってー!!)


驚愕、茫然、絶望、恐怖、俺の中の感情がぐるぐる回る。やがてその感情は、混乱から疑問に変わる。何故――。


(いやいや、さっきの扉!さっきデカイ扉あったろ!)

【うん、あったね。】

(閉まってたじゃねえか!)


そうだ、確かに閉まっていた。それとも閉めるのが間に合わなかったとでも言うのか?科学者、それこそ、命より大事な研究データを捨てた科学者達が、対応に遅れた?……命?


【気付いたかい?話はまた変わるのだけれど、さっきの化け物。捕食していたのは何?】


捕食していたもの?私の問い掛けに、俺はさっき起こった光景を思い出す。あれは確か……。


【人…だよね。化け物は化け物同士で襲いあう。最初化け物の数が少ないのは共食いしたかと思ってたんだ。でもあの化け物は人を食っていた。今いる化け物よりも、人の方が多いということだ。】

(何でそれで、化け物の数が少ないことになるんだ?)

【映画だと、こういう施設は人が多いと思いがちだけれど。そんな事はないと私は思う。だって人体実験だぜ?犯罪も良いとこだ。ただでさえ少ない人間が、異常事態でさらに減ったんだ。なのにあの化け物は人を食っていた。私達が数少ない人間を食っていた化け物に、奇跡的に遭遇した?そんな馬鹿な。】

(成る程、つまり……。)

【化け物の数は少ない……と予想する。】

(頭がこんがらがってきた……。)

【ふふっ、確かにそうだね。話は戻して研究者。気付いたんだろう、君。】


研究者は研究データを捨ててまで化け物を外に出ないよう対応した。でも対応は間に合わず、大多数の化け物を外に出した。


(死んでたんだろ?科学者。)

【正確には殺されたかな?科学者は殺され、対応は遅れて化け物達のフィーバータイムさ。では何故科学者は殺された?いや、誰にかな?】

(……反逆者。)


そう、反逆者だ。科学者を殺し、化け物共を世に放った。誰だ?そんな事をしたのは?


【その反逆者はきっと……。】

(きっと?)

【あの少女だ。】

(なっ!?そんなの――。)


ありえない、ありえる筈がない。あの子がそんな事をするはずない。俺の中の感情に新たな感情が浮かび上がる。それは否定だ。俺は私の声を心の中で否定していた。


【おそらくこうだ。私達と同じ化け物である少女は、実験に嫌気がさし、実験の最中に反逆、科学者を殺し私達、化け物全てを開放した。……気付くべきだったんだ。最初に……あの子はビーカーを開ける事が出来たのだから。】


私の声が遠い、あの子が元凶?何故――。

意識が朦朧とする。さっきとは違う意味で脚が震える。今俺はショックを受けていた。大切な家族に裏切られたみたいな、そんなショックを……。


【まああくまで仮説だけどね!】

(仮説でも説得力があれば仮説じゃなくなるんだよ……少なくとも俺にとっては……。)

【おいおい、そんなにショックを受けるなよ。駄目だぜ?まあぶっちゃけると反逆者何て、この施設の科学者全員怪しいけどね。寧ろ私達化け物側の誰かかもしれないし…。】


私は明るく言う。


【それにだ。私達は2体の化け物にであった。2体共理性は無く、捕食本能で襲いかかってきた訳だけれど。最初に言ったよね?】

(何を?)

【化け物にも理性があるかもしれない。私達という前例もいる事だし。確かこう言ったんだよ、私は。理性があると言うことは?知性もあるということさ。そんな知性ある化け物が反逆を企てないとは考えにくい。】


理性ある化け物、知性ある化け物。あの2体の化け物のせいで、俺達だけだと思っていたが、決めつけていたが、成る程確かに俺達みたいな化け物もいるのだろう。何せ200体以上の化け物がいるのだから。


【結論!あの少女が反逆者と言ったが、この施設にいる全員怪しい!以上!】

(結局は分からないって事か?)

【すまないねぇ。私も万能じゃないからねぇ~。いやー困った困った。】

(それもそうだよな。……あ、また扉だ。)

【扉というか、エレベーターだね。】

(エレベーター?階段まだ一階分しか上がってねぇぞ!?)


長い通路の先にあったものは、エレベーターだった。ちゃんと上下開のスイッチもついてある。


【ふむ、ここは日本と呼ばれる場所だね。】

(えっ?何で?)

【上下のスイッチは三角で現してあるけど、開のスイッチは漢字だ。だからおそらく日本だと予測出来る。】

(漢字使ってる国何て、他にもあるんじゃないの?)


そんなやり取りを私としながら俺はエレベーターに乗り込む。エレベーターの中はからで、人も化け物もいなかった。

俺は1Fのスイッチを押すとその場に座り込む。


(あーやべ。今までの緊張が一気に来た。)

【ここまでで色々あったからね。とにかく!やっと地上に出れる!これでこんな施設からおさらばだせ!……何てね。】

(地上に出たら寝れる場所でも探そう。)

【寧ろここで寝ようよ。念のため、エレベーターの上に出れるかどうか調べて、調べ終えたら寝よう。外はきっと危険だ。】

(ここで…ねぇ…。)

【あーあー、ただいまの階層地下百階!繰り返します!ただいまの階層地下百階!!】

(分かった分かった!大声だすな!……直接脳内に響くから、余計うるさく聞こえるんだよ…。)

【さぁーて!快適な地上のまえに!快適な睡眠だ!】


私の声が脳内で響く。地上に出れると安心した俺は急激な睡魔に抵抗出来ず。私の指示通り、エレベーターの上が外れるかどうか確認してから眠りについた。



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