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mutation  作者: 帯藍葉介
4/7

mutation.4【理性】

化け物と出会ってしまった俺達は、まず私の指示で化け物を観察する事にした。


(デカイな…俺よりもデカイってどんだけだよ…。)

【……位置がおかしい?あの化け物は、いったいどこで捕食している?】

(位置?通路の真ん中で食事してんだぜ?…たく、せめて食事ぐらいどこぞの部屋の机の上でしろよ…。)

【いや私が言っている位置というのは口の位置何だが……。】


私がそう言うと、右手が勝手に動きある一部分を指差した。


(あの化け物の腕がどうかしたのか?)

【低すぎないか?腕の位置が。あの化け物は手に何か持っていて、おそらくそれを食べているのだろうけれど。】

(確かに――。)


よく観察すると確かに低い、あれじゃあ顔じゃなく腹の部分だ。……つまり……。


(腹にあんのか!?口が!?)

【おそらくはそうだね。……私の口はちゃんと顔にあるかい?】


またもや右手が勝手に動きだし、顔の口部分を触る。と同時に俺は安堵する。


(よかったぁ~。ちゃんと顔にある。)

【状況的にはまったく良くないけどね。……さて、どうしようか?左は諦めて右に行こうか?】

(そうだな…触らぬ神になんとやら、だ。)


俺達は化け物に背を向け、右の道に行こうとしたが……。


(!?)

【あらら…こっちにもいたのか。】


俺達の目の前、ほんの数メートル先に違う化け物がいた。今度は背を向けていない。こっちをしっかりと見ている。


(くそ!どうする!いっその事左の道を全力疾走するか?左の奴背を向けてる…横を通り抜けるのなんて造作もないだろ。)

【うん、その考えに賛成だ。ただし少し待って欲しい。化け物は化け物を襲わないのか?この情報が欲しい。】

(おいおい!命最優先はどうした!?)

【命は変わらず最優先さ、あの化け物が咆哮、突進、疾走、何らかの行動を開始したさい……全力で逃げよう。だからそれまで待って欲しい。】

(……ああ!くそ!分かった分かった!お前の指示に従うって言ったのは俺だ!今回も従ってやるよ!でもあいつがなんかしたらすぐ逃げるからな!)

【……うん、ありがとう。】


俺達は目の前の化け物を観察する。後ろからは相変わらず咀嚼音が鳴り響く。目の前の化け物は俺を見詰めたまま何もしない。

もしかして化け物は化け物を襲わないのか?俺達がそう思い出した時、そいつは行動を起こした。


「…たっ…すけ…て……。」


(なっ!?何言ってんだこいつ!?)

【言葉を話した?理性があるのか?この化け物は?】


「たすけ…て…た…す…けて…。」


目の前の化け物は、ひたすら小声で助けをこう。その場から動かず、ただひたすら。


「たす…けて……。」


ただ俺を見詰めて。


「…た…す……け……。」


その場所から動かず。


「……す……け……て…た…。」

【不味いな。後ろの咀嚼音が無くなった。】

(えっ?)


俺が後ろを見ようと体を動かしたら、目の前の化け物が急変した。


「たすぅぅぅうけぇぇえええ!!!ぐるぅぅぅぎやゃああああああ!!!!」


突然叫びながら突進して来たのだ!俺は慌てて後ろに逃げようとする。しかし……。


(くそ!こっちの化け物も!)

【来た道を戻れ!奴等同士で戦わせろ!】

(了解!!)


俺は来た道を全力疾走で走る。後ろで鈍い音が鳴り響く。


【行き過ぎだ!戻れ!奴等が潰しあってる間に横を通り抜けるんだ!】

(無茶言うなよ!あの横を通り抜けるだって!?)


俺は目の前の光景を見て唖然としていた。化け物同士が、互いを捕食しようと争っている。

―――脚が震える。

腕に噛みついている化け物。相手の腕を、腹についた口で噛み千切ろうとしている化け物。

―――脚が震える。

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ―――。


【しっかりしろ!!死にたいのか!?】

(っ!?)


私の声で俺はハッとする。


【良いか?最初の道からここまで、基本一本道だ。……来た道を戻ったところで追い込まれておしまいだ。】

(……分かってる…分かってるさ!そんな事は!……でもな…脚の震えが止まらねぇんだよ!!)


俺の脚はまだ震えてる。脚の震えが一向におさまらない。この状態で走ったら転ぶのは目に見えてる。


【腹に口がある化け物の方が優勢だな……良いかい、君。震える必要はない、怖がる必要も恐れる必要もだ。】

(んな訳あるかよ……目の前で化け物が争ってんだ。震えるし怖がるし恐れるだろ。)

【いいや……だって、君も同じ化け物だろう?腕を見ろ!君の腕は貧弱かい?あの化け物達に敵わない?脚を見ろ!君の脚は貧弱かい?あの化け物達に敵わない?】


私の声に従って腕を見る。赤黒く変色し、筋肉が膨張している腕だ。今度は脚を見る。腕と同じで赤黒く変色し、まるで動物の後ろ脚みたいな脚を……。


(あの化け物共に敵わないかだって?)


【(そんな訳ない!!)】


俺は全身を奮い起たせて化け物に向かって全力疾走する。化け物は目の前にいる敵にしか眼中になく、俺にはまったく気付かない。俺はそのままの速度で化け物の横を通り抜け、通路を全力で疾走する。


【やったじゃないか!このまま走り続けよう!奴等が気付かない距離まで!】

(了解!……ははっすげぇ!全然疲れねぇ!)


俺達は気分がおさまるまで走り続けた。

……

………

…………

……………

………………。


(これだけ離れれば大丈夫だろ。)

【逃げてる最中、新たな化け物に遭遇せずにすんで良かったよ。】

(そうだな……にしても……。)

【……随分とこの体、頑丈だね。あの速度であの距離、なのに息切れひとつなし…か。ははっ!完璧な化け物だと自覚しちゃうね!】

(今更だろ?……ん?このドアは何だ?形が違うぞ?)

【大きさも、そして材質も違うね。】


私がドアを触りながら言う。おおよそ人の筋肉では開ける事が出来ないような扉が、目の前にはあった。


【おそらく手動ではなく自動だね。……ふむ、どこかに操作するところはないかな?】

(……俺に任せろ。)


俺はそう私に言うと、ドアの隙間に手を突っ込む。そしてドアを開けようと、腕に全力で力を入れる。


【……おいおい、いくらなんでも無茶だと思うぜ。いくら私達が化け物でも、このドアは…。】

(いいから……見てろよ……!)


ギギギッとドアから音がする。ドアが少しずつ開いているのだ。


【マジかよ……これは驚いた……。】

(ぅぅうおおおおおお!!)


やがて、俺が横向きだったら中に入れるぐらいドアが開いた…と同時に腕の力を抜く。


(はぁはぁ……どんなもんだい!)

【お見逸れしたよ。でもさ、これどうやって閉めるの?】

(……ん?)

【いやだからさ?ドアが閉まってたって事は、化け物はこの先にはいないって事だよ?でも君が少し開けた事によって、この先にも化け物が行き来出来るようになったて事だよね?それは不味いんじゃない?】

(……考えてなかった……。)


俺はドアの前で項垂れる。


【まあ良いさ。何せ外の世界にも化け物がいる可能性大だからね。】

(どういう事だよ?)

【パソコンの部屋覚えてる?】

(ん?……あああそこか、覚えてるぜ。それがどうかしたのか?)

【あのパソコンを見て思ったんだ。いくらなんでもおかしすぎると。】

(電源を入れたまま逃げた事がか?そんだけ焦ってたんじゃねぇの?)

【書類がそのままってのも、おかしいうちに入ってるんだけどね。】

(ああ、それは…確かに…今考えたら書類があるのはおかしいな。書類何てパッてとったら終わりだもんな。)

【そうだね…取り合えずこのドアの奥に行こうか。歩きながら私の考えを言うよ。】

(分かりました了ー解。)


俺達はドアの隙間を横向きでくぐり抜け中に入った。





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