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mutation  作者: 帯藍葉介
1/7

mutation.1【覚醒】

(ここは……。)


眼を覚ましたらビーカーの中だった。自分が謎の液体の中にいると気付いた瞬間、朧気な意識が覚醒した。


(何だ…ここは、自分は…誰だ。)


取り合えずビーカーの外に出るため、ガラスを手で叩く…が、叩こうとしてやめた。何故なら、自分の手がおかしかったからだ。


(何…これは?誰の…手だ?俺の手…俺の…手なのか?)


自分の目の前にある手は、赤黒く変色し、筋肉が酷く膨張していた。手だけでこの有り様なら、いったい全身はどうなっているのか。


『起きたの?おじさん。』


混乱していると外から声が聞こえた。液体の中にいる状態故に判別しにくいが、多分子供の、幼い少女の声だと思う。自分は口に謎のマスクのような物を取り付けられているので、その子供の声に返事を返すことが出来ない。なので首を縦に振ることで、肯定の意を示す。


『そうよかった。きっとおじさんは混乱しているだろうけど、1から全部説明する暇はないから、簡潔に言うね?』


液体ごしに見える、少女?に向かって首を縦に振って肯定する。


『外に出て、私を捕まえ…て?もう…私の意識が…浸食…て、だから…薬…。』


朧気にしか見えない少女?が、苦しそうにしている。何故か分からないが、唐突に自分は彼女を助けなければと思い、先程中断したガラス部分を叩くという行動を再開した。

ブン、と腕を振る。ガラスに拳をぶつけたが、少しも傷ついていない。どうやら想像以上に固いらしい。私は気にせず拳を振るう。

―――2回。


『おじさん…後で、出して…あげるか…ら。』


―――3回。


『おじ…さ…ん、外…危…な…い。』


―――4回。やっとガラスにヒビがはいった。


『今…私…危…な…い。駄目…お…じ…さん。』


―――5回。次ぐらいで割れそうだ。


『眠れ。』


先程までの苦しそうな声ではなく。人が変わったかのように少女は言った。

少女の声を聞いた俺は、少女の言ったとおり、眠るように意識を無くして…それで…。

俺は…。私…は?駄目だ…もう眠……。

……

………

…………

……………。




俺は眼を覚ました。どうやら少女はいなくなったみたいだ。周囲を見渡すと、先程までの液体は無くなっており、回りにあったガラスも無くなっている。朧気にしか見えなかったビーカーの外もはっきりとみえる。

取り合えず俺は、口についてるマスクを外し、体についてる諸々を強引に引き剥がす。剥がし終えたらビーカーの外に出て、もう一度周囲を見渡す。


(まるで映画に出てきそうな場所だ。どこかの実験施設か?何にせよ速く脱出した方がよさそうだ。)


そう考えた俺は、ドアに手をかけ、この部屋から出ようとしたが……。


【やっと起きたか。随分と目覚めるまで時間がかかったな。】

「誰だ!どこにいる!」


突如して声が聞こえた。急いで周りをみるも誰もいない。というより、声の発生源が…俺の…。


【探す必要はない。何故なら私は君だからだ。あり得ないと思うかもしれないが、私は直接君の脳に語りかけている。】

(そんな馬鹿な――。)


と思いつつも、どこか納得している自分がいる。


【おかしくはあるまい?ところで君、せっかく自由に動けるのだから、首を下にむけて、首から下を見てみたらどうだい?】


自称私の言う通り、俺は下を見る。天井についてある蛍光灯の光源によって露になる自分の体を見て、驚愕する。


【おやおや、これは中々。】

(……化け物じゃないか……。)

【化け物!確かにこれは化け物だ!はははっ!実に、とても、素晴らしく面白い!】

(何が――!)


面白いのか、自称私は愉快に笑いだす。俺はその耳障りな笑い声を聞きたくなくて耳を塞ぐが、脳内に直接響くのでまったく効果がなかった。

あはははははははっははは、あっははははは!

あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――!


「もううるさい黙れ!!」


俺がそう叫ぶと、先程まで脳内に響いていた笑い声が消えた。変わりに落ち着いた様子の私の声が聞こえる。


【いやはやすまない。少しばかり興奮してしまった。】

(どこが少しばかり、だ!)

【おいおい怒るなよ、話が進まないぞ。】


誰のせいで、と言おうとしたが、奴の言う通り話が進まないのでやめた。


【さて、私も君も落ち着いたところで、もう一度自分の体を見てみようか。】


奴の言う通り、俺は自分の体を観察する。

赤黒く変色し、筋肉が膨張した腕。

同じく赤黒く変色し、時々脈打つ筋肉質な胴体。

赤黒く、そして、まるで動物の後ろ脚のような、神話に出てくるミノタウロスのような脚。


【今見た感じ、中々私好みの、つまりかっこいい体をしているな。いやーよかったよかった。】

(かっこいい?これが?これのどこがかっこいいんだよ!)

【そうだな…私的には赤黒く変色しているところだな。赤黒く、というより、どちらかと言えば黒色が強調されているのもグッドだ。ひとつ残念な点は、まだ自分の顔を確認出来ていないという点だな。】


私の声を聞いて、俺は溜め息を吐く。


【呆れるなよ。かっこわるいよりも、かっこいい方が何倍もましだろう?】

(確かにそうだけどな。…はぁ…何かショックうけた自分が馬鹿らしくなってきた。)

【それはよかった。ショックがその程度ですんで。何せ自分の体だからね、早く慣れないと。】

(はいはい、分かりましたよ。)

【よろしい。…ところで話は戻るが、肉体がこれだけの変化を起こしているのだ。精神の方も変化しても、おかしくはあるまい?】

(ここでその話に戻るのかよ!?)

【そうだとも、戻るのだよ?…寧ろ私は安心しているのだよ。精神の変化が、この程度で済んで。】


確かに、人格が二つに別れた、もしくは増加したという点以外で、特におかしな変化はない。暴れたいという欲求も、人を襲いたいという考えもない。

至って普通の精神だ。私の考えに同意しつつ、俺は胸を撫で下ろす。


(よかった。変わったのは肉体だけで。)








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