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これから始まる腐れ野郎の青春物語

作者: 雨音

 ──ピピ、ピピピ、ピピピピピ。

 

 その騒音に若干イライラしながら、俺は耳を塞ぐ。

 

 アラーム切るのも面倒くさい。布団か手を伸ばすのさえ惜しい。

 

 更に深く布団に潜り込むと、漆黒が俺を出迎える。布団の温もりに、二度寝をキメてやりたいところだが、

 

 「かいとー、朝だよー。」

 

 玄関から響く声に邪魔される。

 

 また、アイツだ。

 

 俺の幼馴染みで、同じ高校の同級生である遥は毎日こうやって毎日俺を呼びに来る。

 

 正直言って、引きこもりがちで、完全インドア派の俺なんかに構うなんて、変人かなんかじゃないかと思う。そして、ソレは俺にとって非常に迷惑なものだった。

 

 そもそも、なぜ俺の家は一戸建てなのだ。

 それに、部屋が玄関と近いせいでアイツの声がよく届く。

 

 やれやれと、身体を起こすことを決めた俺は目を開く。

 

 部屋は、カーテンを締め切っているお陰で夜の闇と同じくらい暗く、寝起きで歩くには難易度が高い。部屋が散らかっているので、何かに躓いてもおかしくはない。

 

 俺は素早く布団から手を伸ばすと、証明のスイッチを入れる。

 

 急な環境の変化についていけず、俺は目を細める。そのまま、再び布団に入りたい衝動に駆られるが、なんとか布団から抜け出す。

 

 重い身体を引きずりながら、俺は玄関へと向かう。

 

 玄関では、相変わらずあの野郎が一人で騒いでいる。

 

 「もう起きたのー?」

 

 「早くしないと遅刻しちゃうよー」

 

 俺は玄関のドアを押し開けると、そのまま彼女を睨み、ドアを閉める。

 

 これで、アイツは大人しくなるだろう。

 

 これで朝のイライラ因子は、一つ減ったわけだ。気分がいいとは言えないが、先程よりはマシなほうだ。

 

 そのままの足どりで、洗面所に向かい顔を洗い、リビングのテーブルに置かれていた、惣菜パンを口に運ぶ。

 

 制服に着替えると、俺は玄関へと向かう。

 

 そこには遥が、何食わぬ顔をして待っていた。

 

 待たされて平気とか、コイツ頭おかしいんじゃないだろうか。俺なら、こんな非合理的なことは絶対にやらない。

 

 前に、同クラスの女子が、登校中にこの様子を目にしたらしく、こっぴどく注意を受けたこともあった。

 

 しかし、これはコイツ自信が勝手にやってることで、俺は怒られたことに、納得がいかなかった。

 

 俺の平穏をかき乱す遥は、邪魔以外の何者でもない。

 

 無言のままに家を後にした俺の後を、遥は追いかけてきて、俺の横に並ぶ。

 

 「あ、あの。おはよう」

 

 ─────。

 

 「今日は、いい天気だね。」

 

 ─────。

 

 「今日は、早く出てきてくれたね」

 

 ─────。

 

 そこまで言って、返事が返らないことに、彼女は俯いてしまう。

 

 しかし、俺は会話なんてしたくもない。コイツが勝手に喋っているのだから、返事を返さないのも俺の勝手だ。

 

 言葉を返してやる義理もない、と思っていたところで、不意に彼女は駆け出した。

 

 その瞼には、うっすら涙が浮かんでいた。

 

 そりゃ毎日こんなんなら、そうなるだろうな、と思ったところで目の前の光景に、海斗は愕然とする。

 

 駆け出した彼女の先には、真っ赤に染まった信号機と、大型のトラックが迫っている。

 

 彼女のほうは、それらに一切気付いていない様子だ。

 

 そして、海斗は驚いた。

 

 アイツが、勝手に走り出したんだ。自業自得というヤツだろう。これで、アイツともおさらばだ、という思いとは裏腹に、自分の身体が勝手に動いていることに。

 

 脚を軋ませる程に強く踏み込むと、その脚で地面を蹴飛ばす。

 

 そして、彼女の背に追いすがる。

 

 

 手を伸ばして───────

 

 届け、届け、届け、届けぇぇええ!!

 

 

 

 ─────そして、

 

 その手は、海斗の手は、しっかりと遥の腕を捉えていた。

 

 寸前のところで、強引に遥を胸元に手繰り寄せる。

 

 そこに在る確かな温もりに、海斗は安堵の表情を浮かべた。

 

 彼女のほうは、驚いた表情だったが、涙を拭うと笑顔をこちらへ向けてきた。

 

 ふと、海斗の目尻から雫が伝う。

 

 不意の出来事に、海斗は驚きを隠せない。

 

 なぜ、こんなものが溢れ出るのか解らない。

 

 いままでしてきた事を、許して欲しかったからだろうか?

 

 助かってくれたことに、自分の元へと帰って来てくれたことに安堵したからだろうか?

 

 訳も解らないのに、次々と涙は溢れてくる。

 

 痛い、痛い、痛い────

 

 海斗は、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。

 

 その口を開けば、これまでしてきたことへの罪悪感が漏れでてしまいそうで。

 

 彼女は、そんな俺を見て、

 

 「ありがとう」

 

 涙声の笑顔で、そういった。

 

 

 その一言に、海斗は全てを救われたような気がして─────。

 

 そして、海斗は無言でその顔に笑みを浮かべてみせる。

 

 

 ───それは、ねじ曲がっていた二人の距離が、真っ直ぐになったようで、二人が初めて素直になれたような、とても甘い時間だった。

読んで下さった方、本当にありがとうございます。

どうだったでしょうか?

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