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そらあい  作者: tkkosa
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第1話


 その日の空合いは禁じられた二つの色を混ぜ合わせてしまったように暗かった。

 その日の空合いは禁じられた異空間に手を差し出してしまったように黒かった。

 まるで、私の心情を鏡で映し出すように、暗く、黒かった。私は黒という色味が羨まし

くて、いじらしかった。この世界で一番透明度の高いイメージといえば白だ。純白は人々

の心を透き通らせ、晴れやかな思いを届けてくれる。そんな白を黒はいとも簡単に汚して

しまえる、白の持つ透明感など最初から在りはしないかのように。そんな悪の化身のよう

な黒のことがヒーローのように思えた。幼い頃に見てきた漫画などでも、正義感の象徴の

ような主人公よりも暗黒の灯の匂う敵役に憧れていた。なぜなら、彼ら敵役の方がリアル

な人間像に近いからだ。

 人は皆、悪の心を持っている。それを前面に出していなくとも、その身体のどこかしら

に潜ませている。疚しい心、卑しい心、蔑む心、陥れる心、そんな心を持ち合わせた悪の

化身だ。だから、物語の主人公なんて我々そのものではない、我々の中にある憧れを具体

化しただけのものだ。あんな強い芯なんか私たちに通ってない、きっかけさえあれば平気

で裏切ることをする。我々人間はあんなふうにはなれない、ヒーローになんてなれやしな

い。もしも、ヒーローと称えられる人がいるのなら私が代弁してあげよう。あなたは我ら

悪の化身の中のヒーローに崇められてるだけなんだ、自分を正義と付与するのは過剰でし

かない。あくまで下の上だ、と。

 無論、正義をいけないとは言わない。ただ、それに溺れるのは間違っていると言いたい

だけだ。正義より悪の方が人間のリアルに近似していて、私たちの身体の半分以上を犯し

てるんだ、と。人々はそれを不信し、還るべき場所に還ることを嫌がってはプカプカと心

を浮遊させている。浮ついた心は正義じゃない、むしろ悪の方が近い位置にいる。


 毎日は何事もなく過ぎてゆく、あふれるほどの事件や事故が世で繰り返されているのに。

やれ爆弾事件、やれ殺人事件、やれ強盗事件、やれ痴漢行為、と。その流動に脳内麻痺が

起こっていた、ニュースで誰それが死んだと言われたところで心内はぴくりとも動こうと

はしない。人一人死んで悲しくないのかと心内に問いただしたところで、何も返答なんか

ありはしない。テレビの中にいるキャスターだって、そんなこと同じなはずだ。楽しげな

ニュースは楽しそうに読み、悲しげなニュースは悲しそうに読む。それがマニュアルとし

て組み込まれてるように、ただその令に従っているだけだ。彼らだけじゃない、日々をの

ほほんと遣り過ごしてる人たちは全員が嵌る事物のはずだ。関係者以外で、ニュースの報

道に涙を流す人間なんかそうそういるもんじゃない。

 どうやら、私の人生には刺激という言葉が欠損してるようだ。だから、こんなひねくれ

た性格が完成し、メルヘンチックな事柄を微細として受け付けないんだ。といったところ

でも、私の人生には何もないわけではない。友達と楽観的な会話に勤しむし、寒冷な雨風

は窓をパチパチ叩きつけるし、恋仲に発展しそうな後輩の子との絆を育むし、ペットティ

ーの新味は毎期のように発売される。

 そんな程度の事柄ならいくらでも起こる。刺激というゾーンは欠損してるだけだ、皆無

なわけじゃない。ただ、それは私の心の奥底を振るわせるようなことはしない。胸を締め

付けられるような苦しさがない、涙が流れるような切なさがない。私の性格が冷めてるだ

け、そう表現するなら簡単だ。でも、私にとってはこれが当たり前の思いなのだ。これが

普通で、これからも付き合っていかなければならない私自身。どうにもならないし、どう

しようもない。そう思いつつも、頭のどこかでは違うもう一人の私が叫んでるのも確かだ

った。

”こんな私を揺り動かせて、苦しくさせて、切なくさせて”

 そう発信していた。いつも、いつも。周りの誰が受信してくれるわけじゃないのは分か

ってる。それでも私は私を変えてくれる誰かを求めていた。警笛は鳴らしてる、誰か私

の声を聞いて、と。


 黒雲の浮かび上がった黒空に創られた黒世界からはいつの間にか雨粒が降り出していた。

今日の雨雲はいつにもまして黒みがかっていた。そこから降りてくる雨粒が黒くないのを

不思議に思えるほどに。黒世界に生じる黒空に漂う黒雲たち、そこには流麗さすら見つけ

ることができた。素敵なブラックのキャンバス、私の上に拡がる空模様。私ならそこへ赤

や青や黄のラインを一本ずつ付け足していくことだろう。色彩のジョーカーカラーに乗せ

る三原色、仮想するだけで胸の内が高鳴りそうだ。こんな日は傘などささず、永続的に降

りてくる雨粒たちをこの身体で受け止めてやりたくなる。赤子を抱く御母のように抱きし

めてやりたくなる。

 それをしない、周りを歩く老若男女に疑念すら覚えることがある。なんで、人は雨が降

ると傘をさすのか、それを常識と位置付けたのは一体全体どんな人なのか。その人はそん

なに偉いのか、世界中の人々をこんなにも雨時に傘に依存させることに成功できるほど。

それならば、なぜに傘をささないことを恒常的な事柄として訴えかけてくれなかったのだ

ろうか。その人が少し憎らしい、おかげで私も雨時に傘をさす羽目になるからだ。本音は

そんなもの使わず、身体中を雨粒と同化させるように戯れたい。偶をぬって空から降りて

きてくれる粒たちだ、傘ではねのけるような真似はせず、この身でもってウェルカムと迎

え入れてあげたい。

 ただ、周囲の目も気になる。ご近所さんが見てるかもしれなければ、同級生が見てるか

もしれない。彼ら、彼女らに見られてしまえば、一手に変人扱いとされることは請け合い

だ。そこまでリスクをともにするほど、危険を冒すつもりは到底ない。だから私はいつも

のように傘をさす、ペパーミントグリーンのドット柄の傘を。


 日常とは、えてして普遍の集合体のようなものだ。代わり映えのない景色、食事、生活、

会話、人々、その流れが流れるだけ。そこで起こる日常の変化なんて、全ては常識の範疇

でなされるにすぎない。学校の帰り道で普段とは一本はずれた道で帰ってみようと思い切

ったところで、その道がシャロンヌストリートのように洒落た佳景であるはずがない。白

人の男女が手を取り歩いてることもないし、熱烈な口づけを交わすこともない。友人と少々

小高いイタリアンレストランに行ってみようと思い切ったところで、それが人生を大きく

変えるような頬を落とすほどの美味であるはずがない。(人によってはそうかもしれないが、

私はそういった類のもので感動は得ない性質だった)

 目新しい物はない、耳新しい音もない、そんなものだ。私に与えられた毎日はそれであ

り、私はそれが続的に送られる日々が大嫌いだった。私の視線の先に見えるビル街が爆発

してしまえばいい。私の近くにいる人たちが無差別殺人者に刺されていけばいい。政府組

織の中枢に隕石が落下してしまえばいい。それぐらいのスリルが私には必要だった、私の

これまでの人生を裏返してくれるほどの脅威的な事件が。


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