第14話
どこその旅行地にある、別荘を思わせるような木造りの家が私たちを快く迎えてくれた。
そこから漂う木目の自然性あふれる匂いと窓から差し込む射光の温かさは、3〜4時間と
歩き続けた私たちの疲労を洗い流してくれる。心地良い空間、そこに彼と一緒にいる、そ
れだけで幸せな気がした。
ありあまるほどに拡がったプリズムの白世界を抜けた私たちは、県道に沿った歩道を歩
き出し、その道沿いに佇む この洋食レストランで昼食がてらの休息をとることにした。私
はオムライス、彼はカレーライスを注文する。料理が来るまでの間、彼は窓越しに外界を
見渡していた。そんな様を見て、私も同様に窓の外を見ていた。昨日まで、しばらく顔を
見せていなかった太陽はこれでもかと輝いていた。それに、私は多少なりの違和感を覚え
た。明々と燦々と照りつける太陽、幾重にも衣服を着用しなければならない冬の寒冷、レ
ストラン内は暖房でぽかぽかと陽気な空気が漂い、私たちのスニーカーの中は未だに雪で
湿っている気持ち悪さを継続させている。暖と冷の共存するこの感覚がどうにも慣れない
ままでいた。
そんなことを頭で張り巡らせてるうちにオーダーしていた料理が運ばれてきた。洋食店
だけあって本格的な見た目で、私のオムライスはそれを上回る美味だった。
「美味しい・・・美味しいね」
口内の防壁は微塵も姿を見せないくらい、流れるように美味しいと言っていた。そして、
この喜びを誰かと共有したくて、彼に美味しいねと問いかけた。彼は少しだけこうべを垂
らす、カレーライスも食べずとも上流なのが見て取れる。最後の晩餐、そんな言葉が頭に
ちらついた。どうせ最後になるなら、こんな思い出に残るような食事がいいと思った。で
も、そんな考えはすぐ振り払った。最後になんてしたくない、もう少し彼と一緒にいたい。
私はがむしゃらに喋った、昨日の新幹線のときのように。彼と過ごせる時間のカウント
ダウンが徐々に始まっていく現実を逃避するように、今ここにある彼との時間をとにかく
大事にしたいと思った。それでも、どこか迫りくる そのときを胸の内のどこかしらで感じ
ていた。私は彼とのいつあるかも分かりえないような架空のストーリーに手を差し出して
いた。
「私ね、友達から習ったチキンカレー作れるの」
「これは絶品なのよ、今度作ってあげるね」
「2人で食卓かこんで、下手っぴな笑顔とか見せ合って」
「食べ終わったらゲームしようよ、私RPG得意なんだけど好き?」
「そうだっ、見たい映画があるんだ、一緒に行こうね」
彼と再び会える前提での話を進ませる、何の保障もできない約束まで織り交ぜて。そう
でもしないと心持ちを正常に保てない気がした。彼とまた会える、その確信がないと。彼
は何も返答をしないままに、不慣れなにやけ顔を届ける私を見ていた。確約が欲しい私と、
それをしない彼。やきもきしていた気持ちが、次第に不安感に変わっていく。彼の中では、
私との「この次」はもうないものとなってるのだろうか。彼の中に、私の居場所は必要で
はないのだろうか、私を求めてはくれないのだろうか。
「そらあい」は次回で最終話となります。
明日更新予定なので、お楽しみに。




