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そらあい  作者: tkkosa
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第10話


 16時3分、新幹線はやてを降りると 雨は雨雲から漏れてる程度の小雨になっていた。

雨雲に設置されてる雨製造機なるものがあるなら、担当者が蛇口をおろそかにひねってし

まい、停止に至らない状態に陥ってるくらいの。

 私たちは駅に隣接しているデパートで衣類を購入した。思えば、私は今朝、着の身着の

ままで家から飛び出していた。この冬場において、パーカー、ストレッチパンツという組

み合わせで外に出るのは危険だ。マッチ売りの少女じゃないが、この凍てつく寒さに耐え

切れないはずだ。それは彼とて例外ではない、私と違ってきちんとした衣類に身を包んで

るものの、8時間もかけて北上してきたんだから、私の地元との気温の高低差は体感せず

とも予想はつく。

 購入したばかりの服を着たものの、実際に外界に触れると想像以上の世界があった。寒

冷漂う空気、吹き付ける寒風、私はそれらに思わず身をすくめた。彼も同様だった、目を

細めて、顔をひずませ、身体をすぼめている。そんな2人の姿を客観的に見てみると面白

かった。私と彼が隣同士で同じように猫背ぎみになってるのが。私は笑みを零した、そし

て彼のポケットにあった彼の左手を取り出して手首のあたりを握った。

「行こう」

 そう微笑む私の笑顔はきっと綺麗だったろう。私はその笑顔から芯を抜いていた、ふわ

ふわ浮かぶように、空気そのものになれるように。彼のそんな人になりたかった。空気の

ように、流れて、漂って、当然のようにそこにいる存在に。確かにいるけれど、決して邪

魔にならぬように。


 私自身、もう己の本能に流されるだけだった。私は昨日までの私と正反対に近いくらい

に底抜けに明るくなっていた。正確にいえば、頑張ってそうしてるわけだけど。彼といる

と嬉しい、彼と一緒にいたい、その思いに身を委ねて。卑屈的な私が彼の前では素直に心

情をぶつけられた。友人や家族にも見せてない自分が呼吸をするような自然性で出てきた。

彼はこれまでの人生にない特別な存在になっていた。彼は私を変えてくれた。この3日で

私がこれまで奥底に閉まってた明るみを引き出してくれた。私は・・・彼に恋していた。


 空から降るパラパラとした雨粒は一つ一つと、私の心を浄化させていく。プリズムの紙

吹雪の中にいるみたいで気持ちよかった。ぴしゃん、ぴしゃん、と水溜りをはねるように

雨道をゆく散歩時間。この空気も、空も、私も、彼も、色とりどりの景色たちも染め替え

てくような色めく世界、そう思えた。雨粒は優しく私と彼を打ちつける、そのまま私たち

そのものになれるくらい。私たちの歩く県道の両端には、白い化粧をまとった田んぼや畦

道が広がっている。ここは昨日か一昨日あたりまで、白い雪が降り注いでいたようだ。そ

の降り積もった貯蓄が今日になってもまだ消えることなく残されていた。信号機や標識や、

生まれて初めて見た風見鶏にも雪が被さっていた。人通りは少なく、私たちの横を様々な

車が通り過ぎていく。その度に私たちに来る、二次災害的な寒風が嫌だった。


 30分ほど寒帯の中を歩き、偶発的に辿り着いた旅館に一泊することにした。入り口を

通ると、右側には来客用の駐車場、左側には小さくはあるが前庭がある。そこに生え伸び

る、冬草や、葉を枯らしたまま春を待ち侘びている木々があり、それら一つ一つに白い雪

が乗っかかり、そこに雨粒が落ちては融かしていく。部屋に通されると天国が待っていた、

ほんのりした温帯が私たちを迎えてくれる。

 一息つくと、それぞれ温泉に入りに行った。女風呂の暖簾をくぐり、身体を洗い流すと、

そこで今日の疲れがどっと襲ってきた。12時間前には予想もしなかった長旅と、慣れな

い個性を出した精神的なものが同時にきた。何故に彼はここまで来たのだろうか、疑念を

抱くが彼の深いところに触れそうな気がして思考を止めた。

 温泉からあがり、部屋に戻ると、彼の姿が既にあった。ストレッチをしたり、一息つい

たりしていると、やがて夕食の時間が訪れ、旅館が用意してくれた食事を宿泊客全員で食

した。主な客層は高齢の夫婦や団体客で、若いのは家族連れ一組ぐらいだった。この人た

ちからすれば、私たちは間違いなくカップルに見えるのだろう。それは嬉しいようで、嬉

しくない。実際、私たちはカップルでも何でもない。関係性をと聞かれると、返答に困っ

てしまう。それが私の多少なりに浮ついていた心持ちを現実に引き戻す。そうだ、私と彼

は何の関係性も持ってはいないのだ。


 夕食を食べ終わり、20時頃には部屋に戻った。私は空を眺めた、そのうちに彼も近く

に来て空を眺めだす。微かに目にとめられるほどだった雨粒が消え始め、それはやがて全

くの無となり、私たちの視界から完全に消えた。浮かんでいた雨雲たちも用は終わったと

告げるように、左へ退散していく。2時間ほどで暗い雲は元々存在しなかったかのように

なくなり、私たちの瞳に明瞭な夜空の風景を提供してくれた。そこにある上弦の月は目に

入れても痛くないぐらいに輝かしく光っていて、電灯も必要としないほどに神々しく煌い

ていた。

 心を奪われるような綺麗で素敵な夜景を瞳に映してると、時の流れを忘れていた。この

空をどれだけ眺めてたか記憶にないくらいの時が経った頃、私の耳に彼の声が届いた。

「・・・おまえ、親は好きか?・・・」

 初めて彼の方から届けてくれた言葉だった、喜色というより驚きの方が強かった。彼の

質問の意味合いを考える、言葉以上の深みがそこにはある気がした。

「・・・好きじゃないよ、嫌いともいえないけど・・・」

 素直に返した、彼の言葉の真意がつかめてなかったから。

「・・・どんな親だ?・・・」

 どんな親かって、そんな冷静に両親を分析したことなんかない。

「・・・父親は普通の会社員で、自分はだらしないくせにああだこうだうるさいところが 

嫌い・・・」

「・・・母親は専業主婦で、あんたはこうだからとか自分でもないのに私のことを決めつ

けたように叱るところが嫌い・・・」

「・・・妹もいるけど、私より頭いいからって優位に立ったような態度に出るところが嫌

い、殴ってやりたくなる・・・」

 私を主観にした見方で一応にと説明した。体型だとか、性格だとか、そういう詳しいと

ころはここでは省いた。

「・・・そうか・・・」

 そうかとだけ言って、彼は少し黙った。次に発せられる言までのインターバルに思えた

ので、私もそのまま黙っていた。彼は目線を下に遣ったり、窓外に遣ったりしながら何か

考えていた。そして、美空に目線を置いたまま、自身の深いところを話しはじめた。


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