episode3 和希
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仲良し6人組……。ずっと小さい頃からそんな幼なじみたちと、ゆるゆるとオレはこの歳まで過ごしてきた。6人の中でオレはその辺のアイドルよりも、とても甘いルックスでスタイルも良くて人当たりの良い性格をしている。だから、幼稚園の頃から高校へあがった今でも、家にいる時以外はオレの側には身の回りの世話をやいてくれる女子が絶えなかった。
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「和希く~ん♪ 誰か来てるよ!」
「ああ。扶美だね♪ ありがとう」
幼なじみの6人の中で、人見知りの激しい扶美はオレと家が隣同士だったこともあって、中3の冬休みにオレが扶美に頼み込んで受験勉強をこっそり教えてもらったことがきっかけになって、扶美があずさに頼れない時は必ずオレの所へ相談に来るようになっていた。
「どうしたの? また、あずさに言えないことなのか?」
「だって、あずさが頼ってちゃだめって言うから……」
「あずさは、扶美に大人になってもらいたいんだろうね。確かに、社会に出たらあずさに頼れないからね」
「そんなの。わかってるよ!」
少し扶美にとって耳の痛い話をオレがしてやると、扶美は頬を膨らませて拗ねてしまった。
「ほらほら、そんなに怒らないでよ! 家に帰ったら、話を聞いてあげるからさ」
「本当? 帰ったら部屋に行っても良いの?」
「ああ、良いよ♪ 今日は、出来るだけ早く帰るから、先に部屋で待っててよ」
「わかった。じゃあ、掃除しておいてあげるわ♪」
多分、オレと扶美がこんなやり取りをしていることをあずさが知ったら、きっと驚くどころじゃ済まないんだろうな。
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放課後。いつもと変わらずオレが女子に両腕を拘束されて、引きずられるように下校していると、駅前の少し奥まった所にある居酒屋へ徹生が入って行くのを見つけて、オレは女子の手を振り払って後を着けた。
「徹生ちゃん♪ こんなところで何やってんのかな?」
「……和希か!! 誰にも言うなよ! 金貯めるためにバイトしてんだ!」
「何だ~、バイトね♪ 誰にも言わないよ! 特にあずさにはね!」
「うるせえぞ!! さっさと帰れ!」
店の制服に着替えて出て来た徹生に声をかけると、バツの悪そうな顔で徹生はバイトを始めたことを話してくれた。(家庭の事情ってやつなのか?) 誰にも言うなと言われて、とっさにオレが冗談のつもりであずさの名前を出しただけなのに、徹生の顔はゆでダコみたいになっていた。
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これは、面白いことに遭遇してしまったとオレは、一緒にいた女子たちに今日は帰るとまとわりついてる彼女たちの腕を優しく自分の腕から離して、扶美が待っているオレの部屋へ急いで帰った。
「ただいまー!」
「あれ? 和希? ほんとに今日は、早かったんだね?」
「まあね。あんな面白いもん見ちゃったらさ、早く帰って扶美に話したくなっちゃってさ~!」
「???」
オレがあんまり早く帰宅したから、扶美が不思議そうにキョトンとした顔で、オレのことを見つめていた。
「徹生がバイトしてたんだ。駅前の居酒屋でさ。金貯めるために始めたらしい。あいつさ、本気で家を出る気でいるのかもな!」
「そっか。徹生、親に愛想つかしちゃったんだろうね。おじさんとおばさん、ケンカばっかりだから」
「しゃーねーよ! 親は選べねえからさ」
「だね。あとは、徹生次第だね!」
優しい扶美は、それでも心配そうにギュっとオレの枕を抱きしめて考え込んでいた。
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「それで? 扶美の話は何だったの?」
「ああ。理子が徹生にまた、振られちゃったみたい。だから、啓五に教えてあげようか悩んでるんだけど。どう思う?」
「教えてやれば? 啓五にとっては、最初で最後のチャンスだろ?」
「じゃあ、明日の放課後に話してみるよ」
相も変わらず、理子は懲りもせずに徹生に告って撃沈したようで、扶美はそんな理子を見かねて啓五をたきつける気になったようだ。女3人の中でもしかしたら、一番しっかりものなのは、扶美かも知れない。
「なあ、扶美? お前はどうなの?」
「何が?」
「だから、お前は好きなやつ……いないのか?」
「さぁ、どうなんだろうね~♪」
オレの質問に扶美は意味深な笑みを浮かべてから、抱いていた枕をベッドに放り投げてクルリとオレに背を向けると、約束していた部屋の片付けを一人で黙々と始めてしまった。
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それにしても……。夏に近付いてきたせいか、扶美の今日の部屋着はいつもよりも少し軽装で、タンクトップに生足でデニムの短パンを履いている。最近、特に扶美は胸とお尻が育ったせいで、自分では気付いていないだろうけど。妙に色気を感じさせるようになった。それに、扶美はブラを着けずにタンクトップを2枚重ねて着ているだけだったから、オレは正直なところ……目のやり場に困っていた。
「なあ、扶美。今日さ、露出度高過ぎなんだけど? それってヤバくね?」
「何がヤバいの?」
「だからさ、生足にノーブラ! オレも一応、男だからさ~! しかも、思春期真っ盛りだぜ?」
「あ、やだ! ごめんなさい!」
ついつい、オレを女友達のように扱う扶美をなんだか少しいじめてみたくなっちゃって……。オレのリアルな心理状態を包み隠さず伝えて笑っていると、扶美は顔を真っ赤にして俯くと身を縮めてしゃがみこんでいた。
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しゃがみこんで真っ赤になってしまっている扶美にオレが着ていたシルクのベージュ色をした丈の長いカーディガンを仕方なくかけてやると、扶美は顔をあげて嬉しそうに笑ってオレに抱き付いてきた。
「和希のこういうところが、すっごく好きだよ!」
「お前がまだまだ、お子ちゃまだからオレは何もしないだけだよ!」
「紳士ぶっちゃって! 本当はエッチなことを考えてた癖に!(笑)」
「べつに紳士ぶってないよ! 好きなものは、一番最後にとっておくのがオレの主義なんだよ♪ だから、今日の所は何もしないでおいてやるよ!」
扶美に思い切り抱きつかれて、全身で扶美の柔らかい身体を感じてしまったオレは必死に押さえきれない雄の感情を理性で押さえ込もうとしていた。
そんなオレの気持ちに反するように。このあと、オレが扶美に強がったことを言い終わると……。それと、同じくらいのタイミングで扶美が何を思ってそうしたのか? ベッドに座っているオレの膝の上に腰掛けて、自分の唇をオレの唇に重ねてきた。
「おいっ!! 扶美!?」
「……ファーストキス♪ 和希としたかったんだもん!」
「そりゃないぜ~!! ずっとオレは我慢してたのに! 反則じゃね?」
「でも、私のこと……好きでしょ?」
オレが扶美の行動にかなり動揺してわけのわからないことを喚きちらしていると、扶美はクスクス笑いながらもう一度、オレの唇を自分の唇で塞いでしまった。
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思春期真っ盛りのオレと扶美は、この後お互いの親の帰りが遅いことを知っていたことで、さらに勢いが止まらなくなってしまって、とうとう最終段階まで突き進んでしまった。
「ごめん。扶美……。オレってやつは、付き合う前に一線を越えてどうするんだよ……。大丈夫か? 本当に良かったのか? オレなんかでさ!」
「良いの。和希で……」
「どうなるかわかんないけど、大学卒業してお互いに気持ちが変わらなかったら、結婚すっか?」
「うん。気持ちが変わらなかったらね!」
こんなことをあずさが知ったら、オレは間違いなく殺されるかもしれない。それでもオレと扶美は、一線を越えてしまったことを黙っていられる間は黙っていようと二人で話し合って決めていた。
どうやら扶美は、あずさの驚く顔が見たいから今は誰にも話さないでおきたいらしい。確かに、オレもあずさや徹生が驚く所を本気で見たい。見たいから、今は扶美の提案に従って話したい衝動を我慢することにしたんだ。




