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1333  作者: 干支ピリカ


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第二章 置文と願文 2.

2.


 そもそも、鎌倉幕府を構成する『御家人』とは、幕府と契約した兵士だ。

 戦う報酬として、土地その他を与えられる条件になっている。


(つまり、戦がなければ幕府からの報酬はない)


 足利など一部の御家人は、元々豪族として地方に広大な荘園を持ち、雇われた小作人から定期的に収入を得ている。

 だが、殆どの御家人は、戦のない時は農民と変わらない。

 自前の土地を己で耕し、日々の暮らしを賄っている。

 だから凶作が続くと、朝廷への税が払えなくなり、そのわずかな土地を売り払うしかなくなる。


(つまるところ、鎌倉幕府を支える御家人の多くは、戦のない世が続くと、次第に困窮していく仕組みになっている)


 北条が、幕府の頂点に登り詰める過程で起こった様々な戦は、北条が権力を掌握した時点で消えた。

 その後は、北条内部の小競り合いしか起こっておらず、小競り合いで出た土地も、権力とともに勝者が吸収してしまった。

 良く言えば平穏。

 悪く言えば停滞し澱んだ空気の中、ようやく起こった戦は、海の彼方から攻めてきた、『元』とのものだった。


(『元』との戦は、かろうじて幕府が勝利を収めたが……)


 その実情は、攻めてきた『元』の軍を海の向こうへ追い返しただけだった。

 海の向こうの『元』の土地が手に入った訳ではない。


(しかも、御家人達の戦支度は、全てが自前だ)


 さすがに幕府も身銭を切ったが、ごくごく一部の者への報奨金しか払えなかった。

 結果的に、この戦によって一段と御家人達は困窮していった。


 鎌倉で御家人達の悲痛な叫びが溢れ出る頃、時期を合わせたように、都には血気盛んな帝が生まれていた。

 第九十六代天皇・後醍醐帝。

 この帝は、そもそも、兄の子である『皇太子が成人するまでの中継ぎ』として即位した帝だった。


(後醍醐帝の兄は早逝しており、当時の帝、後醍醐帝の父親が即位を決めたというが)


 いかにも後で揉めそうな話だった。

 案の定、期間限定での地位を、後醍醐帝はよしとせず、皇太子が成人しようとも譲位を拒んだ。


(自分は必要以上に元気なのに、年少の甥へ帝位を譲るのは納得いかんというわけだ)


 当時、帝の系譜には『持明院統』と『大覚寺統』とがあり、既に二つに分かれていた。


(互いの血統から交互に帝を出す。争い事を避ける方便だったが……)


 これに後醍醐帝の主張が上乗せされ、系譜はますます混乱して行った。

 収拾のつかなくなった朝廷は、困り果て、ついには幕府に仲裁を頼むことになった。


(これもどうかと思うが、朝廷が独断でものを進められなくしたのは、幕府だから仕方ない)


 幕府は、秩序を乱す後醍醐帝側をたしなめることとし、先帝の定めた邦良親王の即位を認めた。


(その結果、後醍醐帝は幕府を敵とみなし、ついには、先頃の戦にまで発展したという訳だ)


 後醍醐帝の起こした戦は、首謀者たる本人を流罪として一応の決着を見た――が、これを契機に、幕府への不満が各地で表面化してしまった。


(今や、東も西も混沌のまっ只中だ)


 上から下まで、今まで抑えてきた、幕府へのありとあらゆる不平不満が、一気に吹き出してきたようだった。

 だが、


 ―――ようやく好機が訪れた。


 直義だけでない。各地の源氏が皆、心のどこかで思ったはずだった。


(好機どころか、最後の機会だろう)


 今を過ぎればこの先、足利が天下を獲れる機会などありはしない。

 第一、この機を見逃すと言うのは、北条と共に滅びるということだった。


(あり得ない)


 どれだけ苦悩が生じても、仇敵と滅びるよりは、屍を踏み越えて生き残るべきだろう。


(とはいうものの)


 己や兄にとって、この千載一遇の状況は、ただの用意された背景にすぎないと直義は知っていた。

 実際に北条家打倒を謳うのは、既にこの世にいない人間の執念かもしれないと思うと、滑稽ですらあった。


「師直、兄上はおやすみになられたのか?」

「さて、先刻のご様子からして……」


 不意に、ぱたぱたと、慌てた様子の足音が聞えて来た。


「何かあったのか! 騒々しい!」


 さっと立ち上がり廊下に出た師直が、己を棚上げして叫んだ。


「あ、執事殿! こちらにおられましたか」


 渡殿から駆け寄って来た小者は、師直の前で膝をついた。


「奥方様が探しておられます。母屋の方へお出で下さい」


 直義も部屋から声を上げた。


「兄上に何かあったのか?」

「こ、これは直義様! お戻りでしたか。お騒がせして申し訳ありません!」

「いい。それより如何した?」

「は、仔細は存じ上げませんが、お館様がご不快のご様子で、奥方様が執事殿を呼んでおられます」


 またかと直義はうんざり思ったが、理由に思い当たってはっとした。

 十日ぶりに足利荘から戻ったという報告を未だに当主――兄にしていない。

 得宗館帰りの怪異に巻き込まれたおかげで、すっかり忘れていた直義は立ち上がり、気乗りのしない顔をした師直を促した。


「行くぞ、師直」

「はい!」


 直義も行くと分かったためか、返ってきた声が弾んでいた。

 思わず『気が変わった』とまた座ってしまいたい気分になったが、そうもいかない。報告のほかにも、高氏に尋ねたいことがあった。





――――――――――――――――



前回、今回と説明長くて申し訳ないです(-_-;)



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