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番外編 反抗的

やっと更新できた……っ!

 慎ましやかでありながら、立派な外装を誇るリタサナ家の、南に位置する日当たりの良い一室は、長男であるルーセリトの自室となっている。

 ルーセリトはそこで毎日のように勉学に励んでいた。

 平民と違い、貴族の子供は歳十六になってから学院に通い始め、これからの必要な知識を学ぶ。それまでは、各家庭で自主的に学ばなければならないのだ。

 故に、社交界の初舞台も極めて早い年齢で迎えることになり、子供同士の繋がりも社交の場で手に入れなければならない。

 貴族の子供にとって、社交界はその後の人生を左右する程の影響を持ち、人を見る術を身に付けるための土台でもあるのだ。

 ルーセリトもウェルファも、社交界には頻繁に顔を出してはいるが、物腰柔らかいルーセリトはともかく、警戒心の塊のようなウェルファの交友関係は、決して良好とは言い難いものである。だからこそ、ルーセリトが必死になって周囲との関係を手繰り寄せているのだが、同じ年頃の、しかも見知らぬ人間がルーセリトと親しげに話しているのを目にすると、ウェルファは自分の兄が他者に取られたような気持ちに陥り、盛大に拗ねてしまうのだ。実は、彼が手負いの獣のように威嚇するのは、ルーセリトと親しい者がほとんどであったりする。


 険悪な仲から一変した兄弟に、誰よりも喜びを露わにしたのは他でもない彼らの両親であったが、最近、新たな問題が浮上しつつある。


 ウェルファが、反抗的なのだ。


 ほんの少し前までは、自身の実力を褒められると、上機嫌に鼻を鳴らすような態度であったと言うのに、最近は何か褒めようものならまず疑いの眼差しと、どこか責めるような言葉を投げかけてくるのだ。

 これにより、むやみやたらにウェルファに賛美の声を捧げる者はいなくなったのが、どうも父親は違うらしい。

 事あるごとに、以前のようにウェルファを褒め称えるため、ウェルファがどんどん父親に対し反抗的になっていくのだ。

 兄の次は、父。

 どうなってんだと皆が頭を抱え、最後の希望と言わんばかりにルーセリトに全てを丸投げした。

 と言うのも、ウェルファはルーセリトの言葉にだけ、何の疑いもなく素直に聞き入れ従うのだ。

 剣術の腕前を見事だと評価されても、嘘言ってんじゃねえよというような顔をするくせに、ルーセリトに評価されると輝かしい笑顔をその顔に浮かべ、一層訓練に身を費やすのだ。

 傍から見ればただの兄馬鹿である。それも重度の。そんな弟のことを、ルーセリトは非常に可愛がっていた。

 しかし、このまま親子の関係がこじれたままではよろしくない。背を丸めて落ち込む父の、あんな情けない姿など見たくもない。






 ルーセリトの部屋に訪れたまま居座るウェルファはご機嫌そのものだ。二人は上質なソファで対面するように座っており、始終ウェルファの笑顔が絶えない。時折、兄貴と呼んでは紅茶を飲んでいるルーセリトの気を引いて、何でもないと楽しそうに笑う。

 それに対しルーセリトも苛つくことなく可笑しそうに気の抜けた笑い声を漏らした。

「今日、訓練も勉強も休みなんだ、俺」

「そうか。俺も今日の勉学は終わったからな。ゆっくりしていってくれて構わない」

「じゃあ、ずっと兄貴の部屋にいる!」

「……退屈じゃないか?」

「全然! 兄貴がいるし」

 俺の弟いい子過ぎる。

 嬉しそうに顔を綻ばせるルーセリトは、手に持っていた紅茶を丁寧にテーブルへ戻した。

 かちゃりと小さな音も立てないその姿は、気品さえ感じる。小さな動作ですら、ルーセリトがすると絵になるから不思議だ。上品とでも言うべきか。

「兄貴すげえ」

 思わずと言ったようにウェルファの口から出たそれには、尊敬の念が含まれていた。

 うん?と、ルーセリトが首を傾げる。

 彼からしてみればただ紅茶を飲んでいるだけなのだが。

「なあ聞いてよ、最近父さんが鬱陶しいんだ」

「父上が?」

「なんか、意味もなく構ってくるんだよね。うぜえっての」

「なんだ、嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃねえけど、兄貴の方がずっといい」

「普通に嬉しいんだけど」

 腕を伸ばしてウェルファの柔らかい髪をくしゃくしゃと些か乱暴に撫でる。それにはしゃぐウェルファの様子に、ルーセリトは優しく目を細めた。

「父上もお前が心配なんだ。そう嫌がってやるな」

「えー」

「えー、じゃない」

「ちぇっ。兄貴が言うなら仕方ねえな」

 両手を頭の後ろに回し、口を尖らせるウェルファの額を、ルーセリトは苦笑いしながら弱い力で小突いた。

「お前だって、前までは父上にべったりだったじゃないか」

「ちっげぇよ! あれは、なんつーか、その、兄貴が構ってくれなかったから!」

「え、俺のせい?」

 興奮気味に立ち上がったウェルファは身振り手振りであれこれ熱弁する。

 見上げるルーセリトの顔は珍しく間抜けだ。

「だから、しょうがなかったんだよ!」

「お、おお」

 今度は勢い良くぼすんと腰を下ろすウェルファ。ふんぞり返って足を組んでそっぽを向いているが、チラチラとルーセリトを見ては顔色を伺っている。

 それに気付かぬルーセリトではない。

 吹き出しそうになるのを堪えながら、弾む声音でウェルファの望む言葉を紡いだ。

「なら、これからはもっとウェルファを構うことにしよう」

「そ、それがいい! そうしよう!!」

 二人共、父親のことはすっかり頭から抜けていた。





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