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蓋を開ければ

 深々と頭を下げて、謝罪の言葉を叫ぶウェルファは、あからさまに肩を強ばらせていた。緊張と後悔に心を蝕まれ、怯えてしまっているのだ。

 それが、腕の縫い跡を目にしたせいだと知り得たルーセリトは、安易に包帯を緩めてしまった自身の行動に叱咤した。

 少し干しからびている薬草を、縫い跡に押し当てて、きつく包帯を巻き直す。最後の切れ端は内側へ潜り込ませ、完全に傷が見えなくなったところで、頭を下げたままのウェルファに声をかけようとしたのだが、ウェルファの足元、濡れた床の方に視線が引き寄せられてしまった。

 上質な生地で作られた、肌触りのいい赤い絨毯。水に濡れた箇所だけ、色が濃くなっている。それを見て、感じていた喉の渇きが一層強くなった。

 そして、何故かにこにこしている母親が、落ちた水差しを手に取ると、困惑する父親の袖を引っ張って、一緒に退室してしまった。

 なんとも言えぬ顔をしたルーセリトだったが、頭を下げたまま、前髪の隙間からこちらを見上げてくるウェルファと視線がかち合うと、意図して頬の力みを解いた。

 一方、眉尻を下げて、下唇をもごもごと噛んでは、やけに多く目を瞬かせていたウェルファは、ルーセリトと視線が合うと、不自然に右へ逸らした。

 ごめんと言われ、驚きよりも、喜びの方がルーセリトの腹中を占めていた。

 あの傲慢だったウェルファが、人に謝っている。自分に非があることに気づきもしなかったウェルファが、謝っている。弟の変化を嬉しく感じながら、初めてのごめんなさいを受け止めるべく、ルーリトは彼の名前を優しく呼んだ。

 びくつきながらも、頭を上げるウェルファ。今度はしっかりと目を合わせてきた。

「お、怒ってない?」

「怒ってないよ」

「許して、くれる?」

「ああ。許すよ、ウェルファ」

 石橋を叩いて渡るかのごとく、おそるおそる問いかけてくるウェルファに、笑顔で全て答える。

「じゃ、じゃあさ」

「うん?」

 どこか期待するような眼差しを向けられ、首を傾げる。

「俺のこと、き、嫌いじゃない?」

「いや、普通に好きだけど」

 むしろ俺を嫌いなのはお前だろと言い募ろうとして、やめた。

 ウェルファが、満面の笑みを浮かべていたからだ。

「俺も!」

 こうして、ようやく互いの誤解が解けたのである。

 そして、水を持ってきた両親が、仲良くなっている兄弟の姿に感動するのであった。





 それからの兄弟関係は、飛躍的に良好になっていった。特にウェルファは、幼い頃甘えられなかった反動で、それはもう、ルーセリトに懐きに懐き、どこへ行くにも引っ付くようになっていた。

 性格もいい方向に変わりつつある。傲慢や過信はなりを潜め、真摯に物事と向き合うようになったのだ。 しかし、困ったことも、ある。

「なあ兄貴、俺、さっき親父に剣術を褒められたんだけどさ」

「よかったじゃないか」

「でも、本当にそうなのかなって。兄貴はどう思う?俺の剣術、凄いと思う?」

「思うぞ。ちゃんと訓練するようになってからは、特にな」

「そうか!なら、もっと訓練を頑張るよ!」

 このように、一つ一つのことをルーセリトに聞いて、確認するようになったのだ。誰に何を言われても、兄は一体どうなのかと、常にルーセリト基準で考えるようになっていた。もし兄が否定的な意見を言おうものなら、ウェルファも全力で否定するのだ。

 自分に絶対の信頼をおくようになったウェルファを、ルーセリトは甘やかした。しかし、ただ甘やかすのではなく、その中にきちんとした厳しさも含ませて、ウェルファと接するようにしていた。


 やがて、ウェルファが立派に父の跡を継ぎ当主になるのだが、それでも変わることなくルーセリトに懐いている姿は、ただの兄馬鹿な弟なのであった。







ありがとうございました。

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