兄の心弟知らず
リタサナ家は、代々当主が国王の宰相を勤めてきた、大変由緒正しい公爵家だ。
そんなリタサナ家に最近、稀に見る天才児が生まれた。
名はウェルファ。
魔法よし。頭よし。顔よし。剣術よし。その他もろもろよし。
これを天才と言わずして、何と言うか。
彼の両親はそれはもう、舞い上がる程に喜んだ。長い歴史を誇るリタサナ家でも、ウェルファのような天才児は初めてだと、とにかくウェルファを誉めまくった。リタサナ家に仕える者達も、同様だ。
それを見た、リタサナ家の長男でありウェルファの実の兄であるルーセリトは、幼いながらに思った。これやばくね?と。
ルーセリトには前世の記憶がある。だからだろうか。ルーセリトは酷く大人びた少年だった。我が儘も言わなければ、癇癪も起こさない。物分かりのいい子というのが、ルーセリトに対しての周囲の印象だ。
ルーセリトの容姿は、文句なしに美しい。濃紺のふわふわとした上質な髪。猫を連想させる愛らしい瞳は、とろけるような蜂蜜色だ。
しかし、ルーセリトは剣術が苦手であった。魔法もそうだ。しかし、こればかりはどうしようもない。前世において全く必要のないものだったのだから。
だから彼は、勉強の類は天才的だが、それ以外は平均的だった。巧みな話術と頭の回転が早いだけでは、当主にはなれない。一方向に優れた者より、多方面に優れた者の方が、当主に相応しいに決まっている。
そして、我が儘を言わないルーセリトに寂しさを覚えていた両親は、ウェルファの我が儘をそれはそれは嬉しそうに聞き入れた。
結果、両親や周りの人達に甘やかされて育ったウェルファは、「俺って天才だから」という言葉を素面でさらりと言うくらいには、痛い子になっていた。しかも、自分の思い通りにならなければ癇癪を起こす我が儘小僧ときた。
──これまずいだろ。
俺の大事な弟が人間としてやばい性格になりつつある。
ウェルファの将来が心配になったルーセリトは、心に固く決心した。自分はウェルファに対して、いつも厳しくあろうと。ウェルファを褒めるのではなく、ウェルファに厳しく当たれる人間になろう、と。
「ウェルファ、勉強はどうした」
「俺、頭いいからそんなもんいらないし」
「その考えを改めろ。俺からすれば、お前なんかクソ生意気な阿呆だ」
「は?!」
「兄貴は俺の才能が気にくわないから、俺をしかってばかりなんだろ!兄貴にほめられたらことなんて、俺、一度もない!!」
「お前の才能?いらねえし欲しくもないよ。褒めるも何も、ウェルファには人として褒めるような点がない」
「なんだてめえ。俺の視界に入るんじゃねえよ」
「普通に考えて無理だろ。暴言を吐くにしても、もっと頭を使え」
「ばかにすんな!あんたなんか、俺の兄じゃねえ!!」
その結果が、弟に嫌われることになってしまっても、ルーセリトは厳しくあり続けた。
数年後、暗殺されそうになったウェルファを命がけで庇ったことにより、ウェルファがルーセリトに抱いていた長年の誤解が解けて、弟が深刻なブラコンになるのだが、兄はまだ、そのことを知らない。




